渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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ハメを外す時は後で後悔しない程度にしましょう。

 渋谷さんの服選びが終わった。なんか俺の選んだ白と水色のワンピースを一枚買ってたけど、あれは良かったのかな。まぁ、本人が気に入って買ったんだろうし、別に良いんだけど。

 で、昼飯を食べ終えて、その場で二人でグラブルをやってると、渋谷さんが唐突に言い出した。

 

「よし、せっかくだし水原くんの洋服も見に行こうか」

「えっ、俺のも?」

「うん。だって私服とかあんま気を使わないんでしょ?」

「まぁ、そうだけど………」

「これから一緒に出かけるなら、最低限の服は着て欲しいし」

 

 ま、まぁ渋谷さんのためなら仕方ないか。確かに、今改めて俺と渋谷さんの服装を見比べてみても、友達同士というよりは姉弟に見えるかもしれない。いや、服装で見ただけだから。中身は俺の方が大人だから。

 飯屋を出て別の服の店に向かった。しかし、渋谷さんはどんな店に入るのもサクサク行くなぁ。ていうか、男がレディース服の店に入ったら変質者なのに、女がメンズ服の店に入っても何も思われないのはどうなんだろうか。これは男の方が変態が多いことを示しているのか?

 なんてくだらない事を考えながら歩いてると、渋谷さんがいつの間にか俺をじっと見てるのに気付いた。

 

「………何?」

「早く、どんな服が欲しいのか選んでよ」

「どんなって言われても………何でも良い」

「あるでしょ?何か一つくらいこの服」

「んー……あ、キャプテンア○リカのTシャツとか………」

「好みの服とか色で良いから。柄とか聞いてないから」

「お、おう………」

 

 まぁ、着たい色ならあるけどね。

 

「黒が良い」

「OK、黒ね。上?それともズボン?」

「全身」

「は?ぜ、全身………?」

「古畑○三郎みたいな服が良いよね。かぁっこ良いもの」

「……………」

 

 ん?何?その目。可哀想な人を見る目で………。

 

「あのさ、はっきり言って似合わないと思うよ、水原くんには」

「えっ」

 

 言葉の槍に心の臓を貫かれた。

 

「だって、あの服はああいう………その、何?オトナっぽい人が着るのが似合うのであって………身長低くて童顔な水原くんには万に一つも似合わないと思うけど………」

 

 …………確かに身長低くて童顔なのは否めないか………。そうか、俺は古畑さんにはなれないのか………。

 ………ま、まぁ別にコスプレしたいわけじゃないし………別に良いけど……。

 

「どこまでがっかりしてるの。どちらにせよ今日は服買うわけじゃないんだから、別に良いでしょ」

「つまり、これから先俺に黒い古畑さんみたいな服が似合う事は無いって事だよね………」

「どんだけ古畑さん好きなの………」

 

 そりゃそうでしょ。拳銃のいらない刑事はカッコよすぎるし、ロマンですらある。………まぁ、もうその刑事にはなれないけど。

 しかし、この店はメンズ以外にもレディースも売ってるんだな。メンズの店だと思ってたわ。

 

「何か着たい服とか無いの?」

「黒じゃないならなんでも良い」

「ああそう………。じゃあ、私勝手に選ぶから試着室で待ってて」

「はーい」

 

 その方がありがたいので、素直に返事をして試着室に向かった試着室はいくつか並んでいるパターンだったので、その近くで待機していた。てか、いつ来るかなあの人。

 暇なのでグラブルやりながら待機していた。しばらく待つ事数分、渋谷さんが服を持って来た。

 

「はい、これ着てみて」

「どうも」

 

 おお、少し明るい色が多いな。まぁ、童顔とか言われたし、もしかしたらこういう色のが似合うのかもしれない。

 とりあえず、試着室に入って着替えてみた。

 

 〜2分後〜

 

 着替え終えた俺は、試着室のカーテンを開けるなり渋谷さんに怒鳴った。

 

「おい!なんだよこの服!女性用じゃねぇか‼︎」

「ぷふっ……い、意外と可愛い………」

「可愛い、じゃないから!」

 

 なんだよこいつ!公衆の面前で何を着させてくれてんの⁉︎天性のドSか!

