「おおりゃあ!」
「まだ甘い!殴るとはこういうことだ!」
師匠の拳が風を切る。風切り音が若干の恐怖を煽ってくるが、それぐらいの恐怖。歯を食いしばって耐えるだけ!
ゾーン状態のいま、拳の動きは緩やかだ。師匠の拳を両腕をクロスし、無理矢理跳ね上がる。がら空きの胴体。右腕部の
「アクセルスマッシュ!」
さらに加速。一閃。拳が直撃した。
しかし、凄まじい威力を有した拳を持ってしても、師匠を数メートル後方に引きずるだけだった。
この人の身体はいったい何で出来てるんだよ⁉︎機械って言われても信じるレベルでおかしいんだけども!
思考を止めることなく、悪態をつきながらこちらも後方に飛び、距離を取る。
「うむ、今のは良い一撃だったぞ。よくぞ短期間の修行でここまでの力に磨きあげたものだ」
「死ぬかもしれないですから、無理矢理にでも強くなりますよ。師匠の体こそいったい何食べればそんな頑丈になるんです?」
「食ってるもんなんかお前と大差ない。日々修行を積んでいらば自ずと肉体は完成する」
「そうですか。あんまりムキムキになるのはあれなんで、ほどほどにしときます」
話しながら隙を伺うが、そんなものあるはずもなく。攻めあぐねているのが現状。師匠に気付かれないように腰に仕込んでおいた短刀を後ろ手で持つ。
分身一人ひとりが気配を宿しているので、早々気付かれはしないはずだ。ところどころで縮地を混ぜ、師匠の目で捉えられないことを意識する。分身三体が正面から誘導。俺が背後から強襲する。このまま首に一撃入れて意識を刈り取ることが目的だ。
しかし、師匠は正面の三人に目もくれず、背後から迫る俺の一撃を受け止めた。
「分身の精度はまだ拙いが、気配を宿すところまでは完璧だ」
「あ、あの。参考までに聞くんですけど、何で後ろから来るって分かったんですか?」
「勘だ!」
「全然参考にならな、グホッ⁉︎」
ボディブローが決まり、宙空に体が吹っ飛ばされた。トドメの一撃を準備しようとする師匠の動きがピタリと止まった。師匠が視線だけで足下を見ると、影に突き刺さる短刀があった。
緒川さん直伝《影縫い》。
少しでも動きが止まれば十分。再びナックルスピナーを回転させた。狙うは顎。人間である以上、そこを打ち抜かれれば脳が振動し、無力化できる。今度こそ決める!
「ギャッ⁉︎」
顎に決まる重い一撃。脳震盪を起こし、地面に倒れ伏したのは俺だった。影縫いの拘束を振り払うとかどんだけ強いんだよ……。
「俺を拘束したいのなら慎次を超えてみせろ!」
「それ、なんて無理ゲー……ガクッ……」
師匠との模擬戦は俺の気絶で幕を引いた。緒川さんを超えるなんて到底無理な話なのだが……。
あとで朔也さんにこの時のことを話すと「自分で負けフラグ建てるからだよ」と返された。前にも言われたがフラグが何だというのだろう?
☆☆☆☆☆
「ああーーー、酷い目にあった」
「お疲れさま。あの修行続けられる千佳って、実は被虐趣味の持ち主?」
「それは絶対ないからな」
食堂で談笑しているのは僕と調。目の前に置かれた唐揚げ定食をつっつきながら、会話に華を咲かせていた。対面にはバカップルが座っている。
「なぁ、千佳。いまお前に揶揄されたような気がするんだが」
「いやだなー、ロリ也さんのことを揶揄ったりする訳ないじゃないですかー」
「そうか、ならいいんーーーおい待て、いまお前なんて言った?」
「揶揄ったりする訳ないじゃないですかー」
「そのもう少し前」
「朔也さんのことを」
「明らかに事実を改変した⁉︎絶対ロリ也って言ったよこいつ!」
「違うんですか?」
「あながち否定できないから、余計に腹が立つんだよ!」
目の前のロリコンは置いておいて、食事を再開する。ふと横に目をやると、調がジッーと僕の方を見ていた。
「どうしたの?」
「あのね?その、唐揚げ定食美味しい?」
「ああ、美味しいよ。僕が今まで食べてきた中で一番美味いかもしれない」
「そっか。……よかった」
調が最後に何か言った気がするが、囁くような声だったので概要までは分からなかった。何故か嬉しそうにしている調に僕が首を傾げていると、
「何で調が嬉しそうなのか。それはその唐揚げ定食を調がムゴゴゴ⁉︎」
「はいはい。切歌ちゃんそれ以上は言っちゃいけないよ」
何か言おうとした切歌ちゃんの口を朔也さんが塞ぐ。調が親指を突き上げ、サムズアップを向けていた。唐揚げが食べたいってことなのかな?
