金曜日の夜、モンハン最後の生放送が終わり、俺はその場で寝転んだ。来週からはスマブラ回である。
まぁ、別にモンハンはそれでも良いし、元々やりたいと言い出したのは凛の方なので、別にそれは良いんだけどね。リスナーの皆さんもモンハンばかりじゃ飽きるだろうし。
いや、まぁ凛のゲームでのフラグメイカーっぷりはもはや職人芸の域に達しつつあるが、凛自身がヘタなプレイを晒すのは嫌らしい。
「と、いうわけで、練習したいと思うんだけど」
「お、おう。まぁオレは構わないけど」
明日は凛も俺も休みだ。ちなみに、今日は凛は夕方まで仕事だったらしい。その足でそのまま生放送参加とは本当お疲れ様です、渋谷さん。
そんな話はともかく、スマブラである。生放送で使った機材を片付けてからW○iの電源を入れた。
ゲーム○ューブコントローラを繋ぎ、片方を凛に手渡した。
「はい」
「ありがと」
そういえば、今日は凛は寝転がらないな。ゲーム終わったら毎回寝転がるのに。
ま、そんなのは気分によるし個人の自由か。あまり気にせずにゲームを開始した。今日も二人で対戦である。俺はとりあえず色んなキャラを選択し、凛はメタ○イト固定。というのも、なるべく一人のキャラに絞って上手くなった方が良いと考えたからだ。
で、凛はメタ○イトを選んだ。まぁ、最強クラスなので良い選択をしたと思う。最強クラスっつーか最強ですよね。
「よし、じゃあやろうか」
「待った」
何かね今度は。顔を上げると、凛は俺の膝の上に座って来た。
「っ!ち、ちょっと凛………⁉︎」
「これでハンデね」
た、確かに画面が見にくいし操作もしづらいけど………。いや、凛は真顔だし、これくらい友達同士なら普通の事なのか?そういえば、クラスの女子が女子の膝の上に座ってるのを見たことあるような気がしないでもないけど………。
普通の事なら、俺もあまり意識しない方が良いだろう。お尻の感覚が服越しとはいえ、ダイレクトに足に伝わってくる。いかんいかんいかん!落ち着け俺!凛を性的な目で見るな!燃えろオオオオ!俺の何かアアアア‼︎
「ナル、貧乏揺すりうるさい。ジッとしてて」
誰のせいだと思ってんだよお前!この猫っぽい犬が!
凛の表情は後ろからでは見えないが、耳が赤くなってる所を見ると、おそらく笑いを堪えているのだろう。これもからかいの一環なんだろうし。年上、それも男として情けない………。
そんな凛は予定通りメタ○イトを選んだ。俺は俺でランダムを選び、ステージは終点にした。
メタ○イトとネ○が舞台に降り立ち、戦闘開始。ネ○の電撃技みたいな奴で反撃の隙を与えずにダメージを与えながら声を掛けた。
「そういえばさ、凛」
「危ないって!ちょ待って何それ当たんないんだけ……何?」
「凛はさ、他に友達いるわけじゃん?奈緒とか北条加蓮さんとか」
「ねぇ、吸収はずるいでしょ!」
「空いてる日とか俺と遊ぶことにしちゃったけど、他の人達と遊ぶ予定は良かったの?」
「え?何?」
「…………いや、なんでもない」
少し気になったから聞いてみたけど、それどころじゃないみたいだ。仕方ないので、隣で凛のソロ曲を鼻歌で歌った。いや、この曲さ、友達としての贔屓目抜きで好きなんだよ。歌詞とリズムが良いよね。
しかし、ホント上手いなスマブラ。俺のやってたメテオとかガンガン真似して来るし。結構、空振りするけど。
「………ねぇ、ナル」
「? 何?」
「その………その歌はやめて……」
「なんで?」
「なんか、自分の曲を目の前で歌われるのは………は、恥ずかしい……」
「……………」
何その可愛い理由。思わず頭を撫でてしまった。
「ち、ちょっと……撫でないでよ」
「あ、ごめん」
手を引っ込めた。ヤバイヤバイ、流石に女の子の頭を撫でるのは良くないよな………。でも、手が離れない………!しぶりんの髪の毛はブラックホールか⁉︎
撫でるな、と言われたのにしつこく頭を撫でてると、凛は不機嫌そうに言った。
「ていうか、余裕だね。ゲーム中に頭を撫でるなんて。片手で私に勝つ気?」
「え?あ、いや別にそれでも良いけど」
「なら、ハンデその2。片手で戦う事」
「はぁ⁉︎大体、撫でるなって言ったのは凛の方で」
「良いから」
まぁ、そこまで言うなら少し頑張ってみようかな………。とりあえず、コントローラーを床に置いて、キーボードを打つ感覚で動かし始めた。これで何とか動かせそうだ。
「って、無理無理無理流石に無理だってこれは!」
スマッシュも投げ技もメテオも出来ない!PKサンダー体当たりとかまず無理!
