海上自衛官が渡辺曜の妹になりました   作:しがみの

64 / 87
お待たせしました!第3章最終話です。この次から4章に突入しますが、その前に番外編を挟みます。


第52話 梨子の決意

合宿2日目。

 

昨日に比べ、自治会の海の家にも人が入り始めていた。昨日に比べ、正午前で昨日と同じ人数が入っている。看板による宣伝はあまり実を結ばないのだが。

 

「急に増えましたわね・・・」

 

「SNSで宣伝されたからな」

 

「本当ですの!?」

 

百香は、ダイヤに自身のスマートフォンの画面を見せた。そこには、昨日の()()()という名の千歌のクラスメイトと八名の食事をしている姿を見て海の家の中に入った人がかなり良いと評価し、宣伝していたのだ。

 

特に曜のヨキソバはかなりの高評価で昨日よりも早いスピードで注文されていっている。鞠莉のシャイ煮は値段の高さゆえに嫌厭され、堕天使の涙はなんだかわからずに注文されないことが多い。好奇心で注文した客は嫌な目にあっている。

 

実はこれでも鞠莉と善子は努力した方なのだ。昨日のシャイ煮の値段は10万。さすがに一般市民には買えない値段だったため、今日は1,000円に値下げされていたが、メニューに載っている写真でシャイ煮を見ると汁が不気味な色のため、注文する人が昨日よりも増えたが、それでも両手で数えられる程度だ。

 

堕天使の涙は辛い。とにかく辛い。タバスコ大量とか殺す気かと思うのだが、善子の舌には平気らしい。さすがに今日の分はタバスコの量を減らした。それでもかなり辛いのはどういうことだ。今日は罰ゲームで買わされることが多いが、昨日より売れているだけいいとされた。

 

だが、

 

 

 

結局・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「また売れ残ったね・・・」

 

昨日よりも少ないが、大量の在庫となったシャイ煮と堕天使の涙がテーブルの上に積み上げられていた。

このペースだと、明日も売れ残るだろうという空気が漂い始めたが、曜の一言で在庫となった2つに光が差し込んできた。

 

「シャイ煮と堕天使の涙をカレーにしてみました!」

 

そう。曜得意の料理で2つを混ぜたカレーを作り出したのだ。見た目はアレだが、多分美味しい。

 

「名付けて〝船乗りカレーwithシャイ煮と愉快な堕天使の涙達〟」

 

「ルビィ死んじゃうかも・・・」

 

「じゃあ、梨子ちゃんから召し上がれ」

 

昨日、堕天使の涙を食べたら辛すぎて海岸を走り回った事と、林間学校の際に物体Xを食べた苦い思い出を作らされたルビィは、食べるのを拒んだため、梨子に毒味を押し付けられた。

 

梨子は、恐る恐るスプーンを手にし、周りの全員が梨子の様子を見守る中、ゆっくりとカレーを口の中に運んだ。

 

「・・・美味しい。こんな特技あったんだ!」

 

結果は、美味。その梨子の答えで全員がスプーンを握り、カレーを食べ始めた。曜曰く〝パパから教わった船乗りカレーは何にでも合う〟らしい。シャイ煮と堕天使の涙を混ぜたカレーが美味しかったのなら、本当なのだろう。

 

「ん〜!Delicious!」

「これなら明日は完売ですわ・・・」

 

「おかわりずら!」

 

Aqoursの面々がカレーに飛びつき、頬張っていた。その様子を見ていた曜は、一向にカレーに手をつけない千歌を見つけた。

 

「どうしたの?」

 

「何でもないよ。ありがとう」

 

千歌は、平気そうにそう答えていたが、曜には誰かのことを考えていることがわかってしまっていた。曜が千歌の視線の先を見ると・・・、

 

 

 

 

カレーを食べて笑い合う梨子と百香の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜3時を越し、千歌の部屋の中からは寝言と寝息しか聞こえないほど静かになっていた。

 

千歌のベッドを除いて畳の上に敷いてある布団は5つで、そこには梨子が一人で、ダイヤとルビィ、果南と鞠莉、曜と百香が2人ずつ同じ布団で、天井から吊り下げているサメの寝袋には善子、ベッドには持ち主の千歌が寝ている。

