渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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夏休みではしゃぎたければ、とりあえず水のある所に行け。
定期試験と模擬試験は全く別物。


 7月、それは期末考査のある時期だ。夏休み前最後の関門であり、従ってどんな学生達でも必ずと言って良い程に忙しくなる。

 それは、俺達「山手線」の二人も例外ではない。あ、池袋さんはゲストなんで月一で参加すれば良い方という事に決まりました。

 そんなわけで、図書館で二人で勉強していた。だが、俺は勉強が苦手だ。出来ないわけではなく、集中力が保たない。だから、こうして勉強しててもすぐに暇に感じてしまう。

 だるーんと机に伏せて、ちらっと凛の顔を見上げた。アイドルをやってて忙しくて勉強の時間が取れないからか、こういう時に真面目に勉強しているその表情は、名前の通り凛としていてとても綺麗だ。この人を見るたびに、俺は今、とても幸せなんだなと思うわ。

 だって、アイドルやってるこんな可愛いJKとほぼ毎日一緒にいるんだぜ?これはもう俺の人生の中で間違いなく快挙だわ。

 そんな事を思いながらボーッと凛の顔を見てると、ジッと見られてることに気付いたのか俺を見下ろした。

 

「…………何?」

「いや、この時期のアイドルは忙しそうだなーって」

「そう思うなら邪魔しないでくれない?」

「見てるだけじゃん」

「それが鬱陶しいの」

 

 そう言われたらやめるしかない。

 

「大体、勉強しないの?」

「んー、俺は勉強出来るから」

 

 刑事になるために日々、勉強してるからな。定期テスト前だからと言って特別、勉強する必要はない。

 しかし、こう言うこと言うと凛は怒るかな。再び凛を見上げると、少し照れ臭そうな顔でボソッと呟くように聞いてきた。

 

「………じゃあ、さ」

「? 何?」

「教えてよ」

「何を?」

「勉強」

「え?良いけど………分からないの?」

「そういうわけじゃない。分からないところがあったらって事」

 

 ああ、そういう。しかし、凛からそういうことをお願いしてくるとは少し意外だな。負けず嫌いだし、特に俺なんかの力は借りたがらないと思ってた。

 

「全然良いよ。いつでも言いたまえ」

「………言い方ムカつく」

「いっ……⁉︎す、脛を蹴るな!」

「図書館だから。静かにして」

「うがっ………!」

 

 こ、この野郎………!いや、口では凛には敵わない。やめよう。

 席を立って本を探しに行くことにした。今更だけど、勉強する気無さ過ぎるわ。

 しかし、学校の勉強はやる気が出ないが、別の勉強には常にやる気満々だ。本棚から手に取ったのはかの有名なシャーロックホームズだ。ちなみに、読むのは初めてです。凛の前の席に戻って来て読み始めた。

 

「……………」

 

 ダメだ、飽きたな。大体、こんな短い時間でこんなの読み切れるかっての。本を閉じて、生物図鑑でも眺めようと思って立ち上がろうとすると、俺の手首を向かいの凛が掴んだ。

 氷点下まで下がったような錯覚に陥るほど冷たい視線を俺に向けると、静かな口調で言った。

 

「………鬱陶しいからジッとしてて」

「…………すみませんでした」

 

 ………なんか、大学受験で勉強中の姉に怒られた気分だ。俺の方が年上なのに。

 仕方ないので、一人で俺はその場でジッと待機することにした。しばらくグラブルをやったり勉強したりグラブルやったり勉強したりと、相変わらずの集中力の無さを披露してると「ねぇ」と向かいから声がかかった。

 

「な、何?」

 

 もしかして、また鬱陶しかったかな。少しビビりながら返事をすると、渋谷さんは俺に教科書を向けてきた。

 

「………ここなんだけど」

 

 ……ああ、わからないとこか。良いだろう、教えてやろう。教科書を受け取り、渋谷さんの指差したところに目を向けた。

 

「ああ、不定詞か」

「うん………。イマイチよく分からなくて………」

「おk。英語なら何とか教えられる」

「………他は?」

「数学物理化学生物なら何とか」

「一年生は物理と生物しかないよ」

「あ、そっか。まぁ、とにかく英語ね」

 

 2年に上がってから、化学が入ってきて生物か物理の選択で物理を捨てた。

 まずは不定詞の三つの用法について教える事にした。名詞、形容詞、副詞の順番で教える。要はこれ、動詞でもtoをつければ別の品詞になるって事だ。

 それを教え終えると、凛は小さく「ありがと」と言って勉強に戻った。………おっ、今ちょっと年上っぽい事出来たんじゃないの?

