渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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どんな球技でも、まずはボールから目を離すな。

 月曜日。それは学校が始まる憂鬱な日でもあり、それと共にジャンプの発売日である。まぁ、今月はジャンプは立ち読みで済ませるしか無いが。

 金もないしそんな日の学校の始まりで正直、面倒でしか無いが、今日は楽しみが一つある。それは、渋谷さんのお弁当だ。俺が渋谷さんの家の前まで取りに行くことになっている。いや、まさか金欠からこんな展開になると思わなかった。

 有難いが、二度とこんなことがないように金銭管理はしっかりしないとな、と少し反省しながら準備を終えて玄関を出ると、渋谷さんがちょうど部屋の前に立っていた。

 

「あっ」

「っ」

 

 ………あれ、何で家の前にいんの?渋谷さんの家の前で待ち合わせじゃなかったっけ?

 そんな考えが表情に出てたのか、渋谷さんは困ったような感じでため息をつきながら言った。

 

「………その、家の前だとお母さん達がうるさくて」

 

 なるほど、把握。まぁ、俺と渋谷さんは友達同士だが、普通は異性のために弁当なんて作ったら勘違いされるもんな。

 

「………はい、これ」

「おお、ありがと」

「味は保証しないから」

「いやいや、渋谷さんの飯美味しいし」

 

 実際、美味いからな。昼が楽しみだ。

 

「ねぇ」

「? 何?」

「今日の昼休み、どこでご飯食べる?」

「教室」

「誰かと一緒?」

「…………察して」

「じゃあさ、屋上で一緒に食べない?」

「え、マジ?」

「うん。せっかくだし」

「いや、それは構わないけど………」

「よし、決まり。じゃあ行こうか」

 

 なんかヤケに楽しそうだな。何か良いことでもあったのか?いや、まぁ渋谷さんが機嫌良いと俺も不思議と機嫌良くなって来るから良いんだけどさ。

 

「渋谷さん、元気だね。何か良い事でもあった?」

「別に?」

「あ、無いんだ」

「いつも通りだけど?」

 

 いや、その割に声にハリがありますけど。ま、理由なんていっか。とりあえず、今日の昼飯が楽しみだ。

 気が付けば、二人揃って鼻歌を歌いながら歩いていた。

 

 ×××

 

 3時間目。体育でバスケの授業だ。うちのクラスは女子はバレー、男子はバスケで体育館を使っている。

 いつも通り、体育委員に従って準備体操をしていると、いつもとは違う光景が目に入った。一年生が体育館に入って来た。そういえば、2時間目の途中から雨降って来てたな。表で体育の予定だった子達だろうな。

 そのクラスの生徒達は二階に向かっていた。多分、卓球だろう。その様子をぼんやりと眺めてると、渋谷さんが混ざってるのが見えた。しかも、ガッツリ目が合った。

 

「……………」

「……………」

 

 微笑みながら手を振って来たので、俺も小さく会釈した。しかし、すごい偶然だな。たまたま同じ時間に雨が降って体育館で学年が違う友達と一緒になるなんて。

 ………なんか、渋谷さんと授業受けてるみたいで新鮮だな。そんな事を思ってる間に準備体操が終わった。

 続いて、バウンズパスのような素人でも出来るバスケテクニックを先生から教わっている。実際に生徒達がやってみる番になり、俺はたまたま余った奴と組んで無言でパスを放っていた。

 …………なんだ、この感じ。ついつい、渋谷さんを見てしまう。なんていうのかな、普段一緒に授業受けてない知り合いと同じ空間にいるからか、渋谷さんが気になる。

 その所為か、さっきから渋谷さんを何度もチラ見してしまっている。渋谷さんはそんなことはまるで無いようで、卓球を続けていた。

 

「………………」

 

 ………楽しそうだなー、渋谷さん。運動とか好きなのかな。今度、バッティングセンターとかに誘っても面白いかもしれない。もちろん、俺の金が復帰してからになるけどね。

 そんな事を考えてながらまたチラ見すると、ふとこっちを見た渋谷さんと目が合った。なんだ。渋谷さんも案外、俺と同じで知り合いがいる空間が気になってるのかも………そんなこと思ってる時だ。

 

「水原危ない!」

「はっ?………ブァッ⁉︎」

 

 顔面にバスケボールが直撃した。思わず後ろに倒れ、投げた生徒が慌てた様子で駆け寄って来た。

 

「大丈夫かよ………。パスしてんのにボーってしてるからだぞ」

 

 ………いや、にしてもバウンズパスで顔面に飛んで来るのはおかしくね………?

