部活動やら仕事やらで出払っているためなのか、ほぼ無人状態の浦女職員室。その場所いる唯一の教諭、崎 和也は、自身のデスクの場所にあるチェアに座り、その横に立つ俺を見つめている。
崎教諭に割り当てられているスチールデスクの上には、まだ何も書かれていない真っ白な退部届けが載せられている。
「渡辺・・・。お前、部活・・・、辞めるのか・・・?」
「いえ、保険です」
崎教諭は、「保険・・・?」と言いながら顔を少し顰めた。
そう、これは保険なのだ。自分の正体が一部でもAqours知られてしまった時、Aqoursに関われない俺は責任を取って退部するための。理由が分かれば、千歌も深追いはして来ないだろう。アイツはかなりの馬鹿だが、こういった時の大半は手を出さないと思ったからだ。
「あと、この事、他の先生方、特に時雨主任には言わないでください」
「何でだ?」
「バレないように、です」
崎教諭なら誰にも話さないと思うのだが、念には念を入れておかなければならない。情報は独り言を呟いているだけでも漏れる場合があるからだ。特に顧問である時雨先生の耳入った場合、ふとした拍子でそこからAqoursにバレてしまう危険性が最も高い。
俺は、手元にあるファイルに周りから見えないように退部届けを入れ、崎教諭に一礼して職員室を出た。その時、俺は一つだけではあるが、重要な事を忘れていたのだった。
部室に向けて廊下を歩いていると、後ろからバタバタという足音が聞こえてきた。後ろを振り向いてみると、ルビィが息を切らしながら走って来ていた。
「も、百香ちゃん!!!大変、大変だよ!!!」
「どったの?」
ルビィの様子から見て、かなり重要な事だようだ。というか、昨日の林間学校のあの一件でルビィとの仲はちょっと気まづくなったような感じがしたのだが、なんか気づいたら普通に接していた。女の子の友情って不思議だし、ルビィって極度の人見知りとかでこういう気まずい相手とかって苦手なような・・・。というか、この展開ってもしかして・・・
「大変だよ、学校が!!!」
「「「「統廃合〜!?」」」」
「そう見たいです」
やっぱりだ。ルビィが急いでいたのは廃校についてだった。
「沼津の私立高校と合併して浦の星女学院は、無くなるかもって・・・」
「そんなぁ!!!」
「いつ?」
ルビィからの知らせを聞いた部室にいる1、2年のAqoursメンバーがみんなが騒ぎ始めている。
「それは・・・、その・・・、来年の入学希望者の数を見てどうするか決めるらしいんですけど・・・」
「廃校・・・」
千歌は、俯いているのだが、これからの展開を知っている俺からすると、この行動は無駄なんじゃないかと思ってしまう。だって・・・
「来た、ついに来た!!!統廃合ってつまり廃校って事だよね!!!学校のピンチって事だよね!!!」
顔を上げた途端、満面の笑みになって廃校を語る千歌が居るんだから。
「千歌ちゃん?」
「まあ、そうだけど」
「なんか心做しか嬉しそうに見えるんだけど・・・」
千歌の反応を見ていた曜と梨子の2年生組は、困惑しはじめている。そりゃそうだろう。地元の学校が、しかも自分自身が所属している最中に統廃合してしまうのだから。
「嬉しそうじゃなくて嬉しいんだろ」
「だって・・・」
俺が千歌にツッコんだところ、千歌は外に駆け出し始めた。
「廃校だよーっ!!!音ノ木坂と一緒だよ!!!」
「これで舞台は整ったよ!!!私達が学校を救うんだよ!!!そして輝くの、μ'sの様に!!!」
しかも、バレー部が練習中である事すら気にとめていないのか、体育館中を走り回って戻ってきて善子となんか演劇みたいなポーズをとっていた。善子が完全に千歌に流されてる。
梨子が、簡単に出来るの?と千歌に問いかけている時、俺は、バレー部の活動を千歌が邪魔してしまったので、申し訳なさそうにバレー部の部長に一礼すると、バレー部の部長はいいよいいよと手を振って答えてくれた。浦女って皆仲良いなぁ・・・。
そんななか、千歌の様子を見ていたルビィは、花丸にどう思う?と問いかけたところ、花丸は目をキラキラと輝かせながら統廃合〜!?といかにも統廃合になるのを楽しみにしているように言った。
「合併ということは、沼津の高校に通うことになるずらね!!!あの街に通えるずらよね!!!」
「ま、まあ・・・」
「うわぁ〜!!!」
千歌同様といっても過言ではない花丸の様子を見ていたルビィは、少し呆れている。
「相変わらずね、ずら丸。昔っからこんな感じだったし」
「そうなの?」
善子は、梨子と曜に花丸の今の行動と近似している保育園時代のエピソードを教えた。この2人は俺の出身保育園と別の保育園出身だから俺はこのシーン見れなかったんだよなぁ・・・。
