魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
未熟極まりない技量ながらも、誤字脱字や、粗い文章には気を付けます。
初めに感じたのは、軽い頭痛と吐き気だった。
開いた眼に飛び込んできた景色が彼女の意識を覚醒させた。
見慣れた床が、そこにはあった。
同時に、不快な浮遊感。
背中から宙に吊られていることに気が付いた。
「ぅぅう、がぁあっ!!」
獣の叫び声を挙げ、更にそれに準じた挙動が発動。
全ての力が右手に集まり、肉の岩となって拘束者へと打ち放たれた。
肉が肉を鳴らす音が響いた。
砕ける音ではなかった。
「よぉ。よく眠れたか?」
杏子の拳は、彼女のそれよりも若干広い掌によって押し返された。
彼なりの配慮なのか、包み込むのではなく、展開された掌は防壁のように縦にされていた。
続いて放った左脚による回し蹴りも、彼の肘に受け止められた。
二発目の拳を放つ前に、杏子の身体は宙に浮かされていた。
受け身を取る間もなく、重力に引かれて落下する。
落ちた先は、彼女の寝床である半壊したソファーだった。
「凄ぇ力だな。手が真っ赤になっちまった」
手首を回し、血と痛みを拡散させつつナガレが言う。
やや皮肉っぽさを持った、或いは年相応の悪戯心を帯びたような笑みを、彼は浮かべていた。
激痛を紛らわすための強がりでもあった。
「で、寝起きなところで悪いけどよ。お前、大丈夫か?いきなり倒れやがって」
「余計なお世話だよ」
反発ではない、別の言葉が一瞬脳裏に思い浮かぶ。
だが胸中に渦巻く反骨の心が、それを声にするのを良しとはしなかった。
「テメェが運んだのか?」
分かってはいるが、聞かずにはいられなかった。
ああ、と返したナガレは更に言葉を続けた。
「人目には気を付けた。変な所にも触っちゃいねぇから安心しな」
こっそりと、尻のポケットに這わせていた指で紙幣の数を数える。
枚数に変化は無かった。
安堵感が彼女の顔を緩ませる。
だが数秒後、少女の身体が痙攣した。
胸中や脳髄で渦巻く、どす黒い感情から涌き出る苦痛が意識を撹拌させていく。
「そいつのせいか」
尋ねる少年の視線の先には、苦悶に震える杏子の左手があった。
彼は、杏子の中指の指輪から発せられる、禍々しいほどの黒い光を見ていた。
「どれぐらい持つ?」
無駄の無い、率直な問い掛けだった。
浮かべた表情に、気の緩みの成分は全く無い。
「…分からねぇ。けど、明日までってことには…ならねぇと思う」
「それで、どうすりゃそいつを黙らせられんだ?」
弱点を見抜かれたということでもあったが、杏子は返答せざるを得なかった。
「…連中、魔女どもは、ただ殺すだけじゃ駄目だ…必要なものがあるのさ。それがねぇと…駄目なんだ」
震える身体に鞭打ち、杏子がソファーから起き上がる。
駆け寄りかけたナガレに向けて、左手を伸ばして制止させ、眼を細ませる。
「(くそったれ……冗談にもなりゃしねぇ)」
苦痛と自嘲によって、泣き笑いのように歪んだ表情となっていた。
奥歯を噛み締め、必死に耐える。
枯渇しかけた力を使い、指輪の形を変えていく。
「…こういうのだ。こいつに似た宝石に、このくそったれな穢れを…」
震えを圧し殺した掌の上に、卵形の宝石が乗せられていた。
穢れを宿した紅を基調とした、檻か鳥籠を連想させる形だった。
「…ん?」
見せられたそれに、ナガレは不思議な表情を示した。
きょとん、という間抜けな効果音が相応しそうな面だった。
可愛げのある顔だけに、こんな状態だというのに、それは妙に似合っていた。
「あぁ」
その形を保ったまま、ナガレは至る所が破れた、
上着のポケットに右手を突っ込んだ。
二秒ほどゴソゴソと探り、
「これか?」
と言って何かを取り出した。
細い指に摘ままれているのは、これも卵に似た宝石だった。
但し、色は杏子のそれより遥かに黒い。
上下からは、中心の卵より突き出た一対の針が突き出ている。
ナガレの指は、それの上の針を摘まんでいた。
「どわっ!?」
突如として紅い風が吹き、変な叫び声を挙げつつナガレは床に尻を着いた。
風は杏子の長髪だと認識したとき、彼は指先の質量の喪失に気が付いた。
杏子は床に膝を落とし、ナガレから引ったくった漆黒の卵を紅の宝石へと重ねた。
途端に、杏子の宝石が黒い粒子を放つ。
粒子は宙に浮き、漆黒へと吸い込まれていく。
溜まっていた淀みが薄まり、色の支配率が闇色から紅へと移っていく。
「さっき拾った。お前さんが気絶してすぐによ」
貪るように黒を吐き出す杏子に、ナガレは声を掛けた。
話しかける前、小さく吐いた息は侮蔑や呆れのそれではなかった。
