シンフォギアは調とクリスが好きです。
「おばあちゃーん!準備できたよ」
「そうかい。じゃあ、開店しようか」
「店のシャッター開けてくるよ」
「いつも悪いなねぇ」
「大丈夫だよ」と言ってから、店のシャッターを開けた。
僕はおばあちゃんと一緒に小さな花屋、『花咲』を営んでいる。
ーーーと言っても、僕はまだ学生のためおばあちゃんが店長を務めている。なので、平日はあまり手伝えておらず、今日のような休日はおばあちゃんに楽をしてもらうために、精一杯働いている。
シャッターを開けて外に出ると、じめじめとした空気が広がっていた。
若干の気持ち悪さを肌で感じながら、店の中にしまっておいた花を外に並べていく。
こうして見るとウチは花の種類が多いと改めて思う。少し多すぎると思い、一度だけ「花を減らしてみてわ?」と提案したことがある。
良いなと思った花を増やしていたらこんなに増えてしまった、とおばあちゃんが言っていた。
そのお陰で色とりどりの花が揃い、以前よりも売り上げが伸びているのであまり強くは言えない。
売り上げが伸びるのはいい事なのだが、毎度何も言わずに花を増やしていくのはやめて欲しいと常々思う。
売る側として花の種類を覚えておかないと紹介が出来ないので、覚えるのが大変なのだ。
なのに、おばあちゃんはスラスラと紹介している。解せぬ。
今日は晴天が広がっていて、良好な天気だ。
花たちに燦々とした光が当たり、風に揺られるその姿は嬉しそうに踊っているようだった。
サインボードを【OPEN】に変えたところで、ちょうど、今日一人目のお客さんがやってきた。
だから、僕はいつものように笑顔を浮かべて元気に、
「いらっしゃいませ!今日は何をお探しでしょうか」
こうして僕ーーー皐月 千佳の一日が始まった。
☆☆☆☆☆
「うへぇ……あっづい」
おばあちゃんは買い物に行ったので、今は一人で店番をしている。
時計を確認すると、ちょうど正午を少し過ぎた辺りを指していた。
今がまさに一番暑い時間帯だ。出来ることなら店から一歩も出たくない。かと言って店の中も暑い。それでも外に出るよりはマシだが。
腹の虫が空腹を訴えてくる。
おばあちゃんが帰ってくるまで、とても我慢できそうになかった。
けれど、店を離れる訳にはいかない。
なんというジレンマだッ!
ーーーと内心盛り上がっていると、外から何かが落ちる音と小さな悲鳴が聞こえた。
急いで外に出ると、買い物袋が投げ出され、その近くに黒髪ツインテールの少女が転んでいた。
「大丈夫ですか⁉︎」
「あ、大丈夫です。ッ痛……」
「全然大丈夫じゃないから!ほら、膝擦りむいて血が出てる。手当てしますから、そこの店まで来てください」
「でも、それは悪いから……」
「怪我されたままで居られる方が悪いです。ほら、立てますか?」
「うん。あっ……」
「っと!あ〜これは足も捻っちゃったかな」
少女が立ち上がろうとした時、顔を歪めて倒れ込んだので慌てて体を引き止める。
掴んだ体はとても細くて、少し力を入れたら折れてしまいそうだ。
足首を確認すると、肌が青く変色していた。これではしばらくはまともに歩けないだろう。
「待ってて」と短く告げて、散らかった荷物を買い物袋に突っ込んで店に運んだ。
そして、彼女の元へと戻ると一言断りを入れて、
「ちょっと失礼」
「きゃっ!」
彼女の背中と膝裏に手を回し、抱き上げる。所謂お姫様抱っこというやつだ。
突然のことで彼女は驚きの声をあげて、頬を赤くしていた。
それはきっとこの暑さ以外の、つまりは僕の行動が原因な訳で。
仕方ないんだ!こうでもしないと、彼女に負担をかけてしまうので止むを得ない処置なんだ!
もっともな
手と腕に感じる柔らかさ。見て分かる通りの白い肌と彼女の黒髪が対照的でよく映えている。
ーーーっていかんいかん!これじゃあ、僕が変態みたいじゃないか‼︎おい、理性!仕事しろよ!