 

「どういうつもりだよホントに⁉︎」

「いや、似合うかなーと思って。可愛いよ」

「嬉しく無いから‼︎」

「大体、何でも良いって言ったの水原くんじゃん」

「発想が柔軟過ぎるだろ!限度を考えろ‼︎」

「…………ふふっ」

「笑いながら写メを撮るな!」

 

 着替える!と怒鳴ってカーテンを閉めた。ったく、あの人は本当に………!俺がこの先、どんなにオシャレに目覚めたとしてもこの店にはもう来れないわ。

 着替え終わって、服を元あった場所に戻しに行った。渋谷さんのお陰でものすごく恥をかいた気がする………。

 

「うー……スカートなんて初めて履いた……。あれ風が直に足に入って来るんだな………」

「っ……っ……」

「いつまで笑ってんだよ!ていうかあの写真消してよ⁉︎」

「っ………あ、あれ、奈緒と加蓮に見せて良い?」

「ふざけんなよ⁉︎」

「良いじゃん。どうせ会うことないんだし」

 

 そ、そう言われたらそうだけど………。

 

「大体、見せたく無いのになんでカーテン開けたの?女装だって分かった時点で着替えるの止めればよかったのに」

「……………」

 

 その発想はなかった。バカは俺だった。そういうところに気付かないと、いじられポジ脱出は難しそうだ。

 

「大丈夫、加蓮と奈緒と……あと卯月にしか見せないから。他の人には言わない」

「誰にも見せるなよ!」

「あ、じゃああの三人に見せても良い写真撮らせてよ」

「はぁ?なんでよ」

「あの三人、私と水原くんが仲良くしてるのをなんか勘違いしてるんだよね。だから、いっそオープンになって逆に全然そんな気ない事を伝えてやりたいから」

「勘違いって?」

「………そ、そのっ……付き合うとか、そういう」

 

 あー、そういうノリか。いや、そんな顔を赤くして呟くから、そう言う勘ぐりが発生するんだと思うんだけど………。

 まぁ、そう言う話は後にするとして、その時のために俺と撮った写真が欲しいというわけか。いや、別に欲しいとは言ってない。撮らなきゃあの写真を見せるだけだ。

 

「よし、撮ろうか」

「うん。………ていっても、どこで撮る?」

「その辺で良くない?」

「いや、服屋で写真撮って何してんのって感じするでしょ」

「じゃあ、うちで」

「んー、それも良いけど………。せっかくだしゲーセン行かない?」

「え、いや俺金ないんだけど。てかゲーセンで写真撮ってもおかしくね?」

「プリクラに決まってんじゃん。お金は私が出すから」

「あー……いや、でも全部まるっきり出してもらうのは………」

「お金ないのにカッコつけなくて良いから。それに、私の都合で付き合ってもらうんだし」

「まぁ、そう言うなら………」

「よし、行こうか。あ、さっきの服着て撮る?」

「撮らない!」

 

 何処まで女装させてぇんだよこいつは‼︎

 

 ×××

 

 そんなわけで、デパートのゲーセンに来た。パチモン臭いクレーンゲームが多かったり、太鼓○達人のプレイ回数が1回少なかったりと俺は他の人に誘われない限り絶対来ないが、今日はそれらが目的では無い。

 プリクラの機械に金を入れて、中に入った。プリクラ、か……久しぶりだな。中学以来だ。顔にウンコの落書きとかされたっけなー。け、嫌なこと思い出した。

 渋谷さんは慣れた手つきでプリクラを操作すると、俺の手を掴んで自分に引き寄せた。

 

「ちょっ、渋谷さん………⁉︎」

「さ、なんかポーズ取って」

「お、おお」

 

 中途半端にモンハンの双剣を構えてる時のポーズをすると、渋谷さんは俺の腕に抱きついた。小さい胸が当たっている。あ、割と柔らかいし。ていうか近い近い顔が近いって。

 一人で狼狽えてる間に、カシャっとシャッター音が鳴り響いた。

 