「調も食べてみる?美味しいよ、この唐揚げ」
「え?……じゃあ、一個だけ。……あーん」
「おいおい、それは僕にあーんしろと?」
調は小さな口を開けて待っている。その表情には赤がさしていた。恥ずかしいならやらなきゃいいのに、と思う訳で。その姿が餌を求める小動物のようで情動が大きく揺さぶられる。最近理性との戦いが増えてきた気がするのは気のせいだろうか。いや、気のせいではない。意を決し、箸で唐揚げを摘まみ上げる。そして、ゆっくりと調に差し出した。
「あ、あーん」
「あーん、んっ、ふぁ。……美味しい」
「そ、そっか」
調が唐揚げをついばみ、咀嚼していく。口が離れる時、箸の先端から銀糸がうっすらと伸びる。僕は思わずゴクリ、と生唾を呑み込んでいた。このまま直視していたら、理性の扉を煩悩という名の鉄球で破壊されてしまう。慌てて視線を前に戻した。朔也さんがニヤニヤと僕を見ている。よし、コロソウ☆
親指で首をかっ切り、勢いよく下に突き下ろす。
たった二つの動作だけで朔也さんの顔が青くなり始めているが、もう遅い。取り敢えず短刀を持って延々と追いかけ回そう。いつも僕が受けている修行に比べればかわいいものだし、かなり譲歩している。朔也さんも泣いて喜ぶだろう。
後日、短刀を持った千佳に追いかけられ、血相を変えて逃げ回る朔也の姿をS.O.N.G.スタッフ一同が目撃したそうな。
残りの定食を食べてしまおうと箸を伸ばして、止まった。視線は箸の先端に固定される。ひょっとしなくてもこれは、か、間接キスになるのでは⁉︎
僕は衝撃の事実の発覚に戦慄した。
いや、別に嫌という訳ではない。目の前には朔也さんと切歌ちゃんがいる。余計に恥ずかしさを覚えてしまう訳で。しかも、何故か隣にいる調の刺すような視線を強く感じる。どういう意味の視線なのか問いただしたい。
『装者各員、及びスタッフは至急司令室に来てくれ!』
「っしゃあ!ーーーあ、何でもないです」
葛藤している最中、放送から師匠の声が響く。思わず、ガッツポーズで叫んでしまった。集まる視線。一気に冷静に戻った。だから、調さん。僕に穴が開いてしまうほど睨みつけるのはやめてください。別に調のことが嫌じゃないんです。むしろす……ゴホン。要するに恥ずかしいだけなのだ。調たちが離れたのを確認して、残りの料理を口の中にかっ込む。そして、僕は大急ぎで調たちの後を追った。
☆☆☆☆☆
「先ほど、アルカノイズが観測された。現在、街に進行中。避難が始まっているがこのままでは間に合わない。そこで装者に出動してもらう」
モニターには進行するアルカノイズの集団。このままではあの時のように街が襲われ、人が死ぬ。誰一人として犠牲者を出してはならない。もう、あの時の少年のような存在を作ってはいけない。決意するように拳を強く握った。
師匠と目が合う。
「千佳。お前はーーー」
「行きます。僕も、戦います」
「そのつもりだ。しかし、いいのか?本来、協力者の立場にあるお前が戦う必要はない。それでも行くのか?」
「愚問ですよ、師匠。確かにこの間まで僕は一般人だった。でも、
「……分かった。だが、しっかり全員で生きて帰ってこい。お前には制限時間がある。しっかりとそれを考慮して動け」
「はい!」
師匠の許可をもらい、待機していた装者のみんなと合流する。
みんなから「やっぱり来たか」という視線が注がれた。どうやら俺の魂胆はお見通しだったらしい。
「一緒に頑張ろう」と、立花さんと切歌ちゃん。「死ぬんじゃねぇぞ」と、雪音さん。「任せたぞ」と、風鳴さんとマリアさん。それぞれ声をかけてくれる中、一人だけ何も言わずにただ不安そうに俺を見る調。
