渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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日刊1位ビビりました。ありがとうございます。


夏休みの計画は90%予定通りに行かない。

 夏休みに入った。うちの高校は夏休みは7月25日から。21日に試験が終わり、24日にテスト返却のため、教員は土日潰して試験を採点していたのだろう。そう思うと同情の念すら湧いてくるが、まぁ仕事だし仕方ないだろう。

 そんなわけで、夏休みは基本的に古本屋にいる。給料日を迎え、何とか金欠の窮地を乗り切ったとは言っても、金に余裕があるわけではない。なので昼間は電気代を少しでも浮かすために、古本屋で暇を潰してるわけだ。

 そんな俺なのだが、今は俺の部屋にいる。そして向かいでは凛が座っていた。

 

「と、いうわけで、夏休みの計画を決める会議を始めよう」

「お、おう。何も言ってないけどな」

 

 本人は知ってるか知らないが、ゲンドウポーズでそう言う凛はとても可愛らしかったです。

 最初は、そもそも計画なんて必要か?とも思ったが、よくよく考えたら目の前の人アイドルなんだよな。むしろ、計画がないと遊ぶのは無理かもしれない。

 

「よし、じゃあとりあえず空いてる日をハッキリさせよう」

 

 そう言ってスマホのカレンダーを表示した。今日は25日なので、26日からお互いに空いてる日に○印を付けることにした。

 俺の場合は7月の間は基本的に空いてるが、8月は6〜10日の間だけ実家に帰る。実家って言っても都内ですけどね。あとはちょくちょくバイトが入ってるくらい。書き終えてから凛をチラッと見た。アイドルなだけあって、予定はびっしり詰まっているんだろう。

 

「よし、出来たよ」

 

 凛はそう言うと紙を手渡してきた。受け取って俺の予定と見比べながら、カレンダーに予定を埋めて行った。

 

「………一日中遊べそうな日は一週間分くらいか……」

 

 8月の上旬なら凛も忙しいと思って、その日に実家に帰ろうと思ってたんだが、4日とも空いてるとはなぁ………。

 まぁ、それは仕方ないよね。午前中だけとか午後だけとかなら遊べる日はそこそこ多いので、その日と空いてる日で予定を切り詰めるしかない。ちなみに、金曜の夜は生放送の日で、お互い絶対空いてるので何も書いていない。

 

「よし、じゃあまず行きたいところでも決めようか」

「うん」

「どこ行きたい?」

「うーん……海とか?」

「良いね。泊まり?日帰り?」

「日帰りで」

 

 よし、海は日帰り、と。

 

「あとは?」

「んー……あとはアレだ。お祭りとか行けたら良いよね」

「なるほど。その辺はいつやるか調べないとなぁ」

「? 毎年やってるよ。この辺りで」

「マジか。じゃあそれだな」

 

 祭り。これで2日埋まった。あと行きたいところ……まぁ、俺に金がないからあんま遠いとこは無理だけど。

 

「どうしようか」

「うーん……あとはもう良いんじゃない?」

「えっ、い、良いの?」

「あとは普通に地元で遊べば良いんじゃない?モンハンとかカラオケとかボーリングとか………」

「全部いつでも出来るような事なんですけど………」

「夏休みなんてそんなものじゃない?」

 

 ………確かに、言われてみればそうかもしれない。長期休暇のため、普段行けない場所にも行ける日があるってだけで、毎日いろんな所に行けるわけじゃない。

 

「じゃあ、海と祭りの日だけ決めるか」

「うん」

 

 と、いうわけで、カレンダーに予定を書き始めた。

 

 ×××

 

 予定決めが終わり、俺と凛はその場で寝転んでいた。うつ伏せになってる俺の腰を凛は枕にしてSw○tchを弄っている。

 そんな渋谷さんはカチカチといじりながらボソッと呟いた。

 

「………なんかさー」

「どしたの?」

「モンハン飽きた」

「早くね⁉︎」

 

 まだ始めて一ヶ月なんですが⁉︎早くね?

