白露型深夜の真剣創作60分一本勝負 投稿作品集 作:なぁのいも
提督は昨日まで何かと理由をつけてサボっていた書類を死ぬ気で終らせた結果、精根尽きて机の上で眠り果ててしまった。
終身名誉秘書艦として終わった書類を届けると言う重大な任務を終らせた海風は、自分の腕を枕にしようとしたけど結局机の上で涎を垂れ流しながら大きめの寝息を立てている提督を発見したのだ。
「あっ、提督…お疲れ様です」
寝ている提督にくすりと笑みをかけると、休憩室からタオルケットを持ち込んで提督の肩にかける。今の時期は夏。なので執務室もクーラーをガンガンに効かせている状態故の海風なりの配慮。クーラーのせいで風邪を引かない様にとの彼女なりの思いやり。
「夕餉、作っておきましょうか」
今日はどんなメニューにしようかしら?冷蔵庫の中身を思い出しながら、提督の傍を離れようとすると、小さな物音が机から聞こえた。それは、提督が腕を動かしたせいで万年筆が転がった音。
夏の時期は暑い制服を脱いで、袖の短いワイシャツを提督は着ている。袖が隠しきれていない提督の腕は、駆逐艦娘達と遊んだり、ランニングをしたりや演習を見守る為にと何かしらで外に出るので、小麦色に焼けている。
――ああ、そう言えば。
元はと言えば、提督が書類をサボったのは駆逐艦娘達が遊ぼうと強引に誘って断り切れなかった為。海風の姉と妹達もその一人。
だから、提督は何かと理由をつけて、書類を後回しする事になった。
海風はその事をしょうがないと思いながらも、心の中で羨ましく思っていた。
海風は真面目で、遊びに参加する事はせず、遊ぶ彼らの事を見守る立場にその時は居たから。
同時に、自分では無く他の艦娘を優先する提督を何処か恨めしく思っていた。それは、提督と共に過ごせる時間を奪った艦娘達にも同じ思いを抱いていた。
――あなたがいけないんですよ?
海風が提督の左腕を掴み、机の外にぶらりと手を垂れ下がるように伸ばさせる。
重力に従う様になった手を海風の右手で掬い上げて親指から中指を握りこぶしの形にして、小指を左手で抑えさせる形にする。
自由なのは左手の薬指だけ。
海風は提督の薬指の先に小さく唇を落とす。高名な騎士が可憐な花にするように。
そこで海風はふと思い出した。彼女が着任して間もない頃、提督が紙で指を切った時に彼女の姉である夕立が出血箇所を吸っていた。その時は、破廉恥な行為の様に感じたが、今は羨ましさすら感じる。
だって、夕立は、海風すら知らない提督から流れる血の味をただ一人味わったのだから。
――ああ、いいなぁ。海風も知りたいな。
海風は唾液の柱を作りながら、大きく口を開け、そして―――
提督の薬指の根元から上を、仕留めた獲物を味あわんとする狼の様に力強く噛みついた。
瞬間、提督は人差し指から燃え滾るような激痛を感じて飛び起きる。
「いっっっっつてえええええええ!!!!!」
思わず膝で机を蹴ったためにガタンと大きな音が出る。痛みを感じた左手をすぐに彼の右手に引き寄せた為、海風の口から彼の左手の薬指が抜ける。
「あっ…」
――結局味わえなかった
そこだけは、残念だったが提督の薬指につけた噛み痕が指輪の様になっていたので、彼女の中のナニかは満たされた。