夏の日の出会い   作:流離う旅人

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何とか投稿できた……。でも、次回の更新は遅れるかもしれませんが必ず投稿はしますので。では、どうぞ!


特殊武装

 

 

調との楽しいデートが終わり、その余韻を残していた次の日のこと。普通に学校に登校して、授業を受けて、剛史とくだらない談笑をして、放課後。さあ、帰ろうと思っていたらーーー

 

「今から修行に行くぞ」

 

また校門で師匠が待ち構えていた。今日こそはおばあちゃんの手伝いをしようと思っていたのだが……それは、許してもらえそうにない。師匠からも、おばあちゃんからも。もう逃げるのは諦めていたはずなのに、体は正直なようで、すでに逃走を図っていた。

 

ダッ!(千佳が逃げ出す音)

シュン!(隠れていた緒川さんに回り込まれる音)

ガシッ‼︎(師匠に首元を掴まれた音)

 

修行でどれだけ強くなっても、一生この人たちには勝てないんだろうなぁ……。虚ろな瞳で乾いた笑みを浮かべた僕は、そう思った。それからというもの放課後は拉致られ、修行の時間になってしまったのだった。

ここからは日記に綴ったものを見てもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

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○月*日

 

……やっと、解放された。放課後拉致られて、帰ってきたのが夜の十時ごろ。かれこれ六時間近く修行をした計算になる。調とのデートの余韻をもう少し楽しませてもらってもいいじゃないか……。今日の修行はまた一段と苛烈を極めた。

 

この間のトレーニングルームでの修行だったのだが、前のような街の中ではなく、設定を変更したジャングルの中だった。鬱蒼と茂る森の中、気温も高く、酸素も薄い。(そう設定したらしい)

そんな中での修行は無理があると言ったが、聞き入れてもらえなかった。もう本当に必死で頑張った。いきなり酸素が薄い状況で修行と言われても、ついていけるはずがなく。数分もしないうちに気を失ってしまった。あとはそれを無限ループ。

 

これから放課後は今日のような修行をするらしい。断固拒否しようとしたが、すでにおばあちゃんが許可を出しているとのこと。……最近、おばあちゃんの僕の扱いが酷い気がするのは気のせいじゃない。絶対に。果たして、僕は生き残ることができるのだろうか?今から不安でしょうがない。

 

 

 

 

 

 

○月♪日

 

今日も拉致された皐月千佳です。逃げ出したりしないから、首根っこ掴んで連行するのだけはやめてほしい。周りの視線が痛いほど突き刺さるのだ。まあ、保険ということで師匠に一蹴されたけど。

 

今日も昨日と同じでトレーニングルームの中はジャングルだった。呼吸するだけなら慣れてきたのだが、動き回るとそう上手くいかない。この高温低酸素の中、息が乱れていない師匠と緒川さんは異常だと思う。あれ?それだと、必死ではあるものの、ついていってる僕も異常なのでは?……こうして、僕は人間の枠組みから外れていくんだろうなぁ。

 

前半は師匠との組手でこの環境への適応訓練。後半は緒川さんによる技術講座だった。前半は本当に地獄だった。今もこうして日記を書けているのが奇跡と言っても過言ではない。師匠の拳が顔面にヒットした時は死を覚悟したね。それが何度もあるのだから救えない。

 

後半の緒川さんには前回の水蜘蛛と縮地法のおさらい。新たに壁走りと武器の仕組みについて教わった。人間って不思議だなぁ、数日前までできなかった生身水蜘蛛が十歩ほどできるようになった。着々と人間の枠組みから外れているなぁ……。そして、壁走り。これは最初にしては上出来だと褒められた。僕が数メートルしか登れていないのに対して、緒川さんはその何倍も登っていらっしゃるので、複雑な気分だ。将来的には歩いて登ったり、天井に張り付いたりするらしい。

 

……師匠も師匠だが、緒川さんも大概だと改めて実感した。

 

 

 

 

 

○月△日

 

この修行を始めてから一週間が経った。時間が飛んでいるのは、単純に書く気力が残っていなかったから。いや、本当にペンを持つ力も残ってなかったよ。学校はなんとか頑張って登校してたし、ノートなどは剛史に協力してもらった。剛史マジ感謝。

 

