夏の日の出会い   作:流離う旅人

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展開が早いですが、ご了承ください。
では、どうぞ。


二人の関係

街の復興作業が終わり、学校が再開され僕は自分の机に突っ伏していた。身体中が筋肉痛で今も鈍い痛みが襲う。原因は言わずもがな弦十郎さんとの一週間の山籠りだ。ここから初日の冒頭シーンをお送りしよう。

 

『先ずこれからは俺のことを師匠と呼ぶように!』

『はい!師匠質問です!』

『何だ?』

『どうして僕は重りをつけているのでしょうか?』

『その状態で山を駆け上がるからだが?』

『何ですか?その「当たり前だろ?」という反応は?え?これ僕がおかしいのか?』

『ええい!細かいことは後回しだ!今は走れ!』

『うわ!絶対めんどくさくて放棄したやつだ!』

 

分かるかな?これが初日なんだぜ?師匠の神経を疑ったね。

そこから重りをつけた状態で山を駆け上がる。それを最初の一日は延々と繰り返した。正直、初日だけで死ぬかと思ったが、師匠は人の体を知り尽くしていてマッサージをしてもらうと嘘のように疲れや痛みが消えていた。

 

これなら何とかなるのでは?と調子に乗って、山の登り下りを繰り返し、師匠の言われるがまま筋トレを行なった。今までの人生で濃い一週間をおくったのは言うまでもない。まさか、一週間分の疲れが一気に還ってくると知っていたら調子に乗らなかったというのに。今となっては後の祭りだ。後日聞いてみると、疲れと痛みを一瞬で消すなんていう都合のいいものはないらしい。逆に疲れや痛みが後から還ってくる技がどうしてあるのか問いただしたい。

 

痛みの方は大分慣れてきたが、疲れの方はそうもいかない。このままゆっくりと眠ってしまいたいと思うが、なかなか思い通りにいかないのが人生だ。ほら、すぐそこに僕の安寧の時間を害する奴が近付いてきている。

 

「おい、どうしたんだよ千佳?そんな山籠りしてきたみたいな顔して」

「なんでそんなにピンポイトに言えるのか疑問に思うのは僕だけか?で、何の用だよ剛史」

「なんだよーせっかく親友が心配してきてやったんだからそんな冷たい反応するなよなー」

 

こいつは長谷川剛史。僕の小学校からの腐れ縁であり、親友だ。いつも軽い態度でチャラいと言われているが、真面目な部分もありそのギャップから女子たちの人気が高い。

「そういえばさ。お前にもついに春が来たんだな。親友として俺は嬉しく思うぞ」

「春が来た?今は夏だぞ。とうとうボケたか?」

「いやいや、そういう意味じゃないからな。彼女ができたっていう意味だよ」

「誰に?」

「お前にだよ」

 

いったいこいつは何を言いだすのだろうか?僕に彼女はいない。これは事実だ。あれか?自分がモテてるから自慢がしたいのか?そうなのか?そうなんだな?よし、表に出やがれ。その喧嘩安く買うぞ。

 

「いや、だってさ。お前の家の店ってバイトの子雇ってないだろ?でも、一週間前にふらっと通り過ぎたらお前と一緒に女の子がいたからそういうことなのかなって思ったんだが。違うのか?」

「違う違う。あの子はそれより前に怪我してるのを助けて知り合ったんだよ。それであの日偶々通りかかっておばあちゃんが強引に一日だけ店の手伝いをしてもらっただけさ」

「じゃあ、どういう関係なんだ?」

「よくて友人ってところ。出会って一週間なんだからそんなもんだろ」

 

「何だよ、つまねーなぁ」と剛史がボヤくが、そんなことを言われてもお前を楽しませるために話している訳ではないのでこっちが困る。楽しみたいのなら女子のところにでも行って談笑することを勧めるよ。

 

「そういや聞いたか千佳。今日一限から体育だとさ」

「なん、だと……」

「おーい?大丈夫かー。すげー死にそうな顔してるぞ」

 

今日は臨時休校明けの金曜日。一応先週の時間割りをカバンに突っ込んできたが、その時間割りに体育が追加されたらしい。この体で体育は辛いものがある。何か上手い理由を取ってつけて何とか見学を勝ち取らなければならない。剛史が話しかけていたが、言い訳を考えるのに忙しく僕には聞こえていなかった。

 

考えつかず先生がやってきて朝のHRが始まってしまった。結局僕は体育に参加することになり、痛む身体に鞭打って乗り越える羽目になった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

ーーー所変わってリディアン。

ここでも友人に迫られる一人の少女がいた。少し違うのはそれが一人ではなく複数人だということ。

 