「大丈夫、無茶はしない。ちゃんと考えて動くから。そんなに心配しなくていい」
「……千佳は絶対に無茶をする」
「いや、だからしないって」
「千佳には前科がある」
「ぐっ、痛いところを突いてくる」
「そんな千佳だから、きっと無茶をする。……しょうがないから、もしもの時は私が助けてあげる」
「ありがとう。じゃあ、俺ももしもの時は調を助けるよ」
「……うん。……ありがとう」
俺と調のやり取りを複数の生温かい視線が見ている。若干の気恥ずかしさが残るが、それは後。今は現場に急ぐ。一刻も早くノイズを倒さなければいけない。それはみんなも同じこと。
ピリッと空気が変わる。先ほどまでの温かな雰囲気はすでになく、全員からプレッシャーを感じた。俺の顔も強張る。気を引き締め、手配されたヘリに乗り込み、俺たちは現場へと急行した。
上空から下を見下ろす。依然として普及作業が施された街にはノイズが侵入し始めていた。見える範囲でも飛行型ノイズが確認できる。これ以上の接近はパイロットを危険に晒してしまう。
「じゃあ、飛び降りましょうか」
「あれ?思ったより動揺してないね」
「ハッ、これぐらいの恐怖。師匠との修行に比べれば大したことないですよ」
「良い意味でも悪い意味でも染まってきてるね、着々と」
言わないでください。自覚はありますから。
戸を開け放ち、一斉に飛び降りると同時に六つの聖詠が響き渡った。 変身を完了した装者に続き、俺も首に下げられた相棒を握る。
「行こう、フューゲル。これが俺たちの初陣だ!
ペンダントが弾けるように光った。シンフォギアに酷似した外装を纏い、眼下の敵を捉える。頭部を守るヘッドギアからエルフナインちゃんの声が、耳朶を打つ。
『千佳さん、全力戦闘は持って十分ですからね!それ以上は危険ですので、時間が迫ったら即座に離脱してくださいよ!』
「分かってるよ、エルフナインちゃん」
十分で全部終わらせる!拳を握り締める。
だんだんと地面が迫る。風切り音が止むことなく、なり続けていた。それが恐怖を煽るはずなのだが、俺は何も感じない。前までの俺なら絶叫していたのだろうが、生憎と高所からの飛び降りは師匠の
アクセルスピナーを変形させ、車輪を下に向ける。地面に接触する数瞬前に急速に回転させることで、風の渦が発生。落下速度を少しだけ緩め、着地に成功した。
そのまま、元に戻したアクセルスピナーでノイズの大群へと突っ込でいく。突っ込んだ時、他のみんなもこちらに向かってきていた。何人か叫んでいるような気がしたが無視する。
俺に気付いた一体のノイズを皮切りに、その周辺のノイズも標的を俺に絞るのが分かった。ノイズに知性などありはしないだろうが、俺が男だと分かったのか一体のノイズが飛来する。一体だけで十分、そう言われたようで、ふつふつと腹の底から込み上げてくるものがあった。だから、その怒りを拳に乗せて、
「おおぉ!」
一閃。拳が直撃したノイズは炭となり散った。呆気なく砕けたノイズに少し拍子抜けしてしまう。拳を開閉し、
「よしっ!」
「っじゃねぇ!このアホが!」
「グベッ⁉︎何するですか雪音さん!」
「それはこっちのセリフだ!何一人で突っ込んでいやがる!お前はそこのバカと同類なのか⁉︎」
「心外です、雪音さん。ただ俺の方が速かったから突っ込んだだけです。突っ込むことしか能のない立花さんと一緒にしないでください」
「あれ?何で私が責められてるんだろ」