さて、日記を書けなかった数日間で僕は成長した。成長することがこんなにも嫌だと思うのは初めてのことだ。先ず、低酸素でも問題なく動けるぐらいに環境への適応に成功。これに関しては死活問題に直結するので、脳のリミッターが外れたのではと推測する。人間の脳は普段10%しか使われておらず、本来の力を発揮していない。何度も死にかけることで、本来使われずにいた脳のリミッターが生存本能により解き放たれた、と僕は思う。人の脳は第六感とかがあるので、そういった不思議な力があってもおかしくはない。実際いくらか身体能力が上がっているし脳の処理速度も速くなっていた、とはエルフナインちゃんの言だ。僕に伝える時に顔が引き攣ってたのは気のせいだと思いたい。

 

その他も師匠との修行が中心で、映画を見て格闘技術の向上を図ったりもした。なんで映画を見ただけで強くなれるのかは分からないが、武術の動きを理解するのにはうってつけだと思う。見て分からないところがあったので師匠に聞いたところ。「実際に受ければその仕組みも解る!」と豪語して、技を叩き込まれた。そのお陰で発勁なるものの習得に成功。解せぬ。まだ体に鈍痛が走っていて、字が上手く書けない。今度からは分からないことがあっても、絶対に師匠にだけは聞かないと強く誓った。

 

 

 

 

 

○月#日

 

昨日が師匠との修行中心だったのに対して、今回は緒川さんが中心とした修行だった。生身水蜘蛛から始まり、壁走りや変わり身、分身の術、影縫いの基礎、変装技術、現代武器の仕組みなどとオンパレード。武器の仕組みを知ってどうするのか、疑問に思い聞いたところ、仕組みが解れば自ずと対処の仕方も解るとのこと。確かにそれには一理ある。今日は比較的楽に終われる。そう思ってしまったのがいけなかったのか、緒川さんとの鬼ごっこが始まった。

当然、鬼は緒川さん。すでに逃げられる気がしなかったね。だって、あの人が本気を出したら気配察知は効かないし、いつの間にか縛られているので、ぶっちゃけワンサイドゲームなのだ。逆に僕が鬼をやっても結果は変わらない。捕まえること、いや、視認することすらできない。……書いていて思ったのだが、僕はいったい何処を目指しているのだろう?最初は護身程度だったはずなのに。

 

いつの間にか、護身からOTONAへと目標がすり替わってる件について数時間をほど語りたい。

 

 

 

 

 

○月※日

 

苛烈で決死覚悟の修行の結果。脳のリミッターのオンオフ、出力調整が出来るようになった。出来るようになってしまった……。

 

いや、これが出来るようになって良かったと思う反面、どんどんOTONAに染め上げられてきてるなぁという悲観がすごい。エルフナインちゃんにすごく心配された。彼女が心配してくれたことに全僕が泣いた。

 

ま、まあ?少しでも強くなれたのだから良しとしよう。御察しの通り師匠たちには勝てなかったけどな!HAHAHAHAHA……。

明日から土日なので、二日間丸々修行漬けにするそうだ。

 

いったいどんな地獄が待ち受けているというのか?短くなるが、明日に備えて今日はもう寝よう。

 

 

 

 

○月%日

 

ボク、イキテル

 

 

 

 

 

 

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S.O.N.Gの司令室。そこは現在重苦しい雰囲気に包まれていた。その雰囲気はOTONAである弦十郎と緒川ですら、冷や汗を流してしまうほどのものだった。

 

 

「……おい、おっさん」

「な、何だ?クリスくん」

「あれはどういうことだ?」

 

クリスの指差す方向。そこには膝を抱え座り込んだ千佳がいた。その目は虚ろで、今もブツブツと「……イキテル、ボクイキテル」と呟いていた。

 

「緒川さん。貴方もついていたというのに、どうにかすることはできなかったのですか?流石に、皐月が居た堪れないのですが」

「ははは……。こちらが厳しくしても必死についてきてくれるので、ついついやり過ぎてしまったようです」

「いや、本当にやり過ぎですよ。師匠はもう少し自重を覚えた方がいいと思うんです」

「……すまん。今は流石に少し(、、)やり過ぎたと思っている」

「少し⁉︎あいつの日記少し読んだけど、アレで少しなのかよ⁉︎」

 

目の前の弦十郎の言葉に驚愕を隠せないクリス。響と翼はアレ以上のことを考えて、少し引いた。

 

