海上自衛官が渡辺曜の妹になりました   作:しがみの

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お待たせ致しました。第49話の公開です!


色々ありまして投稿が遅れましたことを、深くお詫び申し上げます。なお、次回以降から端末修復時まで投稿は不定期となりますが、端末修復費を捻出する余裕が無いため、誠に勝手でありますが、しばらくは不定期更新になると思われることを、お伝え致します。



第49話 仲直り

 

沼津市内浦長浜に建つ一際目立つ邸宅、黒澤家。元々網元であったため、敷地中も辺りのいえと比べられないほど広い。そこの客間にAqours6人と百香、鞠莉、ダイヤの3人、計9人が集まり、ダイヤの話を聞くことになった。

 

客間には、ダイヤが座卓の前の座布団に座っており、その座卓を挟んだ反対側にダイヤと鞠莉を除く全員、鞠莉は縁側に立ちながら庭を見ていた。

 

しばらく沈黙に包まれ、雨がポツポツと窓と屋根にうちつけはじめた音が客間に響き始めた。

 

〝東京のイベントで果南さんが歌えなかったのでは無く、わざと歌わなかった〟

 

そう、ダイヤは言った。言いづらそうに。少し、下を向きながら、だ。

 

「どうして・・・」

 

拳を軽く握り、鞠莉はそう言った。その時、善子が闇の魔術やらなんやらと言い始めたため、花丸に口を抑えられ、そして百香の膝蹴りが腹に命中し、横の部屋で腹を抱えながら苦し悶えている。そんな善子を誰も気にとめない。こんな時にふざけていたからだ。仕方ない。

 

「貴女のためですわ。覚えていませんか?あの日、鞠莉さんは怪我をしていたでしょう?」

 

ダイヤの言う〝その日〟。それは現3年生の3人が1年生の時に活動していたスクールアイドルが、東京の大会に出場した時だった────

 

 

 

 

 

 

 

 

─────スポットライトでステージ上の3人が照らされ、熱狂した歓呼が、客席から絶え間なく響く。

そんな声に満たされた会場で、鞠莉は小さく声を出した。それは、歌詞でもなく、観客に向けた声ではない。ハードな練習で左足を痛め、その部分からの激痛によって出された声だった。

 

当然、ステージ上にいた2人には痛みに耐える鞠莉の声が聞こえた。

 

すぐにダイヤは鞠莉に駆け寄り、鞠莉の足の具合を確認した。鞠莉の足にはテーピングがぐるぐる巻きにされており、誰が見ても大事に至っていることは分かるような見た目だった。

 

「やっぱり、ダメでしたじゃないですか・・・」

 

ダイヤは悲憤した。鞠莉がこの足を捻ったのは数日前の大会前最終練習日の時であった。〝病院に行って〟という果南とダイヤの忠告を「大丈夫、大丈夫。1日経てば治るよ」と鞠莉は笑いながら返し、結局病院には向かわなかった。だが、足の状態は全く良くならず、かえって状態が悪化しているようにも思えた。

 

このまま歌ってしまえばどうなるか分からない。もしかしたらステージから落ち、大事になってしまうかもしれない。そうなれば、鞠莉の今後の人生までが危なくなってしまう。

 

ダイヤの頬に一筋の汗が流れた。

 

そして、なぜ果南は黙って客席の上方を見ているのか、ダイヤはその事についても気がかりだった。

 

客席の方向から聞こえてきた歓声はだんだん響きの声に変わっていく。チラリと舞台袖を見ると、大会スタッフ数人が困惑しながらこちらを見ていた。

 

そして果南は───

 

 

 

 

 

 

客席に向かって深々と礼をし、ダイヤと鞠莉の側に刻み足で寄って鞠莉に肩を貸し、ダイヤにも肩を貸すように促した。

 

ダイヤはそれを了承し、2人で鞠莉を抱えてステージ上から捌け始めた。ダイヤは客席側で鞠莉を支えていたが、彼女の両耳には2種類の声が聞こえてきた。

 

1つは、事態を飲み込めず「なぜ歌わないで戻るのか」と騒ぎ立てる声。そして、もう1つは───

 

 

 

 

 

 

 

「果南答えて!ねえ、なんで戻るの!?ダイヤ!答えて」

 

鞠莉の悲痛な叫び声だった。果南の表情は先程と全く変わらないが、先刻のダイヤの疑問はもう無かった。

 

〝果南は、鞠莉のために()()()()を選択した〟と──

 

「そんな・・・。私はそんな事して欲しいなんて一言も・・・」

 

「あのまま進めていたらどうなっていたとおもうんですの?怪我だけでなく、事故になってもおかしくなかった」

 

正論とも言えるダイヤの反論に、鞠莉は何も言えず、ただ唇を噛むしかなかった。

 

「だから・・・、逃げたわけじゃないって・・・」

 

ルビィは、ボソッとそう言った。ダイヤが言うには、果南は鞠莉には〝歌えなかった〟としか言っていなかった。そして、果南は東京で歌えなかったことからスクールアイドルを引退することとなったのだが、本当の理由は別にあった。