「で、善子ちゃんは?」
「そりゃ、統合した方がいいに決まってるわ。私のような流行に敏感な生徒も集まっているだろうし」
「やったね善子。友達に会えるよ!!!」
「おいやめろ!!!」
善子が統合賛成派だったし、花丸が何も言わなかった為、俺が善子を無理矢理反対派に押し曲げてやった。やったぜ。
「とにかく、学校の廃校の危機が迫った以上、
Aqoursはそれを阻止するため、行動します!!!」
「で、行動って何するの?」
「へ?」
「「「え?」」」
梨子の質問を聞いた千歌が疑問の声を出した為、皆千歌を驚きながら見、そして、
場所は移り、三津海水浴場。
千歌は、ここまで来るまでの練習時間中ずっとμ'sが行った事を考えてきたのだが、スクールアイドルとしてランキングに登録して、ラブライブ!に出て有名になって、生徒を集めただけだったらしい。人が集まったのは東京の都心だからという理由もあるのだろう。
「あとは・・・、PVか・・・。μ'sをもやってたしな」
「そうだねー・・・。あ、ネットにアップして内浦のいい所をいっぱい外に伝えようよ!!!じゃあ、明日から撮りに行こうよ!!!」
俺がそう言ったらすぐに千歌がPVを撮ると即決した。千歌ってそういう時の行動力は速いんだよな。
そして、その後少しだけ練習し、解散となった。
そして、次の日の学校が終わった放課後。俺達は内浦を紹介するムービーを撮ることとなったのだった。まず最初に来たのは長浜城跡。そこからPVを撮り始めた。カメラマンはもちろんアニメ通りで曜だ。俺は何をしてるのかって?それは・・・
監督だ。ちゃんと皆が紹介出来てるかどうかを見てほしいらしい。なお、監督に俺を指名してきたのは善子だ。後に理由を聞いてみると、俺が動画投稿してるからだと言っていた。なお、編集は善子がやるらしい。
・・・俺居る意味無くね?
そんな事を思っていた時、既に曜によって勝手に撮影が始まっていた。
「内浦のことを知ってもらうために、1つよろしく!!!」
千歌は、花丸とルビィの両肩を掴みながらそう言った。そして、曜はカメラを3人に向け、まず最初に花丸を映した。
「い、いや、マルには無理ず・・・、いや、無理」
花丸は、言い直しながらも紹介を拒否したので、すぐに曜はルビィにカメラを向けた。
「ぴっ・・・、ピギッ!!!」
するとすぐに逃げ出したではありませんか。カメラでもダメとか・・・。あれ?そしたら何で堕天使のムービー撮れたのだろうか?それ以上いけない。
「見える!!!あそこー、よっ!!!」
そして、善子がルビィの逃げた先を指差した。だが、そこにルビィは居なかった。ルビィは、案内板から顔を出し、「違いますー!!!べーっ!!!」
と舌を出しながら挑発するような言い方で善子に言い放った。
その後、すぐに曜がカメラを向けたので、ルビィは「ピギッ!!!」とまた叫び、俺の後ろに隠れた。そうこうしているうちに時間だけがすぎていくので、俺が「いい加減早く撮ろうよ」と言い、ようやく撮影が開始された。
最初に紹介したのが〝富士山〟〝海〟そして〝みかん〟の3つだった。そこまでの紹介はまだ良かった。そう、そこまではだ。内浦の中心部的な地区、三津の市街をバックに千歌が言ったこと、それは「特に何も無い」だった。
・・・これはひどい。
皆も俺と同じような事を思ったのか、内浦以外の場所もPVに入れていくこととなった。そして、カメラは俺に渡され、沼津駅南口の前と仲見世通りの2箇所で、曜を撮った。
「バスでちょっと行くとそこは大都会!!!」
「お店もいっぱいあるよ!!!」
だけどこれもどうかなと思ってしまう。沼津市街地が大都会という時点でおかしい。大都会と言えば──といっても五大都市の定義内だが──首都圏、大阪都市圏、名古屋都市圏、福岡、札幌だろう。お店もいっぱい・・・。うん、内浦よりもいっぱいあるけど、東海道線で静岡とか東京とかに出た方がいいよね。沼津駅前は寂れ始めてるから。
そして、千歌の提案で俺達は自転車で沼津駅を出て内浦の三津坂経由で伊豆長岡駅に向かった。流石にこれをするはバカだろ。歩道のないトンネルがある三津坂経由よりも歩道がある国道414号経由の方が安全で坂も多少ながら緩やかだからだ。
「ちょっと・・・、自転車で・・・、坂を越えると・・・、そこは伊豆長岡の、商店街が・・・」
で、そんなバカなルートを通ったせいで皆、息がキレている。梨子も紹介文を言うのが大変そうだ。しかも伊豆長岡駅はもう沼津市ですらない。だが、伊豆長岡駅から内浦に行くのは沼津市街地からよりも速いし安い。
(内浦から沼津駅までバスで片道740円、伊豆長岡駅までは340円かかります。東京から内浦に来るなら安くて速く時間に正確ないずっぱこをご利用ください)
