百香が運転するR33は、行きと同じような運転をしながら渡辺家の駐車場に停車した。
帰りも鞠莉が声にならないような悲鳴をあげていたが、千歌は姉である美渡の運転も似たようなものであったのか、全く悲鳴をあげること、そして、呻き声や驚いた声すらも出さなかった。
「よし、着いたぞ」
百香は、車のエンジンを切ると、玄関に移動して外出時に使っているトートバッグの中から玄関のカギを取り出して、防犯のために掛かっていた玄関のカギを開けた。
「お邪魔しまーす・・・」
千歌が恐る恐る玄関から屋内に入ると、屋内は車の音が聞こえる屋外に比べ、しんとしていた。
「かなり静かね。いつもこうなの?」
「まあ、いつもはな。でも、千歌にとっては違うんだろ?」
「そうだね・・・。私が来るときは、いつも曜ちゃんが出迎えてくれるから・・・」
千歌は、靴を脱いでいるところに、千歌用のスリッパを用意しながら問いかけてくる百香にそう答えた。
「そう。チカッチにとって、この光景は異常なのね・・・」
「少なくとも、今のところはそうだね」
来客用のスリッパに履き替えている鞠莉を横目に、すでにスリッパに履き替えていた千歌はそう答えた。
千歌の目線は、閉じられた玄関ドアに向けられていたが、頭は別の場所に向けられているような感じであった。そのことは、百香も、鞠莉も薄々感づいていた。
第11話(64話)
──雲ヲ晴ラス
「じゃあ、これから曜の部屋に向かうぞ。準備はいいか?」
階段横の壁に手を付けながら百香は千歌と鞠莉の顔を見た。
千歌も、鞠莉も覚悟を決めた目をしていた。準備は完了だ。
よし──
百香は覚悟を決めて階段を上り、一番最初のドアの前に立った。そう、曜の部屋の前だ。
「曜姉、曜姉」
コンコン、と軽くドアを叩くが、中からの応答は無い。
「曜。居るんだろ?居ないなら開けるぞ」
百香は一度中に誰もいないことを確認してからドアを開けようとしたが、ドアにはカギが掛けられており、曜の部屋の中に入ることができなかった。
その後も、何回か木目調のシールが張り付けてあるベニヤ製のドアをドアノブでガチャガチャと動かしたが、カギが引っ掛かり、結局ドアは開かなかった。
「クソっ。カギを掛けてやがる」
「カギとかは無いの?」
「これは完全な内鍵だ。外に鍵穴はねえ・・・」
百香は〝クソっ〟といった顔をしながら千歌と鞠莉の顔を見た。
内側からカギがかかっているということは、間違いなく曜はこの部屋の中にいる。だが、どうやって曜の部屋の中に入ればいいのか、皆目見当がつかなかった。
「さすがにドアを破るのはやりたくないな・・・」
「ちょっといい?」
「え?ああ・・・」
百香がドアに手をついたところ、千歌が百香にある提案をしてきた。
「私が曜ちゃんを説得してみる。それで無理だったら、ドア、破ってもいい?」
「え・・・?」
「破ってもいい?」
「あ、ああ・・・」
千歌が百香に最終手段としてドアを破っていいか聞いてきた。しかし、聞いてきたとは名ばかりで、千歌は最終手段としてドアを破る気満々であった。
その時の千歌の顔が気迫に満ちた表情であったため、百香は押されてそれを承諾するしかなかった。
だが、それを承諾しても、流石にドアを破ることはしないだろうと百香は高を括っていた。
「曜ちゃん?部屋に引きこもってどうしたの?私に話してみてよ」
千歌は、〝コンコン〟とドアを叩いた手をドアにつけ、優しい声で部屋の中にいるであろう曜に話しかけた。
「曜ちゃん。大丈夫だから・・・、ね・・・?」
「無理だよ・・・」
千歌の2回目の呼びかけで曜はようやく返事をした。その声はとても弱弱しく、いつものような元気いっぱいな曜とはかけ離れていた。
「何で?」
「私、鞠莉ちゃんに酷いこと言っちゃった・・・。私、鞠莉ちゃんに顔向けできない・・・。私のことを心配してくれたのに・・・」
「ちゃんと謝れば大丈夫だよ!鞠莉ちゃんも曜ちゃんの事情わかってくれるよ!」
「無理だ!そんなこと!」
ドア越しに、曜の悲痛な叫び声が聞こえた。
それは、百香が過去に一度しか聞いたことのない、叫び声だった。百香がその声を聴いたのも、百香が無理をしたことによってケガをしたことで曜が怒ったときにしか聞いていなかった。