呟く立花さんを無視して、俺たちは臨戦態勢を取った。雪音さんがアームドギアを形成し、弾幕射撃を放つ。それが合図となり、各々がノイズへと突貫する。
先ほどの倍の数のノイズが襲いかかる。焦ることなく、ゾーンに突入。ゆっくりになった世界で、いくら多くのノイズが来たとしても恐くはない。ナックルスピナーを回転させ、螺旋加速させた拳が飛来したノイズを打ち砕き、各個撃破する。
砕けたノイズは炭へと朽ち果て、煤が舞っていた。その光景が一瞬、両親が死ぬ瞬間と被ったが、すぐに頭を振って振り払う。今はそんなことを考えている場合じゃない。そう、言い聞かせる。
迫りくるノイズを打ち砕くことで、この場だけでも考えないように徹する。
縮地で戦場を駆け回る。時間制限があるので悠長にしていられない。ノイズを打ち砕き、後ろから迫るノイズを蹴り砕くよりも早く、立花さんが現れ、ノイズを打ち砕いた。
「大丈夫?千佳くん」
「お陰様で。だいぶ片付いてきましたね」
「うん。これもみんながいるからだよ!」
雪音さんは辺りを埋め尽くす弾幕を放ち、一度に大量のノイズを殲滅していく。風鳴さんは速度を活かした戦法でバッサバッサとノイズを斬り倒していた。マリアさんも剣を伸ばし、周囲のノイズを一度に斬り倒している。あれが蛇腹剣という奴か。調と切歌ちゃんも二人のコンビネーションを活かした攻撃で、瞬く間にノイズを倒していた。
やはり、強い。俺よりずっと前から戦っていたのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。俺も負けていられない。
「来るよ!」
「はい!」
大きく踏み出す。練り上げた発勁を余すことなく乗せた拳が迫り来ていたノイズを黒い粉塵へと変える。俺の背を飛び越えた立花さんが右腕部を以前のブースターに変えて、周辺のノイズごと吹き飛ばす。
負けじとチャージされたフォニックゲインの一部を、小さな球状にして放ち中空に浮かぶノイズを貫く。『アクセルシューター』と名付けることにしよう。
アクセルシューターは消えることなくノイズを貫いていく。おまけとばかりに更に三つほどシューターを放った。ある程度操作できるのだが、それは四つが限界。それも簡単な指示だけ。しかし、ノイズが相手ならばこれだけで十分だ。
……ズズゥン!
突然の振動に体が大きく揺れる。振り返ると、ビルほどの大きさがある巨大ノイズが此方に進行していた。俺と立花さんの目が合う。
そして、同時に頷き、走り出す。
「エルフナインちゃん!一発だけなら使ってもいい⁉︎」
『致し方ありません。けど、一発だけですからね!それ以上は千佳さんの体が危険なんですからね』
「ありがとう!ーーーカートリッジ・ロード!」
右腕部のナックルスピナーが回転。そして、バシャッという音とともに薬莢が排出された。高まるエネルギーが右腕を包んでいき、放たれるプレッシャーに身震いしてしまう。
立花さんが右腕部のブースターを点火。置いていかれそうになるがアクセルスピナーを急回転させ隣に並び、猛スピードで大型ノイズへと肉薄する!
裂帛の気合いを放つ。そして、跳躍。
「「うぉおおおおおおおおお‼︎」」
大型ノイズへと拳を振り抜く!
俺たちの拳を受けた部分が炭化し始める。ーーーが、まだ足りない。ナックルスピナーを急回転させ、もう一度薬莢が排出された。力が上乗せされ、瞬間的に威力が跳ね上がる。立花さんもブースターを吹かし、推進力を上げていく。
徐々に減り込んでいく拳。そこを起点として大型ノイズに亀裂が走った。もう一押し!