そして伊豆長岡駅、
「どうして喫茶店なの?」
善子が何故松月に集まっているのか疑問の声を上げた。ルビィは、この前家族の皆に怒られたから別の場所にしたのではないのかと問いかけたところ、千歌は呑気な声で「ううん。梨子ちゃんがしいたけいるなら来ないって」と言っていた。
「行かないとは言ってないわ!!!ちゃんと繋いでおいてって言ってるだけ」
そんな梨子の言い訳に千歌はいやでもと答えた。ここら辺だと、家の中だと放し飼いの方が多い。千歌の家然り、近所の家然りそして・・・
そんなぁ・・・と梨子は力なく言う。その後、すぐに犬の鳴き声がした。梨子は最初、この鳴き声を幻聴だと思っていたのだが、また犬の鳴き声がしたので、ゆっくりと後ろを見てみると、そこには、松月で飼っている犬のわたあめがいた。
「ひいっ!?」
梨子は、叫び声を上げてビクッとしたため、千歌は、「こんなに小さいのに!?」と驚いている。恐らく、犬そのものに何かトラウマかなにかを持ってるのだろう。だとすればどんなサイズの犬でもこうした反応をするのは妥当だからだ。
「大きさは関係無いわ!!!その牙!!!そんなので噛まれたら・・・
死!!!」
そんな感じで怯えている梨子の横で千歌は「噛まないよ~。ねー、ワンちゃん」と、笑顔で言いながらわたあめを抱き抱え、顔を近づけた。梨子は、顔を近づけ過ぎたら危ないと言っているが、千歌は聞く耳を持たなかった。さらにそれだけではとどまらず、「わたちゃんで少し慣れるといいよ」言い出し、梨子の顔にわたあめを近づけやがったのだ。わたあめと至近距離で向かい合った梨子は、固まってしまった。そして、わたあめはペロッと梨子の鼻を舐めたのだった。
そして梨子はわたあめから逃げるためにすぐにトイレへ駆け込んだ。どうやら梨子が言うのにはトイレの中でこれからの話を聞くらしい──アニメ内でも同じであったが──。
そして、この事をしでかした千歌は、悪びれる様子もなく、善子に動画の編集は出来たかと問いかけた。すると善子は
「簡単に編集しただけだけど、お世辞にも、魅力的には言えないわね」
と言っていた。やっぱり内浦だけでは難しいのではないかというルビィの意見も出てきたので、千歌は、沼津の賑やかな映像を混ぜて詐欺まがいのPVを投稿する案を出した。
「そんなの詐欺でしょ!!!」
まあ、そんな案は梨子によってすぐに一蹴されたのだが。梨子は、たった約3ヶ月間で千歌の行動パターンが大体分かってきてる。すごいな。
俺はふと、時計を見てみた。時間は19時になるまで残り5分といったところだ。三津から沼津に行く終バスは18時56分だ。ん?あそこに見えるオレンジ色のバスは・・・
終バスだ。
「曜姉!!!終バス来てる!!!」
「嘘!?」
「ヤバっ!!!」
俺、曜、善子の沼津組3人はすぐに帰る支度を済ませ、松月の出入口で一旦立ち止まった。
「ではまた!!!」と、善子が言った後、敬礼しながらアレを言う。曜と一緒にー
「「よーしこー」」
はい決まった。
「何なのよそれー!!!」と、善子がそう言いながら追いかけてきたので、ついでにバスまで競走する事としよう。曜も、ヨーソローと言って肯定してるようだし。
善子の「ちょっ!?まだ体力残ってるの!?この体力バカ姉妹!!!」という言葉は聞かなかったことにしよう。
〇次回予告〇
次回は梨子ちゃんのBirthdayStory!!!
次回、Happy Birthday梨子
次回更新予定日は9月19日0時0分です。
アンケートです。現在、オリ主をライブに出そうかどうか迷っております。(想いよ一つになれのライブを除く)
期限は9月26日です。
なお、アンケートは
活動報告↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=190908&uid=133483
時間的に余裕が出てきたので1話だけ番外編ストーリーを書きたいと思います
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渡辺百香と前世の娘
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スクスタ時空─スクフェス!─
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百香とルビィの入れ替わり!
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スクスタ時空─虹学・Aqours対決!─
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ロリ辺百香