魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第29話 世の果ての宴

 眼を開き、室内に満たされた薄闇に迎えられてから数秒間、人見リナは身体を動かすことをしなかった。

 数分が経過し、ようやく彼女は仰向けの体勢から身を起こした。そこから直立し天井から垂れる電燈の紐を引くまでに更に十分を要した。

 薄っすらとした闇が駆逐された後には、普段と変わらぬ自室の風景が広がっていた。異なっているのは、寝台の傍らに別の布団が敷かれそこに優木がいることだった。

 仰向けになった優木の眼は見開かれ、唇も横一文字に引き結ばれていた。その様子にリナは違和感と恐怖を覚えた。

 

 彼女がこの部屋で最後に覚えているのは、優木の肩を揺さぶっているところであった。それが全くの痕跡も無く寝入った時の状態に戻っていた。

 それ自体が記憶違いと思えば済む事であり、そうであったと彼女自身も思い始めた。だがそれが彼女に却って恐怖を与えていた。

 変化の違和感を覚えれば覚えるほど、それ自体が間違いであったと思考が上書きされ、そして安堵する感覚が心中を侵食するのが分かった。

 

 そして安堵と不安が入り混じる心中に反して、身体的には全くの平静状態だった。心音は穏やかなままであり、一滴の汗も生じていなかった。

 未だ嘗てない感覚を持ちつつ、リナは机の上の置時計を見た。時刻は午前の五時三十七分。違和感の原因である行動を起こしていた時刻に近かった。

 秒針が刻々と進んでいくのを、リナはただじっと見つめる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乳白色の景色がどこまでも続いていた。時折流れる大気が、乳白の色に厚薄の揺らめきを与えていた。

 その中を、巨大な物体が空間を貫くように動いていた。無骨且つ精緻な造形の歯車から伸びた細い棒が、豪奢な衣装を纏った貴婦人の上半身とを結んでいる。

 眼と鼻の無い貴婦人の貌には人形然とした笑みが象られ、色濃く朱を塗られた唇は優雅ながらも明らかな哄笑の形を成していた。

 人を比較対象とすれば逆さまとなった状態で、伝説の魔女は何処とも知れぬ場所に浮遊していた。巨体を浮かばせつつ、長大な右手が伸ばされた。

 対象に手の袖が触れるまでもなく、魔女は魔力にてそれを浮かばせ顔の前へと引き寄せた。それは、魔女の歯車にも等しい大きさの巨大に過ぎる一台の蓄音機であった。

 茶色が濃い木目の本体と、くすんだ金色に輝くスピーカーが見事な融和を見せた、逸品に違いない代物だった。

 魔女は更に思念を行使し、蓄音機の針が据えられた円盤を回転させた。金属の管が震え、無音の世界に音の嵐を流す。

 

 それは壮麗な交響曲でもあり、耳障りな大音声でもあった。音によって震える大気に変化が生じていった。

 空間の至る所が霞み、乳白とは別の色が生まれていく。それらは円形状の切れ目となり、内部に異なる空間を開いていった。

 ある所は、樹木が溢れる森林であり、または峩々たる大山脈の連なりに、そして近未来的な大都市が広がっていた。

 無数の個所で空間が開き、千差万別の光景が内部に広がっていく。それらが展開され切ったと見た時に、伝説の魔女は両手を優雅に動かした。さながら、熟練の楽団指揮者のような動きであった。

 腕が振り切られた時、全ての空間の中で闇が弾けた。迸った闇に触れた木々は千切れ、山脈は断裂しで撒き上がり、あらゆる建築物が硝子のように爆裂した。

 そしてその破壊の中心には歯車を半身とした貴婦人の姿が、伝説の魔女の姿があった。世界の中心に浮かぶ魔女の口が大きく開き、哄笑が放たれた。

 それを合図とし、全ての世界の全ての魔女が哄笑を放った。そして哄笑と破壊が溢れる世界の中、更なる破壊が吹き荒れた。

 それは主に、深紅の熱線が魔女を貫いた際に生じていた。眩い光の根源には、紅の装甲を纏った機械の鬼と呼ぶべき存在があった。

 機械の鬼は更に熱線を放射し、世界と魔女に破壊を与えた。或いは手に斧を握って魔女を切り裂き、或いは剛腕で人形然とした顔を殴打し続けた。

 自らと同様の姿を持つものが傷付けられながらも、また魔女たちは傷付きながらも哄笑を止める事は無かった。

 

 対する魔女も腕を振るって相手の装甲や腕をもぎ取り、魔力で山脈や巨大建造物を砲弾として投擲し、また口から発する炎を放った。

 全ての世界の中には、地獄と呼ぶに相応しい光景が広がっていった。それらの中央に浮かぶ魔女は、それらが愉しくて仕方ないといった様子で笑い続けていた。

 笑いながら、魔女は蓄音機へと両手を伸ばした。どこか、慈しむような様子に見えた。

 

 巨大な両手の中央に置かれた、更に巨大な蓄音機の木目に縦横に光が奔った。深緑色の光であった。

 光は強さを増し、その線は太くなっていった。やがて蓄音機は内側から木目を離し、その内部を顕した。

 円盤の回転を継続させながら、幾何学模様を描いて弾けた本体の中にあったのは、深緑の光を放つ六角柱に近い金属の物体だった。

 物体の上下からは複数の管が伸びていた。それはさながら機械の臓器、特に『心臓』を思わせる形をした物体だった。

 

 物体からは、まるで解き放たれたかのように暗緑色の光が迸った。それは乳白色の世界に広がり、果てしなくその色を伸ばしていった。

 無数の世界の中ではやはり、無数の地獄が広がっていく。そしてその数は刻一刻と時が重なるにつれて増えていった。

 少女達の幻影が悪鬼に襲い掛かり、そして虐殺されゆく様子が流れた。破壊された悪鬼の内から深緑が溢れ、世界が丸ごと弾けていった。

 女神の様な少女が悪鬼を打ち破る様が見えた。その女神が、巨大な何かに覆い尽くされ消えゆく姿があった。

 

 それら全ての様子に伝説の魔女は世界を震わす哄笑を挙げ、機械の心臓は地獄の世界を紡いでいった。

 両者の目的、そもそも思考や意思があるのかさえも分からぬまま、異形達の宴はこの世と時の果てまで続くように思えた。

 

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