「何なんだよ、これ。魔女の卵か?」
「……ああ、そうだよ。それでこいつは"グリーフシード"ってのさ」
ナガレの妙な勘の良さを、彼女は密かに脅威と感じた。
認めつつ、バカのくせにと内心で罵る。
心に余裕が出来た証拠だった。
「シードってのは、確か種って意味だっけな。確かに、それなら卵みてぇなもんか」
「今度詳しく話してやる。…もう、今日は終わりだ」
ナガレは壁穴から空を眺めた。
太陽の位置から(計算ではなく感覚で)時間を割り出すと、午後三時半頃だと分かった。
「そうだな」
半端極まりない時間帯だったが、彼も杏子の案には賛成だった。
「俺も、ちょっと疲れた」
今度は確かに疲労と眠気による息を吐き、壁面の方へと歩き出していく。
気が緩んだのか、道中二度ほど転びかけていた。
「この分だと、全身にヒビでも入っちまってるか」
肩から肋骨までを撫でつつ、歩みを再開する。
触れられた箇所には灼熱の感触があったが、彼は無視した。
以後一切の停滞なく歩き、教会の端へと到達した。
「壁、借りるぜ」
杏子は適当な旗振りのように、ソファーに寝そべりつつ左手を振った。
了解と判断し、ナガレは壁に背を預ける。
二回目にここに来たときと、同じ場所だった。
眼を閉じると、すぐに意識が遠退いていった。
少年の口から、意外なほどに安らかな寝息が立つのを確認し、
更に念のため十分ほど監視をした後に、杏子も睡魔に身を任せた。
心配事が消えたわけではなかったが、今はただひたすらに疲れていた。
浄化を経てなお、左手の中指に嵌めた指輪の紅の底には、
黒々とした汚濁がこびりついていた。
街中の喧騒とは無縁とばかりに、
耳が痛くなるほどの静寂に満ちた裏道の中に、それはいた。
砕けた斧の、刃の部分だった。
それは、鼓動のように、微細な震動を繰り返していた。
突如、刃と地面の接触部から、一つの黒い紐状の動体が起き上がった。
蛇のようにぐねぐねと、自分の意志で蠢いている。
黒い蛇の、鎌首をもたげた先の頭部には湾曲した頭角が備わり、
角の間には後頭部まで抜けた穴があった。
穴の中央には黒い球体が嵌め込まれている。
球体をぐりぐりと全方位に忙しなく動かしながら、蛇は地面をのたうっていた。
その上に、黒い影が降りた。
避ける間も無く、蛇は無惨に踏み潰された。
凝縮された闇のような体液が、付近に散らばる、砕けたコンクリート片をその色に染めた。
「ご、ごめんなさいっ!痛かったですか?」
質の良さそうなブーツを上げ、声の主が蛇へとしゃがみこむ。
身長も百五十センチになるかならないかの、小柄な体格。
身を包むのは、フリルが多用されたブラウスとスカート。
輝くような布の質感からして、かなりの高級品であるらしい。
可愛らしい小動物を連想させる小さめの鼻と、庇護欲をくすぐるような丸みを帯びた眼。
花弁のような可憐な唇など、紛れもなく美少女と呼べる存在だった。
「バァカ。逃がすかノロマ」
それらが、この一言と共に変貌した。
眼は悪鬼の形相のごとく吊り上がり、可憐だった唇は歪み、悪意に満ちた笑みを浮かべた。
更には侮蔑の一言と共に、再び足が踏み下ろされていた。
「ん?これはこれは…」
足裏でもがく蛇を見る少女の眼に浮かぶのは、格下の存在に対する侮蔑の視線。
「うぇえ、汚ったねェ。こいつはあの腐れ雌餓鬼浮浪者の糞波長ですねぇ。どれどれ」
屈み込み、斧の残骸と潰れた蛇に向けて手を伸ばす。
怯えるように震える斧と蛇を、嗜虐的に歪んだ両目が愉しそうに見つめていた。
斧と蛇を、細い五指にて包み込む。
そしてすぐに、指を開いた。
そこには、何も無かった。
痕跡の一つも、黒い残滓すら残さず、斧と蛇は消えていた。
「さぁってと、スッゲェ嫌なんですが、近々ツラを見に行きますかぁ」
今の少女の顔には、更に歪んだ笑顔が張り付いていた。
「くたばり損ないの糞生ゴミは、この私。
風見野市最強の魔法少女、優木沙々さんがささっと処分しちゃいますからねぇっと♪」
くるくると回りつつ、楽しそうに微笑む。
淫らとさえ思える微笑だった。
そして、可憐なはずの少女の顔に表れた形は、左右で趣が異なっていた。
右は美しい少女の、左は悪魔のそれだった。
最後にちらっと、という割には多いですがスピンオフからの登場です。
そういえば一応、初出の際にはラスボスでもありました。
読中に思ったことで、小学生並みの感想ですがこのヒトは、
某航空参謀みたいな性格してると思いました。
髪型、というか頭の形も若干似ている(初代の個体)気がしますし、
作中でも病気じみた態度を振るっているので、案外仲良くできるかもしれないかな、と。
後書きとはいえ全く本編と関係のない内容というか妄想、失礼しました。