夏の日の出会い   作:流離う旅人

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OTONA

 

 

 

 

土日の修行を、なんとか生き抜くことができた。

修行を終えた僕は生きていることを喜び、涙した。それはもう盛大に。滝のように涙を流し、鼻水を垂らして人目も気にせずに泣いた。それだけ辛かったと言えば納得するだろう。

 

今回もひたすら基礎体力の向上と筋トレ。二日しかないたいうことで、前回の一週間をギュッと凝縮したメニューだった。メニューに目を通して二度目の逃走を図ったが、すぐに捕まってしまった。何故か逃げることで逆に師匠がやる気を出してしまい、余計過酷になってしまったのは完全に僕の自業自得だ。

 

お陰で修行の成果と言うべきか、体の基礎が出来始めた。体力はもちろんのこと、筋力も増えている。死ぬ思いをして、ひたすら山を駆け回り、筋トレをこれでもかと繰り返したのだ。成果が出ないとやっていられない。

しかし、あの人はいったい僕をどこまで鍛えあげるつもりなのだろう。確か当初は護身ができる程度の予定だったと思うのだが、僕の気のせいではないはずだ。

 

学校が始まることで最低でも五日は何もしないで済むと思った矢先。師匠から学校にいる時にも筋トレする方法を教えられ、それを実践するように命じられた僕は断崖に突き落とされたような錯覚に陥った。やらなければ修行量を更に増やすと脅されて、泣く泣く僕は実践することを誓った。

大人が脅迫なんていいのかよっ!と言いかけて、その言葉を呑み込んだ。だって、これ以上修行の量を増やされたら困るし。あの人、偶々遭遇した熊を生身で倒すんだぜ?怒らせたら何されるか分かったもんじゃない。

 

 

 

 

 

 

五日間の学校が終わり、僕はS.O.N.G.の潜水艦に訪れていた。今日はS.O.N.G.についての説明があるらしい。修行ではないことに胸を撫で下ろしながら、僕は司令室へと足を踏み入れた。中にはすでに装者のみんなが集まっていて、どうやら僕が最後のようだ。

 

「すみません。遅れましたか?」

「いや、時間通りだ。それよりも千佳」

「何ですか、師匠?」

「今よりも強くなりたいか?」

「え?ま、まあ、強くはなりたいですけど……」

 

唐突な師匠の質問に若干どもりながら、答えた。この時、僕の額には冷や汗が流れ始めていた。

ま、まさか、このパターンは……。

 

「うむ。ならば、今日から更に修行を濃くするとしよう。慎次も一緒についてくれ」

「分かりました」

 

師匠と緒川さんが会話している。その内容の意味を咀嚼し、理解した瞬間。僕は走り出そうとしたが、その場から一歩も動くことができなかった。困惑しながら足元を確認すると、一本のナイフが僕の影を繋ぎ止めるように突き刺さっていた。

 

「な、何で体が⁉︎」

「それは影縫いといって、相手の動きを止める際に用いる忍術です」

「へーそうなんですか……じゃなくて⁉︎何でこんなことするんですか⁉︎」

「こうでもしないと逃げるでしょう?」

「ごもっともな意見ですね!お願いします緒川さんここは見逃してください!」

 

体が動かせないが、土下座をする勢いで懇願する。……でも、無理だよなぁ。だって、師匠と同じでとんでもなき技を使うぐらいだもん。僕の意見を聞き入れてくれるとはとても思えなーーー。

 

「いいですよ」

「なんデスと⁉︎」

 

おっといけない。思わず暁さんの口調が出てきてしまった。僕が驚愕していると、緒川さんは言葉通りナイフを抜き取ってくれた。今の僕には緒川さんが後光に照らされる神のように見えた。

体の自由が戻り、いざ駆け出そうと足に力を込めた時、

 

「私は見逃します。しかしーーー」

「俺が見逃すと思うか?」

 

緒川さんの後ろに控えている師匠があやしく笑った。

 

「絶ッ対ないですね。…………ちくしょぉおおおおお!」

「少しうるさいぞ、千佳」

「うるさくもなりますよ⁉︎今までよりも濃い修行なんてされたら僕は死んでしまいます!っていうか、今日はS.O.N.G.の説明って聞いてたんですけど?僕を嵌めたんですか?」

「修行をすると言ったら、お前は素直に来たか?」

「来ませんでしたね。………あっ」

「そういうことだ」

 

ガタガタガタガタッ。

 

これから始まるであろう、文字通り地獄の修行を想像して僕の体は壊れたおもちゃのように震えだす。へ、へへ、震えが止まらねぇや。

 

