先ほど間違えて、執筆中のものを投稿してしまい削除しました。
こっちが本当の二話目です。
では、どうぞ。
「……いらっしゃいませ」
「あの、月読さん。もう少し明るくできないかな?」
「これが精一杯」
「あ、はい」
僕は、今日一日店員として働くことになった月読さんに軽い指導をしていた。
月読さんは接客に問題がある訳ではないのだが、いささか明るさに欠けている。
なので、せめて挨拶だけは元気にしてもらおうと頑張ってはみるものの、一向に明るくなることはなかった。
本人もどうにかしようと頑張っているので、僕は応援している。
僕も最初は人見知りを発動させて、苦労したことがあるので妙な親近感があった。
経験を積んで克服してきたので、月読さんも経験を積めば変われるだろう。
何故、月読さんが店員として働くことになったかというと。それは、まだ開店の準備をしていた二時間前まで遡る。
☆☆☆☆☆
月読さんと出会って、一週間があったある日のこと。
おばあちゃんが友人と街に行く予定のため、僕一人で『花咲』を営業することになっている。
おばあちゃんは心配なのか、しきりにこちらを見ていた。
「おばあちゃん。僕なら大丈夫だから。そんなに心配しないでよ」
「千佳のことは心配じゃないんだよ。ただ一人に店を任せるってのが心配なのさ」
「あれ?いま僕のことを信頼してくれてると思ったら、そんなことなかったや」
うん、分かってたよ?おばあちゃんがこういう人だってことはさ。
上げて落とされた僕はガクリと肩を落とした。瞳には若干煌めく何かが溜まっている。
大きなため息を吐くと、花たちに水をやるためにジョウロとバケツを持って外に出た。
水をあげすぎないように加減をしながら、一つひとつ、優しく丁寧に水をあげていく。
葉が水を弾き、大きく揺れた。みるみるうちに水は根に吸収されていく。それに何処と無く花たちの力強さを感じさせられる。今日も花たちの調子は良さそうだ。
満足気に頷いていると後ろから、
「皐月」
つい一週間前に知り合った少女ーーー月読さんの声が僕を呼んだ。
振り返ると、黒髪のツインテールを左右で揺らして、ピンクのワンピースとニーソックスという軽装に身を包んだ月読さんがいた。
オシャレなのか、見たことがないペンダントを首から下げている。
……可愛い。
十人が見れば十人が振り返るぐらい、と言えば皆さんにもお分かり頂けるだろう。
だから、こうして僕がいま月読さんに見惚れてしまうのも仕方のないことだ。
「皐月?」
「え、あ、ごめん。月読さんが可愛くて、つい見惚れてたや」
ーーーはい、アウトォォォオオオ!何だ?僕は馬鹿なのか?死にたいのか?何で自分から死地へと赴くようなことを口走るんだ!いったいこの口は僕に何の恨みがあるっていうんだ‼︎
瞬時に顔を赤に染め上げて、頭を抱えて天に叫んだ。
月読さんも恥ずかしいのか、薄っすらと顔を赤くしてツインテールを弄っている。
くっ!その仕草すごく可愛いです‼︎
そうだよ。暴走気味なこの口も悪いが、いちいち暴走を誘発させる月読さんが可愛いのがいけないんだ。
おい、理性。お前がちゃんと仕事をしていないせいで、頭のおかしなことを言っているんだが。
「あ、今の違うんだ!いや、違くないけど。その、あれがあれでああなって、それからーーー」
「……慌てすぎ。そんな態度取られると傷つく」
「その、ごめんなさい……」
「ふふっ、ちゃんと謝ってくれたから許してあげる」
「ありがとうございます」
クスリと笑う月読さん。
きっと、慌てる僕がおかしかったんだろうなぁ。そう思うと、だんだん恥ずかしくなってきた。
「今日はどうしたの、月読さん。何か用事でもあるの?」
「特にない。今日はたまたま早く起きたから散歩してて、近くに来たから寄ってみた」
「そっか。じゃあ、暁さんはまだ寝てるんだね」
「うん。朝食は作り置きしてあるから、いつ起きても大丈夫なようにしてあるから。心配ない」
「そっか」
いま話しに出たのは月読さんの家族である暁切歌さん。
僕が月読さんを家に運んだ際に出会った少女だ。
「お嬢ちゃんいいところに来たね!」
「え?どうしたんですか」
「これからあたしは出かけるんだが、千佳だけだと心配でね。お嬢ちゃんに一日店員として、働いてほしいんだ。じゃあ頼んだよ!」
「あ、待ってよおばあちゃん!」
おばあちゃんは言いたいことだけ言うと、すぐに車に乗り込み出かけてしまった。
僕たちは車が見えなくなるまで、その場に呆然と立ち尽くしていた。
しばらくして、我に返った僕は月読さんに謝罪した。
折角の休日を潰して欲しくなかったので、このまま帰っていいと言った。
しかし、「特にすることがない」と返されてしまい、店を手伝ってもらうことになった。
本当にごめんなさい。全く、おばあちゃんは脱帽するほどの強引さだよ。
彼女に普段おばあちゃんが使っているエプロンを渡して、それを着てもらった。
月読さんにはやや大きいサイズだが、問題はない。
そして、ここで冒頭に戻る。
「ま、まあいきなり明るくしろって言うのは無理な話。最初は僕も月読さんと同じだったし。そのうち慣れるさ」
「ごめんね。手伝うって言ったのに役に立たなくて」
「いやいや、まだ何もしてないからね?大丈夫。どうしても駄目だったら接客以外にも仕事はあるから。そんなに気を落とさないで」
「……うん。頑張るね」
落ち込んでいる月読さんを励ます。
わずかだがさっきよりは顔が明るくなった。
もしかしたら彼女は、させようとしていたからできないだけで、自然体でならある程度良い線いくのではなかろうか?