 

「ほ、他に分かんない所は?」

「? 特に無いけど」

「そ、そっか………」

 

 ま、まぁ、凛は勉強出来そうだし、そんな簡単に分かんない所なんてないよね………。

 

「わ、わかんないとこアレばいつでも言えよ?」

「………分かったから黙ってて」

「………ごめんなさい」

 

 だよね、集中したいだろうし。俺は仕方なく黙るしかなかった。

 

 ×××

 

 今日の勉強が終わり、凛と二人で帰り始めた。凛にとってはそれなりにタメになるというか、充実して勉強出来たんじゃないだろうか。俺は全然勉強しなかったが。

 大体、学校の試験勉強なんて教科書を読み込めば大抵のものはクリア出来るんだ、真面目にやる必要がない。英語(R)なんてリード問題集とかいう教科書のまとめ問題から出るって分かっちゃってるからね。

 うちの学校は別にメチャクチャ頭の良い学校でもその逆でもない。従って、学力をつけると共に自主勉強をさせるのが学校の仕事であり、それさえしてくれればテストなど勉強すれば解ける簡単な問題でも何でも良いのだろう。

 それはそれで生徒としても助かる。普段から少しずつ勉強してる俺にとっては尚更だ。まぁ、友達いないから、10分の休み時間に少し復習してるってだけなんですけどね。学んでからすぐに復習すると頭にすんなり入るわ、不思議。

 

「ナル」

「? 何?」

 

 ナル、というのは俺のあだ名だ。過去にあだ名なんて付けられたことないので……いや、あるにはあるけど「カモ」「マゾ」「チビ」とかだったので普通に嬉しい。

 

「今さ、ナルが金欠で私がお弁当作ってるでしょ?」

「あ、ああ。本当助かってます」

「その事、お母さんに話したら、晩御飯ご馳走するって言うんだけど………」

「はっ?」

 

 ま、マジ………?

 

「え、いやそんな悪いって……」

「お母さん、かなりナルの事を気に入ってるみたいだし、遠慮しないでよ」

「いや、する。むしろ遠慮しかしない」

 

 毎日、飯を作ってるから分かる。大変でしょ、俺なんかが行ったら。それに、君の家にはワンコが………?

 

「ハナコは大丈夫だから。来ない?」

「………迷惑じゃない?」

「迷惑じゃないよ。むしろ、こっちからお願いしてるんだから」

 

 ………どうしようかな。まぁ、正直助かるし……。行っても良いのかな。

 

「………あ、じゃあいただきます」

「よし、行こうか」

 

 いつも生放送前の夜遅い時間にお邪魔してたし、迷惑かどうかなんて今更な気もするし。

 渋谷家まで歩き始めた。………あれ?ていうか、渋谷さんのお宅でご飯をいただくのは初めてじゃない?凛のお母さんの作る飯だし、たぶん美味いんだろうなぁ。だって凛の飯がまず美味いし。

 

「あ、ナル」

「? 何?」

 

 やっべ、また表情から読まれたか?いや、別に悪い事考えるわけじゃないけど。ていうか表情を読むって何?今更だけど凛って俺について詳し過ぎない?博士?

 

「食べられないものとかある?今のうちにお母さんに連絡しておかないと」

「あ、ああ。えっと……マヨネーズとケチャップ」

「………それ、どうやってサラダとか食べてるの?」

「基本的に何もかけないけど」

「うさぎみたいな人だね………。好みも中身も」

 

 おい、中身ってどういう意味だ。草食系男子って言いたいわけ?

