Blackest Nightmare   作:パン粉

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「いたたたた……」

「あれ、グスタフ大佐。お怪我ですか?」

「ちょっとね。訓練でハッスルしすぎたみたい。心配しないでください」

 

 組合後にシャワーを浴びてから、サーシャは事務仕事をするために所長室へと向かった。骨のズレや打ち身を久々に経験し、中々新鮮な一日ともなったが、身体が少しだけ泣いている。そんな中で目的地に辿り着けば、創龍がコーヒーを飲みながら日報などを読んでいた。

 

 ふむふむ、とノートをめくる。腐っても機密情報であるし、彼はイギリス軍人だ。あまり見せていい情報ではない。しかし、それをイギリスに持ち帰る気は彼にはないだろうし、元々ここの所属なのだから、大した問題もない。一時期、大尉でここの所長になっていたのは彼だ。

 

「文書で下書きしてからメールで送ってンの?」

「はい。PCばかりに頼っていると文字が書けない、とかなりそうなので」

「今時の子供か」

「失礼な。慎重派といってください。それに、あなたとは2つしか歳が違わないじゃないですか」

「モノは言いようだな」

 

 机にそれを置く。柔和な性格が出ている文字のインクが、照明の光を反射した。コーヒーサーバーにおかわりを求めて足を運べば、サーシャの分も淹れて彼女に渡す。ホカホカとした部屋の中で部下がドアをノックし入ってきては、創龍を見て敬礼をする。

 

 今は別の軍にいるということも承知、そして彼はロシアの英雄として顔も中々知られていた。サーシャのことは言うまでもないが、彼は尊敬に値する人物で、カリスマ性も人一倍ある創龍を見ては握手を求めた。嫌な顔一つせずに彼はそれに答えてやり、しっかりと手を握った。

 

「ところでブラックモア大佐は、今日はどうしてお越しになられているので?」

「しばらくオフなんだ。古巣に顔出すついでに、コイツに少し稽古を付けてやろうと思って」

「こうやってデスクワークばかりだと身体が鈍ってしまいますからね。私の相手が出来るのはアルトレアくらいですよ」

「確かに……」

 

 コートを着ていながらもわかる、その身体の出来上がり方は一朝一夕で作られるはずがない。これに柔軟性とスピードまで兼ね備えているのだから、戦闘としては何一つ不自由がないのだろう。それはサーシャも同じであった。女性が羨むスタイルの彼女の肉体も、しなやかで強い筋肉がしっかりとついていた。現に腕相撲などの力比べは、ここの隊員で彼女に勝てるものなどいない。それがデスクワークばかりの鈍りかけの身体でもだ。

 

 今日の夜間哨戒の面子を確認して、サーシャは食堂へと向かう。部下が訪ねてきた理由はその報告だ。彼女に創龍と部下はついていき、サーシャとしてはもう見飽きて、創龍から見れば懐かしい部屋へと入る。暖房の効いた暖かな食堂にサーシャが入れば、そこの部下達が一斉に立ち上がって敬礼をした。サーシャも返すが、すぐに楽にしていいですよという。その隣の創龍にも敬礼をしてから、ガヤガヤと食事に戻った。

 

 二人並んでトレイを持ち、バイキング形式で食事を取る。創龍が食べてもいいのかという疑問は誰も持たない。この基地の英雄であるのだから、というのもあろう。

 

 料理人でさえも創龍のことは知っていた。創龍はサーシャの前にここの長をしていたのだ、知られていて当たり前なのだ。常人より少し多いくらいの量を取って一緒のテーブルに二人は向かい合って座り、各々のメニューを食べ始めた。

 

「……俺の時より味いいじゃねェか」

「あー、2年くらい前にすごく腕の立つ人を雇ったんですよ。その人が教育してくれたおかげですかね」

「そんな人材まで登用出来るほど余裕あるのか。羨ましいなぁ」

 

 創龍時代のコシュマは毎日復興作業と訓練で中々他の事に手が回らなかった。大暴れした責任はとれよ、と陸軍本部からは何も手助けは来なかったのだ。上層部からいたく嫌われていた創龍なので、仕方なく黙々と直し、重機まで動かしてやっとこさ運営にこぎつけたかと思いきや、1年足らずで左遷。スペツナズからイギリスに飛ばされ今に至るというわけだ。