 

それは、大会が開催される数日前に遡る。それは果南が日直の日のことだった。教室の鍵と日誌を職員室に返しに行った時、鞠莉が職員室の中で担任の先生と何やら話をしていた。普段ならば、何も気にせず入っていたのだが、今日ばかりは入る気になれなかった。

 

「小原さん、イタリアの高校に留学してみない?」

 

それは、鞠莉の留学についての話だった。学校側だけでなく担任も、鞠莉の両親も鞠莉に留学をする事を勧めていたのだが鞠莉は「スクールアイドルを始めたから別にいい」と、一蹴していた。しかも果南はこの時の話で鞠莉が何回も留学の話を蹴り続けいたことも初めて知った。それを聞いてしまった果南は中に入る事を躊躇ってしまい、ドアにもたれかかることしかできなかった。

 

2分くらい経った時だった。あまりにも日誌と鍵を戻してくるのが遅すぎたのか、日直のペアのクラスメートが心配そうな顔をしてやって来た。果南は「ごめん、今は中に入れない」とクラスメートに言い、替わりに日誌と鍵を戻して来るように頼んだのだった。

 

それから帰宅しての数時間、果南はベッドの上に寝そべりながら考え込んだ。悩み事があれば体を動かすことで解決する果南にとってはらしくない事だったが、それは自分自身でもわかっていた。

 

辺り一面が暗くなり始め、内浦湾の海水に反射する光が果南の部屋に入らなくなった時、彼女はおもむろに机の上で充電されている自身のスマートフォンを手に取った。指紋認証でロックを解除し、ホーム画面がディスプレイに表示されると、すぐに電話帳を開き、〝黒澤ダイヤ〟と書かれた場所をタップし、信号音が出たスマホを耳に当てた。

 

『もしもし』

 

スマホの向こう側からダイヤの声が聞こえた。

 

「ダイヤ。話があるの」

 

『どうしたのですか?果南さんらしくありませんよ?』

 

ダイヤは、いつもと雰囲気の違う果南に困惑しながらも、その後に「話とは何なのか」と聞いてきた。

 

果南は、手で胸に触れなくても分かるくらい心拍数が上がった心臓と同じ場所をスマホを持っていない左手で抑えながら口を開いた。

 

「えっとね・・・

 

 

鞠莉の将来についての話があるんだ」

 

 

 

その瞬間、太陽が水平線の先に沈み、明かりをつけていない果南の部屋は闇に包まれた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイヤの話を聞いた鞠莉は、〝私のために果南はスクールアイドルを辞めた。しかも、私には嘘をついてまで無理にスクールアイドルを辞めさせた〟という解が出た。

 

「まさか・・・、それで・・・?」

 

小さく、ボソッと呟いた鞠莉は、〝果南が私に何も相談せずに勝手に自分の将来を決められた〟ということに段々腹が立ってきた。窓ガラスを触っている右手と何も触っていない左手は気づくと握りこぶしを作っていた。

 

果南に対する怒りからか、果南を一発殴りたくなり始めた。ここにいる人、いや、誰に聞いても殴りたい相手の居場所なんて十中八九答えてくれない。鞠莉は、頭をフルに回転し、今までの果南と過ごした時を思い出しながら果南の今居そうな居場所を考えた。

 

 

〝今の時間なら・・・、十中八九家だろう。今から行けば、夕食の買い出しに行く前に到着出来る〟

 

そして、鞠莉は走り出した。

 

「どこへ行くのです?」

 

玄関に向かい始めた鞠莉に対し、ダイヤは立ち上がって呼び止めた。

 

「一発───

 

 

 

 

 

一発果南をぶん殴る!」

 

「おやめなさい!」

 

すぐに走り出した鞠莉を、ダイヤが羽交い締めにし、ダイヤが鞠莉に果南の思いを話し始めた。このまま2人の仲がこれ以上悪くならないように、そして、また3()()でAqoursを続けられるように・・・。

 

「果南さんは鞠莉さんのことを誰よりも考えていましたわ」

 

「なんで言わなかったの?」

 

「ちゃんと言っていましたわよ。貴女が気づいてなかっただけ」

 

鞠莉は、「えっ?」と首を傾げたが、よくよく思い出してみると、果南が鞠莉に向けて言っていた言葉があった。そう、それは1年生の時の、淡島連絡船の中での会話だった。

 

 

 

 

 

 

「離れ離れになってもさ、私は鞠莉のこと忘れないから」

 

 

 

 

 

遠回しの表現だが、〝私達のことはどうでもいいから、海外に留学してきて〟と、確かに言っていた。だが、果南らしくないこんな遠回しの表現なんて、言われなければ気づかない。

 

「ちゃんと、考えていたのですわ。貴女のことを誰よりも」

 

鞠莉を羽交い締めにしていたダイヤは、ゆっくりと鞠莉を解放した。鞠莉は、もうダイヤに抵抗をしなくなっていた。

 

「行ってきなさい、部室へ。果南さんは私から呼んでおきますから」

 