その旨を伝えて、あまり気張らないようにしてもらおう。
そろそろ開店時間が迫ってきたところで、僕たちは花を並べていく。様々な花がよりどりみどりといった感じなので、月読さんは驚いているようだった。
曰く、「こんなにたくさん種類があるなんて知らなかった」とは、月読さんの言葉だ。
まあ、花は綺麗だと思う人はたくさんいるけど、その中で花について詳しく調べたりする人は少ない。だから、知らないのも無理はない。
僕?前も少し話したと思うが、徹夜で必死に覚えたよ。そうでもしないとお客さんの相手ができないから。
それで次の日学校に遅刻してしまうのは言わずもがな。
「この花っはなんて名前なの?」
「ああ、それはアベリアって言うんだ」
月読さんが興味を引いたのは、鐘型の小さな花がたくさん咲いたアベリアだった。
アベリアの花言葉は『強運』。他にも『謙虚』とか『謙譲』の意味を持っている。
僕の説明を聞いた月読さんが感嘆の声を出す。
その反応をしてくれるだけでも、僕の苦労が報われます。
他の花にも興味を示した月読さんに、僕が花の説明をしていく。
花の説明はお客さんがやってくるまで続いた。
☆☆☆☆☆
「お疲れ様です。はい、これどうぞ。月読さん」
「ありがとう。皐月もお疲れ様」
店の営業は滞りなく進み、今は昼休みの時間だ。
月読さんにお疲れの意味も込めて、缶ジュースを渡した。
蓋を開けると、プシュッと軽快な音が鳴る。
キンキンに冷えたジュースを一気に呷り、飲み干していく。
「っぷはぁ!うんうん。これのために頑張ってたと言っても過言じゃない」
「うん。普段よりも美味しく感じる」
コクコクとゆっくり飲む月読さんの姿は可愛らしい。
こう、なんて言えば良いのだろうか。守ってあげたいって思う。
あれだ。女性で言う母性本能がくすぐられるというやつだ。
そんなことよりも昼休みの間にご飯を食べてしまわないといけない。
「月読さん。これからご飯食べに行くんだけど、一緒に行こう。ごちそうするよ」
「……流石にそれは悪い」
「そんなことないって。わざわざ手伝ってもらってるし、まだ午後からも仕事が残ってる。お腹が空いてたんじゃ、何も出来ないよ。それにこれは今日のお礼だからさ。受け取ってもらわないとこっちが悪い気がして耐えられないんだ」
「……そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらう」
「なら良かった。じゃあ、ちょっと外に出よっか。近くにファミレスがあるからそこで食べよう」
戸締りをしてから、少し歩いたところのファミレスに入った。
スタッフの方に案内された席について、メニュー表を開く。
そこには何とも美味しそうな料理が並んでいて、空腹を刺激する。
ふと前を向くと、月読さんが難しい顔でメニュー表を睨んでいた。
気になった僕は直接聞いてみることにした。
「月読さんどうかしたの?」
「ここのお店にはごちそうがない」
「え、そうかな?」
メニュー表には値がはる料理もちらほらとあるので、ごちそうがないということはなかった。少なくとも僕から見たら。
これはここの店ではなく、もっと高いところに連れて行けということを暗に伝えているのか?