「うわ、すっごい震えてるよ。ちょっと大袈裟じゃない、皐月くん?」

「……立花さん。貴方は今まで一般人だった人間が、いきなり十キロ相当の重りを両手両足に付けて山を駆け上がれると思いますか?師匠の阿保のように高いスペックについていけると思いますか?思うんですか?ねえ、なんとか言ってくださいよ。黙ってたら分からないじゃないですか。もしそう思うなら、頷いてくださいよ。その瞬間、貴女にも僕と同じ修行をやってもらいますからね?楽しみだなぁ。立花さんは何処まで耐えられるんだろう。あ、もちろん、シンフォギアを使わずに生身でですからね?女の子だからなんて言い訳はしないでくださいよ。師匠の前では男も女も関係ない。みんな平等ですから。安心してください。やり始めたら辛いとか痛いとか考えられなくなりますから」

「恐い⁉︎ご、ごめん!謝るからその何も映してないドス黒い目はやめてぇ〜!」

 

立花さんにまくし立てると、ズザァッと風鳴さんの後ろに隠れてしまった。……僕の話はまだ終わってないのに、これじゃあ話せないじゃないか。

 

「さ、皐月よ。その光を灯していない瞳で見られると幾ら防人の刀である私でも恐いのだが」

「安心してくださいよ、風鳴さん。僕は貴女の後ろにいる立花さんに用があるだけなんです。今すぐ立花さんを差し出してくれれば済む話ですよ?」

「すまん、立花。不甲斐ない私を許してくれ」

「ちょ、翼さん!押さないでくださいよ!」

 

風鳴さんは即座に立花さんを差し出してくれた。話の分かる人は大好きですよ、僕。

 

「ま、まあ、皐月くん。響ちゃんも悪気があって言った訳じゃ……」

「黙っててくださいロリコン。貴方はお呼びじゃないです。部屋の隅にでも移動して、暁さんとイチャついてればいいじゃないですか。カデンツァヴナさんでも可です」

「辛辣⁉︎なんか俺への当たり強くないかな!」

「ハッ!……僕は忘れてませんよ。助けを求めたのに貴方は僕を見捨てましたよね?だから、これは当然の対応というものです」

「いや、俺はオペレーターだし。修行する必要ないし……」

「でも、見捨てたことに変わりないですよね?」

「すみませんでした!」

 

藤尭さんが抗議の声をあげるが、僕は聞く耳を持たなかった。僕は一生忘れないだろう。あのドヤ顔で惚気た朔也さんのことを。もし師匠の修行で命を落としたら、絶対に枕元に立ってやる。

 

「お、おい、おっさん。アンタあいつにどんな修行させてたんだよ?」

「いま千佳が言っていたものに加えて、滝行と座禅。俺の拳を避ける訓練に映画鑑賞による戦闘技術の習得。おお、そうだった。偶々遭遇した熊と戦わせたな」

「じ、冗談だよな?」

「ああ、流石にまだ熊の相手は早かったからな。熊の恐怖を体に叩き込んだ後に俺が倒した」

「そういう意味じゃねぇ⁉︎」

 

師匠の言葉を聞いた全員から同情の視線が向けられる。

いやー、ほんと熊を目の前にした時は死んだと思ったね。師匠の拳速に目が慣れていなかったら、今ごろ鋭爪の餌食になってたや。師匠の拳を避けられたのかですって?藤尭さん。ーーーーー僕が避けられたと思いますか?

 

藤尭さんが泣きながら土下座してきた。ははは、もういいですよ。僕はもう諦めがつきましたからね。………あれ、何だかあったかいものが目から流れ出てきたや。僕はいつの間にか地面に膝をつけて泣いていた。

 

「……皐月」

「月読さん、どうしたの?」

「……簡単に修行を受けるべきなんて言って、ごめんね。よく頑張ったね」

 

月読さんは慈愛に満ちた表情で、僕の頭を撫でてくれた。そう思ってもらえるだけで、十分過ぎます。月読さんは撫でるのが上手く、悄気くれていた僕の心を癒してくれた。

 

「……良いところ悪いが、皐月。修行に行くぞ」

「うん。貴方はそういう人だって、出会った初日から分かってましたよ僕は」

 

良いところを盛大にぶっ壊した師匠は本当に申し訳なさそうにしていた。そう思っているなら僕の修行をもっと軽くして欲しいんですが。……まあ、聞くだけで実際に軽くはならないのは目に見えているが。

僕は大きく長いため息を吐いて、ガクリと肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

一度潜水艦から出て、僕たちが案内されたのは街外れのシェルターのような建物だった。中に入ると、大きく殺風景な空間がぽつんと広がっていた。いつの間にか師匠は赤いジャージへと着替えていて、その姿は妙に様になっていた。