割とボコられてる俺に、凛は冷ややかに言った。
「良いって言ったのナルじゃん」
「いやそうなんですけどね……!思ったよりキツっ………!」
「手、止まってるよ」
「うぐっ………!」
こ、こいつ………!大体、異性の膝の上に座って頭撫でられてるのに、何平然とゲームやってんだ!前に座ってるから顔は見えないけど、少しは焦ろよ!そんなに俺って異性に見えないのか?
結局、ネ○を上手く動かせなくて負けた。
「よし、勝った」
「………嬉しいの?この勝ち方……」
「正直、イマイチ」
やはりな。凛はそう言うの厳しそうだし。
「ねぇ、撫でるのやめて良いか?正直、勝てる気しないんだけど」
「いや、勝手に撫で始めたのはナルの方だし」
「やめるなって言ったのは凛でしょ………」
まぁ良いか。手を離し、続いて凛の背中を軽く押した。
「はい、降りて」
「? それは断るけど」
「はぁ?なんで」
「頭撫でなくて良いとは言ったけど、降りるなんて一言も言ってないし」
っ、た、確かに………!いや、まぁ別に良いけどさ。それくらいならハンデのうちに入らない。そう思って、後ろから手を回して凛のお腹の前でコントローラを握った。
ネ○はやめてまたランダム。メタ○イトとロボットで戦闘開始した。
×××
0時半までゲームをした所で、凛がコントローラを置いた。勝率は大体8:2で俺が勝っていた所だ。
「もう嫌、今日は寝る」
「もう良いの?」
「うん、だって全然勝てないんだもん」
「いやいや、上手くなってるって本当に」
少なくとも中学の時の奴よりは全然マシ。俺が二番目に使いやすいと思ってるウ○フで一機落とされたのは初めてだ。
「もしかしてさ、ナルの持ちキャラってゲーム○ウォッチかウ○フ?」
「よくわかったね」
「いや、その二人だけ明らかに動き違ったし。あとゼロスーツサ○スも強かった」
「ゼロスーツに関しては練習したからなぁ。正直得意じゃなかったんだけどね」
「…………そうなの?」
「ああ、だって美人じゃん」
「…………ふーん?」
あれ、声が少し低くなったような………。
「いや、俺はスマブラは前作も前々作もやってたんだけど、サ○スはずっとアーマー脱いでなかったんだよね。それを脱いだらあんな人が出て来たからさ………その、こう……何?ギャップ?がすごかったんだよね。それにポニテだし」
「…………髪は染めてない人が好きなんでしょ?」
「いやいや、明らかにこの人外国の方でしょ。もしかしたら地毛かもしんないじゃん」
「………あっそ。もう寝よう」
「えっ……ちょっ、怒ってる?」
「怒ってない。明日からゼロスーツサ○ス以外禁止だから」
「え、なんで⁉︎てか良いの?」
「…………絶対倒せるようになってやるからね」
お、おう………。すごい殺気だなオイ………。
仕方ないので、W○iとテレビの電源を切って凛に声を掛けた。
「凛、布団敷くから退いて」
「あ、うん」
そういえば、凛が寝落ちしないで寝るのは初めてかもしれない。
そんな事を考えながら、とりあえずコントローラをしまおうと立ち上がろうとした。だが、足が動かない。
「…………あれっ?」
「? ナル?どしたの?」
………なんか、足を動かそうとすると、くすぐったいような感じの何かがふくらはぎと足の裏に走って………。
「…………足が痺れて立てない」
「………………」
凛は小さくため息をつくと、押入れを開けた。
