渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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事務所では(3)

 翌日。事務所で奈緒は加蓮、卯月と話をしていた。手元にあるのは新作映画が載ってる雑誌。事務所のラウンジ的な場所の雑誌コーナーに置かれている物だ。

 如何にも女子高生らしい華やかな感じのする絵だったが、開かれているページにはポケ○トモンスター〜君に決めた!〜のページだった。

 

「あたし絶対これ面白いと思うんだよ!」

「あ、うん。そうね、オモシロソウ。ね、卯月は何か見たい映画ある?」

「うーん……私はメアリとかカ○ズでしょうか」

「ポケモン、ポケモンは⁉︎」

「小学生は黙ってて」

「誰が小学生だよ!加蓮より年上だぞあたしは⁉︎」

「うん、ありがとー。確かにメアリとか面白そうだよね。でも、私スパイダーマンとかも見に行きたいんだよね」

「スパイダーマン、ですか?」

「むぐぐっ……。なんだよチクショー」

 

 話を聞いてもらえなくて奈緒が一人で不貞腐れてると、事務所の入り口から凛が本を読みながら入って来るのが見えた。

 

「あ、おーい凛………」

「待った奈緒」

「グヘッ」

 

 襟を引っ張られ、喉が締まった奈緒から変な声が漏れた。

 

「何すんだよ!」

「てか3回目なんだけど。学んだら?」

「3回もやるなよ!」

「加蓮ちゃん、どうかした?」

「……卯月もまるで興味ないな………」

 

 卯月に聞かれて、加蓮は凛を指差した。奈緒と卯月は釣られて凛を見た。三人は凛が手に持っている本に注目した。本屋のカバーが掛けられているその本は、サイズはジャンプと同じくらい大きい。

 その本を、凛は珍しく難しい顔をして唸りながら読んでいた。三人とも1発で異質な事に気付いた。

 

「………音ゲー、プレイ動画の次はー……攻略本?」

「いやいや、スマホで調べりゃどんな攻略情報でも出て来るこの時代に?」

「案外、別の本かもしれませんよ?」

「いやいや、最近の凛はもはやゲームでしか悩まないだろ。なぁ?加蓮」

「そうだね。卯月、知ってる?山手線っていうゲーム実況者」

「? 知りませんけど………」

 

 加蓮の問いに首を振る卯月。そんな卯月に、加蓮はしれっと告げた。

 

「あれ多分、凛とそのお友達だよ」

「ええっ⁉︎」

 

 大きく反応する卯月に、さらに追い討ちをかけるように奈緒が言った。

 

「ああ、多分な。第一回が放送される一週間くらい前にマイクとかの機材の相談されたし、渋谷の方は少し変えてるけど凛の声に似てるし、ていうか焦ってる時と笑い声はまんま凛の声だし、そもそも放送始まる少し前からモンハンハマってるし」

「あー、あと最近『山手線って実況動画見た?私気になってるんだけど………良かったら感想聞かせてくれない?』ってそわそわしながら聞いて来るしね」

「………り、凛ちゃん……。い、良いのかな、それ?」

「さぁ………?バレなきゃ良いんじゃん?」

 

 引き気味に呟く卯月の問いに、楽観的に加蓮が答えた。

 

「でも実際面白いよな」

「うん。上野さんにおんぶに抱っこ感がすごいよね。凛がダメダメなのって割と珍しいから」

「うー……ちょっと気になる」

「アカウントすぐに作れるから見てみれば?」

「………家帰ったらやってみます」

 

 卯月はそう返しながら、再び凛の方を見た。椅子に座って、相変わらず険しい顔で本を読んでいる。

 

「まぁ、前々から結構相談受けてるし、凛も隠す気ないなら声かけても平気じゃないか?」

「そうだね。行こうか」

 

 そういうわけで、三人は凛の方へ向かった。

 

「りーん、何読んでるんだー?」

 

 背後に奈緒が立って声を掛けた直後、凛はビクッと肩を震わせて本を勢い良く閉じた。それにビックリして奈緒も一緒にビクッとしていたが、それに構わず凛は恐る恐る後ろを振り向いて三人の姿を確認するなり、本を背中に隠した。

 

「っ、な、奈緒……?加蓮と卯月も……いつからそこに………?」

「え?いや、今だけど………」

「あ、そ、そっか………。どうしたの?」

「いや、それより凛ちゃん。何で本を隠したの?」

「あ、いや……」

 

 何故か焦ってる様子の凛に、加蓮は微笑みながらフォローするように言った。

 

「大丈夫だよ、凛。あれでしょ?攻略本でしょ?もう私達分かってるから」

「へっ………?あ、ああ。うん。そう、攻略本」

 

 キョトンとした顔の後に、ぎこちない笑みによる答え……間違いなく攻略本では無いと三人は悟った。さらに、隠さなきゃならないような本なら尚更だ。

 一瞬で三人はアイコンタクトを取ると、卯月が凛の隣に座った。

 

