ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?
朝、軽く練習をしたAqours6人達と百香は大会が開催される東京都内の会場に向かった。会場のエントランスホールには他地域のスクールアイドルのグループが数組、ミーティングをしている。百香が受付を済ませていると、スタッフ証を首から下げた1人の女性が千歌達に話しかけてきた。
その女性曰く、この大会では、会場のお客さんで出場するスクールアイドルの順位を決めるという、全校生徒、創設年数、ラブライブ!決勝の出場回数、そして、百香の元々居た世界を除くファンの数が少ない浦の星女学院スクールアイドル、Aqoursには圧倒的に不利な条件だった。そして、この時に出場する出番も伝えられた。出番は2番目。つまり、前座だ。
何事でも前座は重要な位置になる。前座のグループが平均として認識され、さらに演者側は何を標準にも出来ないからだ。
標準があるとないのでは心構えが全く変わってしまう。前座が良ければ後座のハードルが上がってしまう。しかも、前座には準備時間が少ない。そして何よりもが多いのだ。
後座は、前座よりもプレッシャーは低いが、観客の多くが退屈してしまい、帰ってしまう場合もある。どんなに演出を良くしても、投票する観客が見る前に帰られてしまっては、目も当てられない。
一番良いのは真ん中(昼休憩より後は除く)である。真ん中ならば、前のグループを見ているため標準も分かり、さらに観客によく見てもらえるからだからだ。
舞台で行う吹奏楽や演劇もこれに当てはまる。この出番で順位が変位することも大いにありえるのだ。
出番が2番目ということは、上手側の舞台袖で1番目の演技を見る。そのため、Aqours6人は衣装に着替えるためにすぐにエントランスホールから控え室に向かって行った。先程のスタッフの女性は、ステージ裏に入る許可証を百香に渡すと、ステージ裏の扉の中へ消えて行った。その場に残されたのは、百香1人。百香は、6人の向かった先をずっと物思いにふけながら眺めていた。
「よお」
後ろから呼びかけられたので、振り向いてみると、そこには、朝会ったばかりの八名が一人で立っていた。八名だけかと問いかけてみると、八名の後ろからひょっこりと私服姿の林が姿を見せた。
「私も居ますよー」
にひひと笑う林は、百香とは違い、精神年齢30後半と思えないほど、年相応の振舞いだった。
「そういや、Aqoursは何処にいるんだ?」
八名がそう聞いてきた。百香の周りにAqoursの6人が居なかったのを気にしているのだろう。とりあえず、控え室に行ったと言い、ステージの舞台袖に向かおうとしたところ、八名に呼び止められた。Aqoursのステージが終わったら会おうということであった。
百香は、ああ。と返すと、ステージ裏に続くドアを開け、舞台袖に向かって行った。
青い小さな照明に照らされた薄暗い舞台袖には、数組のスクールアイドル達とそのマネージャーや関係者が出番を待っていた。そこには、Aqours6人と百香の姿もあった。1年生3人は、初のライブ出場であり、舞台袖から客席を見て観客の多さに吃驚し、3人の緊張状態にさらに拍車がかかっていた。
2年生は、3人は人の前で踊るのは2回目なだけあり、1年生3人とは違い、少し緊張していながらも、1年生の様子を見て微笑むくらいの余裕があった。
後ろから足音が聞こえてきた。1番目に踊るスクールアイドルがステージ上に出るのだ。千歌は、1番目に出るスクールアイドルが気になり、後ろを振り向くと、そこには、昨日神田明神で出会ったSaint Snowの鹿角聖良と妹の理亞の姿があった。
百香を除くAqours6人は、彼女達がスクールアイドルだとは知らなかった。
「スクールアイドルだったんですか」
と、千歌は目を見開いて驚いていた。聖良は、言ってませんでしたっけ?と挑発口調で言いながら改めて自己紹介をし、理亞と共にステージ上へと向かって行った。
Saint Snowが見せたのは
〝SELF CONTROL!!〟
一時期ネットで「ダンスなう!ダンスなう!」と弄られ、さらに声優さんも曲とダンスをネタにしたという曲だった。なお、函館ユニットカーニバル後は、ダンスと歌唱力の高さで「ダンスなう!ダンスなう!」と弄る行為は大きく減った。
ライブで見ると評価が一気に手のひら返しされる様な曲。つまり、その場に居たAqoursの6人に影響を与えるのには十分すぎた。
そのため、次にステージ上で踊ったAqoursは、全員全力で踊りきり、今までで1番良いパフォーマンスを見せることが出来たのだが、前に出たSaint Snowに比べたらどうしても霞んで見えてしまう。それは、踊り終わったAqours6人も重々承知していたため、踊り切ったと頭で分かっていても、身体には、踊り切った感が全くなかった。
「良かったぞ」
百香は、舞台袖に捌けてきたAqours6人にそういった言葉をかけたのだが、千歌はやりきれなかった表情をしていた。百香は、やっぱりそうかと思い、他のメンバーを見ると、全員千歌と同じ様な表情であった。
とりあえず、エントランスホールの前で落ち合おうと決め、Aqours6人は控え室に、百香はエントランスホール方向に向かって行った。
