夏の日の出会い   作:流離う旅人

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彼女の秘密

 

 

司令の連絡を聞いた私は皐月にシェルターに避難するように言ってから街へと走った。後ろを確認し、皐月が見えなくなったのを確認。

ペンダントを握り、胸から溢れる“聖詠”を歌う。

 

Various shul shagana tron(純心は突き立つ牙となり)」 

 

一瞬、私の体は光に包まれ、光が晴れると白とピンクを基調としたシンフォギア。ーーー《シュルシャガナ》を纏っていた。 

これこそがノイズに対抗する手段。その力は軍事武器をも凌ぐ。 

脚部に車輪のように丸鋸を展開。急回転させて現場へと急ぐ。道路が傷ついてしまうが、今は緊急事態。それにすでに響先輩たちが盛大にビルやら車やらを壊しているのだから、それに比べれば可愛いものだ。 

 

現場に到着すると、より一層爆発音が強まった。他にも鉄の削れる嫌な音や破砕音が木霊している。 

手始めに私は響先輩が打ち漏らしたノイズを丸鋸で切り裂いた。

 

「みんな遅れてごめんなさい」

「問題なーい! 大丈夫だよ調ちゃん!」

「遅れた分はノイズを殲滅することで取り返せ!」

「はい!」 

 

風鳴先輩の一喝。私はすぐに切ちゃんと合流した。

 

「調! やっと来たデスか」

「遅れてごめんね切ちゃん」

「大丈夫デス! マリアやクリス先輩もいたデスからね」

「うん。それじゃあ、行こう切ちゃん!」

「やってやるデス!」

 

【切呪リeッTお】

【β式巨円断】 

 

切ちゃんはアームドギアである巨大な鎌を力強く振り抜いた。すると、鎌の刃がブーメランのように放たれて、旋回しながらノイズを切り倒していく。

負けじと私もヨーヨーを取り出した。

 

……別に遊んでいる訳じゃない。これが私のアームドギア。 

 

ヨーヨーから刃が飛び出し、巨大化していく。その大きさは車一台を容易に超えている。

 

「やぁあああ!」 

 

ヨーヨーを振り下ろし、大量のノイズを圧殺する。 

すぐさまヨーヨー縮小させ、私を基点に回転させながら糸を伸ばしその範囲を広げていく。 

ノイズは綺麗に真っ二つになって、炭に還っていく。

ふうっと息を吐くと、 

 

ズガガガガガガッ! 

 

私の横を銃弾なまりの雨が通りすぎた。クリス先輩のガトリングだ。 銃弾の雨はノイズに襲いかかり、圧倒的な物量で蹂躙していく。

 

「おい調! まだ終わってねぇんだ。一息つくにはまだ早いぞ」

「ごめんなさい。クリス先輩」

 

「分かりゃいいんだよ」と照れ隠しにノイズの団体にガトリングを連射するクリス先輩。照れ隠しに倒されるノイズに少し同情してしまった。 

その時、私たちに通信が入る。その情報に私は耳を疑った。

 

『本部より各装者へ通達! 現場に逃げ遅れた民間人がいます。手の空いている装者は急行してください』

「朔也さん、その民間人の特徴は分かりますデスか?」

『特徴というよりは状況なんだけど、小さな子供を背負っている少年の二人だよ切歌ちゃん』

「分かりましたデス! すぐに向かーーーって調⁉︎どうしたデスか!」 

 

私は藤尭さんが民間人の状況を聞くと同時に動き出していた。何故だかそれが私のことを助けてくれた少年ーーー皐月の気がしてならなかったから。

いや、と頭を振ってその考えを否定する。今頃皐月はシェルターに避難しているのだ。ここにいるのが皐月のはずがない。 

けれど、私の考えとは裏腹に嫌な予感が消えることはなかった。 

 

 

そして、私の嫌な予感は的中してしまった。 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

僕は当てもなく街の中を走っていた。 

こんなことになるなら、おばあちゃんに何処に行くのか確認しておくんだった。 

街の中央に近付くほど爆発音が大きくなっていき、今になってそれが恐怖心を助長する。 

しかし、こんなところで立ち止まること自体が危険なので、ひたすらに走る。  

ポケットに突っ込んであった携帯が震えた。 

取り出して、画面を確認することなくボタンを押して耳にあてがった。

 

『千佳! 今何処にいるんだい⁉︎』

「おばあちゃん⁉︎そっちこそ何処にいるんだよ!」

『あたしなら今シェルターに避難してるよ』

「なら良かった! 説明なら後で幾らでもするから切るよ!」

 

クソッ!完全な無駄足じゃないか!

 

何の確認もなしにここまで来たのは自業自得。舌打ちを漏らし、数分前の自分を殴り飛ばしたい衝動に駆られた。 

幸いノイズにはまだ一度も出くわしていない。このままUターンしてシェルターまでの道のりを突っ切る!