「ち、千佳?大丈夫ではないのは見れば分かるけど、大丈夫か?」

「あ、朔也さん。僕、頑張りましたよ?頑張ったんです。……いきなり二日間サバイバル生活だって、塩と水を持たされたと思ったら山に放り込まれて。食べるものは果物とかキノコがあったんですけど、間違えて毒キノコ食べた時は、本当に死ぬと思ったなぁ……。お陰で耐毒性が手に入りましたよ。一番苦労したのは睡眠が取れなかったことですね。昼夜問わず野生動物たちが遅いかかってくるものだから、全然寝れなくって。しかも、野生動物たちだけじゃなくて偶に師匠と緒川さんも紛れてるんです。野生動物たちだけで手一杯なのに、師匠たちが加わったらもうどうしようもないじゃないですか……。あとはーーー」

「もう良いから!それ以上話さなくていいから!すっごい勢いで目が死んでいってるんだけど!」

 

藤尭が声をかけると、千佳は二日間の体験を話し出した。それを聞いた藤尭は耐えられずに、涙を流して制止を呼びかけた。この中で一人話についていけない人物が若干困惑していた。

 

「えっと、マリアさん。これはどんな状況ですか?あと、あの子はいったい?」

「あの子は小日向と同じ協力者。この間のノイズ殲滅の際に保護した民間人よ。最低限の自衛のために指令たちが修行をつけていたのだけど、毎回度が過ぎていてね……」

「ああ、納得しました……」

 

装者とその場にいたS.O.N.Gスタッフたちは同情の目を千佳へと向けた。

 

「ヤバイデスよ調。千佳が今にも消え入りそうになってるデスよ」

「……うん。今までもすごかったけど、今回は流石にちょっとやり過ぎ」

「そこでデスよ調!今から慰めに行って千佳のハートをゲットするのデス!」

「いや、それはちょっと。流石に弱っているところにつけ込むのは何か違うというか。まあ、ハートをゲットするかはともかく慰めには行くよ」

 

切歌とのやり取りを抜けて、調は千佳の下へと歩み寄っていく。それに気付いた藤尭は場所を譲り、自分は切歌の下へと戻った。いつの間にか待機していたマリアを交えて、騒がしくなっていて、全員が呆れていた。気にせず、千佳の隣に腰を下ろした調は優しく語りかける。

 

「お疲れ様、千佳。今回も頑張ったんだね」

「調……。うん、僕必死で頑張ったんだ。何度死を覚悟したことか」

「うん。千佳が頑張ってるのはみんな知ってるよ。だから、少しだけお休みしよう?」

 

優しく撫でて、千佳を自分の膝へと持っていく。所謂膝枕という奴だ。疲れが溜まっていた千佳は、太ももの柔らかい感触と調から香る花の匂いに包まれ、すぐに眠ってしまった。目を覚まして時に一騒ぎあるのだが、今の千佳に知る由はない。

千佳が眠たことを確認して、彼を撫でる調の顔には優しい微笑みがあった。十人が見れば十人が魅了されるほどに、その微笑みは美しかった。一言で表すのなら、“月の女神”がしっくりくる。

それを見ている一行はというとーーー

 

「やっぱり調ちゃんって千佳くんのこと好きだと思うんです」

「まあ、あれを見てりゃそうだろうな」

「そっとしておいてやれ。皐月も今は疲れていることだしな」

「皐月くん、気持ちよさそうに寝てるなぁ。……今度、響にしてあげようかな」

「朔也には私が膝枕するのよ!」

「それは彼女である私の仕事なのデス!マリアはお呼びじゃねーデスよ!」

「痛い⁉︎二人とも腕を引っ張らないで!あれ?でも、柔らかいものが腕に当たっていて腕が千切れるように痛い⁉︎ごめんなさい!やましいこと考えないので解放してください!」

 

前半の四人はともかく、後半の三人はすでに調と千佳のことは頭になく、どちらが膝枕をするかと藤尭を取り合っていた。時と場所を考えてほしいものだ。

 

「むぅ……毎度、調くんに癒してもらえばやれると思うのだが。どう思う慎次?」

「まあ、ほどほどにしていきましょう司令」

 

こんな状況でもOTONAである弦十郎はブレないのであったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