鞠莉は、そのダイヤの言葉に頷いた鞠莉は、大雨が降る外に飛び出した。雨でびちゃびちゃに濡れ、制服が水分で重くなっても、躓いて転んでも、決して走る足を止めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

───雨が止んだ後、浦の星女学院スクールアイドル部部室に足を踏み入れた果南は、足元に違和感を感じた。

 

足元には水溜まり、その先には全身が雨でぐしょぐしょになっている鞠莉の背中・・・。ふざけている時とは違う弱々しい背中。

 

今はもう止んでいるが、少し前まではザアザアと音を立てながら雨が降っていた。その中を走っていたということは、誰が見てもわかる事だった。

 

「何?」

 

「いいかげん、話をつけようと思って。

 

 

どうして言ってくれなかったの?思ってることちゃんと話して。果南が私を思うように、私も果南のこと考えているんだから。将来や今はどうでもいいの。留学?全く興味なかった。当たり前じゃない。だって、果南が歌えなかったんだよ」

 

涙声でそう言ったあと、鞠莉は果南の方に顔を向けた。その鞠莉の目には、涙が溜まっていた。

 

「放っておけるはずない!」

 

果南が俯いた瞬間、〝パァン!〟という乾いた音が部室の中に響いた。果南の頬を鞠莉が叩いた。

 

「私が果南を思う気持ちを、甘く見ないで!」

 

「なら、素直にそう言ってよ!負けられないとかじゃなくて、ちゃんと言ってよ!」

 

「だよね・・・。だから・・・」

 

鞠莉は、そう言って自身の左頬を果南に向けて指でさした。〝さっき、私が果南を叩いたように私を叩いて〟ということだった。

 

果南は、鞠莉の頬を叩こうと、手を挙げた。鞠莉は、果南から叩かれることを覚悟し、身構えていた。そう、ビクビクしながら・・・。

 

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 

 

この瞬間、鞠莉と初めて会った時のことが果南の頭の中に急に現れた。淡島のホテルオハラに忍び込んだ時、中庭で鞠莉と会った時、果南は咄嗟にハグをしようと提案し、そして、ハグをした事だった。

 

その時と同じように、果南は鞠莉に両腕を広げ、そして──

 

 

「ハグ・・・、しよ・・・?」

 

 

 

 

「う、うわぁぁぁぁ!!!!」

 

鞠莉は、泣き声をあげながら抱きついた。鞠莉と果南の目からは大粒の涙が溢れ出していて、2人はいつまでも、いつまでも抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイヤさんって、本当に2人のことが好きなんですね」

 

千歌は、ニへへと笑いながら、校門から出てきたダイヤに向かってそう言った。ダイヤは、2人の仲直りの瞬間を見ていたのだろう。顔がなんだかスッキリしている。

 

「それより、2人を頼みましたわよ。ああ見えて2人とも繊細ですから」

 

「じゃあ、ダイヤさんも居てくれないと!」

 

「えっ?(わたくし)は生徒会長ですわよ!とてもそんな時間は・・・」

 

そう笑いながら千歌に言われ、ダイヤは千歌から目を逸らしながらホクロを右手で軽く搔いた。

 

「それなら大丈夫です。鞠莉さんと、果南ちゃんと・・・、

 

 

あと、7人もいるので」

 

千歌が振り返ると、校門の影から顔を出すAqours6人と、百香の姿があった。

 

百香は、小声でルビィにある指示を出すと、ルビィは茶色の紙袋を両手で抱えてダイヤの元に寄ってきた。

 

ルビィは、ダイヤの目の前で紙袋の中からある物を出した。

 

 

 

 

「これは・・・」

 

そう、出された物はダイヤのイメージカラーと同じ、赤色をベースにして作った衣装。普通ならこんな短時間で用意できない衣装だが、百香の提案により、前々から作られていたのだ。

 

「親愛なるお姉ちゃんへ。ようこそ、Aqoursへ!」

 

ルビィは、満面の笑みで、ダイヤに衣装を手渡したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aqoursか。懐かしいな」

 

「?」

「どういうこと?」

 

花火大会でのAqoursのステージが終わったあと、ふと、果南が呟いた。ルビィ、百香を除くAqours1、2年生は果南の言ったことにわからず、ただ、首を傾げただけ。

 

「いや、ね。私達のグループ名もAqoursだったんだよ」

 

「そうそう!」

 

果南と鞠莉が笑いながら答えた。

 

「嘘・・・」

「まさか、そんな偶然が・・・」

 

「みんな、乗せられたんだよ。誰かさんに」

 

Aqoursの中からざわめきが上がる中、果南はチラリと見た。Aqoursから目を逸らし、恥ずかしそうに腕を組んでいるダイヤを。

 




次回は12月中に更新予定です

時間的に余裕が出てきたので1話だけ番外編ストーリーを書きたいと思います

  • 渡辺百香と前世の娘
  • スクスタ時空─スクフェス!─
  • 百香とルビィの入れ替わり!
  • スクスタ時空─虹学・Aqours対決!─
  • ロリ辺百香
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