海上自衛官が渡辺曜の妹になりました   作:しがみの

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第0話 プロローグ

20XX年7月14日

東北と言えども、夏の太陽が容赦なくさんさんと照りつける海上自衛隊大湊基地。そこでは、石垣沖で行われる米海軍、韓国海軍との合同演習に向かう、むらさめ型汎用護衛艦〝はくう〟(DD-103)が出航準備を進めていた。

 

「6番離せ、出航よぉーい!!!」

 

「3番離せ!!!」

 

ラッパの音が艦内に響き渡った後、航海長兼副長である町田(まちだ)慶喜(よしのぶ)二等海佐の合図で、6番と3番舫いが放たれ、ゴゴゴ・・・。と、音を立てながら埠頭から〝はくう〟が離された。

 

「前後部曳索離せ!!!」

 

「両舷前進微速。」

 

「両舷前進微速!!!」

 

艦長である高田(たかだ)壱頼(かずより)二等海佐の合図で速力通信士の八名(やな)一希(かずき)一等海曹が速力通信器の右舷と左弦の〝前進微速〟のボタンを押すと、最新型のガスタービンがうねる音を立て、〝はくう〟がゆっくりと大海原に向けて動き始めた。

 

「左、帽振れ!!!」

 

高田二佐の合図で埠頭に居る人々に向かい、自衛官達が制帽を降り出す。

 

「航海長操艦。両舷前進原速、赤黒無し、針路140度。」

 

大湊港を出ると、直ぐに操艦のバトンは高田二佐から町田二佐に渡る。

 

「頂きました航海長。両舷前進原速、赤黒無し、針路140度。」

 

しばらくし、〝はくう〟は大湊湾の真ん中程に差し掛かっていた。大湊湾は、養殖業が盛んでそこら中に養殖が行われている養殖筏がぷかぷかと浮かんでいる。これが大型船舶がただでさえ狭い大湊港と陸奥湾を出入りするのに障害となっている。ヘリ搭載護衛艦やイージス護衛艦などと比べ、比較的小さく設計されている汎用護衛艦も例外ではない。数年前、〝はくう〟が大湊基地に配属されたばかりの時、艦首と養殖筏が接触しようとなったという事件まであったのだ。その為、艦の操艦を担当する航海科は大湊湾から陸奥湾に抜けるまで気が抜けないのだ。

 

「大湊湾を抜けるぞ!!!針路そのまま!!!」

 

「30度ヨーソロー!!!」

 

慣れない手つきで操舵輪を握りながら元気に針路を言うのは薄い山吹色のように見える茶髪のショートカットが似合う(はやし)菜月(なつき)三等海曹。数年前に配属されたばかりの新人で、汚れ一つ無い紺色の作業着に身を包んでいた。

 

「よし、抜けた!!!両舷前進強速、取り舵40度!!!」

 

「両舷前進強速!!!」

 

「取り舵40度!!!」

 

完全に大湊湾を抜け、陸奥湾を進む(ふね)は、曲がりながら徐々に速度を上げていく。

 

漁港と漁場、もしくは養殖筏に向かう為に湾内を行き交う漁船達とすれ違う中で一際目立つ護衛艦〝はくう〟。人々は〝はくう〟の出航を喜んでいるのか、それとも、同じ船乗りとして、「頑張って来い」と言っているのか、手を挙げたり、警笛を鳴らしたりしていた。

 

 

「正面前方、6マイル!!!反航船あり!!!」

 

「面舵一杯!!!」

 

「面舵いっぱーい!!!」

 

右に向かって艦が曲がるが、数十ヤード進むと町田二佐がまた合図を出す。

 

「取り舵20度!!!」

 

「とーりかーじ!!!」

 

右に避けた〝はくう〟の左舷500ヤード横を青森方面に向かって通り過ぎて行く、多くの旅客や自動車を載せたフェリー。ここ、青森県の津軽海峡と下北半島を青い水で分断している平舘(たいらだて)海峡。本州と北海道を繋ぐ青函トンネルが開通してからは貨物列車や特急電車に引き継ぐ感じで海峡上を行き交う貨物やフェリーの便は激減したが、それでも特急電車より安上がりで済み、さらにマイカーを載せられるフェリーを使う人々が居るのか、度々今の様な沢山の旅客と自動車を載せたフェリーとすれ違う。電車だと、トンネルの大きさによって積める車の大きさが限られてしまう。そこがフェリーの強みだろう。さらに、数年前には青函トンネルを新幹線が走る様になったため、さらに運賃が上昇し、さらに乗客が増えたらしい。

・・・閑話休題。

 

 

 

〝はくう〟は、大湊港を出航し、陸奥湾、平舘海峡を抜け、津軽海峡に出た。ウイング要員は別れ惜しく大湊基地がある下北半島を眺めていたが、彼らはまだ知らなかった。二度と大湊基地に戻って来れないことを。