 

 ブルーベリーのスムージーを飲み干したサーシャはそれだけをおかわりしに行った。まだ彼女のビーフシチューとシーザーサラダは残っている。創龍は自分のボルシチを平らげ、デザートに取っておいたヨーグルトのフルーツ乗せを食べだした。

 

 

 

 夜間哨戒の時間中に創龍は基地の外に出た。サーシャは基地長室にてストレッチをして、日頃の疲れを取っている。持参のBIZONカスタムを片手に基地の外周を回りだした。

 

 一見、何もなさそうな気配。平和が一番いいのだが、頭の中には常にイレギュラーを想定している。すれ違う兵士にもそれがわかっているようで良く洗練された兵たちだ、と創龍はサーシャの育成方法に賛辞を送った。

 

 自分がサーシャの教官であったとき、戦闘の事以外はあまり教えなかった覚えがある。しかし自分で勉強してあのように立派な人物になったのだ、誰もが認めているに違いない。コシュマグラードのクーデター事件に於いて、兵から一気に少尉へと進級した時は驚いたが。

 

 あの事件で、基地の人間殆どが死に絶えた。軍事基地としてかなり大掛かりで要塞とまで言われたここが。人材も無くなり、そしてその事件の大きさ故に普通では有り得ない昇級をさせたのだ。創龍だって軍曹からいきなり大尉になってしまったのだから。

 

「ブラックモア大佐、お務めですか?」

「いや、暇だったもんでな。お前らの手伝いでもしようかなと」

「とてもありがたいです。"コシュマの黒龍"ともあろうお方にお手伝いしていただけるとは……」

「今は嫁さんの尻に敷かれたオジサンだけどな」

「え?ブラックモア大佐、23でしょ。おじさんってほどではないでしょ」

「子供いるとオジサン扱いされるのが一般的らしいぜ?」

「じゃあ大佐、ここの基地長時代からおじさんじゃないですかぁ」

「19でおじさん……ま、そういうことになるか」

 

 話している相手は子持ちのようだ。子供の世話も大変ですよね、だとか、嫁さんと愛息に会いたいなだとかの愚痴を創龍が聞いてやる。相槌を打ち、それに応答したりと充実した夜間哨戒になりそうで、この要塞に攻めてくるバカはいないだろうと誰もが信じていた。

 

 そこから彼は離れて、また別のポジションに移動する。基地の敷地内ギリギリ、フェンスに背中を預けていた時に向こうから懐中電灯で照らされる。なんだ、と待っていれば、長く綺麗な青い髪をした女性が、黒塗りの日本刀を持ってやってきた。どうやって入った、と創龍は彼女に聞く。どうやら知り合いのようだ。

 

「守衛に話したら。私はアルトレア・ブラックモアとサーシャ・グスタフの友人だと。サーシャさんとビデオ通話で入れてもらいました」

「警備激甘なのか何なのか……。キリエ、死魂なんか持ってきてどうしたよ」

 

 キリエ・レイソン――異世界にて、創龍と共に生命を削って戦った戦乙女。現在の仕事の相棒であるが、キリエは創龍とサーシャこそが最強の二人だと考えている。今回その場にいなかったのもあるが、話を聞けば適役だとしてその行く末を見届ける事にしたらしい。

 

 今回は便利屋と軍部からの支援物資を届ける運び屋として動くらしい。黒塗りの日本刀、死魂は創龍やサーシャにとって曰く付きの刀。そして敵であり友人であった男の遺品でもある。その男は、この地で、この手で始末した。

 

 刀を受け取り、腰に差す。冷えた吐息が宙で交錯し、キリエはロリポップを咥えだした。

 

