はいかぶりと白雪と眠れる森の 前編   作:とましの

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第1話

昔々、自然豊かな小国に国王と年の離れた妹姫がおりました。

その国は父の代まで隣国との武力衝突があったりと問題を抱えていました。けれど王が代わり妹姫が隣国の王子を婿に迎えることで平和を手に入れます。

隣国の王子は王から爵位を与えられ、姫と城下で暮らし始めました。そしてすぐに可愛らしい男の子が生まれます。

男の子は第一王位継承者として周囲の皆から愛されて育てられました。子供に恵まれない王も我が子のように慈しみ、同時に帝王学や剣を学ばせます。

けれどその子が八歳になった頃、王の妃たちがそれぞれ子供を生みました。腹違いの王子たちのうちのひとりが第一王子となります。世継ぎが生まれたと言う吉報は瞬く間に国中へ広がりお祝いムードに包まれました。

そんな中、城内ではそれまで教育してきた男の子の処遇を検討し始めます。その最中に男の子の父親である隣国の王子が病に倒れ他界してしまいました。

 

それから十年後、妹姫は新たな男性と出会い恋に落ちます。その頃には成人していた男の子は、母の結婚に反対しませんでした。

世継ぎが生まれた時点で自分は用済みになったと、男の子はきちんと理解しています。そしてだからこそこの世のすべてに背を向け何も主張せずに生きてきました。

男の子は自分が死ねば王位争いもなく本当の意味で平和が訪れることを知っています。しかし父が病死した際に悲しむ母の姿も知っているため自害はできません。なので最も死ぬ可能性の高い兵士になる道を選びました。

そんな男の子ですから、母が新しい家族を持つことは賛成できます。そして母が新しい家族に目を向けることで自分の存在を忘れてくれたらと願っていました。

 

そんな彼が弟と共に新しい家族と対面した日、その子は寝間着のまま庭先にいました。寝間着が泥に汚れるのも気にせず花を摘んだその子は彼のもとへ駆け寄ります。そして嬉しそうな顔で野花の束を差し出してくれました。

「これ! おにいちゃんおめでとうの花!」

幼く無邪気な笑顔で花を差し出すその子を、彼は暗い瞳で見下ろします。そんな彼に代わって三つ下の弟が花を受けとりました。

「ありがとうございます。あなたはここの子ですか?」

「そうだよ! あとおにいちゃんもここの子っておとうさんいってた!」

子供は素直に新しい家族を受け入れる姿を見せていました。あるいは新しい家族というものがどんなものか理解していないのかもしれません。そんな幼くまっすぐな子供を眺めても、彼は何の感慨も抱きませんでした。

その時の彼は母が新しい家族にどんな紹介をしたのかを知りません。

彼は対面を拒否するとその足で屋敷を離れ、周囲に広がる森を歩いていました。途中で川を見つけて近づくと水の流れを眺めます。

広い森に囲まれたここは城下と違い人の目線も声も何もありませんでした。

そのため今まであった『王位継承の邪魔になる』という危惧も聞こえません。そして『父のように病で倒れれば』という希望も届きませんでした。

けれど彼の中に巣くった無価値という烙印は消えません。森のきれいな空気を吸っても闇は晴れず、死にたいという気持ちも洗い流せません。

「にいちゃん、魚とろうよ」

この川に落ちれば死ねるかと考えたところで幼い声が届きました。暗い瞳を横へ向けるとすぐそばに子供がしゃがみこんでいます。

「あのさ、あそこがちょっと浅くなってて魚とれそうなんだ。おとうさんが下に石をおいたら魚がにげられなくなるっていっててさ。でもおれは小さくてムリだなっていうんだ」

「そんなもの、捕ってどうする」

「夜ご飯にする!」

はっきりと大きな声で答えを出す。そんな子供を前にして彼の目がわずかに動きました。驚きを含んだ目で子供を眺め、そして水面を見やります。

彼は今まで食事を作った事もその工程も見たことがありませんでした。城下にある屋敷には召し使いが何人もいて、すべての世話は彼らが行います。なので食材を見る機会すら彼にはありませんでした。

 

 

靴を脱いだ彼は子供とともに川へ入り川底の石を拾っては移動させました。石で隅に囲いを作り魚を追い込みます。そんなことを日が暮れるまで行いましたが、捕れたのは一匹だけでした。

汗だくになってもそれだけの収穫しか得られず、彼は疲労と落胆を手にします。けれど子供はとても嬉しそうに一匹の魚を抱えていました。

「おれこれ帰ったらじまんするんだ」

「たった一匹で自慢になるか」

「なる!」

川岸にあがり濡れた足のまま靴をはくと気持ち悪さが残ります。そんな彼のそばで子供は平然と靴をはいて駆け出していました。

「にいちゃんがとってくれたってじまんするんだからなー!!」

茂みの中を走りながら叫ぶ子供に彼は大きく息を吐き出しました。今も疲労感はありますが、落胆はどこかに消えています。そして今まではなかった高揚感のようなものが小さく灯っていました。

 

 

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