『もう一回行くよ〜』

 

 間の抜けた機械音声が聞こえ、双剣のポーズはやめた。ていうか、今更だけど今までプリクラとか後ろの男子に締められてたり関節技決められてたりって写真ばかりでまともな写真を撮った覚えないわ。

 過去のデータ不足と渋谷さんの柔らかい感触によって、もはや思考回路が麻痺した俺は、開き直る事にした。

 渋谷さんの肩を自分の方に抱き寄せてピースした。

 

「っ!」

 

 一瞬、渋谷さんは顔を赤くしたが、すぐにいつもの若干口元の緩んだ笑みに戻って、同じようにピースした。

 その後はなんか楽しくなっちゃったんだろうな。二人揃ってノリノリになって、腕を組んで背中をくっつけたり、渋谷さんは太刀で俺は弓のポーズをしたり、脇腹をくすぐられたり、頬をくっ付けたりとやりたい放題やった。

 ようやく撮影が終わり、「んーっ」と伸びをしながら落書きコーナーへ。

 

「あー、疲れた」

「それな」

「プリクラ撮るの初めてじゃないんだ?割と慣れてたね」

「まぁ、それはあんま関係ないんだけどね。渋谷さんが楽しんでたから、こっちも開き直ろうと思っただけで」

 

 なんだかんだアイドルとツーショット写真を撮ってしまったけど、楽しかったから良しとしようか。ていうか、今もテンションフォルテッシモだし。

 落書きを終えて、俺と渋谷さんはプリクラ機から離れた。

 

「さて、どうする?」

「せっかくだし、なんかゲームやる?」

「そうだな」

 

 そんなわけで、二人でマリカー、エアホッケー、バイオ○ザード、洗濯機、クレーンゲーム、マキブ等と、まぁ遊び倒した。気が付けば3時間もゲーセンで遊び倒していて、ようやくゲーセンを後にした。

 駅のデパートから出た時には、空はすっかり暗くなっていた。クレーンゲームで取ってあげたクレしんのシロのぬいぐるみを片手で抱えてる渋谷さんが満足したように伸びをした。

 

「んーっ、久々に遊んだー」

「割と取れるものだな。デパートのパチモン臭いクレーンゲームでも」

「ああ、これ?ありがとね」

「あ、いや欲しそうにしてたから………。それより、この後どうする?うちでモンハンやる?」

「あー……ううん。今日はもう十分遊んだし楽しかったしハメ外したし、大丈夫」

「じゃあ、家まで送るよ」

「ほんと?悪いね」

「いやいや」

 

 当然だろむしろ。もう6月で日が沈むのは遅くなって来てるのに、日が沈むまで遊んでたんだから。

 しかし、友達と遊ぶのってこんなに楽しかったんだな。こんな舞い上がってるの初めてだ。今まで遊んできた奴らとこんな感覚になったことはなかった。もう、帰ってしまうのがとても名残惜しい気がする。

 

「モンハン以外にも面白いゲームたくさんあるんだね」

「まぁな」

「なんだっけ?ガンダムの奴」

「マキブ?」

「そうそれ。あの辺も面白かった」

「ガンダムの奴はハマりすぎない方が良いぞ。ガチ勢は半端じゃ無いから」

「そうなの?」

「ああ。それに、あの辺は一回一回に金かかるし、極めようと思ったら金銭に問題が発生する」

「なるほど………。まぁ、大丈夫。ゲームは水原くんとしかやらないから」

「っ………そ、そうか」

「あ、今照れた?」

「照れてない」

「いや照れてたでしょ」

「………バイオでビビりまくってた癖に」

「別にビビってないし」

「人の腕にしがみ付きながら銃口を明後日の方向に向けて『ちょちょちょっ、撃ってるのに何で死なないの⁉︎来ないで来ないで来ないできゃああああ!』って喚いてたのは………」

「ふんっ」

「ふぁひゅっ⁉︎だから突然、脇腹を突くな!」

 