「ねぇねぇ!あの花屋の男の子とはどんな関係なの?」

「あの男の子結構カッコよかったよねー!」

「もしかして付き合ってたりするの?」

「……みんな近い。暑苦しいから離れて」

 

友人に取り囲まれた私は離れるように言うが、一向に離れる気配はない。切ちゃんの姿はこの輪にはなく、少し離れたところで苦笑いを浮かべていた。助けてくれない切ちゃんに若干の苛立ちを覚える。

 

どういうつもりか切ちゃんの言い分を聞くと、

以前、切ちゃんが藤尭さんとめでたく付き合うことになった時、今の私のように恋愛に目がない女子たちに迫られていた。その時、私は今のように暑苦しいのが嫌だったので切ちゃんを犠牲()った。今回はその報いということらしい。

 

「それでそれで?あの男の子とはどういう関係なの?」

「別に、怪我をしたから助けてもらっただけ」

「えぇ〜、もっとこういう暁さんみたいな話じゃないの?」

「全然。そういう話を聞きたいなら私より切ちゃんが適任」

「なんデスと⁉︎」

 

「それもそうだねっ!」と切ちゃんに雪崩れていく女子たち。

切ちゃんはまだまだ詰めが甘い。私にやり返したかったらもっと先を読まないと。まあ、やり返されても倍に返すけどね。

 

「バカばっかり……」

 

騒がしい女子たちから視線を逸らし、頬杖をついて空を見上げた。雲ひとつない青空が広がり、陽射しが燦々と降り注いでいる。今晩は大量に買い込んだソーメンにしようと献立を決めた。

 

そして、私は皐月のことを考える。

私が怪我をしているところを助けてくれた優しい人。仕方ない措置だったとはいえ、お姫様抱っこをされた時は恥ずかしくて堪らなかった。皐月も恥ずかしかったみたいで、顔を赤くしていた。それが何だかおかしかったことを思い出して、クスリと笑いが溢れる。

 

同年代の男の人と話して、触れ合ったのは皐月が初めてだった。周りには大人の人ばかり。学校も女子校なので、同年代の男の人は私に取って新鮮だった。私と皐月の関係は助け助けられた仲で、最近はS.O.N.G.の協力者となって仲間になった。この一週間で一気に距離が縮まったのは言うまでもない。

 

……私は皐月に惹かれている、と思う。

切っ掛けは皐月に助けられた時。怪我の治療をしてくれて優しくされて、たったそれだけで、だ。私がこんなに惚れっぽい質とは思わなかったけれど、意識してしまったのだから仕方ない。

 

この間、皐月が響先輩に詰め寄って手を握っているのを見て、胸がチクリと痛んだし、別に皐月が悪い訳ではないのに冷たい態度を取ってしまった。何故?と今も考えているが、その答えを私は出すことができなかった。

 

 

 

 

女子に囲まれながら、切歌は調を見ていた。

本人は少し意識していると言っていたが、切歌や他の人から見るととてもそうは思えなかった。

 

(ちょっとどころか、ベタ惚れデス……)

 

親友の切なそうな表情を見て、苦笑してしまう。切歌には朔也という彼氏がいる。大好きな人も一緒になれるというのはとても幸せなことだ。S.O.N.G.女性陣の中で一番の経験を有する切歌が言うのだからそれは間違いない。

親友である調には幸せになってほしいと思っている。そのためなら協力を惜しまないし、応援もする。

 

(頑張るデスよ調)

 

切歌は調の幸せを願い、優しく微笑んだ。

 

余談だが、切歌の微笑みを見ていた周囲の女子が母性を感じたと騒ぎ出し、それがリディアンにいる装者からS.O.N.G.に知れ渡り、勘違いした友里とマリアに説教されている藤尭が目撃されたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

体育は体力テストを行うことになった。一週間師匠との山籠りを生き延びた僕の身体能力は果たしてどれほど向上したのだろうか。

 

 

 

 

 

「6.42秒!どうしたんだ皐月?以前よりも断然速いぞ」

「いえ、何もなかったですよ?」

 

先生の最もな疑問に僕は引きつった笑顔を浮かべる。

以前の僕なら50メートル走は8.07秒とやや遅い。けれど、たった一週間で三秒も縮めてしまうとは山籠り、というよりその成果を叩きださせた師匠の腕に呆れてしまった。

 

「何だよ皐月。お前メッチャ足速くなってんじゃん」

「まあ、いろいろあったからな」

「俺にも足が速くなる秘訣教えてくれよ〜。何だ?コーチでもできたのか?なら俺と変わってくれよ。俺も足速くなりてえし」

「本当か⁉︎なら変わろう!」

「うおぉ⁉︎いや、冗談だけど……」

「何だよ!冗談ならそんなこと口にするなよ!この鬼畜め!」

「なんか、すみませんでした」

 