 

「分かった。お母さんに連絡しておくね」

「うん、サンキュー」

 

 そういえば、今まで凛の嫌いな食べ物とか一切聞かずに飯とか作ってたけど大丈夫かな。凛って好き嫌いありそうだしなー。ほら、現にトラプリとかニュージェネの中で一番胸小さいし。それも目視で分かるほど。

 そういうのって普段食べてるものが影響するんだろうなぁ、俺も小学生の時は好き嫌い多かったし。そんな事を考えながら、心の中で凛に失礼な同情をしていると、耳をグイッと引っ張られた。

 

「いだだだ⁉︎なっ、何すんだよ⁉︎」

「今、失礼な事考えてたでしょ?」

「っ⁉︎」

 

 え、エスパー⁉︎いや落ち着け。顔に出すな。この人は俺の表情を読むプロと言っても過言ではないお方だ。今だってカマをかけてるに過ぎない。

 

「か、考えてないよ!次の生放送の討伐は誰にしようか考えてただけだよ!」

「……………」

 

 どうだ………?ていうか、まず耳から手を離せ。若干、爪伸びてて耳たぶに刺さってる。

 すると、凛は小さくため息をつくと、耳から手を離した。よし、バレなかったみたいだ。俺もホッと息をつくと、隣の凛から声が聞こえた。

 

「………正直に謝れば許してあげようと思ってたけど、嘘つきは許せないかな」

「げっ⁉︎」

「はい、嘘確定」

「………あっ」

「私を誤魔化したいなら、もう少し表情とかに気をつける事だ、ね」

「へぶっ⁉︎」

 

 首の後ろに腕を回され、脇の下と右腕と体で首を締め上げられた。苦しい以上に胸が顔面に直撃してすごい。そして、さらにそれ以上に周りの目線が痛い。

 

「言いなさい、何を考えてた?」

「いだだだだ!ひっ、ふぃん!」

「ふぃんって誰?白状するまではなさないから」

「ふぉっ、ふぉうふぁなくふぇ!ふぁふぁりふぁふぁり!」

「何言ってるか分からないよ」

 

 こっ、このやろっ……!いや、腹を立てる前にこんな街中で不純異性交遊っぽい事はマズい。何とかして気付かせないと………ていうか何でそんな怒ってんの?

 とりあえず、腕の隙間から口を何とか脱出させてから叫んだ。

 

「言う言う言う言う!言うから周り見ろ周り!」

「はっ?………あっ」

 

 今更、自分の(無い)胸に男の顔面を押し当ててる現状に気付いたのか、周りの目線を感じ取ってようやく手を離した。頬を赤らめたまま、自分の胸を抱きつつキッと俺を睨んだ。それが怖くて、目を逸らしてしまった。相変わらず、歳上の男の行為ではない。

 気まずい空気がしばらく支配しそうだと思ったが、凛はすぐに口を開いた。

 

「………帰ろう」

「お、おう……」

 

 どうすんだよこの空気………。これから、凛の前では下手な事を考えるのやめよう。

 

 ×××

 

 渋谷家に到着し、ハナコに噛まれ、左足首に包帯を巻いて、晩飯の時間になった。

 凛のお袋が作った飯を食卓に並べ、手を合わせた。

 

「ほんとすみません、俺の分まで」

「いいのよ。いつも凛がお世話になってるみたいだし」

「いえ、お風呂貸したり晩飯作ったり布団貸したりしてるだけですから」

「それ、随分とお世話になってるわね」

「そうですね、俺お世話してました」

 

 すると、凛の母親はクスッと微笑んだ。ふむ、歳上の人にはこういうのがウケるのか。

 

「凛ってばね?あなたの家に泊まってから帰ってきた時、毎回楽しそうにあなたの話をするのよ?」

「ちょっ、お母さ」

「俺の話、ですか?」

 

 あんまり、聞きたくねーな。いじられまくってる俺の話なんて。どんな話をされてるのか聞くのも怖いわ。でも、親としては付き合ってもいない男と娘の関係は知りたがっているだろうし、ここは話を広げるべきだろう。

 

「どんな事を?」

「ん?ゲームの話とか、あなたの作ったご飯の事とか」

 

 ああ、それくらいなら………。料理に関しては美味い美味い言ってくれてるしゲームも俺助けてあげてるし文句言われるようなことはないはずだ。

 凛もホッとしてるようで「それくらいなら」と呟いていた。

 

「それに、寝てる間に布団に入れてくれるとか、下着がチラッと見えたら目を逸らしてくれるとか、どうしてもモンスター倒せなくて八つ当たりしても全然怒らないとか………」

「わーわーわー!ち、ちょっとお母さん!そういうの言わなくて良いから!」

 

