悪役踏み台転生者のささやかなる復讐劇   作:零裂

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ささやかなる復讐劇、あるいは喜劇:2

 ーー夢を見ている。

 そう自覚出来たのは俯瞰するような視点で昔の自分を見ていたからだった。見下ろしている景色に見えるのはオレが育っていた児童養護施設の一室で辛気臭い顔をしているガキだった。親に捨てられ、この養護施設に保護されてからはそこで育った今世のオレが応接室のソファに座っていた。

 児童養護施設の所長と昔のオレが並んで座り、対面には三十代くらいと思われる痩身の男性が座っている。

 

『……ではこちらが君を引き取ってくださる桐崎総士さんだ。総士さん、この子は少し無愛想だが、賢く、礼儀も弁えている。貴方のような里親がこの子を引き取ってくださるとこちらも安心出来ます』

『いえ、僕はそんな大層な人間ではありませんよ。今回里親になろうと思ったのも単なる思いつきからです。とはいえ、一人の親となるからにはきっちりとこの子を育てていきたいと思っています。仁くん、これからよろしく頼むよ。これから僕達は()()だ』

 

 所長と男性が和やかに言葉を交わした後、男性が昔のオレに向かって手を伸ばした。どうやら握手のつもりらしい。昔のオレはその手を握り返し、

 

『……よろしくお願いします総士さん』

 

 と無愛想に返していた。何ともまあ可愛げのないクソガキである。自分のことながらこうして眺めていると無性に腹が立つ。あるいは自分だから腹がたつ立つのかもしれないが。

 だが男性ーー総士さんはそんなことを気にも留めずににこやかに頷き、手を握り返すのみだった。

 

『では細々とした書類や手続きの方も大体済んでおりますので、私はこの辺りで失礼させていただきます。新しい家族の時間を邪魔するのも気が引けますので』

 

 そう言うと所長はそそくさと書類をまとめて応接室を立ち去った。あの人はあの人で忙しいのだろう。そして後には昔のオレと総士さんが残された。何か言いたげな表情をしている昔のオレは何度か口を開けては閉じてを繰り返し、そしてついに言葉を発した。

 

『何でオレを引き取ることにしたんですか』

『何で…とは?』

『オレは自分で言うのも何ですけど可愛げがない子供だと思います。この施設には他にも子供は沢山いるし、オレより素直で言うことを聞く子だっています。それにオレは里親なんかいなくたって、一人でだって生きていける。今からでも遅くありません、オレは引き取るのはやめて他の子をーー』

 

 そこまでまくし立てた昔のオレの眼前に総士さんは人差し指を立てた右手を突き出した。突然のことに驚き、言葉も動きも硬直した昔のオレに対して総士さんはこう言った。

 

『一人でだって生きていけるだって? 君のそれは酷い思い上がりだよ。付け上がっていると言い換えてもいい。いいかい、人は何時だって何処だって一人では生きていけない。それは大人も子供も関係ない、一人の人間として当然のことなんだよ』

 

 そこまで言うと総士さんは懐から煙草を取り出し、ジッポで火をつけて口に咥えた。しゅぼっという音ともに火の灯った煙草を燻らせ、総士さんは座り直した。

 昔のオレはその言葉に、すこしむっとした様子で反論を続ける。

 

『……例えそうだとしてもそれはオレを引き取る理由にはなってないじゃないか。それなら別にわざわざオレみたいな無愛想で生意気な子供を引き取る必要なんかないだろ。それとも何かオレを引き取る理由なんあるのかよ?』

『理由……理由か。それなら僕はこう答えよう。無愛想で生意気な子供を引き取るのに理由なんかいるのかい?』

 

 その答えに唖然とした様子を昔のオレは隠せていなかった。当然だろう、誰だってこういうシチュエーションで無愛想な子供なんぞ引き取りたくはない。それを平然とした様子で総士さんは否定したのだ。

 

『い、いや、確かに理由はいらないかもしれないけど逆に引き取る理由がないだろ。マイナス要素はあってもプラス要素はないんだぞ?』

『マイナス要素とかプラス要素とかそんな小難しく考える必要なんかないのさ。強いていうなら、そうだな……君が一番不幸そうな顔をしてて僕が引き取らないと誰も引き取らないだろうと思ったからさ』

 

 オレが不幸そうな顔をしていると言われたまたもや昔のオレは唖然とした間抜け面をしていた。転生していて他の同年代より、精神も知識も発達しているはずのオレが他の子供より不幸そうな顔をしているはずはないのだ。実際今のオレから見ても昔のオレが不幸面をしているようには見えなかったのだから。

 全く納得がいかない様子の昔のオレを見て総士さんはソファから立ち上がり、煙草を燻らせながらこう言った。

 

『さあもう問答はいいかい? 君はどうあれもう僕の()()だ。こんな変な男に目を付けられたと思って諦めるんだね』

『……じゃあ最後にもう一つだけ。ーー煙草はやめた方がいいと思う。()()が早死にするのはオレも嫌だし、子供に副流煙は毒だろ?』

 