 

「ていうか、今まで何してたんだろ………。なんていうか、こう……なんでゲームに何時間も費やして………」

「お、おう………」

「大体、モンハン面倒臭過ぎ。素材とか手に入れなきゃいけないし、宝玉とか落ちないし敵強いし。ホロロホルルとかストレスしか感じなかったし」

 

 ボロクソに言い出したよ………。いや、気持ちはわかるが。でも防具なんて攻撃当たらなきゃ必要ないし、武器はあんま宝玉使わないから、敵倒すだけならあんま面倒じゃないんだけどな。

 

「実はさ、奈緒も同じ事言ってたんだよね。たまに奈緒と二人でやってたりしたんだけどさ。『もうこれ無理、ふざけんな!ナルガとか無理ゲーだろカッコイイけど!』って言ってた」

 

 いや、ナルガくらい倒せよ………。え?ていうか二人掛かりで倒せなかったのか?

 

「まぁ、その……何?それならやめる?」

「んー……そうだね。次の生放送でやめようか」

「じゃ、最後はカマキリだな」

「りょかい」

 

 ふむ、しかしそしたら凛がうちに来ることも無くなるかもなー。まぁ、それならそれで仕方ないか。友達じゃなくなるわけじゃないし。

 すると、凛は何か思いついたように聞いて来た。

 

「他のゲームないの?」

「あ、ゲームには飽きてないんだ………」

 

 こいつ、懲りないタイプか………。ま、平気か。行きすぎたら俺が口を挟めば良い。

 すると、ズシッと全身に体重が掛かるのを感じた。その直後に、俺の右肩に顎を乗せる凛。俺の上に寝転がるのは結構だが、少しボディタッチが過ぎませんかな。

 

「ね、何やる?」

「んー、たまにはうちにあるゲームやる?」

「うちにあるって?」

「古い奴。プレ2とかW○iとかゲーム○ューブとか」

「ソフトは何があるの?」

 

 言われて、俺は立ち上がった。上に乗っていた凛は「わー」と棒読みの悲鳴を上げながら転がって上から退いた。かわいい。

 テレビの下の引き出しを引っ張り出して凛の前に置いた。

 

「うわ、たくさんある………」

「中学の時に買ったんだよ」

 

 みんなで遊べるパーティー用のゲームをな………!接待プレイを覚えるのが大変だったぜ………。なにせ、俺が勝つと何故か変な空気になるからな。

 スマブラ、マ○オパーティー、マ○オカート、プレ2だと桃鉄とかとにかく色々。それらを見ながら凛はスマブラを手に取った。

 

「よし、これにしよう」

 

 よりにもよってそれか………。俺もそれなりにやってたから、自分的には強いと思ってるけど大丈夫かな………。

 

「良いけど………負けても泣かないでね」

「泣かないよ。むしろ、私が負けて叩いても泣かないでね」

「いや叩くなよ⁉︎ていうか負ける前提になっちゃってるし!」

「いや、負けないからほんとに。操作方法教えて」

 

 どこからその自信が来るのか………。まぁ、良いけどね。

 W○iの電源を入れて、ディスクを入れた。スマブラとか懐かしいなー。本気でやれば中学の時の同級生よりは強かったのは間違いない。

 凛に操作方法を教えて、いざ対戦開始。

 

「何使う?」

「俺?俺は……マ○オでいいかな」

「じゃあ私ピ○チュウ」

「いや別に先に決めても後に決めても大した変化はないでしょ……」

 

 ステージは終点。さて、小手調べと行こうかな。

 マ○オとピカ○ュウが終点に降り立ち、カウントダウンが鳴り始めた。

 

「ちょっと操作確認させてくれる?」

「ん?ああ、いいよ」

「終わったら言うから、グラブルでもやってて」

 

 言われて、俺はスマホを取り出した。そんな長丁場になることをする気なのか?いや、まぁ何でも良いけど。

 しばらくティアマトマグナをやってると、ドオォォンッとスマブラ特有の死亡エフェクトが聞こえた。顔を上げると、マ○オの機数が一つ減っていた。

 

「………凛?」

「何?」

「どういう事かな?」

「何が?」

 

 こいつ………!上等ですよこの野郎。

 

