白露型深夜の真剣創作60分一本勝負 投稿作品集 作:なぁのいも
山風の提督は優しい人。それは、自虐的で誰とも関わろうとしなかった山風を放って置いたりせずに、彼女の心許せる距離で向き合い、少しずつ仲よくなろうとしてくれた人。
他人に関わるのが苦手で、自ら距離を置こうとした彼女に対して、陰ながら手を回し、他の子からじっくりと距離を縮めていってくれた人。
山風を一人にせず、じっくりと向き合う事を選んでくれた優しい人。だから、山風も自然と彼との距離を詰める様になっていた。
しかし、最近は姉妹より司令官と共にいる事が多くなっている山風にも懸念している事がある。
それは、司令官は多くの艦娘に慕われているという事。特に彼女の姉妹達は司令官にお熱だ。白露は提督を誘ってランニングに良く行くし、時雨は提督と何処からか景色を見る事が多いし、村雨はお化粧を覚えて更に色気を出そうとしているし、夕立は提督と二人っきりで遊ぼうとよく画策しているし、春雨は提督とよく料理をしようとしてくるし、五月雨も最近は提督の前だとドジが減ってるし、海風も最近は提督に付きっ切りだし、江風は提督の注目を受けようと悪戯してるし、涼風も最近過剰な位に提督を釣りに誘っている。
対する山風はどうなのかと言うと、提督にお熱な艦娘の一人である事は間違いない。そうでなければ、執務室に乗り込んで真面目に仕事を受ける提督の事を気にかけて無い振りをしながらずっと横目で見ることなどしない。
山風は姉と妹達に比べて魅力が無いと自分で思っている。料理は簡単な物しか出来ないし、家事は得意では無い。事務仕事も得意とは言えないし、実の姉妹艦に対して未だにつっけんどんな態度をとってしまう。そんな自分を可愛くないと思うし、何より暗すぎる。提督は皆を照らす太陽の様な人、だから自分の様な暗い艦娘は彼の傍に相応しくない。
わかっている。山風は自分に自信が持てないのだ。彼女の庇護欲を掻き立てる性分は大きな武器なのだが、彼女はそれに気づいて無い。
そんな山風が最近こと更に自分を卑下するのにも理由がある。それは、提督が自分以外の人を構っていると、イラつきを覚える様になっている事。
山風の提督は山風のものでは無い。だから、他人に構う事を止めるようにする為の権利も権限もありはしない。それは、ただの我儘でしかない。
他の人を構って欲しくない。私だけを見て―――私だけを構って欲しい。
それが山風の心の叫び。
――いっその事…、提督を何処かに閉じ込めて…あたしと二人っきりにすれば…、ずっと…ずっと…構ってくれる筈
あぁ、でもそれは山風の望む提督では無いだろう。山風が好きなのは、皆に優しい提督なのだ。
その優しさが一人だけに無理矢理向かせても意味が無い。彼から向けて貰わなければ意味をなさない。
「ふぅ…取りあえずは…か」
提督が小さく息をつく、書類仕事が一段落ついたらしい。
「山風、お茶でも飲むか?」
「ん…いい…」
山風は釣れない態度で提督の誘いを断る。あぁ、またやってしまった。この誘いに乗れば、提督と休憩できるのに。自分に根付いた他人に対する拒絶反応を恨む。
「じゃあ、提出して来る」
提督は書類を手に持って、執務室のドアに手をかける。
この部屋は今は提督と山風の二人っきり。出てしまえば、提督の周りに艦娘が集まるだろう。そうしたら、山風は長い間ここに一人になってしまう。
いつもなら、提督に小さく返事をして、提督は今誰と一緒に居るのかと思って少しばかり涙ぐんで待っているのだが、今日は体が動いた。
山風は提督の背後に抱き付く。山風の背が小さすぎるため、腰に腕を回すような形になる。
「や…やだ…」
――なんで…、なんで…こんな事…しているんだろう…。提督が…困るだけ…なのに…
頭の中では自分を止めようとしているが、心はそれを望んで無い。
――あたし…ズルいな…
彼と会った時に手を離さないでね、と言ったのは山風だ。それなのに、突き放すような態度をとったりして、提督を困らせて、今は傍に居てくれないと心が穏やかじゃない。
「何処にも…いか…ないで…」
提督の服と強く握り、意地でも離さないとばかりに抱きしめる。
提督は困り果てたように山風に抱きしめられたままだったが、その優しさが山風の心に痛く沁みた。