調の介抱のお陰で、なんとか現実に復帰することに成功した。でも、気付いたら膝枕されていて、思い出すだけで顔が熱くなる。しばらく調の顔は直視できそうにない。

今日は修行が休みになっていたのだが、師匠にに呼び出された。まさか、また修行をするとか言い出すのでは?と、僕は内心でビクビクしながら指定されたトレーニングルームへとやってきた。

 

「失礼します……」

「そんなに辛そうな「失礼します」は初めて聞きましたよ。安心してください。今回は修行ではないので」

「良かった……。本当に良かった……!」

「ああ、それだけ恐い思いでここに来たんですね……。まあ、気持ちは痛いほど分かりますが」

 

僕を出迎えたのはエルフナインちゃん。

修行ではないことが分かり、僕は涙を流しながら感激していた。そんな僕をエルフナインちゃんは可哀想な人を見る目で見ていた。やめて!そんな目で僕を見ないで!

 

「えっと、じゃあ今回は何で呼び出されたの?」

「はい、実は以前から開発を進めていた特殊武装(スペリオルズ)が完成したので、その性能テストをしてもらいたくお呼びした次第です」

特殊武装(スペリオルズ)?」

 

僕の疑問の言葉にエルフナインちゃんがコクリと頷いてみせる。そして、一度書類や機材が放り出されたままの机に戻っていくと、何かを手に取り戻ってきた。その手に握られるものには見覚えがあった。装者たちが身につけている赤い結晶のペンダントがその手には握られていた。

 

「これって、シンフォギア?でも、シンフォギアは男には反応しないはずじゃなかったけ?」

「これはシンフォギアであり、シンフォギアではありません。故に特殊武装(スペリオルズ)と名付けました。これは聖遺物の欠片の欠片を寄せ集めて造ったものなんです。本来ならシンフォギアにすることができなかったものたちが、装者の歌に反応を示し、微小の力を宿したんです。その微小の力を結集させることで、完成させることができました」

「つまり、これにはシンフォギアの機能があってノイズを倒せる?」

「そうなります。しかし、ノイズを倒せる利点があるのに対し、当然欠点も存在します。シンフォギアは歌うことで力を発揮しますが、これは寄せ集めたもの。幾多もの欠片に歌が存在しているので、歌うことが困難。力を発揮することができません」

 

それでは無用の長物ではないか。僕の考えを読んだらしいエルフナインちゃんは「しかし」と言葉を紡ぐ。

 

「歌うことでの力の発現は無理ですが、あらかじめ用意したフォニックゲインをチャージすることで、本来歌うことで得るフォニックゲインによる幾多の欠片のせめぎ合いを起こすことなく、均等にエネルギーを与えるので聖遺物を励起状態にすることができ、シンフォギア同様に戦うことができます。チャージするフォニックゲインにも限りがあるので制限時間がありますけど」

「いや、それでも十分過ぎる。すごいよ、エルフナインちゃん!」

 

「ありがとうございます」と照れたように笑って、頬をかくその姿は少女のそれで普段の研究者としてのエルフナインちゃんのイメージが強い僕にはギャップが生まれ、少しドキっとした。これがギャップ萌えという奴か。

 

「あれ?でも、それなら師匠とか緒川さんに渡した方がいいんじゃ?」

「緒川さんは、『自分は諜報と隠密が主ですので』別の人に渡してほしいと言われました。司令は、その、『男なら生身一つあれば十分だ!』と豪語して受け取ってもらえませんでした」

「ウチの師匠が本ッ当にすみません」

 

緒川さんはともかくとして、師匠は何を考えているのだろう。確かにあの人なら生身でノイズも倒しそうで恐い。そういった紆余曲折があり、僕のところに回ってきたらしい。何となくだが、師匠のことだ。子供たちに戦わせることが歯がゆい、といつか言っているのを聞いたことがある。その想いを曲げてまで戦う力を僕に回すようにしたのは子供()の安全を確保するためではないだろうか?絶対そうだと思う。全く難儀な性格をしてるよ、師匠はさ。

師匠の心中を察した僕はクスリと笑った。

 

「という訳で、今回は特殊武装(スペリオルズ)の性能テストをしてほしくお呼びしました。大丈夫ですか?」

「喜んでお引き受けします」

 

 

 

 

 

トレーニングルームの設定は最初の時に設定した街だった。

 

『それでは、先ず特殊武装(スペリオルズ)を纏ってください。すでにフォニックゲインはチャージしてあるので、『起動(アウェイクン)』の音声認証で展開されます』

「分かったよ。それじゃあ、起動(アウェイクン)!」

 

