夏の日の出会い   作:流離う旅人

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すみません!リアルが忙しくて投稿が遅れました!相変わらず展開とか早かったりしますが、読んでいただけると幸いです。では、どうぞ!


二人で出かける=デート

 

 

 

「あの、どうして俺の朝食が豆腐だけなんですか?」

「え、それ聞いちゃいます?聞かなきゃ分からないんですか?」

「しょうがない、藤尭さんだもん。いつかこうなるとは思ってた」

「いや、ですね。……切歌ちゃんからも何か言ってよ。俺ひとりじゃこの二人に勝てない!」

「気持ちよフゴッ⁉︎」

「ねえ、何口走ろうとしてるの⁉︎それは本当にアウトだから!俺が社会的、物理的に死んじゃうやつだから!」

 

バカップル(二人)のせいで頭が痛い。隣では調も頭を抱えてため息を吐いていた。別にするなとは言いませんよ?でも、時と場所ぐらい選んで欲しいものだ。ため息が増えるのも仕方ない。

 

「この味噌汁美味しいよ、調」

「本当?なら、良かった」

「うんうん。この分だと調はいいお嫁さんになれるね」

「お、お嫁さん……」

 

調は両手で顔を挟むと、うわ言のように何かを呟いていた。どうしたのだろう?調は顔を赤くしているのだが、朔也さんを見ていた僕は気が付かなかった。

このバカップル早く結婚しちまえよ。年齢的にはできるんだし。まあ、世間からの視線は痛いだろう。もちろんS.O.N.G.のみんな、特に友里さんとカデンツァヴナさん。

ここだけの話。カデンツァヴナさんは朔也さんのことが好きだと気付いてしまい、アタックしているとのこと。どうやら朔也さんはプレイボーイだったようだ。立花さんが嬉々として話してくれたのだが、嬉しそうに語る内容ではないと思う。しかし、アイドルが恋愛沙汰になるのは如何なものかと思ったが、スキャルダルにならないのは緒川さんのお陰らしい。どうやってしょ、ッンン、対処しているのかは恐くて聞けなかった。

 

「あの、せめて味噌汁だけでも慈悲を!」

「「変態に食わさるご飯はない」」

「デスヨネ!」

 

流石に豆腐だけというのは嘘だ。切歌ちゃんが料理を作って朔也さんに食べてもらいたい、という願いを叶えるために豆腐だけを出している。……昨晩、そういうことさえしていなければいい話だったと思うのは僕だけではないだろう。なので、今は何も与えないのが正解。決して僕らの私情は挟んでいない。決して。

 

「千佳、今日の予定はあるの?」

「特にはないかな。この土日は修行なしだし、店の方もおばあちゃんが臨時休業にするって言ってたから」

「……なら、一緒に街に出よう。その、見たい映画があるの」

「あ、いいね。了解。朔也さんたちはどうしますか?」

「ちゃっと遠慮しとくよ。……マジで腰が痛くてさ」

「聞いておいてなんですけど、これだけは言いたい。昨日、『健全な付き合いをしている』と宣っていたのはいったいどこの誰だったのか」

 

「ゲファ⁉︎」と吐血して机に突っ伏したどこの誰かさん。もはや、この人に対して敬語は必要ないような気がしてならない。切歌ちゃんが介抱しているのを見て、僕と調はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

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倒れた朔也さんのことは切歌ちゃんに任せて、僕と調は街に出た。暴風雨は昨日だけで、今日は天候も回復して晴れている。僕らは無言で最初の目的地である映画館に向かっていた。以前、二人で行ったファミレスの時よりも、お互いの距離が縮まっているのは気のせいではない。少し手を動かしたら触れる距離に彼女はいた。不思議と、緊張や羞恥はなく、一緒にいて安心できる。そんな感じ。

それからしばらくして、映画館へとやってきた僕らは何を見るのか調に聞くと、

 

「【禁じられた関係〜君への劣情を抑えられない!〜】っていうタイトル」

「うん、アウト!それ絶対十八禁だから!ていうか、何でこの映画を選んだの⁉︎」

「安心して、これは十五禁。私たちなら見れる。これを選んだのは響先輩に勧められたから」

「オッケー把握。お陰で元凶がハッキリしたよ」

 