 

布団のうちの一つがモゾモゾと動いた。曜と百香の布団だ。

 

「ん・・・、んん・・・?百香ちゃん・・・?」

 

「・・・トイレ」

 

「ん・・・」

 

百香に抱きついていた曜は、ゆっくりと腕を離し、百香は自由の身となった。

 

百香は再び寝た曜を起こさないように慎重に布団の外に出て立ち上がった。梨子は寝ており、千歌はおそらく寝ているふりをしているだろう。

 

足音を立てずに1階に降りた百香は、車のキーを出した。全員が寝ている部屋でガサゴソとキーを探すのは不審がられるため、前もって靴の中に隠しておいた。

 

外は夏とはいえ、陽があたらない深夜はかなり涼しかった。百香は、車のサイドシートにあらかじめ畳んでおいたサマーパーカーを出すと、それを寝巻きの上に羽織った。

 

百香がやるべき事は1つ。学校の正門の鍵を開けることだ。この時間帯、学校の正門と昇降口の鍵は閉まっている。

 

 

普通ならば入れないはず。

 

そう考えた百香は、話をストーリー通りに進めるために車を浦女まで走らせたのだった。

 

 

 

 

 

浦の星女学院に着いた百香は、車を正門から見えない位置の裏道に停めた。千歌と梨子に見られたら怪しい車扱いされるかもしれないからだ。

 

校門の南京錠に職員室のキーボックスから借りてきたマスターキー鍵を差し込み、蛇のように校門に縛りついている鎖を音を立てないように外し、〝校門が空いている〟と分かるように少しだけ隙間をあけて中に入った。

 

職員玄関に周り、時雨先生に借りた職員のカードキーで警備を解除してからドアを開け、中に入り、正面昇降口の鍵を開け、音楽室の音や会話が聞こえる音楽準備室に移動し、楽器の間に隠れた。

 

やってることは犯罪スレスレだが、バレなきゃ問題ない。この学校は、昼は警備員が警備、夜は機械警備をやっているのに防犯カメラが職員室の一部区域を除き未設置のため、警備は結構甘い。しかも防犯カメラは金庫を監視するためだけで、キーボックスは監視していないかなりのガバガバ仕様だ。私立高校の警備がこんなんでいいのかと思うが、元々がアニメの世界のため、仕方ないだろう。

 

音楽準備室で30分くらい待つと、梨子と千歌の声が音楽室から聞こえてきた。

 

梨子はこの時、ラブライブ!の県予選と被ったピアノのコンクールを辞退しようとしていた時であった。

 

千歌は、どうにか梨子に東京のピアノコンクールに出させたいと思っていた。千歌のためではなく、梨子自身のために。

 

百香は、行動する千歌に敬服するが、その話に直接行動するわけでなく、影で千歌本人にも知られることなくサポートすることに徹した。

 

彼女は、Aqoursの10人目ではなく、Aqoursを、観客席から見るただの、1ファンでいたいのだ。ただ、前と違い、Aqoursと関わる回数は格段に上がったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

10分ほど経つと、ピアノの音が止み、扉が開く音がした。千歌と梨子が音楽室から出た音だ。

 

百香は、千歌と梨子が学校から出る姿を見るとすぐに昇降口の鍵を閉めて、職員玄関から外に出て施錠した。きちんと機械警備のスイッチも入れておいた。これで大丈夫だろう。

 

百香は、正門を施錠し、校舎裏の市道に停めておいた車に乗りこみ、千歌や梨子が向かう場所に先回りすることにした。

 

深夜帯なら内浦を縦断する県道17号は車通りが全くない。先回りは可能だ。え?制限速度オーバーしてるって?あんなん免許取ったあとなら誰も守ってねーから!無問題!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌は、梨子を先導しながら早朝の内浦を縦断する県道を自転車で走っていた。

 

長浜城跡地付近に建つJAの直販所を過ぎたあたりで1台のスポーツカーが抜かして行った。

 

 

 

────百香ちゃん?