 

「うぇええん! パパ、ママ何処にいるの!」 

 

偶然、視界に親を探す子供の姿が映った。 

そして、その姿には見覚えがあった。

 

『お父さん、お母さん何処? 早く出てきてよ二人とも!』 

 

あの子供と面識がある訳じゃない。

ただ、あの少年と十年前の自分が重なった。 

このまま子供を見捨てる訳にもいかない。なにより僕があの子をーーー

 

「ほっとけないっ!」

 

シェルターに向けていた進路を急遽変えて、子供へと走る。

 

「少年! ここは危ないから逃げるぞ!」

「でも、パパとママがッ」

「きっと二人は無事だ。だから今は逃げるんだ!」

「う、うん!」 

 

少年を背におぶる。僕は少年に一つ嘘を吐いた。

残念だが、少年の両親はもうこの世に存在していないだろう。他の犠牲者同様にノイズに襲われ、炭として朽ちているはずだ。そう考えると、少年が今も生きているのが不思議なぐらいだ。 

 

今度こそシェルターへと走ろうと足を上げた時だった。先ほどまでいなかったはずのノイズ(、、、)が進路を塞いでいた。 

それも一体や二体じゃきかない。集団が待機している。

 

「クッソ!」

 

少年をしっかりと支えて、唯一残された退路。街の中央へと走り出した。こちらしか残ってなかったというのもあるが、爆発音が聞こえるということはノイズと戦闘をしているはずだ。 

その人たちと合流してノイズを倒してもらうか、もしくは助けてもらうのが狙いだ。

そんな人たちが本当にいる確証もないが、一縷の望みに賭けて走る速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ。もう、無理、走れない」 

 

大きく息を切らし、壁に背を預ける僕を心配そうに子供は見ていた。僕は非力な高校生。人ひとり背負ってここまで来れたのが奇跡だ。 中央までまだ五キロほどある。

今はビルに隠れて何とかノイズをやり過ごしたが、いつ何処から来るか分からないので、常に気を張っているせいか休んでいる気がしない。 

 

……最悪、少年だけは守ってみせよう。

 

「お兄ちゃんはどうしてここにいたの?」

「少年と同じさ。僕もたった一人の家族を探してたんだ」

「一人しかいないの?」

「ーーーああ、ずっと昔にいなくなっちゃってね。僕の家族はもうおばあちゃん一人だけなんだ」

 

十年前、両親はノイズから僕を庇って死んでしまった。

その現実から目を背けるように両親を探し続けたことを覚えている。

両親を探す僕と少年が重なって見えたのはそのせい。

 

「寂しくないの?」

「寂しかったよ。でも、今はそこまで寂しくないかな」

 

おばあちゃんがいてくれたから、今の僕がある。

でも、心の何処かで今も思うことがあった。

 

ーーー僕とおばあちゃんは家族になりきれていない。

 

僕とおばあちゃんに血の繋がりはない。他に身寄りがなく、僕が孤児院に入れられる時に、ご近所付き合いのあったおばあちゃんが引き取ってくれた。

おばあちゃんのことを信用しているし信頼もしている。一緒にいて楽しいとも思う。僕との間に壁があることを知りながらも、向こうから歩み寄ってくれている。

けれど、ご近所のおばあちゃんという刷り込みと僕の本当の家族は両親だけだという葛藤があった。

たった一歩。それだけ踏み出せば、本当の家族になれる場所に僕はいる。

 

それなのに、僕は弱くて臆病だから。一歩を踏み出せずにいた。

こんな僕の本性を知ったら、月読さんはどう思うだろうか?

 

……あれ?なんでそこで月読さんが出てくるんだ?

 

突然、思考の中に出てきたのは月読さん。

何故月読さんが出てきたのか分からずに、僕は首を傾げる。

再び思考の中に戻ろうとしたところで、

 

「お兄ちゃん!」

 

少年の切羽詰まるような声が反響する。

瞬間、弾かれたように飛び上がると少年をさっきのように背負って、ビルを飛び出した。

飛び出す瞬間、視界の端で捉えたのはノイズだった。

ノイズが蔓延るこの場所で長考した僕自身に苛立ちを覚える。僕はともかく少年まで巻き込むところだった。

 

「絶対に、君だけは僕が守るから」

 

僕は自分に言い聞かせるように呟いた時、

 

「皐月ッ!」

「え、あ、月読さん⁉︎」

 

何かを纏った月読さんが、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「つ、月読さん、その姿は……」

「それは後!今は生き残ることだけを考えて」

「う、うん」

 

月読さんは怒っていた。

その怒りをぶつけるように、僕たちを追ってきていたノイズたちを蹴散らしていく。

ノイズに触れているにも関わらず、 炭化することなくノイズだけを倒していた。今の月読さんの姿に関係があるのは明らかだった。

 