調から少し距離を取って、すぐさま立花さんへコールする。今回の元凶はすぐに電話に出てくれた。

 

『もしもーし。どうしたの千佳くん?』

「貴女の罪は重い。次の修行に立花さんも連れて行きますので」

『え、いきなり⁉︎私が何したっていうのさー!』

「ほう?心当たりがないと。まあ、別に思い出さなくてもいいですよ。今更弁解も何も聞くつもりないので。良かったですね。また一歩強くなれます」

『いや、流石の私もアレは修行じゃなくて。ヤバイ肉体改造だと思うんだ』

 

それについては同意します。普通の修行よりも圧倒的に速い成長を遂げているけれど。それと同時に人間の枠を外れているような感覚があるのだ。OTONAが指導しているのだから当然と言えば当然なのだが。

 

『とにかく謝るから勘弁してよぉ〜!あとで埋め合わせするから!』

「……まあ、いいでしょう。ただし!次はありませんからね」

『ありがとー!取り敢えず、早く調ちゃんのところに行ってあげなよ。調ちゃん待ちくたびれちゃうよ』

「そうですね。そうしまーーーおい、待て。何で僕が調といることを知っているのか聞こうじゃないか」

『あ、ヤバ……』

 

取り敢えず、今回は見逃そうとした矢先。立花さんからありえない言葉が飛び出たのだ。今日、僕らが映画館に来ていることを知っているのは朔也さんと切歌ちゃんだけ。当の二人は言いふらしたりするような人ではない。つまり、今どこかで僕らを見ているということ。

 

「おい、アンタ。どこから見ていやがる」

『な、何のことだか分からないなぁ〜』

「そうですか。そんなに師匠の修行を受けたかったんですね。自ら進んでくるその姿勢に、僕は脱帽ものですよ」

『それだけは勘弁してください!』

「あ、そうそう。おそらくその場にい(、、、、、、、、、)るであろう(、、、、)、他の装者の皆さんにも参加してもらうので。悪しからず」

 

耳元で立花さん以外が騒ぎ立つ音が聞こえたが、無視して通話を終了した。あとで師匠に装者の皆さんも修行に追加の旨を伝えておこう。やると言ったらやるぞ、僕は。師匠の下で学んだことは、何も戦うことだけではない。ーーー全てのものは平等に。その概念の下では男も女も関係ない。師匠の下で、僕は真の男女平等主義者となったのだ。(注:弦十郎はそういう意味で教えたわけではありません)

場内に視線を巡らせる。気配を探してみるが、ここら辺一帯に気配を感じなかった。

 

「千佳。どうかしたの?」

「あ、いや、何でもないよ」

 

これ以上は折角誘ってくれた調に悪いので、どうやって見ているのか後日追求することにした。今日はとことん調と楽しむことにしよう。……あれ?これって、もしかしなくてもデートと言うやつなのでは?

デートだと自覚した途端に意識してしまい、僕の心がざわつき出す。

 

「千佳が電話している間にチケット買ってきたから。早く行こう?」

「なんだとぉお⁉︎今からでも遅くはない!チケットを戻して別の映画にするんだ!」

「観たいものはこれしかない。……大丈夫。恥ずかしいのは私も一緒。でも、二人でなら大丈夫だよ」

「……恥ずかしいなら観なければいいのではないでしょうか?」

「くどいよ、千佳。早く行こう。……たとえ、千佳がエクスドライブしても問題ないから」

「おい、何だそのエクスドライブって。あとそれ教えたのはどこのどいつだ」

「切ちゃん」

「よし、あのバカップル共もとっちめよう」

 

あはれ、藤尭は切歌に巻き込まれてしまった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……これ十五禁、なんだよな?)

 

調に連れられて席に着いたはいいが、僕は不安で堪らなかった。しかし、いざ始まると普通の恋愛映画だった。幼馴染と主人公が惹かれあい、めでたく付き合うことになったところまでは良かった。けれど、今はどうだ。

 

『お兄ちゃん……』

『やめるんだ鏡花!僕たちは兄弟なんだぞ!』

『愛さえあれば、そんなの関係ないんだよ?お兄ちゃんは、私のモノなの。摩耶さんのモノなんかじゃない!』

『やめろ鏡花!ベルトに手をかけるな!』

『ふふふ、今から私とイイコトしよ?お兄ちゃん……』

 

絶賛現在進行形で濡れ場へと突入している。全然普通じゃなかった。タイトル通りヤバイ映画だったよ。何なんだよ、この映画。十五禁なのに演出が過激すぎるだろ!