 一方的にやりこめられるのが嫌だった当時のオレのせめてもの抵抗に総士さんは目を丸くすると、シニカルに笑いながら素早く煙草を揉み消した。

 

『なるほどーーこれは一本取られたね、文字通り』

 

 微かに残る紫煙が照明に照らされて、立ち上っていくのが見えた。

 

 

 

 

 

 それからオレと総士さんは()()になった。前世も含めて養護施設育ちのオレには一般的な家族というモノがあまりよく分からなかったが、それでもーーオレ達は()()だったと今でも思っている。

 

『やあ仁、また新作が出来たんだけど試食してみないかい? 大丈夫、前回はちょっとばかし失敗したかも知れないけど今回は自信作だ。開発中のスイーツパスタシリーズその4モンブランパスタさ!』

『あのさ……そのスイーツパスタとかいうシリーズ止めようって話オレしたよな? 何でまだ開発してんだよ、何でオレに試食させんだよ、しかもよりによって何でチョイスがモンブランなんだよ!』

『料理というのは試行錯誤の結晶なのさ。一見不味いと思える組み合わせが珠玉の一品を生み出すこともままある。仁には味見役としてその偉業の貢献者の1人になってほしいという僕の粋な計らいだよ。ほら、騙されたと思って』

『仕方ないな、とりあえず食べてみるよ……クソ不味っ!? モンブランの濃厚な甘味と栗の風味が鼻を抜けていくと思ったら何故か魚介類が練り込まれたパスタの風味が混ざりあって普通に不味い! せめてパスタが普通だったらまだ食えたのに何でこんなパスタ生地が魚臭いんだよ!』

『いやあ魚とデザートって合わないけどそこを開拓できれば新しいステージに進めると考えたんだよ。この喫茶店も新しい客層を取り込めるに違いないってね。うん……まあ失敗したけどね』

『美味いとか嘘ついてまで失敗作を人に食わせんな!』

『そりゃあ僕だってさっき食べたけど不味いと思ったさ。でも僕だけこんなものを食べるのはなんか不公平じゃないか?と思って我が息子にも同じ気持ちを味わって貰おうと思ったんだよね』

『子供かよ総士さんは……』

 

 総士さんと過ごす日常は騒がしくも楽しかった。照れ臭くて父さん、とは呼べなかったけれど。いつまでもこんな日常が続くと、続けばいいと願っていた。

 

 ーーだが神様(クソ野郎)はそこまで優しくなどなかった。

 

 場面が、移り変わる。次に見えたのは昔のオレの目の前に総士さんが、とある病室のベッドで静かに横たわっている光景が映し出されていた。車で外出した際、()()()交通事故に遭ってしまったらしい、と当時のオレは後から警察に聞かされたものだ。

 

 話をしてくれた警官は所々言いづらそうに言葉を濁していたが、どうやら総士さんは植物状態になってしまったらしい。治療は最善を尽くしているようだが、目覚めるかは分からないということだ。そこでオレは初めて思い知らされたのだ。ーー神様から与えられた悪役の呪いというやつの効力を。悪役として行動しなかった故に襲った不幸という名の呪いだと直感的に気付いた。

 

 総士さんはオレが転生者だからこそこんな目に遭うことになってしまったのだ。その事に気付いたオレは愕然として、次に絶望した。オレがこの人のそばにいてはいけないのだ、と。転生した記憶を持つオレは大層子供らしくなかっただろうに、総士さんは精一杯の愛情を注いでくれていた。そんな総士さんにオレは絶対に恩返ししようと考えていたが、皮肉にもオレが出来るせめてもの恩返しはーーもう関わらないことしか思いつかなかった。

 

 植物状態自体はオレの蔵の中に入っている無数の宝具を使えばどうとでもなる。が、それは問題ではないのだ。オレが総士さんの傍にいればこれ以上の災いが降りかかることになるかもしれない。それで総士さんが死んでしまったらもう、王の財宝の宝具を使っても無駄だろう。死者の蘇生などという奇跡は宝具でも起こり得ない。

 

 決意する。総士さんはオレの呪いのせいで運悪く交通事故に遭い、運悪く植物状態になってしまったのだ。だからオレはーー桐崎仁(オレ)を捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嫌な夢見ちまった」

 

 沈んでいた意識が覚醒すると、そこは見慣れた天井だった。アースラの内部にあるオレの自室のような部屋の天井である。高町達と同じように、嘱託魔導師として管理局に仮所属しているオレは仮の自室のようなものを与えられていた。これはオレが定住している住居がないことも要因の一つだろう。

 ーーさて。とりあえず現状の把握からだ。オレの手甲型アームドデバイス『シュヴァルツ』を手に取ると、時刻を表示する。この時刻ならオレが模擬戦で工藤に気絶させられてから、三時間と少しといったところか。もう少しで深夜に差し掛かろうという時間帯だ。