「凛ちゃん、それよりお友達とはどんな感じなの?」

「へ?あ、あー、水原くんのこと?」

「そう」

「あ、それあたしも聞きたい」

「それは良いけど、何で二人して私と腕を組むの?」

 

 さらに奈緒が卯月と反対側の凛の隣に座った。二人で凛の腕を組んで退路を塞ぐと、最後は加蓮の番。凛に近付き、凛に抱き着くように背中に手を回して本を奪った。

 

「っ!ち、ちょっと加蓮!」

「さてさて、何の本を読んでるのかなー」

 

 暴れる凛を二人が抑えてる間に、加蓮は本を開いた。出て来たのは意外や意外、料理の本だった。これには、加蓮も困惑した表情を浮かべた。

 

「………あれ、凛って料理とかするの?」

「そりゃ、それなりにはするよ!ていうか返してってば!2人とも離して!」

「ごめんなさい、凛ちゃん」

「うぐっ………!な、奈緒!離さないとそのポニーテール面白くなるまでモフるよ!」

「なんであたしには最初から脅しなんだよ!絶対に離さないからな!」

 

 ぐぬぬっ、と若干頬を染めてる凛の前に加蓮は立つと、本を見せて凛に聞いた。

 

「ねぇ、凛。これ、なんでこんなの読んでるの?」

「………………」

 

 聞かれて、凛はどう答えるか悩んだ。誤魔化しようはいくらでもある。だが、その誤魔化しのどれが有効なのか分からないし、多分誤魔化せば本当の事を言うまで両サイドの二人にくすぐられ続ける可能性すらある。

 そういえば、古畑○三郎のモノマネをする時に「嘘が下手な人は全て嘘では丸め込もうとするが、嘘が上手い奴は肝心な所だけ嘘をつき、なるべく本当のことを言う」と。

 そもそも、友達に弁当を作ってあげるくらい普通の事だ。向こうに事情があれば尚更だ。なら、隠さなくても良いと思い、諦めたように言った。

 

「お弁当を作ってあげるんだよ。水原くんに」

「「「お弁当⁉︎」」」

 

 三人が目を輝かせて大きく食い付いた。それを実に面倒臭そうに受け止めながら、凛は続けた。

 

「昨日、彼と遊んでたんだけど、お金使い過ぎてこれから給料日までの二週間、一食分だけお金が足りないって泣きそうになってたから、平日の学校ある日だけ作ってあげることになったの」

「………ふーん」

「凛ちゃん、優しいなぁ」

 

 嘘は言ってない、三人の反応を見て何となく上手く言えたなと凛が自画自賛してると、加蓮が別の所に興味を持った。

 

「へぇ、昨日遊んでたんだ?」

「うん。一昨日の夜から泊まりがけ………」

 

 口が滑った。三人の目の色が面白い事を聞いた色になった。

 

「「「泊まり⁉︎」」」

「…………何でもないっ」

「何でも無いわけないっ」

「そういえば加蓮、今日の仕事なんだっけ?」

「いやいや無理だって。何急に話逸らしてんの?」

「………………」

 

 全力で額に手を当てて後悔してる間にも、三人はユサユサと凛の体を揺さぶった。

 

「ねぇ、凛!どういうことなの?泊まりって」

「ま、まさかっ…お前ら友達ってセッ、セッ……!」

「奈緒ちゃん落ち着いて!」

 

 そこまで話してしまったものは仕方ない。どうせこの三人と鳴海が関わることになる可能性は低い、話してしまっても良いだろうと思って語り始めた。

 

「実はさ、結構私水原くんの家に泊まってるんだよね。ゲームやってたらついうっかり夜中まで、みたいなことあってさ。それで、気付いたら寝落ちしてて泊まってたり、みたいな」

「だ、大丈夫なのか?凛それ……寝てるうちに、その………悪戯とかされてたり………」

「? ないと思うけど………そんな子供みたいなことするような人じゃないし」

「いっ、いやっ………そういうっ、悪戯じゃなくて……。その……ぱ、パンツを脱がされ、たり………」

「…………加蓮、この子何言ってるの?」

「奈緒はムッツリなんだよ」

「は、はぁ⁉︎別にムッツリじゃねぇし!全然、興味ねぇし!」

「はいはい、奈緒ちゃんは黙っててねー」

 

 年下に黙らされる奈緒を無視して、凛は話を再開した。

 

「まぁ、水原くんは良くも悪くもチキンだからそういう事はしないから。ずっと泊まってたけど、むしろ床で寝落ちしたのに布団の中に運んでくれたりするからとても優しい人だよ」

「へぇー、良い人ですね!」

 