羞恥が心を支配していく。目を逸らしても音声は聞こえてくるので意味がない。チラリと隣を見る。調は顔を羞恥で赤く染めながら、食い入るようにスクリーンを観ていた。いや、うん。興味が出てくる年頃だから仕方ない。けど、そこまで食い入るように観なくても……。僕も興味がないわけではないが、調よりがっついてはいない。

 

『私とイイコトしよ?千佳……』

 

ふと、妄想が頭を過る。瞬間、僕の拳が頬を打ち抜いた。頬に響く鈍痛のお陰で妄想を振り払うことに成功。よりによって、映画の人物と僕たちを置き換えてしまうなんて!

もう一度、チラリと横を見ると、同じくこちらを見ていた調と目が合った。先ほどの妄想がまたも頭を過った。同時に僕らは顔を逸らした。駄目だ。調の顔を直視できない。この後、僕はいったいどんな顔で調と話せっていうんだ⁉︎

映画が終わるまで、僕は頭を抱えて悶えたのだった。

 

 

 

 

 

 

今日、私たちは映画を観にきている。だが、相手は切ちゃんや他の装者のみんなではなくて、千佳だった。元々千佳と二人で映画を観に行くことを画策していた。千佳の予定が空いていることが分かり、今日決行した。映画は響先輩がチョイスしたものの中から、切ちゃんが選んだ。流石にタイトルからして如何なものかと思ったのだが、

 

「男はこれぐらい攻めなきゃ落とせないのデス!」

 

実際に彼氏がいる切ちゃんが言っていたことなので、私はすんなりと信じてしまった。しかし、信じてしまったことを後悔することになろうとは、その時の私に知る由はなかった。

最初辺りまでは良かったのだ。けれど、どんどんタイトル通りな展開になってしまい、羞恥が込み上げてくる。まあ、しっかりと映画は見ているのだが。ちょうど、今は兄妹の濡れ場がスクリーンに映し出されていた。もし、私がこんな風に迫ったら千佳はどうするんだろう?横にいる千佳を一瞥して考えていると、彼と目が合った。思わず、反射的に逸らしてしまった。今は恥ずかしくて無理だけれど、こんな日が来てもいいかもしれない。そう、思った……。

 

 

 

 

 

 

 

僕らは映画が終わり、外に出た。頭が冷えたお陰で、幾分か落ち着きを取り戻した僕は盛大にため息を吐いた。今度もし、映画を観る機会があったら、絶対に立花さんにだけは関わらせないようにしようと心に誓った。

 

「この後の予定は?」

「次は最近できたクレープ店の絶品クレープを食べに行く。響先輩のお墨付きがあるから、ぜったいに美味しい」

「確かにすごい説得力だ」

 

僕が暗に立花さんは食い意地を張っていると、揶揄するのは仕方のないことだと思う。むしろ当然と言っても過言ではない。だって、あの人フラワーのお好み焼き五枚はペロリと平らげ、食べきったあとに物足りなさがな目をするまである。調や他の装者の皆さんは食べても二枚だというのに。あの人のお腹はブラックホールか何かなのだろうか?

 

「っと、どうしたの調?」

「……何でもない。早く行こ」

「う、うん」

 

調に手を引かれながら、さっきまで彼女が見ていた先を見やる。そこにはアクセサリーショップがあった。おそらく外に並べられたアクセサリーを見ていたのだろう。装者とはいえ一人の少女。興味があってもおかしくはない。しかし、何故ぼくが声をかけた時、足早に歩き出したのだろう?