 あの時の渋谷さん涙目でマジ可愛かったです。まさか俺の人生に「大丈夫、安心して」って女の子を落ち着かせる経験があるとは思わなかったわ。

 そんな事を思い出してると、むすっとした表情の渋谷さんが俺の表情を読み取ったのか、仕返しとでも言わんばかりに唐突に聞いてきた。

 

「そう言えば水原くん」

「? 何?」

「お金ないって言ってた癖にゲーセンで随分と使ってたけど良いの?」

「……………へっ?」

 

 ピシッと世界が凍り付いた。慌てて俺は財布を取り出して中身を数えた。出て来たのはコロッと転がってきた158円。

 

「………………」

 

 自分の顔が真っ青になるの、鏡を見なくても分かった。これは、ヤバイ。笑えない。いやスマイルマンの真似じゃなくて。マジな方で笑えない。給料日まであと二週間と一日ある。

 銀行の金は………俺はその辺の石を拾って道路に這いつくばった。

 

「ちょっ、水原くん⁉︎」

 

 渋谷さんの反応を無視して、現在俺の銀行に入ってる金と158円を足し、そこから家賃や光熱費や食費などのその他諸々生活費を差し引いていった。

 計算が終わり、人差し指中指親指を立てて顔に当てた。

 

「………一食分足りない」

「ガ○レオの真似した割にダッサイこと言ったね………」

 

 いやいや、こんな計算ただの算数だから。古畑さんの次に尊敬する湯川先生の足元にも及ばない。

 

「ていうか、一食足りないって?」

「毎日朝昼晩食べるとして、どうしてもどれか一つ抜かないとお金が足りないって事。まぁ、二週間くらい朝飯抜いても平気だと思うから多分、問題ないよ」

「………朝ご飯は食べた方が良いと思うけど」

「へっ?」

 

 なんだ?渋谷さんからまともな意見が飛んで来たぞ。

 

「前に、私寝坊して撮影あるのに朝ご飯を抜いたんだけど、結構お昼まで保たないよ。途中でお腹鳴っちゃうし、朝は抜かない方が良いよ」

「………や、でも足りないものは……」

 

 物理的に金がないんだから仕方ない。家で電気やガスを使うのは風呂と飯の時だけとしても難しい。

 

「だからさ、私が作ってきてあげる」

「はっ?」

 

 何を?

 

「お昼、お弁当を作ってきてあげるの」

「………えっ、マジ?」

「マジ。そうすれば足りるでしょ?」

 

 足りるには足りる。昼飯と違って、朝飯は最悪パン一枚でいけるから、確実に昼よりかかる費用は減る。

 

「土日や撮影ある日は無理だけど、学校がある日なら何とかするよ」

「いや、でも迷惑じゃ………」

「ううん。二人で生放送とかしてたしさ、そのくらい協力させてよ。あ、それと来週予定してる生放送はうちでやって良いから」

「えっ、い、犬が………」

「ハナコっ」

「お、おう………」

 

 そんな固有名詞を言わなかったからって、キッと音がしそうなほど睨まなくても………。どんだけあの犬……ハナコ好きなんだよ………。

 

「ハナコはお母さんに見てて貰うから平気」

「そのお母さんに生放送してる事バレるのは良いの?」

「? なんで?」

 

 なるほど………ゲーマーも隠さなきゃ引かれない、か………。

 いや、でも流石に弁当作って貰うのは悪い気がするんだけど……。あれ、朝早く起きるの大変だし、学校でも異性にわざわざお弁当なんて作って来たら勘違いされるんじゃないか?

 

「………水原くんがいらないって言うなら、別に良いけど……」

 

 っ………。そういう言い方は卑怯でしょだから………。そういう風に言われたら、意地でも作って欲しくなる。

 

「………じゃあ、その……何。頼むわ」

「うん」

 

 そう約束して、そのまま二人で帰宅した。

 

 ×××

 

 渋谷さんを家に送り、自分のアパートに帰宅した俺は、カップルにしか見えないプリクラを見て全力で恥ずかしくなって悶えた。

 

 


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