 

 

 

運転席に一瞬だけ見えたシルエットが百香に見えた気がした。

 

 

ありえない。

 

千歌はそう思うと首をブンブンと振った。百香はまだ15歳。車を運転できる年齢ではない。

 

「千歌ちゃん?」

 

「ううん。なんでもない」

 

後ろからの声に答えた千歌は、ハンドルをギュッと握ると、もう一度、グイッとペダルを踏み込んだ。

 

千歌は長浜の三の浦総合案内所の前まで来ると、自転車を防波堤横に停めて、防波堤の上に登り、ゆっくりと座った。梨子もそれに続く。

 

千歌の目線の先には海の水平線があった。青黒かった水平線は少しずつ明るくなり始めていた。もうすぐ朝になる予兆だ。

 

「いい曲だね」

 

「千歌ちゃん・・・」

 

「すっごくいい曲だよ。梨子ちゃんがいっぱい詰まった」

 

少し間をおいてから千歌の髪がふわっと揺れた。

 

「梨子ちゃん」

 

呼ばれた梨子は、千歌の顔を見た。夜明けで明るくなってきていたのだか、千歌の顔はまだ見えない。

 

「ピアノコンクール出てほしい」

 

千歌のこの一言で梨子には衝撃が走った。梨子はラブライブ!静岡県予選と期日が被った完全にピアノコンクールに出ることを諦め、ラブライブ!の県予選に出場するつもりでいたからだ。

 

「こんなこと言うの変だよね。めちゃくちゃだよね。スクールアイドルに誘ったのは私なのに。梨子ちゃん、Aqoursのほうが大切って言ってくれたのに・・・。でも、でもね!」

 

「私が一緒じゃ、嫌?」

 

当然、梨子の中にはこういった感情が芽生えた。〝私だからダメなんだ〟と。しかし、結果的に言うと、それはただの杞憂でしかなかった。

 

「違うよ!一緒が良いに決まってるよ!思い出したの。最初に梨子ちゃん誘った時のこと」

 

千歌は、昨日旅館で梨子の母が志満に梨子のピアノコンクールについて話していたことを立ち聞きして、梨子をスクールアイドルに誘った時のことを思い出したのだ。忘れてしまった、あの時のことを。

 

「あの時私、思ってた。スクールアイドル一緒に続けて、梨子ちゃんの中の何かが変わって、またピアノに前向きに取り組めたら素晴らしいなって。素敵だなって!そう思ってたって・・・」

 

「でも・・・」

 

立ち上がった千歌は梨子に手を差し出した。気づいた時には太陽が水平線上から顔を出し、千歌の顔ははっきり見えていた。

 

「この町や学校や、みんなが大切なのはわかるよ。私も同じだもん。でもね。梨子ちゃんにとってピアノは同じくらい大切なものだったんじゃないの?その気持ちに、答えを出してあげて。

 

私、待ってるから。どこにも行かないって、ここでみんなと一緒に待ってるって約束するから。だから・・・」

 

梨子は、千歌の差し出した手には握らず、代わりに千歌に抱き着いた。その梨子の眼には涙が浮かんでいた。

 

「ほんっと、変な人・・・」

 

 

 

 

 

「大好きだよ・・・」

 

千歌に抱き着いていた腕を解いた梨子は、そう言った。




次回はアンケートをとった番外編です。
更新予定日は2月19日です。










次章予告

夏が本番になり始めた時、百香のスマートフォンに一件の連絡が入る。

返答に困った百香は回答の猶予をもらった。

しかし、時は待ってはくれない。

想定外な言葉

突然の裏切り

穏やかな空間はたちまち怒号が飛び交う空間に変貌した。

だんだん追い詰められていく百香。

彼女が出した答えとは・・・

次章「海ハ澄ンデモ雨止マヌ」

狂った歯車は戻らない。

時間的に余裕が出てきたので1話だけ番外編ストーリーを書きたいと思います

  • 渡辺百香と前世の娘
  • スクスタ時空─スクフェス!─
  • 百香とルビィの入れ替わり!
  • スクスタ時空─虹学・Aqours対決!─
  • ロリ辺百香

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。