「どうですか、久々のコシュマは」

「外はなーんも変わってねェ。だが中身はガラリと違うな。兵の練度、指揮官の有能さ……。サーシャにしか出来ねェだろうな」

「一介の電気屋の娘さんが、大出世したものですねぇ」

「本人も思ってなかっただろうさ。アイツ、入隊志望は"大事な人を守る為の力が欲しい"。なら武道でもいいだろ、と思うが、更に金が入れば家族の為にもなるってさ」

「良い娘じゃないですか。21にしては立派ですよ。士官学校は出てないのに、独学で昇級試験まで突破して、貴方を師として崇め……」

「そこだ、惜しむべき所は。俺が師なのがちょっとな」

「何言ってんですか、創龍だから成長したんでしょう」

「本当……自虐するのは得意ですね」

 

 呆れた様にその当人はやってくる。腰に手を当て、軍服の上に白いジャケットを羽織り、片手にはM500リボルバーを持っている。そうだ、とキリエは創龍とサーシャに話し出す。今回死魂を持ってきた経緯を。

 

 

「私が……日本刀ねぇ」

「使い慣れてないだろ」

「まあ……。でも、ペトロフさんのを見たし、感覚で使えればいいでしょう」

 

 基地の広い所でサーシャが死魂を試している所を創龍は見守る。戦車に腰掛けては、そのセンスを褒めた。使うのははじめてなのに、どうしてこうも使い慣れてしまうのか。最初に手に入れた魔具だってそうだ、生まれながらにしてのセンスというものがずば抜けているのだ。

 

 腰に鞘を置いて、一呼吸置く。眼を閉じて、そのまま柄に手を掛ければ、一閃。一気に鞘から剣を抜いた。

 

 降る雪すら真っ二つの斬れ味。氷よりも冷たい鋭さに、サーシャと創龍の口笛がハモって鳴る。そしてちょうど、"お客さん"が姿を現してくれた。

 

「どうする、サーシャ。いい実戦テストだぜ」

「みたいですね。では、私がやりましょう」

「わかった。楽しめ」

 

 鉄槌を携え、黒い袋を被ったような、馬の顔をした二足歩行の動物。それはどう見てもこちらに敵対心しかなかった。それをサーシャは見てニヤリと笑い、これからのパーティーに大暴れしようと企んだ。




主人公紹介.2

名前:サーシャ・グスタフ
性別:女
年齢:21
国籍:ロシア
所属:ロシア陸軍特別強化訓練基地コシュマグラード司令官長兼基地長
階級:大佐
身長:175cm
体重:60kg
スリーサイズ:B93,W58,H75
髪型:ブロンドのロング
アイカラー:サファイア
趣味:機械いじりや工作、子供と遊ぶこと、生き物と戯れる、料理、様々な勉強
好きなもの:日本全般、麻雀、コシュマグラードで一般市民との交流、家族、便利屋"Black Cherry"
嫌いなもの:宗教や神といったモノ、レイシスト
特技:射撃(特に狙撃)、空間把握、乗り物の操縦、スポーツ全般

[詳細]
ロシア陸軍生え抜きの精鋭。16歳で入隊し、創龍に教えを受けた、諜報・戦闘・潜入などを難なく熟すエキスパート。射撃センス、特に狙撃に関しては人間離れしており、4km以上の敵の頭部にすら命中させる怪物。なお、格闘術でも抜きん出ていて、世界で最強と噂される美人兵士。

その実力から"ロシアの魔王"と尊敬される。

5年前のコシュマグラード事件を創龍と共に解決した。その時に創龍の血を身体に取り込み、悪魔の力を手に入れるものの、その力を無闇矢鱈に使おうとしない。また力にもあまり興味はない。

他人への思いやりは人一倍強く、指導に当たるときはうまく飴と鞭を使い分ける。そのことから創龍の後任としてコシュマグラードの基地長に就任。

また努力家であり、士官学校を出ていないながらも試験を通る事によって佐官クラスまで登り詰めた。その為信頼やカリスマ性も高い。また男性から見下される事も多いが実力によって完膚なきままに叩きのめして憧れとされることがほとんど。

実家は電機屋で、幼い頃から機械いじりを趣味としている。また自身の給料は家族や募金などに回している。

陸軍ながら様々な乗り物を操縦することが可能。

性格は普段は優しく朗らかで差別をすることはない。しかし怒らせると怖く、師として崇める創龍すら震え上がらせるほど。
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