いや、しかし月読さんはそんなこと言うような人じゃない。
なので、僕は恐る恐る月読さんの言うごちそうについて聞いてみると、
「私たちにとってごちそうとは298円の食べ物のことを言う」
298円。えっと、それだとスーパーで買うようなものが限界では?
「なかでも、夕方のスーパーはいい。見切り品で50円のお刺身に半額の唐揚げ。遅くても早くても駄目。ベストなタイミングを見計らって集めるお惣菜が私たちの真のごちそう!」
普段の寡黙さはどこへ行ったのか、ごちそうについて力説する月読さんが叫ぶ。
僕だけでなく、月読さんの叫びを聞いたファミレス内のスタッフ、お客全員が涙していた。
いったい今までどんなひもじい思いをしてきたのだろうか?それを勝手に想像してして、涙の勢いが増した。
僕は食べられることが当たり前になっていた。
だから、月読さんの叫びを聞いて、どんなに恵まれているのかを今しっかりと理解した。
それと同時に罪悪感も湧いてきて、このまま土下座に移りたい気分だ。
「え、あの皐月?なんで泣いてるの?スタッフさんとか他のお客さんも」
「何でもない、何でもないから。ほ、ほら、今日はお腹いっぱい食べよう?僕の奢りだからさ。ごちそうとか抜きにして美味しいもの食べよう」
「う、うん」
僕の言葉に同意するように他の皆さんも首を縦に振っていた。
僕の食費を削ってでも月読さんには美味しいものを食べてもらおう。
料理を注文して、早速やってきたのはハンバーグセット。月読さんが頼んだものだ。
気を利かせてくれたのか、他のお客さんよりも早くやってきた。
美味しそうに頬張る月読さんを尻目に、さりげなくパフェを置いていったスタッフさんに目を向ける。
僕が口を開くよりも早くスタッフさんは「サービスです」とだけ言って、去っていった。
僕がスタッフさんに向けて感謝すると、スタッフさんは振り返ることなく、手を挙げる。
その後ろ姿はとてもカッコよかった。僕もあんな風になりたいものだ。
取り敢えず、今は美味しそうに食べている月読さんを見て癒されることにしよう。
昼食を食べ終えた僕たちは『花咲』に戻るため帰路に着いた。
会計を済ませる際に、スタッフさんに「是非また来てください」と言われた。切実に。
また今度予定が合えば、月読さんをご飯に誘うのも良いかもしれない。
「お昼はごちそうさまでした。今度は私が皐月に何か作ってあげる」
「え、そんな迷惑かけちゃうからいいよ」
「迷惑なんかじゃない。私が怪我をした時に助けてくれたから、そのお礼」
「……そういうことなら」
「よろしい」
なんとご飯に誘うつもりが、誘われてしまっていた。
普通に嬉しい。だって、女子の手料理が食べられるんだ。こんなにも嬉しいことはいつ以来だろう。
僕は月読さんの手料理を楽しみにして、午後も頑張ろうと意気込んだ時だった。
……ドガァアアン!
街の方から耳をつんざくような爆発音が上がった。
爆発により発生した突風が僕たちに襲いかかる。
月読さんが吹き飛ぶ寸前だったため、手を引いて胸の中に引き込み、包むように庇った。
突風自体はすぐにおさまったが、街の方からは今も小さな爆発が続いている。
電話のコール音が響く。
「はい、月読です」
『調くん、至急街へと向かってくれ!アルカノイズが出現し、住民を襲っている。いま響くんたちが現場で交戦中だ』
「分かりました。このまま街に向かいます」
『頼んだぞ』
電話から野太い男性の声が聞こえる。
耳を澄ませると、街にノイズが出たと言うじゃないか。
月読さんは携帯を切ると、こちらを向いて、
「皐月はこのまま近くにあるシェルターに避難して。あとは私たちがなんとかするから」
「それって、どういうーーー」
「ごめん。これ以上はみんなを待たせられない。早く皐月はシェルターに避難して!」
「あ、月読さん!」
僕の制止を振り切り、月読さんは街の方に駆ける。
半ば呆然と後ろ姿を眺めながら、僕は固まっていた。
僕には月読さんの言葉があまり聞こえていなかった。
ーーーいま、街にはおばあちゃんがいる。
ーーーノイズがおばあちゃんを貫き、炭へと朽ち果てる。
そんな光景を想像した。してしまった。
途端に僕は怖くなり、おばあちゃんの安否が気になって仕方がなかった。
おばあちゃんがいなくなったら、僕はーーーーー。
次の瞬間には、僕は街へと走り出していた。
そこで僕は月読さんの秘密を知ることになるのだが、その時の僕には知る由もなかった。
一応この作品は短編の予定です。