剛史の言葉に僕は飛び跳ねるように反応した。けれど、たじろいだ剛史は僕の大袈裟な反応に引いていた。

僕は冗談だと分かると瞳に涙をためて憤慨し、剛史を糾弾する。申し訳なく思った剛史は意味も分からずに頭を下げていた。

 

冗談でもそんなこと言うなよ!お前も一度師匠の修行を受ければいいんだ!そうすれば僕の苦しみが分かるだろう。ーーーいや、でもほんとマジでよく生き残ったな。もう二度と山籠りはしたくない、と僕は心に誓った。

 

 

 

_____________________________

 

 

「司令、何書いてるんですか?」

「ああ。千佳を短期間で強くするための訓練をな。ついつい俺基準で考えてしまうもんだから、千佳が耐えられるか心配でな」

「えっ、とそれは加減すればいいのでは?」

「それじゃあ強くなれないだろ?」

「いや、それだと強くなる前に死にますよ⁉︎」

「安心しろ。人が死ぬギリギリのラインを知っているからな。死にはしない」

「皐月くん逃げて!超逃げて‼︎」

 

_____________________________

 

 

 

 

ブルッ……。

突然、背筋に冷たいモノが走った気がした。慌てて周囲を確認するが、脅かすようなモノは何もなかった。

 

「どうしたんだよ?」

「……何だか僕の殺人計画が立てられているような気がして」

「何でそうなった。心配しなくても誰もお前のことを殺しゃあしねぇよ」

「そ、そうだよな!」

「ほら、さっさと戻らねぇと次の授業に遅れるぜ」

 

剛史にはああ言ったが、僕には心当たりが一つだけあった。言わずもがな師匠である。ーーーいや、いくらあの人でも人殺しはしないだろう。うん、きっと。……たぶん。

だんだんと自信を失っていき、僕は考えることを放棄した。

……この時感じた悪寒が正しかったと後悔するのが、これからすぐだと言うことを知らずに僕は剛史の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。僕は一人で先生に頼まれた書類を職員室に運んでいた。いつもならあまりの多さに嫌気が指すのだが、誰もいないということで仕方なくやっている。運び終えた僕は先生に挨拶して、小走りで教室へと戻る。カバンを回収すると、ゆっくりと昇降口へと向かい歩き出す。

ふと、今朝剛史に言われたことが頭を過ぎった

 

『じゃあ、どういう関係なんだよ?』

 

そんなことを言われても、僕にもよく分かっていない。友人なのか、同じS.O.N.G.の仲間なのか、ハッキリしない。ーーーというより、僕はいったい月読さんとどんな関係になりたいんだろう?

浮かびあがった疑問に足を止めて、考える。けれど、僕にはその答えを見つけ出すことはできなかった。まあ、まだ出会って一週間なのだ。この先気長に考えようと、止めた足を動かす。

上靴から外靴に履き替えて、僕は家への帰路に着こうと校門を出た。

 

空を見上げると、すでに茜色に染まっていた。その光景が綺麗で目を離すことができずに歩いていると、何か硬いものにぶつかった。何だろうと視線を前に向けるとそこにはーーー

 

「前を見て歩かないと怪我をするぞ、千佳。俺だったから良かったものの気をつけるんだぞ」

「師匠⁉︎なんでここに……」

「ああ、今日は金曜だろう?このまま土日はまた俺とともに山に籠るぞ」

 

瞬間、僕は踵を返して走り出した。

嫌だ!僕は死にたくないんだ!是が非でも逃げ延びて僕は安息の休日を手に入れる!

しかし、師匠から逃げられるはずもなく回り込まれてしまった。緒川さんといい、この人たちはどうやって瞬時に移動しているのだろう?

「逃げるんじゃない!これは君のためにやっていることなんだ。今回は少し厳しくするが、死にはしないから安心しろ」

「ダウトォォ!厳しくする?あれより?そんなの絶対に死んでしまいます!」

「ええい!男なら腹を括れ!では行くぞ!」

「せめて普通に連れて行ってくだーーーぎゃあああああ!」

 

師匠は前と同様に僕を掴み上げると、家の屋根から屋根へと飛び移りながら山へと向かう。将来的には僕にもやってもらうと言っていたらしいが、あまりの揺れで吐き気に襲われていた僕には聞こえていなかった。

こうして僕の安息の休日は消え去った。

 




師匠:鬼!悪魔!人でなし!
藤尭:逃げて!超逃げて!
千佳:弦十郎の手により魔改造開始
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