瞬間、首に下げたペンダントが眩い白い光を発した。数瞬後、光が止み目を開ける。すると、姿が私服から機械じみたものへと変わっていた。シンフォギアを参考にしただけあって、シンフォギアと酷似した装いだ。濃藍を基調としていて、黒とも見て取れる。両腕部には立花さんのガングニールに酷似した機構で、歯車のようなもの、銃のリボルバーのような存在があり細部が異なる。両脚部には挟むように車輪が存在していた。

特殊武装(スペリオルズ)を纏ったことで、思わず僕は感嘆の声が漏れた。

 

「おおっ……!すごい!すごいよエルフナインちゃん!」

『ありがとうございます。驚いてくれたのなら造った甲斐があるというものです。千佳さんは響さんと同じ近接格闘型なので武装は響さんのガングニールを参考にしたリボルバーナックル。高速移動を目的としたリボルバーフースが主な武装です。その他にも機構があるので、動作チェックのあとに説明しますね』

「了解」

『今の千佳さん身体強化とバリアコーティング機能、調律も可能です。どれほど動けるのかを確認したいので、模擬戦をしてもらっても良いですか?』

「それは構わないけど、いったい誰と?まさか、師匠だなんて言うんじゃ……」ガクガクブルブル

 

たとえ特殊武装(スペリオルズ)を纏ったところで、師匠に手も足も出ないのは明白。何より、しばらくは師匠との組手はしたくない。

 

『安心してください。今回は戦闘スタイルの似ている響さんと模擬戦をしてもらうので』

「なら良かった。本当に師匠だったら洒落にならなかったよ」

『それでは響さん、お願いしますね』

「はいはーい!任せてよエルフナインちゃん。それじゃあ、行くよ千佳くん!」

「よろしくお願いします!」

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)ーーー」

 

立花さんが聖詠を歌い、シンフォギア《ガングニール》を纏い、構えた。それに倣い、俺も構える。

 

「お手柔らかに」

「うん!流石に本気ではやらないよぉー」

今回はどれほど動けるのかを確認するだけの模擬戦なので、そこまで本気でやらなくても大丈夫だろう。すると、放送が流れる。

 

『二人とも、聞こえているな?』

「この声って」

「師匠?」

『二人とも手を抜かず、本気で戦うように。手を抜く、もしくは負けた方は俺とのマンツーマンの修行を予定しているからそのつもりで』

 

ブツンと切れる放送。俺と立花さんの間に沈黙が流れる。

 

「前言撤回!」

「本気も本気!全力で行くよ!」

 

かくして、模擬戦が始まった。

 

 

 

 

 

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「おい、おっさん」

「何だクリスくん」

 

いつの間にかモニタールームに集まったいた装者たちと弦十郎含む少数のS.O.N.Gスタッフ。弦十郎はモニターから目を離すことなく、クリスに反応を返す。

 

「さっき二人に言ったことは本気か?」

「当たり前だろう?」

「だよな。聞いてみただけだ」

 

モニターに映る二人は本気でぶつかり合っている。どれだけ弦十郎の修行が嫌なのか一目で分かる。他の全員も同じ心境なのか苦笑を浮かべてモニターを見ていた。

 

(まあ、あたしたちには関係ないしな)

 

無情にもクリスは、二人がどうなろうとしったことかと切り捨てて、モニターへと視線を向けるのだった。

 

 

 

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「はあぁ!」

 

突き出される拳。苦もなくひらりと躱してみせる。体が軽い。まるで羽が生えたような錯覚を覚える。なおも続く拳撃。回避するだけではこの状況は変わらない。次の拳が飛んでくる前に踏み込み、伸びきった腕を捌きながら懐に侵入。踏み込んだ際に練り上げた勁を乗せた肘打ちが唸りを上げて腹部へとめり込んだ。衝撃に怯んだ隙を突き、回転。遠心力を乗せた肘打ちで更に追撃する。

 

しかし、それは受け止められてしまい腕を掴まれ動きを拘束。お返しとばかりに強烈な一撃が腹部に叩き込まれた。ハンマーで殴られたように浮かぶ体。更に数打の拳が俺の体を捉えて、後方に吹き飛ばされた。

 

「グハッ!クッ、やりますね」

「千佳くんこそ。この前まで一般人だったとは思えないよ」

「それは一重にOTONAのお陰ですよ!」

 