 

歩くこと数分。僕らは目的地であるクレープ店に到着した。ざっとメニューに目を通すと、ずらりと豊富なバリエーションがあった。飽きがくることなく、毎回違った味を楽しめる訳だ。これが人気の秘訣なんだろうと、一人で頷く。

 

「千佳は何にする?」

「う〜ん。シンプルにチョコバナナにしようかな?」

「私はストロベリーホイップにする」

「ちょっとトイレに行ってくるから。代わりに受け取ってもらってもいいかな?」

「別にかまわない」

「ありがとう、それじゃ!」

 

後ろ手で調に声をかけながら、僕はいま来た道を走り出した。

 

 

 

 

 

 

千佳が走って行ってからもう十分ほど経つが、まだ戻ってくる気配がない。早く戻ってきてほしいと思いながら、私は握った二つのクレープに目を落とした。

千佳はトイレに行っただけ。きっと、人が並んでいて遅くなっているだけ。そう考える。でも、本当はあのまま帰ってしまったんじゃないか?少し千佳が戻ってこないだけで、悪い考えが浮かんでくる。好きな人の戻りが遅いのだから、不安になるのも仕方ない。

 

(……本当に、帰っちゃったのかな?)

 

もしかしたら、私と一緒にいることが、途中で帰ってしまう程度にはつまらなかったのかもしれない。そう思うと、チクリと胸が痛んだ。大丈夫だ。千佳は、そんな人じゃない。きっと、すぐに戻ってくる。

私が自分に言い聞かせながら待っていると、

 

「ねぇねぇ、そこの彼女。暇なら俺たちと遊ぼうぜ?」

 

落としていた視線をあげると、五人の男性がニヤニヤとした厭らしい笑みを浮かべて、私を囲むようにして立っていた。こんなに近くまで接近されたことに気付かないとは、どれだけ千佳のことを考えていたのだろうか。男性たちの印象を一言で言うなら、チャラいが一番しっくりきた。髪は金や赤、青と染めていて、ピアスやリングとかなり遊んでいるのが見てとれた。嫌な人たちに絡まれてしまった。

 

「結構です。待ってる人がいるので」

「君のこと待たせてる男なんてほっといてさ、俺たちと遊ぼうぜ?きっと楽しいからさぁ」

 

なるほど。この人たちは私と千佳がいるところを見ていたのか。千佳が戻ってこないのを確認して、私に声をかけてきた訳だ。普通に怖いし気持ち悪い。先頭の金髪の男が前に出てきて、腕を掴んできた。ゾワリと寒気がして、「キャッ!」と小さな悲鳴が漏れた。今すぐにでも振り払いたいが、クレープを持っているし私の力では振り払えない。まさか、一般人相手にシンフォギアを使うわけにもいかない。周りの人々は巻き込まれたくない一心で、見ているだけで何もしてくれなかった。男が私を連れて行こうと腕を強く引いた。その拍子にクレープを手放してしまい、地面へと落ちてしまった。

 

「あ……」

「あ〜あ、もったいねぇ。ま、そんなことよりも早く行こうぜ。クレープなんかすぐに気にならなくなるからさ!」

 

男たちの哄笑が周囲に響く。連れていかれまいと対抗するけれど、シンフォギアを纏っていない今の私の力ではビクともしない。このままでは本当に連れていかれてしまう。そうなってしまったらどうなるかぐらい、今の男たちを見れば明らかだった。

 

「いや!離して!」

「いいから!黙ってついて来いよ。そうすりゃ悪いようにはしないからよぉ」

 

嫌だ!こんな奴らについて行くなんて絶対に嫌だ!助けて。助けてよ!千佳!私は心の中で想い人の名前を叫んだ。瞬間、

 

「おい、嫌がってるだろうが。汚らしい手で彼女に触ってくれるなよ」

「ああっ?」

「千佳!」

 

男の動きが止まる。私の腕を掴んでいた男の腕を掴み上げる手があった。千佳だ。私の叫びが届いたのか、千佳が駆けつけてくれたのだ。千佳を見て安心したのか、不思議と先ほどまでの嫌悪感は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「いや!離して!」

 

僕が調から離れて十分ほどが経ち、急いで戻っていると調の悲鳴が聞こえた。速度が上がる。角を曲がると、先ほどのクレープ店の近くで待っていた調を連れて行こうとするチンピラ共がいた。これはもう有罪(ギルティ)だ。