 

 

 

 

 

 

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20XX年7月15日

伊豆半島の石廊崎から南西に10km。〝はくう〟は演習のため、20ノットで演習場所である石垣島北西約30km地点に向けてて航行していた。

 

航行中でありながらも自衛官達の話し声が聞こえる艦内は、日本国の平和の象徴なのかもしれない。

 

辺りを見渡せる艦橋内も談笑する声が聞こえており、一般人から見るととても訓練をする前の感じとは到底思えない。

 

艦長はCIC(戦闘指揮所)に居るため、艦橋内の赤と青の2色のカバーがかけられている艦長席に艦長は居ない。そのため、艦橋内で一番階級が高いのは町田だけである。彼は航海長として、ジャイロコンパスの前に手を組みながら居るが、後ろにいる速力通信士の八名一曹と話していた。町田二佐と八名一曹は階級と年齢がかなり離れているが、ラブライブ!という同じ趣味を持つ者、更に同じ航海科だったので、直ぐに打ち解け、今では私語の時のみだが、敬語を使わないほどだ。

 

今、町田二佐と八名一曹は演習が終了したら秋葉原て行われるラブライブ!サンシャイン!!のイベントに参加する予定までたてている。なお、その予定には何故か林三曹まで参加することになっている。実は彼女も町田達と同じファンだということらしい。

 

彼らは早く演習を終わらせ、横須賀基地に寄港した時、秋葉原に向かおうと考えていたが、そんな考えは艦橋内にあるスピーカーと町田の着けているインカムから聞こえたある一言で壊された。

 

『こちらCIC!!!本艦に向かって対艦ミサイルが発射された模様!!!弾数12・・・12!?』

 

『対空戦闘よーい!!!』

 

CICからの緊急連絡で艦内はざわざわと騒がしくなり始めるが、対空戦闘用意の武鐘である電子音がカーンカーンカーンと艦内に鳴り響くと、直ぐに緊張感のある沈黙に変わり、総員は配置に着くべく、艦内を走り回っている。

 

ECM(電波ジャミング装置)ジャミング開始!!!』

 

ラティスマストに設置されているNOLQ-3(ジャミング装置)からジャミングの電波が出され、それにより十二発の内の二発が進路を変え、海面に突っ込んでいった。それはモニター上でしか分からないが、隊員に希望を見せるのにかなり重要な物だった。

 

ESSM(対空ミサイル)発射用意!!!トラックナンバー(目標)1425(ヒトヨンフタゴー)から1427(ヒトヨンフタナナ)!!!』

 

彼、町田の着けているインカムと艦橋内のスピーカーからは、CICからの砲雷長、清水(しみず) 吾郎(ごろう)三等海佐の緊張気味の声が聞こえる。それもその筈だ。この艦は、システムの都合上、ミサイルを一度に三発しか迎撃出来ないのだ。一歩やり方を間違えた瞬間、この艦と彼らは共に沈む。

 

『艦橋、CIC。面舵一杯、最大戦速!!!』

 

「了解!!!回避航行!!!面舵一杯、最大戦速!!!」

 

CICからの進路変更の指示が来るや否や、町田二佐は指示をすぐに出す。ガスタービンが唸り、そして艦全体に衝撃を出しながら急加速をし始めた。

 

「了解、最大戦速!!!」

 

「面舵一杯!!!」

 

ミサイルを撃ち落としたり攻撃したりする砲雷科と違い、操艦する航海科は何もしないのか?否。航海科は航海科なりにやる事がある。少しでもミサイルの接触が少なくなるように回避行動をとることだ。

 

『諸元入力完了!!!』

 

『ESSM発射、始め!!!』

 

『後部垂直発射装置(VLS)、ESSM、発射ァ!!!一斉発射(SALVO)!!!』

 

砲術長の叫び声が聞こえた直後、艦内に警報音が鳴り響き、轟音が響いた。警報音は轟音に掻き消され、艦が少し揺れる。二番煙突の前部にあるMk.48VLS(垂直発射装置)からESSMが発射された衝撃だ。

 

インターセプト(侵入阻止)5秒前!!!』

『4』

『3・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迎撃成功(マークインターセプト)!!!』

 

艦橋からハッキリと光るオレンジ色の花火が水平線上に見えた。ミサイルを迎撃したのだ。

 

『艦橋、CIC。針路20度、最大戦速!!!』

 

「了解、もどーせー!!!」

 

「ようそろー!!!」

 

また艦の針路が変わる。

 

『次だァ!!!ESSM発射用意!!!』

 

『駄目です!!!全目標、ESSM防衛圏突破!!!』

 