 

「だ、大丈夫………」

 

 一応、そう返事をしながら起き上がり、渋谷さんの方を見ると、必死で笑いを堪えていた。あの野郎、後で覚えとけよ………。

 

「保健室行くか?」

 

 おっと、これはラッキーですね。サボれるぞこれ。

 

「…………行く。でも、一人で平気だから」

「お、おう。そうか?じゃあ、先生に言っといてやるよ」

「どうも」

 

 よし、サボり確定。まぁ、怪しまれないように途中から戻って来るけどね。

 体育館を出て、顔に手を当てながら保健室に向かう。渡り廊下を歩いて校舎に入り、そのまま進んで保健室に入った。中に先生の姿はない。

 仕方ないので一人で部屋の中を散策した。いやでもどうしような。保健室に来たところで何か腫れてるわけでもないし。鼻に湿布とかつけた方が良いのかな。

 ま、少しのんびりするか。そう思って椅子に座って手を離した。手には真っ赤な液体が付いていた。………え、あれこれちょ……これ、鼻血?

 うわうわうわうわっ、やっべーじゃん!血塗れじゃん!鼻血塗れじゃん!ちょっ、ティッシュティッシュ!

 慌ててティッシュを手に取って千切って鼻に詰めた。が、鼻血は止まらない。鏡で見ると、一瞬でティッシュは赤く染まった。赤いティッシュを抜いてゴミ箱に捨てた。

 えーっと、どうしよう。どうすれば良いんだろう。こんな規模の鼻血は初めてなんですけど。一人で悩んでると、後ろから鼻を摘まれた。

 

「下を向いて」

「っ⁉︎」

 

 こ、この声………渋谷さん⁉︎

 

「渋谷さん⁉︎」

「いいから下向いて。そのまま動かないで」

 

 そ、そんな事言われたって………渋谷さんの手にも血ぃ付いてんじゃん………。

 ていうか、座ってる状態で立ってる女の人に後ろから鼻摘まれるって少し変に気恥ずかしくなって来るな………。そのまま3分くらい止まった後、渋谷さんは手を離した。続いて、ティッシュを千切って丸めると、俺の鼻に詰めた。

 

「これで良し……だと思う」

「あっ……ありがと………」

「別に良いよ」

 

 控えめにお礼を言うと、手をプラプラ振って背中を向けた。……か、カッケェ〜………。俺が女だったら惚れてる。

 

「あの………手、平気?血とか………」

「平気。洗えばすぐだから」

 

 背中を向けたのかと思ったら、保健室内の水道で手を洗っていた。

 

「すごいね、鼻血の止め方………」

「たまたま知ってただけだよ」

「俺、上を向くのと首の後ろを叩くのしか知らないから助かったよ」

「それ、両方とも嘘だからね」

「へっ………?」

 

 マジか。てか物知りだな渋谷さん。いや、それ以前に待った。何でここにいんの?授業中だろ。

 

「渋谷さん?なんでいんの?授業は?」

「トイレ行くって言って抜け出した」

 

 え、何それ。つまり、俺の事を心配してくれたってことか?渋谷さんってかなり良い人だな。弁当作ってくれるし神様かよ。

 

「っ………さっ、さっきの顔面キャッチがっ、面白くて………!ぷふっ………」

「……………」

 

 つまり、笑いに来たわけですね。お前ホントこの野郎………。

 

「人の事をジロジロ見てるからそうなるんだよ」

「っ………!」

 

 しかも、見てたことバレてるし………。なんか恥ずかしくて死にそうなんだけど………。顔を赤くして俯いてると、渋谷さんが未だに手を洗ってるのが目に入った。血を落とすのはそれなりに時間が掛かるのは知ってるけど、石鹸使えば一発だしかかり過ぎじゃね?

 そう思って、立ち上がって渋谷さんの手を取った。

 

「っ!ち、ちょっと………!」

「…………やっぱり」

 

 指に青タンが出来ていた。若干腫れ上がっている。卓球台にぶつけたのか、或いは他の生徒が振り上げたラケットにぶつけたのか……まぁ、何にせよ本当はこれを冷やしに来たんだろうな。おそらく、予定では俺を先に帰して一人で湿布を貼る予定だったんだろう。

 

「湿布探して来る」

「………なんで分かったの?」

「手を洗う時間が長かったから、もしかしたらって思っただけ。確信があったわけじゃないよ」

「…………あそう」

 

 小さい引き出しとかを片っ端から開けると、湿布を見つけた。これを指に貼れば良いのかな。

 

「指出して」

 

 言うと、隠そうとしてた割に素直に指を差し出した。湿布を切って、ちょうど良いサイズにすると渋谷さんの指に貼っ付けると、今度はテーピングを細く切って巻いた。

 

「これで良し」

「………手慣れてるね」

「昔から誰かが怪我したら俺が保健室に連れて行ってたから」

 

 面倒ごとは毎回、俺に回って来たし。いじられキャラで雑用をこなしていた俺に死角などない。さっきの鼻血?自分の応急処置は出来ないんです。

 