この間、緒川さんに教わった縮地法で瞬間的にあいつらとの距離を詰める。そして、調の腕を掴んだ手を強引に取り払う。男は一瞬ギョッと目を見開いたが、すぐに敵意を向けてきた。一方、調は安心したように僕を見ていた。きっと、恐かったんだ。僕が少し離れたばっかりに、危うく危険な目に合わせてしまうところだった。罪悪感が芽生えるが、今はこいつらだ。

 

「おい、嫌がってるだろうが。汚らしい手で彼女に触ってくれるなよ」

 

自分でも驚くほど低く冷たい声が出た。男は負けじと睨み返してくるが、全く恐くなかった。これも普段の師匠との修行の賜物だ。修行は今の状況とは比べものにならないほど恐い。……修行は師匠と緒川さんが嬉々として殺りにくるからなぁ。

 

「おいおい、何だよにいちゃん?正義の味方のつもりかよ。この子は今から俺たちと遊ぶからお前はお呼びじゃないの。おわかり?」

「悪いね。彼女は今日一日()の貸切りでね。遊びたいならあんたらだけで遊んでくれよ。ほら、後ろで可愛らしい頭のお仲間たちがいるんだからさ?」

「……そうかい。せっかく穏便に済ませてやろうと思ったんだけど、なあ!」

 

振り抜かれる拳。男の厭らしい顔が見える。俺はそれをジッと見ていた。ただジッと。拳だけを見つめる。急速に深まっていく集中力。深まるにつれ、自分の中の扉が開かれていく。そして、完全に開いた。世界が変わる。目の前まで迫った男の拳がスローになり、簡単に受け止めることができた。拳を掴み、足をかけて膝をつかせると、後ろに回してやり、力を込めて拘束する。一瞬の出来事に訳も分からないといった様子で、男は呆けていた。

 

「な!いつの間に⁉︎」

「さて、いつでしょう?」

 

やっと現状を理解した男は驚愕している。俺は戯けるように言って笑いかける。

 

「な、ケンちゃんを離しやがれ!」

「どうぞどうぞっと」

 

ケンちゃんと呼ばれた金髪を離し、殴りかかってきた男の腕を流れに逆らわずにそっと掴む。瞬時に相手の懐へと潜り込み、背負い投げを放つ。ドガッと背中から叩きつけられたことで、肺の中の空気が盛大に漏れ出し、白い目をして男は気を失った。今のは綺麗に決まったな。

二人の男が挟むように迫るが、今度はその拳を受けることなく、しゃがむことで回避した。すると、案の定俺の顔面を狙っていたお互いの拳が顔面にめり込み、地面をのたうち回る男二人の出来上がり。

 

「かっちん!やっちゃん!テメェ、殺してやる!」

 

叫んだ男が小型のナイフを取り出す。ざわめき出す野次馬。しかし、ナイフを出されても、今の俺の心境は穏やかだった。ふっ、今更ナイフ程度で驚くものかよ!こちとらモノホンの銃と弾丸以上の拳を食らってんだぞ。たかだか薄皮一枚切られることと数センチぐらい刺されても問題はない。ーーーあれ?そもそもこんな考えがある事態駄目なのでは?いけない、OTONAに毒され始めていることに戦慄した。

 

「死ねぇ!」

「そんな持ち方じゃ、こうなるぜ!」

「なぁ⁉︎」

 

ただ突き出しただけのナイフの柄を、寸分違わず正確に蹴り上げる。宙を舞うナイフ。驚愕し、男の視線がナイフに映った。その隙に顎に掌底一発。男は呆気なくバタリと倒れ伏した。これで終わり、そう思った時、

 

「いや!離して!」

「うるせぇ!おい、テメェ。彼女傷つけられたくなかったら動くんじゃねぇぞ」

 

そう、最初の金髪の男がナイフを持って、調を拘束していた。もう勝った気でいるのか酷く厭らしい笑みを浮かべている。俺でも身震いしてしまうほどなのだから、調はもっと酷いだろう。しかも、ナイフを蹴り上げたのは俺で、明らかにこちらの過失だ。助かるはずが、逆に追い込んでしまうとは皮肉が効いている。後悔や反省は後回し。今は調を助けることだけを考える。ゾーンに入っているので、金髪の動きは止まって見えていて、この距離を一瞬で詰める技もある。あとはタイミングのみ。

