はいかぶりと白雪と眠れる森の 前編   作:とましの

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第5話

捜索の手を王都から北部へ伸ばし、三日のうちに魔女は兵士たちによって発見された。国内の国境付近を歩いているところを発見されたらしい。その知らせはすぐに届き、第一王子は「魔女のくせにぬるい」とつぶやいた。

捕らえられた魔女は二日もかけず城へ運ばれ、慶次は再び魔女と会うことになる。

 

魔女は近衛連隊によって広間へ連れてこられる。紐で縛られているわけではないが、魔女は逃げる様子もなく歩いていた。ただ不機嫌な様子を見せていたが、慶次が駆け寄り手を握るとそれもかき消える。

「良かった。俺すごく心配してたんだ」

「なんであんたに心配されなあかんのかわからへんのやけど」

「だって白雪は森でひとりぼっちなんだろ? 俺も前までそうだったけど、そういうのすごくつらいからさ。白雪の事は絶対にひとりにしたくないって思ったんだ」

魔女の手を握ったまま慶次は心配だったと真摯に訴える。そんな慶次の姿と態度を目の当たりにした魔女は不意にその目元をうるませた。

「なんや…ほんまあほか」

涙をこぼし始めた魔女につられるように慶次も顔を歪ませる。そして魔女を抱き締めると本格的に泣き始めてしまった。

 

 

素直に相手を思いやり泣くこともできる。そんな慶次の姿には誰もが好感を抱くだろう。ただ夫である真琴はそれだけでなく今すぐ抱き締めたい衝動に駆られていた。

そんな第四王子の姿に近衛副隊長である長政はくすりと笑う。

「真琴の気持ちはわからなくもないけど、これからの事を話そうよ。第一王子はあの人に敵意を持っているようだから真琴はお妃様の気持ちを酌んであげないと」

「そうだな。慶次の意見を尊重できるよう俺も努力する」

慶次は魔女を心から心配し助けたいと思っている。そんな優し慶次と反対に、第一王子は魔女に強い猜疑心を持っていた。そして王族ではない慶次を守ることができるのは王子である真琴だけだ。

それは城で育ちながら王族ではない長政だからこそ向けられる意見だった。

 

 

魔女を交えた話し合いが始まると長政は魔女の様子を眺めていた。街道をのんびり歩いていたという彼のマントの裾は砂や泥に汚れている。それに所々なにかに引っ掻けたような傷も見られた。

さらに当時の魔女は数ヵ所の手傷を負っていたとの報告もある。これらの情報を手にすれば、おそらく隊長なら北の国の仕業と考えるだろう。北の国の人間がこちらの国に入り込み魔女を狙っている。そう考え、そしてこの時期に動き出した相手国の考えを読み取ろうとするはずだ。

しかし隊長と同じ考えにいたっても長政は第一王子にそれを意見できる立場になかった。近衛連隊を作り上げた隊長と違い、長政はまだ成人したばかりの若造だ。それに孤児である長政では公爵である隊長のような発言力もない。

そのため長政は黙って話し合いを見つめることしかできなかった。

ただそれでも魔女の傷は気になる。魔女と呼ばれている本人は、今も広間に集まった人々の視線を受けている。そして肩を丸め白いマントに隠れた腕を抱くように縮こまっていた。この姿からはとても魔女と恐れられるような雰囲気は感じられない。

そうして長い話し合いが終わると魔女は用意されていた部屋へ連れていかれる。そして長政はそんな魔女の対応をするため後に続いた。

魔女のために用意されたのは客間と言うには日当たりの悪い一室だった。城の高層にあるその部屋は手が出せる程度の小さな窓が二ヶ所ついているだけだった。それは空を飛ぶことのできる魔女を逃がさないためのものなのだろう。

薄暗い部屋に入った長政は寝台に小さく座っている魔女を見やった。

「あの子は信頼してくれとるみたいやけど、他はどうやろな」

ブーツを脱いだ魔女は包帯の巻かれた足をさする。不器用に巻かれたそれは兵士から与えられたものを使い自分で手当てしたのだろう。

「包帯を変えましょうか」

「自分でできるからええよ。あんたも魔女なんかに触りたくないやろ」

長政の申し出を断った魔女は自嘲の笑みをこぼして自分の肩を抱く。そんな魔女のもとへ近づいた長政は、彼の目の前で片膝をついた。

「伝染病じゃないんですから、触ってどうにかなったりしませんよ」

「けど気分のええモンやないやろ」

「魔女の血に触れた者は人でなくなると聞きますね。だから魔女を殺して血を浴びたあなたも魔女になったとか」

長政の指摘に魔女は青白い顔のまま固まった。何かをこらえるように唇を噛み締めると長いまつげを伏せてしまう。

「…から、降れたらあかんて、他の兵士にも言うてるわ」

「ではこれは自分で手当てしたんですか?」

目を閉ざし心も閉ざそうとしているのだろう魔女の足をつかみ長政は問いかける。すると触れられたことに驚いた魔女は猫のように肩を跳ねあげた。

「触ったらあかんて言うたやろ」

「じゃあ、とりあえず旅の汚れを落としてしまいましょうか。国境付近とは言え、北の国は遠いですから」

「あのな、俺の話を聞いとった? 魔女は…」

「浴場まで歩けないなら抱えていきますけど」

「歩ける! 歩けるから触らんといて!」

青白かった顔を真っ赤に染めた魔女は慌ててマントを脱ぎ動き出した。寝台から降りると長政と距離を取りながら扉へ向かう。

そんな魔女の挙動不審な動きに長政は自然と笑ってしまった。すると魔女は赤い顔のまま調子が狂うと悪態つく。

 

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