当然、月読さんが怒っているのは僕が原因だ。

月読さんからしたら、僕は避難指示を無視し、この場所に死にに来たようなものだ。

この場で何の力も持たない僕に居場所はない。

それでも、家族と呼べるおばあちゃんを失ったら、僕は独りぼっち。

それが、堪らなく怖かった。だから僕は、ここにいる。

 

「藤尭さん、民間人確保。避難経路の指示をお願いします」

『分かったよ。ーーーと言いたいところだけど、もうじきノイズの殲滅が完了するから。調ちゃんはそのまま民間人の保護を』

「分かりました」

 

通信を切った月読さんは、僕を睨みつける。

その瞳は「何でここにいるの?」と訴えかけていた。

僕は何も言えず、俯くことで月読さんから顔を逸らす。

 

ーーーいつの間にか、けたたましく鳴り響いていた爆発音は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はぼうっとしながら、破壊された街を眺めている。

その惨状は酷いもので、普段の街と比べると痛々しさが浮き彫りになっていた。

現在、僕はぞろぞろとやってきた黒服の屈強な男性たちが建てた仮設テントに身を置いていた。少年は疲れてしまったのか僕の横で眠っている。

 

「あったかいものどうぞ!」

「あ、どうも……」

 

この場には似つかわしくない明るい声で、茶髪の女性が紙コップを手渡してくれた。

僕はそれを受け取って、口に含む。

紙コップの中身はホットココアだった。口内に甘味が広がり、少しだけ僕の心を落ち着かせてくれた。

僕の心境を見計らったのか茶髪の女性が口を開いた。

 

「私は立花響。君の名前は?」

「あ、僕は皐月千佳っていいます」

「ああっ!君が調ちゃんのこと助けてくれたんだね。ありがとう!」

「いえ、別に。僕は当然のことをしただけと言いますか。あの場に僕以外がいても助けたと思いますよ?」

「それでも調ちゃんを助けてくれたのは君だから。だから、ありがとう!」

 

女性ーーー立花さんはまるで自分のことのように、感謝を述べた。

きっとこの人は優しい人なんだろうな、と思う。

立花さんの笑顔を見て、僕もまた頬が緩んだ。

 

「皐月」

「うぉわあ⁉︎月読さん⁉︎い、いつの間に目の前に来たの?」

「……響先輩があったかいものを持ってきた辺りから」

「それって最初からだよね⁉︎」

 

忽然と姿を現した月読さんに驚き、おかしな悲鳴を上げてしまった。

しかも、立花さんが来た時にはいたと言っているが、全く気が付かなかった。恐るべし月読さん。

私、怒ってますオーラをたちのぼらせる月読さんは、頬を膨らませて僕を睨んでいた。

……全く怖くない。むしろ可愛いと思った。

 

「何で、シェルターに避難しなかったの?」

「いや、その……おばあちゃんが心配で」

「でも私は皐月にシェルターに避難してって言ったはず」

「呆然としてて、聞こえてなかったと言いますか」

 

僕は誰に言われた訳もなく、自然と正座を取っていた。月読さんの言い知れぬ迫力が僕にそうさせたのだ。

……彼女の後ろに般若が見えたのは気のせいだと思いたい。

立花さんが仲裁に入ってくれたお陰で、何とか事なきを得る。

ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、

 

「貴方が皐月千佳さんですか?」

 

今度は一人の男性がやってきた。

先ほどの黒服たちとは違い、ほっそりとしていて穏やかな印象を受ける。

男性の言葉に首肯すると、

 

「私は緒川慎次といいます。失礼ですが、両腕を出してもらえませんか?」

「は、はあ?」

 

言われるがままに両腕を出すと、ガチャリという音を立てた手錠が両腕を拘束した。ズッシリとした重みが本物の手錠だと実感させる。

 

……ん?手錠?実際に見て、付けられてみるなんて経験初めてだなぁ…………何じゃこの状況はぁああ!

 

「え、何ですかコレ⁉︎」

「すみません。申し訳ないのですが、このまま貴方を拘束させてもらいます。安心してください。決して悪いようにはしないので、私たちについてきてください」

手錠(コレ)のせいで全ッ然安心できないんですけど⁉︎別についていくだけなら手錠なんて要りませんよね⁉︎」

「まあ、念のためというやつです」

 

朗らかな笑みを浮かべる緒川さん。

駄目だッ、この人じゃ話が通じない!

僕は振り返って、後ろにいる二人に助けを求める!

立花さんは僕を見て「うわぁ、なんかデジャヴ」と呟き、月読さんは顔すら合わせてくれなかった。

 

今の僕に味方なんていなかったや……。

 

ガックリと肩を落とした僕に、緒川さんは苦笑を浮かべていた。

 

 






展開が早いのはご了承ください。
やっぱり戦闘描写は難しい……。
ジト目の調に睨まれてみたいというのは誰しも思うことだと思う。
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