 まぁね、と凛は心の中で呟いた。実際、良い人だしよくよく考えたら泊まりの日は凛の分のご飯も出してくれるしで友達の出来ない理由が分からない。

 で、さらに気になるところを加蓮が聞いた。

 

「で、泊まりの後何してたの?」

「その後はー……服買いに行ってご飯食べてゲーセン行ったくらいだよ」

「またゲーム………。凛、そんなペースでお金使ってたら無くなっちゃうよ?」

「分かってる。ゲーセンに行くのは水原くんと一緒の時って決めてるから。水原くんにも同じようなこと言われたし」

「………ふーん、本当に良い人ね」

「いや本当に。水原くんしかもいじり甲斐もあるからさ」

 

 その言葉に、奈緒がピクッと反応した。

 

「反応良いし怒っても怖くないし何より少し可愛いしで面白いよ、あの子」

「へぇー、本当に奈緒じゃん」

「あと純情だからさ、少しくっ付くだけですぐ顔赤くするんだよね」

「確かにそれは可愛いね」

 

 と、三人が盛り上がってる中、奈緒は少しずつ頬を膨らませて言った。最近、加蓮はともかく凛からのいじりがさらに減って来ている。別に、いじられたいわけでは無いが何となく気に食わない。別に自分じゃなくても良かったのか、と思ってしまう程にはヤキモチを妬いていた。

 

「…………写真」

「えっ?」

 

 気が付けば、ボソリと口から言葉が漏れた。

 

「写真見せて!その水原とか言うヤツの!」

「良いけど………なんで?」

「良いだろ別に!」

 

 奈緒の勢いに負けて、凛はスマホの中の写真を探し始めた。昨日撮ったプリクラを見つけたのだが、そこで指が止まった。まるっきり恋人同士のプリクラである事に今更気が付いたからである。1枚くらいキスプリがあっても不自然じゃ無いくらいに。友達のつもりで撮っていたプリクラが異性と撮るとまるで別の関係に見えていた。

 流石にこの写真は見せられない。だが、プリクラ以外に写真はない。どうしたものか悩んでると一枚、試着室での写真を見つけた。

 

「………………」

 

 どうしたものか。どっちにするべきか。自分の羞恥心か彼の風評被害か。正直、彼の女装を見せたところで風評被害は三人までに収まる。プリクラを見せた方がデメリットはデカかった。

 でも、万が一にもバレて彼に嫌われたら………。いや、そうじゃなくても彼に隠し事は嫌だった。

 

「…………はい、これ」

 

 プリクラを見せた。直後、三人ともポカンとした表情になった。やがて、加蓮がボソッと呟いた。

 

「………え、付き合ってんの?」

「無いよ」

「…………いや、どう見てもバカップルでしょ」

「違うから………。ただの友達だから」

「いやいや凛ちゃん。これ、恋人にしか見えないよ」

「………そう言われるとは思ってたけど……。ていうか、今さっき見返してそう思ったけど」

 

 卯月にまで言われて、凛は小さくため息をついた。奈緒に至っては顔を真っ赤にして俯いていた。この純情さがまた、水原くんと似てるなぁ、なんて思いながら凛はなんか恥ずかしくなり、スマホをさっさとポケットにしまった。

 

「彼も私のこと友達としか思ってないみたいだし、恋人なんてあり得ないよ」

「ふーんそうなんだー」

「信じて無いでしょ、加蓮」

「加蓮ちゃんだけじゃないよ、私も信じてないよ」

「……………」

 

 まさかの卯月も全否定だった。

 

「本当だって……。大体、私と水原くんが付き合うなんてあり得ないでしょ」

「これ見る限りじゃ付き合ってない方がありえないけどね」

「というか、凛ちゃんは水原さんと恋人になるのは嫌なんですか?」

「私?」

 

 考えた事もなかった。鳴海と恋人になるなんて。確かに優しいし、言いたい事はハッキリ言ってくれるし、(ゲームとはいえ)頼り甲斐もあるし、炊事洗濯家事全般なんでも出来るし、いじり甲斐があるし、割と良い人だ。ていうか、割とどころか優良物件な気さえして来た。

 

「…………まぁ、無くは無いかもね。でもほら、今だって彼と友達同士だから楽しいって所もあるでしょ?」

「あー、まぁね。そういうのもわかるよ」

 

 加蓮が頷きながら賛同した。

 

「だから、彼と恋人になるのは無いと思うよ」

「…………ま、凛がそう言うならそうなのかもね」

 

 話が切れそうかな?と凛は思ったので話を逸らした。これ以上この話は何を突っ込まれるかわからないので回避したかった。

 

「それより、仕事まだなの?」

「ああ、そういえばそうだね」

「あと数分くらいじゃない?それより凛、今の映画ってどれ観たい?」

「ん?何やってんの?」

 

 と、卯月と加蓮と凛は映画雑誌を見始めた。未だにプリクラを見て照れてる奈緒を捨て置いて。

 

 

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