「よし、じゃあ体育館戻ろうか」

「そうだね」

 

 二人で体育館に戻った。

 

 ×××

 

 昼休み。屋上で渋谷さんにもらった弁当を持って座って待機していた。そういえば、高校入って初めてかもな、誰かと飯を食うの。ていうか、中学の給食以来か。………いや、まぁ気にしませんけどね別に。そんなこと思い出す暇があるなら、シュヴァ剣落ちるよう祈れや、俺。

 すると、ガチャッと扉の開く音が聞こえた。渋谷さんが現れた。

 

「ごめん、遅れた」

「いや、俺も今来たとこだよ」

 

 嘘である。着替え終わり次第、さっさと教室を出たから10分くらい待ってた。まぁ、女子は着替える時間長いし、俺と違って友達もいるだろうから長くなったんだろう。

 

「そう。じゃ、食べよっか」

 

 ………あれ、なんか渋谷さん妙にソワソワしてるな……。もしかして自分の作った弁当を目の前で食べられるからか?何それ可愛い。

 

「いただきます」

「召し上がれ」

 

 おお………美味そうだな。ウィンナーとかきんぴらごぼうとか少量ずつ盛られている。とりあえず、メインのウィンナーを一口食べてみた。おお、美味いわ普通に。

 ………渋谷さんがじっと見て来て食べ心地は悪いけど。

 

「美味いなこれ」

「っ、そ、そう………」

 

 一応、そう言うと渋谷さんは嬉しそうになる表情を何とか嚙み殺しながら相槌を返して、自分も弁当を食べた。ほんと可愛いなこの人。

 

「塩加減も焼き加減もちょうど良いわ」

「あ、ありがと」

 

 なんか褒めると照れて会話弾まねえな。別の話題を提供してみるか。

 

「さっきはマジでありがとね」

「いいって。あれくらい」

「いや、あの規模の鼻血は初めてだったからさ、マジで助かったよ」

「………いや、それならそもそもあんなアホな怪我をしないでよ。私が指怪我したの、顔面に被弾した水原くんを見て爆笑してたら後ろの子の振り上げたラケットが指に当たったからなんだから」

「…………申し訳ない」

 

 そうだったのか………。いや、それ因果応報な気もするけど。

 

「渋谷さんってさ、そういうとこ可愛いよね」

「………はっ?」

「なんていうのかな………。フラグ建築と回収が早いとこ。生放送でもそうじゃん」

「………うるさい。私、フラグとかそう言うの信じてないし」

 

 信じてない奴ほど、回収も建築も早いんだよなぁ。普段は割としっかりしてるのに。

 

「…………水原くんも早そうだよね」

「? 何が?」

「女の子にフラグ立てるの早そうだなって」

「いやいや、それはないから」

「そうなの?」

「いや本当に。いじられキャラってのはモテないからね」

「………ふーん。でも、気がきくし半端にイケメンだしモテそうな感じはするけど」

「モテたことなんてないよ」

 

 モテさせたことならあるけど。それも一切意図せずに。そうやって言うと少しカッコ良いわ。天性のキューピッドみたいだ。

 

「じゃあ彼女とかいたことないの?」

「ない。未だにファーストキスもしてないから」

「…………ふーん」

 

 ………なんだよ、自分で聞いといて興味なさそうだな。逆に渋谷さんとかはモテたんだろうなぁ?けっ、リア充が。

 

「渋谷さんはモテたでしょ」

「………まぁね。中学の時はそれなりに」

「………少しは否定しろよ」

「事実だもん。まぁ、私も付き合った事とかは無いけど」

「そうなん?意外」

 

 でもないか、割と断りそうだし。むしろ、渋谷さんは初恋もまだそうだよね。

 

「私、無愛想だから。付き合っても相手を不快にさせちゃうかなって思って」

「…………えっ、無愛想なの?」

「そうじゃん。結構、ツンツンしてるって言われるし」

「ごめん、全然わからん。あんなノリノリで生放送してるし、割と負けず嫌いだし、ライブ中だって楽しそうにしてるじゃん」

「それは……まぁ、そうだけど」

「俺から見える渋谷さんは、割と喜怒哀楽してるように見えるけどね」

「……………」

 

 …………ちょっと臭い事言ったかな。いや、でも俺の友達に自分を卑下するような事を言って欲しくなかった。

 でもなんか言ってから恥ずかしくなって来たような………。ちらっと渋谷さんを見ると、何故か渋谷さんが顔を赤くして俯いていた。で、俺をキッと睨むと、脇腹を突かれた。

 

「おふっ!な、何しやがんだお前⁉︎」

「るっさい。それより、つぎの生放送どうする?」

「………渋谷さんの好きなモンスターで良いよ。なるべく、銀レウスより強いので」

「よし、じゃあ………」

 

 なんて、結局いつものゲームトークで昼休みは終わった。

 

 


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