「「行っけぇええええええええええ‼︎」」
俺たちの拳がノイズの体を穿ち貫いた‼︎
亀裂が全身に広がり、崩壊する大型ノイズ。黒煙じみた煤が辺りを包み、舞っていた。
「やったね、千佳くん!」
「はい。何とかなりましたね」
『何とかなりましたね、じゃないですよ‼︎』
「ぉおお……」
エルフナインちゃんの怒声が鼓膜を貫いた。突然のことに耳を押さえてしゃがみ込んでしまう。
『一発だけって言ったのに何で二発も使ってるんですか⁉︎あれほど、あれほど!ボクは注意しておいたはずなんですけど!帰ってきたらすぐにメディカルチェックしますからね!』
「り、了解です」
あのままでは倒せなかったと言っても、許してはくれないだろうな。肩を落としてため息を吐く俺を、立花さんが苦笑して見ていた。まあ、エルフナインちゃんが怒るのも仕方ないことは解ってる。
『カートリッジシステム』
圧縮されたフォニックゲインを薬莢に封入して、ロードすることで瞬時に爆発的なフォニックゲインを得ることができる。その恩恵はさっき実証した通り、攻撃力の強化などがある。他にも使いどころを考えればなかなか汎用性があるシステムだ。
けれど、メリットだけではなくデメリットも存在する。瞬時に爆発的なフォニックゲインを得ることでフューゲル及び、肉体に過度な負担をかけてしまうことだ。体感ではあるが、二発使っただけで思ったよりも体力を消耗している。フューゲルの負担も相当なものだろう。
まだまだ調整が必要なシステムであるが、絶対に使わなければならない場面が出てくる。その時はきっと躊躇なく使うだろう、と独白する。
ノイズの殲滅が終了し、他のみんなと合流しようと足を動かそうとした時だった。ゾクリと、背筋に冷たいものが走った。本能に従い、響さんを抱き抱えて横に大きく跳んだ。
数瞬後、俺たちが立っていた場所を燃え盛る炎が埋め尽くしていた。肌を突く熱量がその威力を物語っている。あと少し跳ぶのが遅れていたら、怪我どころの話ではない。
炎が飛んできた方に目を向けると、そこには一人の少女が立っていた。雪音さんの銀髪とは違う真っ白な髪と肌。容貌は整っていて、真紅の双眸が此方を射抜いていた。そして、瞳と同じ真紅の鎧を纏っている。恐らく、あれはシンフォギアだ。確証はなかったが、そう直感した。
抱えた立花さんを降ろし警戒を怠ることなく、何か少しでも情報を引き摺り出そうと口火を切る。
「おいおい、いきなり何しやがる?挨拶にしては物騒過ぎるぜ」
「……シンフォギア装者の能力を調べていたら、貴方のような
「そいつはご丁寧にどうも。あんたの口振りから考えるに、前のノイズの出現もあんたの仕業か?」
「そうよ?敵対する相手の能力を調べるのは当たり前でしょう」
「つまり、そんなことのために街を襲撃したと?」
「そうなるわね」
「……街の人たちを巻き込む必要があったのか?」
「
多少の犠牲。致し方ないこと。そんな理由で街を襲った?
「貴方の力もだいたい解ったし、引かせてもらうわ」
「逃すとでも?」
「無理よ。私は強いから」
瞬間、縮地で距離を詰める。初見なら驚くぐらいはするものだが、特に気にした様子はない。気にせず俺は拳を振り抜こうとして、突如現れた炎に呑み込まれて吹き飛んでしまった。
「だから言ったでしょ?私は強いって」
「そうだな。確かにアレを正面から食らったらひとたまりもないだろうなっ!」
「ッ⁉︎」
言葉とともに振り抜く拳。
しかし、直前で滑り込んできた手に拳を止められてしまった。
「どういうことかしら?確かに燃やしたはずなのだけど」
「ハッ、ただ単にお前の狙いが甘かっただけだろ」
「言ってくれるじゃない……」
俺の悪態に、彼女の睥睨している瞳の鋭さが増した。
さっきこいつが燃やしたのは変わり身として残した分身。俺はその影に隠れて、気配を消して接近した。こいつの炎は任意で発動できるようだ。それもこいつの視界に映る範囲か、こいつの周囲何メートルかの範囲か、そのどちらかかもしれないし、両方かもしれない。十分に注意を払わなければならない。