「よし、やろうか」

「良いよ」

 

 そんなわけで、ハンデ付きで勝負開始。降りるなりファイアーボールを連呼した。ピカ○ュウに直撃し、怯ませながら接近する。

 ピカ○ュウは何とかジャンプで回避すると、電撃を放って来たので、前方への緊急回避で避けながら降りて来た所を上スマッシュでぶっ飛ばし、ジャンプして横に蹴り飛ばし、離れた所にさらにファイアーボールを連投した。

 

「むーっ」

 

 いやまだ唸るほどの攻撃はしてないんどけどな。

 何とかでんこうせっかで復帰したピカ○ュウの胸ぐらを掴み、逆方向に投げるとジャンプして追撃した。

 

「うぐっ」

 

 空中で横に蹴り飛ばし、一度着地してから復帰しようとするピカ○ュウの元へもう一度ジャンプし、メテオで落とした。

 

「はい落ちろー」

「うあっ……!ずるいよ!」

「どっちが………」

 

 これで、お互いに残り二機。ピカ○ュウが空から降って来ながらかみなりをしてきたので、緊急回避で躱しながら距離を置くと、ファイアーボールを連投した。

 

「っ、ほっ、当たらないよっ」

 

 なんとかタイミング合わせながらジャンプして避けると電撃を放った。それをマントで返し、ピカ○ュウに直撃させた。

 

「はっ?ちょっ、何それ………!」

 

 怯んだ隙を見て走りながらスライディングキックを放ち、浮いた所で空中に殴り飛ばし、ジャンプしてトルネードしようとしたが、空中回避で躱された。

 

「おっ」

 

 着地してから、かみなりを連発。一発当たったが、距離を置いてポンプで押し出した。

 

「ちょーっ!何それ何それ何それっ!」

「ポンプだよ」

「ズルいって!」

「だからズルかないでしょ」

 

 落ちそうになり、ギリギリ崖に掴まってる状態になるピカ○ュウに追撃しようとしたが、起き上がりからのキックで軽くブッ飛ばされた。

 さらに軽くジャンプして、電撃をまといながらの空中攻撃を放って来た。

 

「お、学習した」

 

 さらに後ろに飛ぶマ○オだが、すぐに起き上がって後ろに緊急回避し、ファイアーボールを放った。

 ジャンプで回避してマ○オの真上に来てかみなりを放ったので、緊急回避し、着地した瞬間を狙って横スマッシュでぶっ飛ばした。

 

「ねぇ、それズルくない?」

「どれだよ」

「その転がる奴。当たらないんだけど」

「緊急回避だよ。ガードと横で出来る」

「………さっき教えてくれなかった」

「ごめん忘れてた」

「………ずるい」

「いや忘れてたんだってマジ、で!」

「あっ………」

 

 メテオでまた落とした。切なそうな声を上げる凛に、俺は笑いながら言った。

 

「戦闘中にお喋りはだめっしょ」

 

 直後、ポコポコと隣で俺の肩を叩き始める凛。その様子は如何にも可愛らしかったが、君案外力強いんだから痛いですごめんなさい。

 最後の一機となったピカ○ュウが現れ、再度戦闘開始。まぁ、その、何?結論から言うと勝ちました。ぷくーっと悔しそうに頬を膨らませる凛に、俺はさらに笑いながら言った。

 

「無駄だから。見てない間に殺しとくとかしても。お願いだから笑わせないでくれる?」

「〜ッ!」

「痛い痛い、叩かないでってば」

「ムカつくムカつくムカつく!」

「ごめんごめん!謝るからほんと痛いから!」

 

 なんとかそう言っても、流石に煽り過ぎたのかやめてくれない。俺の事を押し倒すと、キャラ選択に戻った。

 しかし、凛はスマブラは割と上手いな。たった一戦でこっちの攻撃をいくつか学習してた。もしかしたら、対人戦のゲームの方が合うのかもしれない。

 

「あー、凛。どうせやるなら少し練習しよう」

「煽り魔は黙ってて」

「……………」

 

 煽り魔って………。通り魔みたいに言うなよ。ていうか、普段はそっちの方がたくさん煽って来る癖に………。

 