縮地。一瞬で距離を詰め、頭部めがけて左後ろ回し蹴りを放つ。若干後ろに押しただけで簡単に受け止められてしまったが、それは予想済み。脚部へと意識を向けて、取り付けられた車輪を急回転させる。

 

回転した車輪は受け止めていた手を弾き返し、立花さんの上体が僅かに後ろに逸れた。態勢を整える前に右脚部の車輪を回転させ、彼女を思い切り蹴り飛ばす。小さな悲鳴を漏らし、吹き飛んだ体はビルの壁を幾つか突き破って止まった。

 

残心。気を緩めることなく構え、いつ来てもいいように準備する。静まり返る中、火を噴く音が聞こえた。瞬間、右腕部が変形、ブースターとなり、そこから火を噴かした立花さんがロケットさながらの勢いで突っ込んできた。

 

「ヤバ⁉︎」

 

今から躱すことは不可能。ならば、正面から迎撃する!

 

脳のリミッター解除。出力は10%引き出し、身体能力を強化。そして、瞬時にゾーンに移行。世界が止まったような感覚。立花さんの動きは人が歩いている速度まで落ちていた。

 

受け止めるのではなく、逸らす。今の身体能力とゾーンだからこそできることだ。生身でできるのは師匠ぐらいだろう。呼吸を整え、歯を食いしばった。

 

斜めに一歩。強く踏み込んだ。腕を逸らす。しかし、簡単にはいかない。まるで大岩を押しているような感覚。少しずつ進路を変えていく。前ではなく下へと。

 

「うぉおおおおおお!」

 

裂帛の気合い。進路を完全に変え、地面へと突っ込ませた。轟音とともに大きな揺れが体に襲いかかるが数秒後には揺れは止まった。

 

立花さんは上半身が地面に埋まり、下半身をさらけ出した状態で動きを止めていた。とても、目のやり場に困る状況だ。その時、二つの殺気が俺を射抜くのを感じた。一瞬で背筋が冷え、咄嗟に振り返る。そこには誰もいなかった。

しかし、気のせいでないのなら。確かこの先にモニタールームがあったような気が……。

 

『そこまで!今回の(、、、)模擬戦は終了だ』

『十分なデータが取れました。ありがとうございます千佳さん。あとでその他の機構について説明しますね』

「わかったよ。さてと……」

 

立花さんを地面から助け出すと、まだ目を回していた。

あれだけの衝撃で目を回すだけとはシンフォギアの防御力はとても高いようだ。特殊武装(スペリオルズ)の防御力もシンフォギア負けず劣らずの高性能らしい。僕たちの変身が解けて、ペンダントへと戻っていく。

 

「立花さん、大丈夫ですか?」

「な、なんとかねぇ。うう、まだ目が回ってるよぉ」

「すみません。取り敢えず僕から言えるのは、師匠との修行頑張ってくださいね!」

「うう、映画鑑賞だけにしてくれないか、あとで直談判しなきゃ」

 

立花さんの手を取り、肩を貸す。すると、また殺気を感じた。いったいさっきから何だと言うのだろうか?

 

 

 

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その頃のモニタールーム

 

「…………」ニコニコ

「…………」ジッーーー

「切歌ちゃんあの二人めっちゃ恐いんだけど」

「私もデスよ。千佳が戻ってきたら血を見ることになりそうデス」

 

 

 

 

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ブルリッ。

背筋を走る冷気に首を傾げる。このあとモニタールームに入った際。背後に般若と龍を浮かべた調と小日向さんがいることに、今の僕が知る由はなかった。

 

「どうしたの?」

「……何だかこのまま部屋に入ったら、死ぬような気がして」

「そんなことないって。どうしたのいきなり?」

「僕もよく分からないといいますか。ただ言い知れぬ恐怖を感じます」

 

あながち間違いでもないことを言い当てていた僕だったが、立花さんの言う通りそんなことがあるはずもない。気にせず部屋への道のりを歩き出した。

 




千佳:順調に人の枠組を外れる&特殊武装を得る
響:目のやり場に困ることに……
調&未来:殺気が迸っている


武装に関してはリリなの要素が強いです。腕部ユニットはマッハキャリバー。脚部ユニットは仮面ライダードライブの脚をイメージしてます。突っ込みどころはおおいですが、気にするな!
読了ありがとうございました!
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