 

「エルフナインくん、頼む」

『分かりました』

 

放送機器から、ここにはいないエルフナインちゃんの声が聞こえた。同時に眩い光が発生し、咄嗟に腕で目を覆う。光が晴れ、僕はそこに広がる光景を見て目を見開いた。

そこは先ほどまでの殺風景な空間ではなく、ビル群に囲まれた街へと姿を変えていた。

 

「これはS.O.N.G.の技術力で造られた特別なトレーニングルームだ。いま見ているこの街はホログラムを投影している訳ではない。……ハッ!」

 

ズガァアアン!

 

咆哮、街が激震に襲われる。

踏み抜かれたコンクリートはヒビ割れ、その下の地面が剥き出しになっていた。……ホント師匠は人間やめてるなぁ。としみじみ思った。

 

「と、このように実際の街と何ら変わらない。しかも、いくら壊してもトレーニングルームが壊れることはないから壊し放題だぞ!」

「あの、師匠。別に普通に説明すれば良かったのではないでしょうか?」

「実際に見せた方が手っ取り早く理解するだろう?」

「駄目だ。この人には何を言っても通じない」

 

「何言ってるんだコイツ?」といった表情で返され、僕はこの人に何を言っても無駄だと悟った。

 

 

 

 

 

装者たちも訓練するということで、僕と師匠、緒川さんは装者たちから離れた場所へと移動する。遠くの方では、すでに爆発音が響いていた。向こうはもう始めているらしい。

 

「よし、これだけ離れれば良いだろう。そうだな、先ずは慎次から始めよう」

「分かりました。では、皐月くん。一緒に頑張りましょう」

「えっと、緒川さんからは忍術を教わるんですか?例えば、さっきの影縫いとか」

「それは難度が高いのでおいおい。そうですね。最初は水走りでもやりましょうか」

「あ、それ知ってます。水蜘蛛っていうのを使うんですよね」

 

何がくるのかとビクビクしていたが、師匠よりも常識的なものがきたことに安堵の息を吐いた。ーーーのも束の間、

 

「いえ、道具を使わず生身でやります」

 

緒川さんも師匠の同類でした。……僕の安心を返してください!

 

「人は水の上を走れません」

「大丈夫です。人である私ができるんですから皐月くんもできます」

 

いえ、あなたたちは人ではなくOTONAという種族だと思います。どう足掻いても僕がその領域に行くことはないのではないだろうか?行きたいとも思わないが。

 

「足が沈む前に次の足を出せば良いんです。ほら、簡単でしょう」

「それは緒川さんの基準です。僕には真似できません」

「まあまあ、司令の修行に比べればかわいいものでしょう?」

「そう言われたら、そうですね」

「別に、すぐできるとは私も思ってはいません。先ずはとにかくやってみましょう」

「そう、ですね。僕頑張ります!」

 

緒川さんの言葉は正しく、僕の心に火をつけた。緒川さんの口車に乗せられたことに気付かずに、僕は一人やる気を燃やしていた。口車と言うほどのものではないのだが、それだけ普段の修行が厳しいということだろう。

この後、やはり水面を走ることが出来ず、びしょ濡れになったのは言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 

服を一度着替えて、今度は師匠の組手に移行する。

 

 

「ハッ!」

 

気合いとともに師匠の拳が唸りを上げて、真っ直ぐ振り抜かれた。それを、なんとか寸前で横に飛ぶことで回避する。けれども、拳が止まることはなく拳撃の弾幕が形成されていく。その拳を僕は危なげに避けていく。拳を捉えることができるのは、師匠が加減しているのもあるが、一重に今日まで行ってきた過酷な修行のお陰だ。

 

「クッ……」

 

しかし、避けることだけで精一杯で攻め手に欠けていた。隙などあるはずもなく、この拳撃の弾幕を抜けることは不可能。仮に抜けることが出来て、返り討ちにあうだろう。

 

「どうした!守ってばかりでは敵を倒せはしないぞ!」

「分かって、ますよ!少しぐらい、手を抜いてくれても、良いと思うんですけど」

「これ以上どう手を抜けと言うんだ!それでは修行の意味がないだろうがッ!」

「言うと、思った!」

 

師匠は僕と受け答えしながらも拳撃を緩めることはなかった。少しでも隙ができればめっけもん程度に思っていたが、効果はない。このままではこちらの体力が尽きるのが先。ならば、せめて一撃入れてやる!

