UTAU!VOCALOIDの事件簿・最終回、始まります。
「ミクぅううううううううううっ!?」
ひび割れの向こうで姿が消えたミクに、カイトは無駄だと知っていても手を伸ばす。だが、亀裂は広がりカイトの足場が、崩れた。
「あっ…」
カイトは思わず呆けるが、次の瞬間
「大丈夫だ、問題ない」
「イーノック!?」
白き鎧を纏った金髪のイケメン、イーノックにその手を掴まれていた。
「いや、問題だろ?」
その背後に立つルシフェル指を鳴らすと、カイトはいつの間にか道路に立っていた。
「ルシフェル、アンタまで…」
「時間が惜しい、いますぐ破壊者の元へ向かいたまえ」
「でもミクが!」
「彼女は、もうこの場所から程遠い場所に移動しているよ。崩れたことで生まれる歪みに入ったせいかな?」
ルシフェルの言葉に反論しようとすると、「シュシュッ」という擬音と共にシュシュ(大人モード)が現れ、カイトを落ち着かせる。
「破壊者って士のことか?」
「そうだ。気を悪くしてしまってすまない。我々は彼をつい最近までそう呼んでいたのでな。この歪みは、我々が何とかしよう」
「お前らだけで大丈夫か?」
「誰が私達だけといった?」
「大丈夫だ、問題ない」
カイトに向かって砕け散らせる歪みを銀髪の少女がその手前に入って拳を叩き付け、停止させる。その横には、見覚えのある鎌を持った少女と、手榴弾を弄ぶ青年がいた。
「レア…ゼロ?」
「俺の部下のハルもいるぜ」
「今回ばかりは…手を貸さないといけないようみたいなので。本当にうちの馬鹿が迷惑かけました」
レアは鎌に引っ掛けていた赤いぼろ雑巾のような物体をこちらに投げ飛ばす。それはこの事態の元凶、アカイトだ。
「お前に言いたいことは山ほどあるがなぁ…今はミクと、このMMDWの方が先決だ」
「ほう、それはよかったです」
「だから今は…!」
ゴキャッ
俺は全力で胡散臭い笑みを浮かべるアホの顔面をぶん殴る。
「これぐらいで勘弁してやるよ。…分かった。ルシフェル、ゼロ、レア、ここは任せた」
「任せておきたまえ。腐っても私は大天使だ」
「頼んだぜ、規格外」
「また生きて会えることを祈りましょう」
俺はその場から去る。疾風のごとく、先にウタたちも戻っているはずのボカロ荘へ。
「さて、あとは彼と彼女次第だ」
「あの女がバックアップで助かったな」
「私たちは最後の悪あがきでもしましょうか、ゼロ様」
「粒子にしても、時間稼ぎが精一杯…」
「全員、心の準備はいいね?」
「大丈夫だ、問題ない」
ボカロ荘…そこはもう、半壊していた。ここだけじゃない、辺りも亀裂だらけでもうミクと、MMDWがもたないことを現していた。全員無事か…?
「よう、カイト。来たか」
「…待っていたぞ」
中にいたのは、士と雑音だけだった。
「皆は?」
「他の奴らは時間稼ぎに向かっている。UTAUの連中も、亀裂ができるだけ広がらないように奮闘しているだろう」
「だったら何で、雑音は残っているんだ?」
「…おいカイト。俺の言った話を覚えているか?「俺の力でこの世界との繋がりを破壊して新たに中心人物を作り出す」この言葉を」
「あ、ああ。それと雑音が残っていることにどんな関係が…!?」
気付いてしまう。これから士がやろうとしていることを。それを実行すると、ミクは消えるだろうということを。
「この…雑音ミクは初音ミクのプロトタイプ、そしてバックアップだ。この世界の中心人物、初音ミクの代わりでこれ程適合率が高い人材はいない」
「…ミクの代わりが、雑音。そういうことだな?」
「ああ。…ところでだ。お前はどうする?」
「どういう…意味だ」
「お前の意思を聞いているんだ。このまま、初音ミクと運命を共にするか。それとも、新たに世界を再生させるか。お前はこの世界で起きた一つの物語の、主人公だからな」
俺みたいな奴が主人公、か。自分の家族さえ守れない、そんな俺が…
「決まり切っている。世界を、再生させてくれ」
「ああ、分かった」
その時、俺の瞳から水滴が落ちた。悔しさの涙だ。アイツのために、俺ができることはもう、何も…。唐突に、士が喋る。
「猶予は30分だ」
「えっ…?」
「このMMDWが崩れ去る、それまでの時間はおよそそれだけしかないんだよ。それまでなら待ってやる。間に合えば…最期のあいさつでもして来い」
「私からも、頼む。姉さんは…カイトのことを本当に大事に思っていた…」
雑音も続く。そこまで言われたら、諦めるわけにはいかないな。俺は外に飛び出した。どこにいるかもわからない彼女を探して。
「…行ったか。…お前はよかったのか?」
「ああ、私にとっても大事な存在だが…姉さん、いや初音ミクにとっての一番大事な存在は奴だからな…譲るさ」
「…そうか」
「こ…コは…?」
ミクは、とある海岸の崖で目を覚ました。歪みはここに続いていたらしい。そこには誰もいない。赤い、夕焼けが水平線上にあるだけだ。
「ラ…ララ…♪モウ…いちど・だ・け…」
データの乱れが安定しなくても、VOCALOID。歌うことだけはやめられない。ミクは、口を開き…最高速の歌を歌う。
皆に忘れ去られた時 心らしきものが消えて、暴走の果てに見える 終わる世界...
「ゴメンネ」
かつて歌うことがあんなに楽しかったのに、今はどうしてかな?何も感じなくなって
懐かしい顔、思い出す度、少しだけ安心する。歌える音は日ごとに減り、せまる最期…
「歌いたい…まっ…まだ…歌いたいよ…カイトさん…」
「ミクぅううううううっ!」
間に合った。マフラーとコートをボロボロにし、蒼い髪をボサボサにし、青年は少女に歩み寄る。だが時は残酷だ…青年、始音カイトが探索をして30分後。タイム・リミットだ。
「そんな…」
「カイトさん」
絶望に打ちのめされるカイトに、電子の歌姫は優しく語りかける。
「アリガトウ…ソシテ…サヨナラ…」
その最期の言葉と共に電子の歌姫は完全にポリゴンの欠片となって消滅し、世界がリセットされた。眼前には、ただ白い空間が………
次回、エピローグ。
MMDW、リセット。目が覚めた時に、何が変わっているのか?
前後編、最終回はオールスターで締めくくりました。歌姫が消滅=新たな世代が現れる…次回でボカロの事件簿は終わりです。次回を、お楽しみに。