 

「よくも俺のダチを殺ってくれやがったなぁ。今から俺がテメェを血祭りに上げてやるぜ!」

「いやいや、字がおかしいからな?殺してないからな?それについてはお前たちから手を出してきたんだから、正当防衛だからな?」

「うるせぇ!へへ、殺してやる。その後にテメェの彼女を美味しく頂いてやるよぉ〜!ハッハッハッ‼︎」

「ほう……」

 

こっちが隙を伺っていれば、いい気になりやがって。内心、激情に燃えるがなんとか平静を保つ。落ち着け、クールになれ。激情に身を任せれば、更に調を危険な目にあわせるだけだ。その時、調と目が合った。

 

ーーー私が、隙を作る

 

調の瞳がそう語っていた。小さく頷く。調を信じて、その隙を待つ。

 

「へへへっ、テメェだけは絶対に痛い目にあわせぎゃあああ‼︎」

 

調が足を持ち上げる。そして、金髪の足へ踵を踏み落とした。強烈な痛みに悲鳴が上がった。それが合図。一足で距離を詰めると、ナイフを奪い捨てる。咄嗟に金髪が殴ろうとするが、その拳を逸らしてガラ空きとなった顔面に一撃叩き込む。小気味いい音を響かせて、金髪は吹っ飛んで動かなくなった。ふう、と一息。これで終わりだ。

 

「調!無事?怪我はない?本当にごめん!僕が少し離れたばっかりに」

「大丈夫だよ。千佳が助けてくれたから」

「よかったぁ……」

 

野次馬のざわめきは未だ収まっていない。調を助け出したので、早々にこの場から去る。こちらは悪くないとはいえ、警察のお世話になるのは面倒だから。僕は調の手を取り、走り出した。

 

 

 

 

 

 

「……ごめんね。せっかくの休日なのに最後で台無しにしちゃった」

「そんなことないよ。楽しかった。最後のは僕ちも落ち度がある訳だし仕方ないよ。だから、さっきのことはもうチャラにして忘れよう。はい、もう僕は忘れた」

「……うん、そうする」

 

調はニコリと微笑む。つられて僕も笑顔になる。

 

「そうだ。はい、これ」

「これは?」

 

僕は包みを取り出して、調に渡す。くっ、キョトンとして首を傾げる調が可愛すぎる。

 

「開けてみて」

「……あ、これ。さっきの」

「うん。トイレは嘘で、本当はそれを買いに行ったんだ」

 

包みから出てきたのは先ほど、調が見ていたアクセサリーショップにあったお揃いのブレスレット。さっき、調が足早に去ったのはお揃いのブレスレットが欲しいけど、恥ずかしかったからだろうと勝手に考える。

 

「今日のお礼ってことでプレゼントしようと思って。それを買いに行ってたら遅れちゃってさ。ごめんね?」

「ううん、すごく嬉しい。……はい、こっちは千佳の」

 

ブレスレットを受け取る。調が嬉しそうにしてくれているので、買った甲斐があるというものだ。調は笑っている方が似合う。この先、僕らの関係はどうなるのか分からないけれど、今だけはこのまま。調の笑顔を側で見ていたい。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談になるのだが、立花さんにどこで見ていたのか問いただすと、緒川さんが生中継していて、それをモニターで見ていたらしい。……何してるんですか緒川さん。

 

「あの、何でそんなことしたんですか?」

「みなさんの願いを断る訳にはいきませんでしたので、仕方なく」

「いや、仕方なくじゃないですよ!プライバシー!プライバシーの侵害でしょう!」

「まあまあ、今度の修行は少し優しくするように指令にも伝えておきますから」

「あ、それならいいです」

 

この時、伝えるだけで実際に優しくするとは言っていなかったことに気付き、膝をついて悔しがったのは別の話。

 

 






千佳:順調にOTONAへの階段を進んでいる
調:千佳とデートできて嬉しい


これならも少し更新遅れたりしますが、なんとか完結には持っていきたい。
次回、千佳の武器を出したい思ってます。武器でそれはどうなの?となるかもしれませんが、そこはエルフナインちゃんの技術力のお陰ということで!
読了ありがとうございました!
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