 おい待て。がっつり見えたときはハッキリ言ってたけど、チラ見の件まで気付かれてたのか。ヤバい……なんか恥ずかしくなってきた。

 

「まぁ、私もホッとしてるのよ。凛が日付変わっても帰らなかった時は心配だったんだから。水原くんが電話してくれてホッとしたわ」

 

 あの時は殺されるの覚悟してた。寝てる凛の指紋認証を勝手に使ってスマホのロック解除して連絡したからな。でも、親御さんに連絡なしで泊まりは心配するだろうし、仕方ないっちゃ仕方ないよね。

 

「心配してると思ったんで。まぁ、泊まらせるって言った時は何言われるかドギマギしてたんですけどね」

「そうよねぇ。凛?これからは本当にこういうことないようにね?」

「………わかってるよ」

 

 凛は少し不機嫌そうに且つ、恥ずかしそうにご飯を食べ続けていた。こういった凛の反応は珍しくて、俺がついニヤニヤしてると隣から脇腹を突かれた。

 凛の母さんはそんな俺達の様子を見て、楽しそうに話を逸らした。

 

「あ、そういえば水原くん」

「? 何ですか?」

「ずっと気になってたんだけど、二人はいつから付き合ってるの?」

「「ぶふっ⁉︎」」

 

 二人揃って思わず口の中のものを吹き出しそうになった。

 

「あら、息もピッタリ」

「じゃないよ!何言ってんのお母さん⁉︎」

 

 ガタッと椅子を鳴らして立ち上がる凛。

 

「付き合ってないから!別に!」

「あら、そうなの?泊まりまでしてるのに?」

「そ、それは友達同士だから………」

「いや、友達同士でも異性同士なら普通は泊まりはダメだからね?言っておくけど、水原くんじゃなかったら許してなかったから」

「うぐっ………」

 

 おおう……どこまで俺信頼されてんだ。嬉しいけど、俺は家族単位で男と見られていないようだ。

 すると、今度は質問を変えてきた。

 

「じゃあ二人はいつ付き合うの?」

「「ぶふっ⁉︎」」

 

 また二人揃って吹き出してしまった。今度は俺が立ち上がって質問した。

 

「い、いやいや!何で付き合う予定みたいになってるんですか⁉︎」

「あら、付き合わないの?」

「大体、お互い別に好きってわけじゃないですし。いや、そりゃ好きですけど友達として、ですから!」

「ふーん?」

 

 凛のお母さんは意味深にそう呟くと、隣の凛を見た。凛はなんか複雑な表情を浮かべていた。え、何その顔。お前も反論しろよ。

 そんな事を話してる間に食べ終えてしまった。いやー、美味かった。たまには他人の作った飯を食うのも悪くない。

 さて、そろそろお暇しよう。食器を重ねて手を合わせた。

 

「ごちそうさまでした。食器は流しで良いですか?」

「へっ?ああ、良いのよ。やるわ」

「いや、ご馳走になりましたから、これくらいさせてください」

「そう?じゃあ、流しで良いわ」

 

 言われて、食器を流しに戻した。さて、じゃあ帰るか。そう思って鞄を背負った。

 そんな俺を見て、キョトンとした顔で凛の母さんは聞いてきた。

 

「あら、泊まっていかないの?」

「………はっ?」

 

 俺にもキョトンが伝染した。

 

「いえいえ、流石にそこまでは………。着替えもありませんし」

「ジャージで良ければ凛の貸すわよ?」

「えっ⁉︎ちょっ、お母さ」

「身長も同じくらいでしょ?」

 

 ぐっ………そこまで言われたら流石に断りづらい。別に泊まりたくないわけじゃないからな。

 

「………では、お世話になります」

「嘘っ………⁉︎」

「はい。じゃあ凛の部屋で待っててね。今、ジャージ出してくるから」

「あ、は、はい」

 

 言われて、俺は凛の部屋に向かった。もうこの部屋に入るのも慣れたなーなんて思いながら、部屋の扉を開けるとハナコが待っていた。

 

 ×××

 