彼女が不思議そうに首を傾げる。僕は彼女に謝罪する。
ごめんなさい。決してやましいことを考えていた訳じゃないんです!ただちょっと自分の理性とお話ししてただけなんです‼︎
なんてことを言えるわけもなく、僕は苦笑を浮かべた。
彼女の怪我に響かないようにゆっくりと椅子に降ろす。
店と家は繋がっているので、僕は一度家の方に戻って救急セットと氷をありったけ入れた氷のうを持った。
急いで店まで戻り、救急セットから消毒液とガーゼを取り出した。
「ちょっと染みるけど我慢してくださいね」
「うん」
消毒液を染み込ませたガーゼで、膝の擦り傷を優しく拭いていく。
上から苦悶の悲鳴が漏れるが、必要悪ということで我慢してもらうしかない。
拭き終えた後は大きめの絆創膏を取り出して、貼りつける。
あとは氷のうを足首に固定して、完了。
「これで大丈夫。えっと、この状態で一人で帰るのは無理だと思うんですけど、家に誰か人はいますか?」
「ううん。今は家に誰もいないはず。みんな出払ってるから」
「そうですか。う〜ん、どうしたものか?」
頭を悩ませていると後ろから「何してんだい?」と聞き慣れた声が飛んできた。
振り返ると、そこには買い物から帰宅したおばあちゃんが大きな袋を三つも持って立っていた。
僕はおばあちゃんから荷物を受け取ると、あまりの重さに荷物を落としそうになったが、寸前でなんとか踏ん張り事なきを得た。
普段、水をたっぷり入れたバケツよりも重かったのだが、一体おばあちゃんのどこにそんな力があるというのか?
おばあちゃんの腕力に驚愕しながらも、ここまでの経緯顛末を説明した。
僕の話を聞いたおばあちゃんは彼女の前まで歩いていくと、
「お嬢ちゃん。今は家に誰も居ないんだってね。どれぐらいで帰ってくるか分かるかい?」
「……みんな、夕方になるまでには帰ってくると思います」
「そうかい。なら、お嬢ちゃんも一緒にお昼食べていきなさい。それから家まで送ってあげるからね」
「え、そんな、悪いです」
「大丈夫大丈夫。じゃあ、あとは任せたよ千佳」
「分かったよ」
おばあちゃんは彼女の言葉を最後まで聞く事なく、さっさと荷物を持って奥へと消えていった。
戸惑いの色を隠せない彼女は困ったように僕を見る。僕もそれには苦笑を返すことしかできなかった。
「えっと、ごめんね?僕は皐月千佳っていいます」
「……私は月読調。……あの、今からでも断った方がいいんじゃ」
「あー、多分もう無理かな?おばあちゃん結構強引なところがあるから。今から言っても月読さんの分のご飯も作ってると思う。まあ、その足じゃ荷物を持って帰るのも無理そうだし、ここはおばあちゃんの言葉に甘えちゃった方がいいと思うよ」
「……分かった。ここはあの人のこういに甘えさせてもらうことにする」
月読さんは少し考える素振りを見せて、首肯した。
いったん、サインボードを変えに行こうとして、立ち止まって月読さんの方を向く。
怪訝そうに僕を見る月読さんに僕は頭を下げた。
「さっきはごめんなさい!いくら運ぶためとはいえ、不快な思いをさせたとおもうから。本当にごめんなさい!」
「え、あ、その、ああでもしないと私は動けなかったし、しょうがなかった。……別に不快な思いなんてしてないし」
「それなら、良いんだけど……」
気を取り直して、サインボードを変えた僕は、いざ家に行こうとしたところで再び立ち止まった。
あれ?どうやって月読さんを運べばいいんだ?
その疑問が思い浮かぶのは、至極当然のことだった。
いま話していた通り、月読さんは歩けない。ウチには車椅子などはない。そもそも店と家の境には段差があるので、あっても全く意味をなさない。
では、どうするか?
分かっている。こんな風に考えること自体が無駄だということを。
でも、仕方ないじゃないか。
僕は男だ。それも思春期真っ只中。
女の子と喋ったことはあっても、女の子の体に触れるという行為はさっきが初めてだった。
つまりは、あれだ。途轍もなく恥ずかしいのだ!
傍から見れば役得なのだろう。だが、当事者にしてみれば拷問だ。
考えてもみてほしい。女の子の体に触れて、何かを考えるなという方が難しいのだ。
実際に僕と同じ体験をして、何も考えない奴はただの馬鹿か、不能のどちらかだ。
他に何か、お姫様抱っこ以外の方法があるはずだッ!
僕は決して良くも悪くもない頭を急回転させる。
・抱っこ
根本的に変わってない。むしろ対面になってしまうので却下。
・おんぶ
お姫様抱っこよりも接触が増えている。支えるために太ももに触れてしまうので却下。
・おばあちゃんに運んでもらう
さっきの荷物の件から考えるに、おばあちゃんなら人ひとり運ぶことはできると思う。しかし、「千佳がやりな」の一言で片付けられてしまうので無理。
……結局、お姫様抱っこ以外の運び方が思い浮かばなかった。
うがぁああ!と頭を抱えて葛藤している様子を見ていた月読さんは、僕が何に葛藤しているのか察したのか。
申し訳ない顔をして、口を開いた。
「あの、少しぐらいなら自分で歩けるけど……」
「いや!そういう訳にはいかないから!えっと、その、また僕が抱えることになるんだけど。大丈夫、かな?」
「う、うん。私は大丈夫。むしろ、迷惑をかけちゃってこっちが申し訳ない」
「そんなことないよ!月読さんみたいな可愛い女の子を抱えられるんだから。そんな迷惑なん、て……」
「……ぁ」
あぁああああああ!何言ってんの⁉︎ねぇ何言ってんの僕!勢いでなんてこと口走ってんのさぁああ!