「それで、このまま一緒についてくるつもりはないんだろ」
「当たり前でしょ。どこに敵の本拠地に赴くバカがいるというの?」
「ま、そうだよな」
「ええ」
ピリッとしたものを肌で感じ、後ろに跳躍。案の定紅蓮の炎が猛威を振るう。複数個のアクセルシューターを放つ。シューターが彼女を取り巻くように肉薄するが、当たることはなく形成された剣に斬り裂かれてしまった。
「シンフォギアだけではなく、貴方も十分脅威になり得るわね。認識を改めておくわ」
「待て!」
紅蓮の炎が壁となり、歩みが止まる。炎が消え去った時には、すでに彼女の姿はなくなっていた。逃げられたことに舌打ちが漏れる。
『千佳、撤収だ。現れた少女の行方は此方が受け持つ』
「分かりました……」
師匠から通信が入り、渋々と頷く。
ノイズを殲滅することはできたが、ここにきて新たな敵の出現。一抹の不安が脳裏を過ぎった。頭を振って追い出そうするが、何故か不安を払拭することができなかった。
☆☆☆☆☆
「痛てててて⁉︎痛い!痛いんだけどエルフナインちゃん!」
「知りません!千佳さんの自業自得です!言いつけを破って、まだ調整が済んでいないカートリッジシステムを二発も使うわ、その後すぐに未確認の装者との戦闘ですよ。体に負荷が溜まってるな決まってます!だからその痛みは甘んじて受けてください!」
「いや、違うから⁉︎体よりもエルフナインちゃんの抓りが痛い!メディカルチェックしながら抓るなんて器用なことやめてぇ!」
帰ってきて早々、僕はエルフナインちゃんに医務室へと連行された。何故か調も一緒に来ている。フューゲルもチェックするとのことで取り上げられた。無理したのは僕なので、とても頭が上がらない。
「メディカルチェックをした限り、特に異常はなく疲労しているだけなので明日はゆっくりと体を休めてくださいね?」
「分かったよ。それで、あの装者について何か進展は?」
「まだ何も解っていないのが現状です。朔也さんたちが照会をかけていますが、未だに当たりはつけられていません。解り次第連絡しますね」
コクリと頷く。あの装者について調べることに僕ができることは何もない。朔也さんたちに任せるしかなさそうだ。服を整えて医務室を出て行こうとしたのだが、服の裾を引かれて振り返る。すると、私怒ってます、という表情をした調が佇んでいた。
「また、無茶した」
「うっ、ごめんなさい……」
「響先輩のこと抱っこして鼻の下伸ばしてた」
「あ、それは絶対ない。べ、別にあの人のことを女性として認識していない訳ではなくて。ただあの状況では鼻の下伸ばしてる暇はなかったです、はい」
「ふーん」
どうやらまだ疑っているらしい。無茶して怒られるのは分かるのだが、何故鼻の下を伸ばすことも怒るのだろうか?断じて鼻の下を伸ばしてはいないのだが、少し気になった。
「取り敢えず、これからは無茶しないように」
「善処します……」
「それじゃあ、帰ろ?今日はもう私たちがすることはないから」
「そうだね、帰ろっか」
自然に僕の手を取る調。手を取られたことに一瞬惚けてしまうが、すぐに我に返って苦笑した。繋ぐ手は女の子特有の柔らかさがあり、少し力を入れてしまったら折れてしまいそうだった。調から伝わる人肌の温かさに、いつの間にか苦笑は微笑みに変わっていた。
…………………ピシリ。
何処かで亀裂が広がる音が響いた。
しかし、その音を聞いた者は誰もおらず。徐々に徐々に亀裂は広がっていく。ゆっくりと、確実に………。
『カートリッジシステム』
右腕部のナックルスピナー、右脚部のアクセルスピナーに搭載。フォニックゲインを増大させるカートリッジ弾倉が込められていて、装弾数は各部六発。ただし使えば使うほど各部、体に大きな負担をかけることになる。使いどころを選ぶじゃじゃ馬。
なんとか投稿。ようやく敵出せた……。
あれ?でもおかしいな?最初はほのぼのを予定してたのにいつの間にか戦闘寄りになってきている。これも全てOTONAの仕業に違いない。