「やろう、もう一回」

「まぁ良いけど………」

 

 仕方ない、やるしかないか。これ、勝っても良いのかな。いや、でも手を抜かれるの好きそうじゃないし………。

 

「早く」

「は、はいっ」

 

 歳下の女の子に命令されて、良い返事をしてしまった。でも、今俺とやり合った所で一方的に袋にしちまいそうでなぁ………。

 

「あー……凛。ハンデいる?」

「…………バカにしてるの?」

「いや、そんなつもりはなくてさ………。その、何?アイテムとか色々あるし。どうせやるなら勝ちたいでしょ?やってる年季が違うんだから勝てないのは仕方ないって」

「………………」

 

 言うと、少し顎に手を当てて考え込む凛。

 

「………でも、ハンデあって勝っても嬉しくないし」

「なら、勝てたらハンデを徐々に緩くしていけば良いよ。そんな焦らなくても良いじゃん」

「………………」

 

 すると、凛は俯いたままボソッと呟くように言った。

 

「………じゃあ、ナルはアイテム使用禁止ね」

「了解」

 

 そんなわけで対戦を再開し、夜中まで続いた。

 

 ×××

 

 夜中。明日は凛は午前中は休みで午後から仕事だから、泊まりでも平気。ていうか、凛も泊まる気満々だったようで着替え持って来ていたし。

 しかし、今日の寝方は問題だな。何故なら、思いっきり俺の方に傾いて寝ているからだ。膝の上に頭を乗せて寝ている。しかも何故か、俺の体の方に顔を向けて。どうしてそうなるんですかね。

 とりあえずリモコンでテレビとW○iの電源を切った。

 

「………………」

 

 可愛い寝顔で、凛は俺の膝の上で寝息を立てている。何となくその姿に犬っぽさを感じた。

 ………何だろ、凛って周りの人は猫っぽく見えるかもしれないけど、俺から見たらすごい犬っぽい。雰囲気とは違って人懐っこいような気がする。じゃなきゃ、異性の膝の上で簡単に寝息は立てないよね。

 

「……すぅ、すぅ………」

 

 ………なんで人って寝息を立てる時って、なんか、こう……少し唇尖らせるんだろうか………。なんかキスを待ってるような顔に……。

 って、いかんいかんいかん!バカなこと考えるな!とりあえず、頭を撫でてあげよう。犬だし。犬が苦手な俺でも、凛みたいな大人しい犬なら平気な気がする。

 そう頭の中で言い聞かせて、頭を撫でた。………あれ?なんか凛の耳が徐々に赤くなってる気が……温泉に入ってる夢でも見てるのかな?

 

「…………………」

 

 ………いや、凛が犬だとしても犬は怖ぇわ。俺は頭を撫でる手を止めて、布団の中に入れてあげることにした。

 退かそうと思って凛の身体を起こそうと上半身に手をかけた。だが、凛はそれに合わせて俺の膝に体重をかけた。まるで退かされるのに対抗するかのように。

 

「…………………」

 

 どうやら、本当に温泉に入ってる夢のようだ。多分、俺が退かそうとした所で何か夢の中で温泉から追い出されそうになってるんだろう。

 …………でも俺もこのままだと眠れないんだけどな………。仕方ない。俺は凛の頭は退かさずに膝を抜いて、代わりに頭の下に腕を置いた。膝枕から腕枕に移行した。

 今日は布団は良いか、このまま寝ちゃおう。そう思って、凛の真横で横になった。なんか顔近くて恥ずかしいけど、凛が温泉に入ってる夢をキープするには仕方ない。

 

「…………おやすみ、凛」

 

 そう言って凛の頭を反対側の手で撫でると、そのまま目を閉じた。直後、凛の顔面が俺のおデコに突撃して来た。

 

「ゴフッ⁉︎」

 

 予想外の攻撃に俺が怯んでる間に、顔を赤くした凛は反対側に寝返りを打った。な、何の夢を見てたんだ……?温泉じゃないのか……?

 何もかも分からなくなったまま、とりあえず俺も眠る事にした。

 

 


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