ほら、月読さん顔真っ赤にして俯いちゃったよ。
その姿もとても可愛らしいです!ーーーーーじゃなくてぇえ‼︎
僕は動揺のせいか言い訳と本音の狭間で悶える。
月読さんは依然俯いたままだった。本当にごめんなさい。
「ごめんなさい。今のは忘れてください」
「……可愛いんだ、私」
「ごめんなさい。本当にもう忘れてください!このままだと死人が出ちゃうから!」
死人?そんなの僕に決まっているだろう。
月読さんは慌てる僕を見て、クスリと微笑んだ。
その笑顔に、僕は見惚れていた。そう、自覚すると何だかはず気恥ずかしくなってしまい、バッと顔を逸らした。
「えっと、取り敢えずまたさっきみたいに運ぶことになるんだけど、いいかな?」
「……うん。よろしくお願いします」
「「……ぷっ」」
ぺこりと頭を下げる月読さん。
次の瞬間にはお互い吹き出して、笑っていた。
そこにはさっきまでの馬鹿らしいーーー主に僕のーーー雰囲気はなく、和やかな空気さえ感じられた。
「それじゃ、行こっか」
「うん」
こうして、僕は月読さんを抱え上げると家へと向かった。
☆☆☆☆☆
昼食を食べ終えた僕たちは、おばあちゃんの車に乗って月読さんの家に向かっていた。
その際、おばあちゃんにお姫様抱っこをしているところを見られて、二人して顔を真っ赤にしたのは内緒だ。
荷物は後日取りに来るということにして、最低限のものだけを持ってきている。
何故そうなのかは考えれば分かると思うが、月読さんを抱えるのに邪魔にならないからだ。
車を走らせること十分ほどすると、真新しいマンションが見えてきた。月読さんに確認を取る。どうやらあそこに月読さんの家があるらしい。
おばあちゃんは駐車場で待っているということなので、僕は月読さんを抱え上げる。今日三度目のお姫様抱っこである。
流石にこの状態でマンションに入るのは恥ずかしかったので、理性が削られる覚悟でおんぶを提案。
しかし、やんわりと断られてしまった。
え、お姫様抱っこが気に入った?
そんな思わせぶりな言葉はやめてください。変な期待しちゃいますから。
額に嫌な汗をながしながら、マンションへと入る。
幸いにも誰一人として住民に出くわすことなく、エレベーターへと乗り込んだ。
月読さんの指示で五階のボタンを押す。動き出すエレベーター。
このエレベーターの浮遊感は何度体験してもなれない。
月読さんに聞くが、彼女はそうでもないらしい。
五階に到着して、エレベーターから降りる。
降りて右に進み、四つめの部屋が月読さんの家だ。
指示通りに進み、家の前までやってきたので、いったん月読さんを下ろす。ごそごそと取り出された鍵で家の戸が開けられた。
すると、奥からドタドタと誰かが駆けてきた。
「遅かったデスね調。帰るのが遅いから心配してたデスよ」
「あ、切ちゃん。まだ帰らないと思ってたけど、早かったんだね」
「デスデス。ーーーって、調が男を連れて帰ってきたデスと⁉︎」
「……あー、個性的な口調の家族だね」
「切ちゃんからデス口調を取ったら何も残らない。だから、ここは目を瞑ってあげて」
月読さんの言葉に一人納得する。
切りちゃんと呼ばれた少女は「調⁉︎」と驚愕しているが、放っておこう。部外者の自分が言えることは何もない。
何はともあれ家族がいるのならあとは任せて、家族の団欒を邪魔しないようにお暇することにしよう。
「それじゃあ、もう大丈夫そうだから、ここら辺で帰るね」
「そっか。おばあさんも待たせてるもんね。また今度荷物を取りに行くね、皐月」
「うん、また今度。お大事に、月読さん」
軽く手を振ってから、やや小走り気味に廊下を駆けていった。
後ろから何やら騒ぐ声が聞こえたのは、僕が去ってから少ししてからだった。
こんなことって、現実じゃありえないですよね。
まあ、作者の願望です。こんな機会絶対に訪れませんけどね!
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千佳が去った後の出来事
切歌「あの男は誰デスか調!まさか、調に春が⁉︎こ、こうしちゃいられないデス!マリア、マリアに連絡を!」
調「しなくていいから。ーーー春が来たのは、あながち間違いじゃないかも」
切歌「何か言ったデスか?」
調「ううん。何でもないよ切ちゃん」