砲雷長は、休む暇なく直ぐに次の目標を迎撃しようとしたのだが、もう対空ミサイルが撃ち落とせる範囲外になってしまった。そう、本艦に近づきすぎているのだ。

 

『クソッ!!!トラックナンバー1428(ヒトヨンフタハチ)、主砲、撃ちぃかた始めー!!!』

 

オート・メラーラ 76 mm砲がミサイルの方角を向き、ッダンッダンッダン!!!と高速で弾を撃ち始めた。弾は小さいが、一分間に八十五発撃てるためか、次々とミサイルに弾を当て、オレンジ色の花火を次々と作り出していた。

 

『残り3発です!!!』

 

が、残り三発のミサイルは、主砲の弾幕をすり抜け、主砲では撃ち落とせない範囲まで近づいた。

 

『CIWS、AAWオート!!!』

 

最後の望み、CIWS(高性能20ミリ機関砲)がミサイルが接近してくる方角を向き、目にも留まらぬ速さで弾と薬莢を吐き出し始めた。

 

『総員、衝撃に備えー!!!』

 

艦長は、素早く衝撃に備えるように指示を出す。ミサイルが命中しても被害を少なくするためのための策だ。

 

『あと一発!!!』

 

二発のミサイルを迎撃成功。あと一発になったが、なかなかCIWSの弾幕で迎撃できない。いや、ミサイル本体に当たって燃えているいるのだが、爆発しないのだ。そのため、進行方向を変えずにそのまま本艦に直撃。

 

運悪く弾薬庫に命中したのか、爆発音と共に(ふね)が中央部で真っ二つに分かれ、分かれた部分から急速に沈み始めた。航海長である彼の担当である艦橋も例外では無い。斜めになった艦橋内から脱出する暇もなく、ガタガタと音を立て、壊れそうになっている防水扉は、必死に部屋に海水が入り込まんとしていた。そんな時、彼は斜めになった艦橋で、ジャイロコンパスの支柱にしがみついていた。

 

まだ死にたくない。やり残した事がある。まだスクフェスのイベントが終わってない。部屋には塗装中のフィギュアが残ってる。まだ描き終えてない絵が残ってる。艦これの春イベまだやって無い。まだ曜ちゃんのコスp・・・

 

彼がそこまで思った瞬間、彼の体重に耐えきれなくなったのか、ジャイロコンパスを掴む手が滑り、斜めっている艦橋に放たれた彼は、抵抗する間もなく壁に頭を思いっきり叩きつけらた。通常ならヘルメット(鉄鉢)を被っているのだが、航海長である彼はインカムを着けていたので、被っていなく、衝撃を全て受けてしまい、致命傷を負ってしまった。

 

「慶喜!!!」

「航海長!!!」

 

それを見た八名一曹と林三曹が町田二佐のもとに駆け寄って来た。

 

「一希・・・。それに林・・・。すまん・・・。お前達と行く予定・・・、無理になっちまった・・・。」

 

町田二佐は、血まみれの顔をゆっくりと慶喜に向け、死にそうな声で何度も何度も謝った。すまん、すまんと。

 

「慶喜、約束だ。もし、俺と慶喜がサンシャインの世界に転生したら、Aqoursが結成された年の6月の第一週日曜日、内浦の船着場で会おう!!!」

 

「私もです!!!」

 

「わかっ・・・た・・・。」

 

町田二佐と八名一曹、そして、林三曹と手を繋いだが、その直後、町田二佐は、ゆっくりと目を閉じ、息を引き取った。八名一曹と林三曹は、直ぐに退艦し、町田二佐の敵をとろう心に決めたが、その瞬間、艦内と艦橋を繋いでいる防水扉をぶち破り、海水が流れ込み始めた。流れ込んでくる海水は冷たく、息をしようとすると海水が肺に入り込んでくる。そんな環境で同僚達はひたすらもがいていた。艦橋とウイングを繋いでいる防水扉は歪んでいて開かない。窓は防弾仕様の為か、ヒビすら入っていない。苦しんでいる同僚や、遺体になってしまった彼と共に(ふね)は伊豆沖の青い太平洋の底に沈んでいった。

 

13時17分。護衛艦〝はくう〟完全沈没。艦長 高田(たかだ)壱頼(かずより)二等海佐以下、乗員165名中、165名殉職。生存者は、0名。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって別世界の静岡県沼津市。沼津市の中心市街地から外れにあるとある病院で、(町田)、もとい、彼女は新しい命としてこの世に生まれてきた。その瞬間、九つの色とりどりの歯車に新たな歯車が一つ、追加された・・・。

時間的に余裕が出てきたので1話だけ番外編ストーリーを書きたいと思います

  • 渡辺百香と前世の娘
  • スクスタ時空─スクフェス!─
  • 百香とルビィの入れ替わり!
  • スクスタ時空─虹学・Aqours対決!─
  • ロリ辺百香

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