そう、叫び声を聞いたのはそれっきりだったのだ。それほど、曜は追い詰められていたのだ。
「そんな簡単にあきらめないでよ!」
「無理だよ・・・。もう一杯一杯だよ・・・」
また曜の声は弱弱しいものに戻っており、先ほどからの叫び声からは想像できない声になっていた。
「百香ちゃんのことも、千歌ちゃんとのことも、鞠莉ちゃんとのことも──
本心で話すことが怖い。相手がどう思っているのか、私のことをどう感じているのも、知るのが怖い・・・。もしかしたら、梨子ちゃんが居る千歌ちゃんにとって、私はいらない子なんじゃないのかって・・・。
でも、そんなことは言えなかった。怖いんだ。今の人間関係が壊れるのが・・・」
「そんなことないよ!私と曜ちゃんとの関係はそんなことで崩れたりはしないよ!」
どんどん小さくなっていく曜の声に対し、千歌はドアをドンドン叩き、曜を部屋の中から出そうとした。
「もうダメ。我慢できない・・・」
5分から10分ほどドアを叩き続けた千歌は、ため息をついてドアから離れた。
「百香ちゃん。ドア、破るよ」
「あ、ああ」
百香は少し困惑しながらも、千歌にドアを破る許可を出した。なお、壊した後、怒られるのは百香と曜なのだが。
「ふっ!」
千歌は、百香が持ってきた洗ってから外に出していないシューズを履くと、思いっきりドアを蹴った。
〝バキッ〟
ドアが大きな音を立てた。
ドアは、頑丈なもので作られていると思われがちだが、一般家庭につけられている屋内ドアはたいていが木製の枠組みにベニヤ板を打ち付け、それに木目調のシールを張り付けただけの、所謂ハリボテ。
こんなものが蹴りに耐えられるわけもなく、すぐにドアにヒビができ、小さな穴が開いた。正直、蝶番を壊せば部屋に入れると思っていたのだが、ドアが壊れてしまうのは、百香の斜め上的な結果であった。
「もう一発、行くよ!」
ドアが壊れるとは思っておらず、驚きながら立ち尽くしている百香と鞠莉の横で、ドアを壊すために千歌は構えのポーズをとった。
「せいやッ!」
もう一発、蹴りがドアに直撃し、向こう側が見えるような小さな穴が開いた。
「開いた!」
「千歌!カギを開けろ!」
「りょーかい!」
百香の指示とともに、千歌は向こう側を覗けるような小さな穴を無理矢理こじ開け、向こう側に腕を通せる程まで穴を広げた。
「千歌。変われ」
「うん」
百香はドアのカギの位置を知っているため、千歌と位置を交換した。この時、百香は立ち位置交換と同時に鞠莉にも指示を出していた。
その指示は、
〝隠れていろ〟
という、指示合図だった。
この合図を出したら隠れていろという指示を鞠莉は守り、鞠莉はそっと百香の部屋のドアを開け、中に隠れていった。
ちなみに、鞠莉が2階に上がった時からずっと話さなかったのは、曜に鞠莉が居ることを感づかれないようにするためだった。もし仮に、曜がドアを開けたようと思った時、鞠莉が居ると分かっていたら、気まずさから、開けるのを躊躇するかと思ったからだ。
「開けるぞ」
小声で千歌に言うと、こくりと頷き、腕をドアから抜いて百香にドア前を譲り、後ろに下がった。
百香は右腕をすぐさまドアの穴の中に入れると、手探りで内鍵を開けた。それは手元が見えなくても、数秒もかかっていないくらい早かった。
「行くぞ」
ドアを開けた百香は、千歌とともに暗い曜の自室へ吸い込まれていったのだった。
時間的に余裕が出てきたので1話だけ番外編ストーリーを書きたいと思います
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渡辺百香と前世の娘
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スクスタ時空─スクフェス!─
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百香とルビィの入れ替わり!
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スクスタ時空─虹学・Aqours対決!─
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ロリ辺百香