魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第27話 黒く抉く、漆黒に③

 漆黒の巨岩を思わせる両の拳が、同色の胸元の前にて打ち合わされる。耳を劈くような轟音が生じると共に、変化が起こった。

 悪鬼の腹部の中央が渦巻き、円形の窪みが生じた。窪みの奥には漆黒で覆われた悪鬼の全身の中で最も色濃い黒が溜まっていた。

 底の見えない、まるで地獄に繋がるかのような暗黒色の孔だった。

 そしてそこから、同色の一閃が迸った。仁王立ちの姿勢の悪鬼の腹部から解き放たれた輝く闇とでもいうべきものが、伝説の魔女へと激突する。

 接触の寸前、魔女は前面に魔力を展開。周囲の少女達も主に倣い、防御結界の発現させる。

 その上を魔法少女とは比較にならない分厚さの、優雅極まりないステンドグラスを思わせる結界が覆う。

 輝く闇と魔なる光の結界が衝突、したその瞬間、闇は光を貫いていた。僅かな拮抗状態も生じさせず、圧倒的な力で上から叩き潰していた。

 

 闇は貴婦人の胴体も貫き、彼女の腹を消失させた。周囲の魔法少女の幻影達に至っては、結界の破裂と同時に消え去っていた。

 笑い声を挙げながら歯車諸共に落下していく貴婦人に向け、悪鬼は輝く闇の矛先を向ける。

 腹部から放たれる闇がその太さを増して撃ち出され、貴婦人の全身がその中へと呑み込まれた。闇の中では歯車に亀裂が走り、貴婦人の首が千切れ顔が二つに裂けていった。

 だが闇に奔流の中で消えゆく貴婦人の中で、何かが蠢いていた。二つに裂けていく歯車の淵に何かが触れた。

それは、軽く触れるだけで折れそうなほどに華奢な少女の指だった。

 そして次の瞬間、裂け目からは指だけではなく全身が飛び出していた。

崩れていく魔女を背後に一気に跳躍した影は闇の奔流を突き破り、その姿を暗闇の中に映し出していた。

 

「アハッ…」

 

 消えゆく魔女は最後にそう遺した。残された者達をあざ笑うかのような声だった。闇の奔流を止め、悪鬼は上を向いていた。

 獰悪な面構えの先に、小さな孤影の姿があった。身長百五十センチ程度の、桃色に輝く少女であった。

 短めのツインテールと柔らかい膨らみを帯びたスカート、右手には煌く弓が握られていた。

伝説の魔女の内部に封じられていた少女の姿は、優しくも力強い光を纏った、『魔法少女』という幻想世界の存在を現す言葉に相応しい容姿であった。

 姿を認めたと同時に、悪鬼が再び闇を放った。伝説の魔女を消し去ったものよりも、二回りは太く色濃い闇だった。

 それが左右に開いたのは、次の瞬間と呼ぶにも満たない時の後だった。割れた大河のように拡がる闇の奥に、弓を構えた桃色の少女の姿があった。

 対する少女の正面には、闇を切り裂き進む光の矢が映っていた。それが完全に闇を引き裂いた後、矢は虚空を貫いた。

 

 小柄な少女を、巨岩に等しい拳が握り締めていた。親指と人差し指の間からは、僅かに少女の首が見えていた。

 全方位から迫る巨大質量の圧搾は、少女から数十センチ離れたところで停止していた。少女の身体を構成する桃色の光と同色の結界が悪鬼の力を押し留めていた。

 僅かな空間の中で少女は身を横たえ、上方に向けて弓を構えた。少女の意図に悪鬼が気付いたほんの僅かな時間の前に、輝く矢が放たれていた。

 

「ぎぃっ!?」

 

 悪鬼の額、更に言えば黄金に輝く道化の傍らを抜けた矢は遥か上空にて、世界の端ともいえる場所で着弾しその身を弾けさせた。

 光は瞬く間に天に広がり、闇を光へと変えた。照らし出された闇の中で、殊更に光の強い部分があった。

 それは矢の着弾地点から奔った、空を縦横に刻む巨大な幾何学模様であった。無数の円と線が連なる模様は空を埋め尽くしていた。

 道化が悲鳴を挙げたと同時に、悪鬼は飛翔した。一瞬にして数キロも離れたその場所を、天からの無数の光が貫いた。埋め尽くしたといってもいい。

 光は天空の模様の至る所から発せられていた。悪鬼が移動した場所にも光は容赦なく降り注いだ。

 

「ああぁぁぁああああああ!?!?!?」

 

 道化が叫び続ける中、悪鬼は飛翔を続けていたが光速且つ霧に等しい密度で降り注ぐ光の大豪雨を前にしては避け切れるものではなかった。

 漆黒の装甲の上で光は虚しく弾けていくが、それでもほんの僅かに黒を抉り取っていた。剥離した黒の一つが巨大な拳に降り注いだ。

 内に挟まれた桃色の少女の上に落ちる寸前、彼女の結界がそれを掻き消した。他の少女達と異なり口も鼻も無い平面の、完全な無貌の少女の顔は上に向けられていた。

 眼の無い緯線の先には凶悪極まりない面構え聳えている。無数の牙を生やした口の造形が桃色の少女には、悪鬼が嗤っているように見えた。

 

グゥゥォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ

 

 悪鬼が牙を震わせ、機械にあるまじき生々しさを孕んだ叫びを挙げた。移動を停止し光を浴びながら、左腕を天へと掲げる。動きの最中、左腕が蠢いた。

 振り上げられた腕は、別物の存在と化していた。肘から先の輪郭は異常なまでに太さを増し、更に数倍の長さに伸ばされていた。

 それもただ伸長したのではなく、形状も一変していた。五指は捩じれながら天に向かって伸び、鋭い先端を形成していた。全体的な形状は、巨大な三角錐に近い。

 長く太い円錐は巨大な槍にも見えた。それが、形成と同時に高速で回転。降り注ぐ光を傘に当る雨露のように弾いていく。

 だがそれだけに留まらなかった。回転速度は際限なく上昇し、槍の表面を黒い渦巻きが覆っていった。

 

 そしてそれは槍を覆い尽くしたその途端、天に向かって漆黒の竜巻が放たれた。天空の幾何学模様に竜巻が喰らい付き、整然と並ぶ模様が渦の内側へと捩じられていった。

 獰猛な大渦に空自体が捕食されていくかのようだった。十分と見たか、悪鬼は腕を降ろした。ほんの僅かな動作の合間に、腕は激しく蠢き元の形へと回帰していた。

 そして五指を取り戻した巨大な手で以て、少女を捉えた右腕を上から握り締めた。倍加した超握力が遂に闇の拳の内の結界にヒビを走らせた。

 一度亀裂の入った結界は元に戻らず、遂に僅かな隙間は完全に閉じてしまった。






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