 お風呂と包帯をいただいた後、部屋で凛と俺はちゃぶ台に向かっていた。凛は今も勉強していて、俺はその左隣で現代文の教科書を読んでいる。分からない所があったら教えられると思って隣に座っている。

 もちろん、服装は凛はパジャマで俺は凛のジャージ。サイズがぴったりなのが少し情けないですね………。

 しかし、何だろう。凛がなんかよそよそしいような気がする。俺、なんかしたっけかな。図書館の時と違って全然集中出来ていない。

 

「………あの、凛?」

「っ、な、何っ?」

「なんか怒ってる?」

「別に、怒ってない」

「………?」

 

 ふむ、今回のは本当に怒ってるわけではないようだ。となると、この余所余所しさは一体………?

 

「………あ、トイレ行きたいとか?」

 

 思わず思った事をそのまま口に出すと、眉間にシャーペンが飛んできた。お前あと少し逸れたら目に入ってたぞオイ………。仕方ないので、俺は黙ってる事にした。

 凛は黙々と勉強し、俺は教科書を読み終え、ただボンヤリとしていた。すると、小さな欠伸が俺の口から漏れた。時刻はとっくに日付が変わり、1時を差していた。眠くなって来たな………。

 今日は午前中、凛は仕事で午後から二人で勉強していたわけだが、その午前中の間に俺はアパートの草むしりを朝からしてたからな……。今月の家賃少しだけ負けてくれるって言うから。疲れと眠気が同時に…………。

 

「んっ………」

「っ?な、ナル………?」

 

 気が付けば、俺の身体は右に倒れ、意識は深淵の奥底に沈んでいった。かっこよく言ったけど、要は寝落ちしました。

 

 ×××

 

「んっ………」

 

 夜中、なんか寝苦しくて目を覚ますと、目の前にちゃぶ台が出してあった。そして、頭がなんか重かった。

 え、何これ。つーかなんで俺床で……あ、そっか。凛と勉強してて寝落ちしたのか。ていうか、頭の上のは何だこれ。なんかスッゲー撫でられてるんだけど。頭に手を乗せてみると、誰かの手が置いてあった。

 一瞬、ホラーかと思ったが、そもそも顔の下が異常に柔らかい。身体の下は硬いのに。ふと上を見ると、凛の顔があった。

 …………つまり、膝枕で頭を撫でられていた。

 

「っ⁉︎」

 

 まっ、マジでか⁉︎何で膝枕なんかされてっ……!ていうか、凛。寝ながら俺の頭撫でてんの⁉︎器用ですね!やばいやばいやばい、この状況は恥ずかしい………!何これ、何でこんなことになってるんだ……?いや俺が寝落ちしたからですよね。いや、でも歳下の女の子に頭を撫でられるって………。恥ずかしいというかなんというか………。

 いやまぁ、正直、心地良いので昼間だったらこのまま過ごしてても良いが、今は夜だ。夏とはいえ風邪を引くかもしれない。

 

「凛、ごめんっ………」

 

 手をどかして起き上がると、凛を抱え上げた。お姫様抱っこという奴だ。まぁ、もううちで泊まる時に何度もこれで抱っこしてるので何も感じない。強いて言うなら、女の子の体柔らかい。

 ベッドまで運んで降ろそうとした。さて、俺は床で寝るかと思った時だ。前屈みになった所で寝ぼけてるのか、凛が俺の襟を掴んだ。

 

「っ⁉︎」

 

 俺の体は前のめりに倒れ、まるで凛に襲いかかってるような絵になってしまった。

 りっ、凛の顔が近い……!あと3mm前進したらキスしそうだ。しかも、ギュッと首の後ろに手を回されて抱き締められているので逃げられない。

 ………って、凛っ?おいおいおい、何で徐々に近づいてきてんだよ凛!このままじゃっ、口と口がっ………!

 顔を逸らそうとした直後、凛の顔は急降下し、俺の胸に押し付けてきた。

 

「…………ハナコ……」

 

 ボソッとそんな寝言が聞こえてきた。どうやら、俺をずっと犬だと思っていたようだ。

 なんかバカらしくなって俺も寝る事にした。

 

 ×××

 

 翌日、男と同じベッドで寝てた照れ隠しによる凛の鋭い一撃がボディに炸裂し、心地良い目覚めを迎えられた。

 

 


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