 

 

僕はわざとよろけて見せ、隙を作る。致命的な隙に繋がるが、これに賭けるしか僕に手はない。作り出した隙を師匠が見流すはずがなく、トドメの一撃を繰り出すために大きく腕を引いた。一瞬、拳撃が途絶える。そして、師匠が大振りの一撃を繰り出した。同時に僕は力強く一歩前に踏み出す。引くのではなく前へ。十分に加速をしていない今の拳なら完璧に避けられる!

 

「はぁあああ‼︎」

 

身をかがめる。拳が僕の頭上を通り過ぎていった。裂帛の気合いとともに渾身の一撃を鳩尾に叩き込んだ。

 

(当たるッ!)

 

ーーーしかし、僕の拳は師匠の鳩尾に決まることはなく、もう片方の手によって受け止められていた。

 

「なっ⁉︎」

「なんとかしようというその姿勢。臆することなく前に出てきたその気概。どれも良かったんだが、まだ甘い。甘過ぎる。だが、その頑張りに敬意を評しよう」

「え、あの、なんで拳を引いてるんですか?」

「歯を食いしばれ!」

「グハッ!」

 

僕の話を聞き入れることなく、師匠の拳が顔面を打ち抜いた。僕の体は地面をゴムボールのように跳ねながら数十メートル後ろに吹っ飛ばされてしまう。

 

敬意を評して、どうして殴られねばならないのか?

鈍痛を訴える頬のせいで意識を失わず、僕は体を抱きつくように蹲り、痛みに耐える。いっそのこと意識を失った方が楽だったかもしれない。なんとか立ち上がった僕は肩で息をして、膝に手をついた。荒い息が漏れる。

 

「きゃっ!」

 

か細い悲鳴が聞こえ、振り返ると僕と同じように吹っ飛ばされたらしい月読さんが近くに倒れていた。いつの間にか僕たちは装者たちの領域まで近付いていたらしい。

「月読さん!大丈夫?」

「な、なんとか。でも、また足を捻ったみたい」

 

足を押さえて、月読さんは痛みに耐えているようだった。

 

「お前ら避けろ!」

 

突如、雪音さんの声が響いた。ふいに空を見上げる。視界に映ったのは青空ではなく、飛来するミサイルだった。

体の痛みなど忘れて、僕は初めて出会った時のように彼女を抱えあげる。月読さん足を負傷して動けない。このままでは僕はおろか、月読さんもただでは済まない。突然の危機に、僕は極限状態に立たされた。僕がどうにかしなければと、そのことだけが頭を占める。

 

 

ーーーその時、僕の中で何かが開く感覚を覚えた。

 

 

瞬間、僕以外の全ての動きがゆっくりとしたものに変わった。あまりの自体に戸惑いを隠せない。しかし、これなら行けると僕は後ろへと全力で駆けた。ゆっくりと、確実に迫るミサイル。月読さんが何か言っているが、音が聞こえず、ゆっくりとした口の動きだったので何を言っているのか分からなかった。

 

前へ、ひたすら前へと駆け抜けていく。周りがゆっくりとした動きに変わったからといって、僕自身ミサイルから逃げ切れるとは思っていない。だが、師匠(、、)ならミサイルを防ぐとは可能だ。前から師匠が走ってきている。僕は更に加速して、師匠の横を駆け抜けた。

響く轟音。師匠が震脚で地面を抉り、壁とすることでミサイルを防いだ音だ。

 

安心した僕は月読さんを抱えたまま、尻餅をついて荒い息を吐く。先ほどの周囲がゆっくりになる現象はすでに解けていた。あれはいったい何だったのだろう?

何はともあれ、月読さんも僕も無事助かったので良しとしておこう。雪音さんは師匠からキツく説教されてるみたいだし、僕たちから何かを言う必要はないだろう。

 

「また、助けてくれた」

「いや、これは人として当然というか」

「それでも、助けてくれた。すごく感謝してる。でも、自分から危険の中に飛び込んだことは許さない」

「ご、ごめんなさい」

 

ジト目で睨まれた僕は萎縮してしまう。また月読さんを怒らせてしまったようだ。どうにか機嫌を直してもらおうとしたいると、心配したみんなが駆けつけてきた。みんなも怒ったような顔をしている。どうやら全員からの説教は避けられないらしい。

 

僕は最後に疲れたようにため息を吐いて、ガクリと肩を落としたのだった。

 






師匠&緒川:OTONA
クリス:弦十郎から拳骨を食らう
調:狙ったかのような足の負傷
千佳:ちょっとだけOTONAへの一歩を踏み出す


また展開が早くなってしまった……。戦闘描写も難しい。
いろいろと拙い文ですが、読了ありがとうございました!


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