今は入れ替えのための休憩時間であり、エントランスホールと大ホールを繋ぐ廊下は出入りする人々でごった返していた。その廊下の一部分には、廊下を行き来する人に目に付きにくい空間があった。その空間の中には厳しい顔つきをした3人組がいた。百香、八名、林の3人だ。
しばらくの間、3人は見つめ合い、次のステージが始まるのを待っていた。
扉が閉まる音が廊下に響き渡り、廊下を歩く人が全く居なくなったことを確認すると、八名が口を開いた。
「どうすんだ、菜月。指をくわえて、Aqoursが悲しむ顔を見るのか?投票すべきだ」
「投票する?Aqoursに一票入れようとするの?」
八名が言うのには、Aqoursに一票も入んないのは可哀想だという事だ。そして、それを聞いた林はその場で溜息をついた。
「・・・。それをバタフライ効果と言うの。」
〝バタフライ効果〟
ミクロな現象でもマクロに大きな影響を与えることもある事のことだ。バタフライ効果の例え話としては、北京の蝶の話が有名だ。この話をかいつまんで言えば、小さな事象が大きな事象に繋がるという事だ。
それに、この件はここにいる3人にとっては、蝶どころの話じゃ無い。Aqoursの一年後の未来を知ってる。たった一票でも、あるかないかでAqoursメンバーの心境は大きく変わってしまい、私達が知っていた未来は見知らぬ物となり、最悪、Aqours自体が解散してしまう可能性がある。
そう、彼女達は、Aqoursにとって危険なのだ。
強い口調で言った林の言葉に対して、林自身の拳は震えていた。だが、林の言葉からはそれを感じさせる言葉は出なかった。
「じゃあ、なんで俺達はここに居るんだ?俺達は今、Aqoursに関われてる!!!俺たちの手で、Aqoursを更に上に行かせられるかどうか、試してみろって事じゃないのか!?」
林は、震える自身の両手をグッと握り、これは偶然だと、どうにか強気に言い切った。一アニメファンに、この代償の責任を負わせるのは、かなり精神的にもくることなのだ。
「偶然?お前はこれがただの偶然だと・・・?
・・・慶喜はどう思う・・・?」
八名は、未だに諦め切れていないのか、それとも、何も考えていないのか、ずっと腕を組みながらその場に立っている百香に問いかけた。
「俺は・・・
未来を変えるべきじゃないと思う」
「何故だ慶喜!!!」
八名は、百香からその言葉が出てくるとは思ってもなかったのか、声を荒らげて言う。恐らく、百香は八名と同意見だったと思われてたのだろう。
「Aqoursのこの先を決める権利は、俺達にはないからだ」
「じゃあ、何故Aqoursに入ったんだ!!!変えるためじゃないのか!?」
百香がAqoursに入った事は、ここまでの経緯でこうなったこと。つまり、避けられないことだった。百香自身はその避けられないことに多少には関わるが、不要位にこの世界に関わろうとは思ってなかった。そして、この大会での順位は後のAqoursの土台を作りあげる重要な位置にあるからだ。
意見が2対1となり、八名はもうこの事は覆せないと思ったのか、林に戻るぞと言い、一緒に客席の方に戻って行こうとしたため、百香は二人を呼び止めた。
「一応、お前らの投票用紙は俺がここで処分する。一番確実に処分出来るからな」
そう言うと、八名と林から投票用紙を受け取り、百香自身の投票用紙を混ぜると、2人の目の前でビリビリに破り、ゴミ箱の中に捨てた。
捨てた事を確認した八名は「これでいいな」と言い、林と2人の姿が見えなくなった後、百香は壁に寄りかかり、彼女は天井に埋め込まれている長方形の箱から光を放つ蛍光灯を眺め、1回だけ溜息をついた後、口からこぼした。
「ここにいる意味か・・・」
ここにいる意味。それは、彼女が最も考える事を恐れていたことだ。Aqoursのメンバーと同い歳、そして関わりがある。偶然にしては余りにも───
いや、現実に意味を求めることは危険な事。彼女は、そんな危険な事は考えたくはないのだ。
「戻るか・・・」
百香は、寄りかかっていた身体をゆっくりと起こすと、落ち合う場所のエントランスホールに向けて歩き出した。その時、目の前をなにかが横切り、すぐに跡形もなく消えてしまった。
「ん?蝶?」
彼女の目の前を横切ったのは虹色の羽を持った蝶。建物の中にいるのも、虹色の羽を持つというのも、そして、跡形もなく消えてしまったことは非常に奇々怪々であった。
彼女は、首を傾げながらも歩き出したのだった。
「嘘・・・そんなの嘘よね・・・」
──だが、その時彼女は気づいていなかった。先程の3人の会話を聞いていたAqoursのメンバーが1人だけいたということを──
次回更新予定日は1月23日前後です
時間的に余裕が出てきたので1話だけ番外編ストーリーを書きたいと思います
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渡辺百香と前世の娘
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スクスタ時空─スクフェス!─
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百香とルビィの入れ替わり!
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スクスタ時空─虹学・Aqours対決!─
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ロリ辺百香