 オレの策を実行するには絶好の時間帯だ。策に必要なモノは全て揃えてあるし、あとはタイミングだけでオレの復讐は可能になるというところだった。皮肉にも呪いから解放されたからか、存外オレは運がいいらしい。

 

「シュヴァルツ、偽装解除。展開、偽典・王の財宝」

 

 オレはこの時のためにシュヴァルツに掛けた偽装を解除する合言葉(トリガー)を唱えた。すると、ただのアームドデバイスだったシュヴァルツが一筋の光を放ち、金色に輝く様々な装飾を施された箱になった。

 この偽典・王の財宝こそがオレの切り札の一つにして、復讐の重要な駒だ。オレの転生特典であった《王の財宝》は確かに神様に取り上げられた。そして《王の財宝》がないからこそ、オレは何も出来ない、物語に影響することのない存在だとあの神様は思い込んでいる。

 だが、さすがにそれは舐めすぎというものだ。ヤツが取り上げたのは特典である《王の財宝》とその中身のみ。つまりーーオレがこの世界に転生した後に収集したロストロギアは含まれていない。この偽典・王の財宝はオレが様々な次元世界を巡って集めたロストロギアの一つで、こいつは4次元ポケットのような機能を有している。この中にはオレが収集したあらゆるロストロギアが収められているわけだ。ちなみに名前は適当にオレが決めた。いちいちロストロギアの名前なんざ調べてる暇はないのだ。

 

「……神様に回収された形跡はなし、と」

 

 一応神様にコイツも回収されることを危惧して、中身の確認をしてみたが杞憂だったようだ。偽装も施していたし、当たり前ではあるが。

 ふう、と軽く息を吐いて目的のモノを取り出す。それは歪んだ金色のリングに嵌められた透き通るほど透明なレンズ。高度な遠視の魔法が組み込まれたそいつに魔力を通して起動させる。すると目的の人物は現在、オレがさっきまで戦っていた演習場に独り佇んでいた。絶好のチャンスである。

 遠視のレンズをしまい、偽装を戻したシュヴァルツを着けて立ち上がる。ーーさて、始めようか。オレによるオレの為だけの神様(クソッタレ)に対する復讐劇を。どうせなら喜劇(ハッピーエンド)を添えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、不景気なツラしてるじゃねえかよ。何か悪いことでもあったか管制人格さん?」

 

 演習場に佇む人影にへらり、と笑いながら声をかける。長い銀髪をなびかせて振り向いた人影は女性にしては長身だった。闇の書の管制人格リインフォース。その本人がこちらを振り向き、その紅眼でオレを睨みつけていた。

 その視線を物ともせずに演習場の中に足を踏み入れる。オレと工藤が派手にぶっ壊したはずの演習場だが、今は十全に修復されているようだった。さすがは時空管理局の技術力といったところか。ーー俺にも都合がいい限りで何よりだ。

 

「……貴様には関係ないだろう」

「おっとこいつは辛辣だな。まあ確かにオレには関係ないかもしれない。じゃあ誰に関係あることなんだろうな」

 

 オレの言葉を聞くと、リインフォースは形の良い眉を僅かにしかめた。こいつにとっては触れられたくないところなのだろう。しかも悪役であるオレにその話題に触れられて不快感倍増って感じが見て取れる。割合、素直に感情が読み取れる手合いだな、と心の中で思う。

 ーーやりやすくて助かる。

 

「もういい。本題に入れ王崎神也。貴様は何の用で演習場(ここ)に来た?いや、それとも私に用があるのか」

「その通りだよ闇の書の管制人格リインフォース。ちょっとお前に頼みがあってな」

「ーーは。何を言い出すかと思えば私に頼みだと? そんなものを私が受ける訳がないだろう。散々主を罵倒して、場をかき乱すだけかき乱して邪魔をし続けたお前に。私が協力する理由がどこにあるという?」

 

 オレの申し出は強硬に突っぱねられた。当然といえば当然の結果だ。なんせオレは絶賛嫌われ中の身なので、誰も頼みなんざ聞いてくれるわけは無いのである。しかしこの返答は予想の範疇である。故に俺が返す言葉も決まっている。

 オレはオレの復讐を完遂するために何度もシミュレーションしてきた。この程度のことは当然想定に入れてある。

 

「いやいや、お前にはオレの頼みを聞いてもらう。聞くしかないはずだ、リインフォース。闇の書と同一存在であるところのお前を生かしておくと、いずれ闇の書はまた復活する。闇の書を復活させないために明日にはこの世から消えようとしているんだろう、お前は? だからこそお前はオレの頼みを聞くしかない」

「貴様は……何を……何故そのことを知っている」

「オレが何で知ってるかは重要じゃないんだ、今は置いとけ。それよりもそろそろオレの頼みを言おうか。諸々の事情を踏まえてアンターー」

 

 ーーちょっとオレに救われてくれねえ?

 

 

 

 

 




大変遅くなりました。次の更新もおそらくかなり遅くなるかと思われます。
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