「布団はここだっけ?」
「そうだけど………」
「たまには私が敷いてあげる」
「えっ?いやお客さんにそんな………」
「いや、お世話になってる身だから」
「そ、そう………?」
「ここに敷けば良い?」
「うん」
押し入れから布団を引っ張り出して布団を敷いた。それと、薄い夏用の布団を一枚取り出し、布団の上に置いた。あとはコントローラもしまいたいんだけど……そこまでお願いするのは申し訳ないかな。
脚は痺れてるので、ほふく前進で布団まで進むと、凛は俺の上半身に手を挟んで抱き上げた。
「いいよ、運んであげる」
「…………何から何まですみません」
「ううん、私が乗ってた所為だもん。コントローラは棚で良いの?」
「………え、なんで分かるの?」
「ナルの事なら何でもわかるよ」
俺の事を布団まで運ぶと、コントローラを棚にしまった。ホント申し訳ない。そういうのは俺の仕事だからなぁ。
凛は電気を消すと、俺の隣に寝転がった。
「じゃ、寝よっか」
「…………え、同じ布団で?」
「? そうだけど?」
「い、いいよ。俺床で寝るから。いつもそうしてるし」
「今日くらい良いでしょ。もう、布団の上に運んじゃったし」
そう言って、凛は薄い掛け布団を手に取って俺と凛を包み込むように掛けた。
…………あれ、何この感じ?なんか恥ずかしいぞ?今まで何度も一緒に寝てたのに。寝落ちじゃなくて改めて一緒に寝るとなるとこんなに恥ずかしいものだったのか………?
自分でも顔が赤くなってるのを感じる程に頬が熱い。電気は消えてて多分、凛には見えてないはずだが、何となく俯いて顔を隠した。
「………何、今更照れてるの?」
「…………電気消えてるのになんで分かるんだよ……」
「言ったじゃん。ナルの事なら何でもわかるって」
それ、告白みたいだからやめろよ…………。凛は小さく「なんてね」と呟いて微笑んだ。その表情が可愛らしくて、照れくさくて、また同じように俯くと、凛はニヤリと微笑みながら続けた。
「まぁ、実際は下を向いて顔を隠そうとしてるから分かっただけなんだけどね」
「………………」
俺が勝手に自爆してるだけだった。俺ってバカなんだなぁ………。刑事を目指す身としては、もう少し考えてることが表に出るようなことは避けるようにしないと………。
「り、凛」
「? 何?」
そういえば、さっき気になったことを聞いてみることにした。
「奈緒とか北条加蓮さんとか、凛にはそういう女友達もいるのにさ、休日はほとんど俺と遊ぶ約束しちゃってたけど………良かったの?」
「……………」
「………も、もし、そっちを優先したいなら……そっちに行っても、良いんだよ………?」
聞くと、凛は一瞬だけ複雑な表情を浮かべた後、ムッとした表情になって俺の頬を抓った。
「ふぁ、ふぁひ?」
「………ナル、怒るよ」
「ふぁっ、ふぁんふぇ⁉︎ふぇか、ふぇをふぁふぁふぇ!」
「嫌」
アレ………?少し怒ってる………?それ以前に、手を離せって言ったの通じてる?
「良いの、別にナルはそんな事気にしなくて。加蓮とか奈緒とかは事務所でいつでも会えるし」
それに………と、凛は手を離して、恥ずかしそうに若干目を逸らしつつボソッと呟くように続けた。
「……………私がナルと一緒にいたいからいるの」
「…………」
…………なるほど。確かに暗くて顔色が見えなくても、相手がどんな顔をしてるかはよく分かるわ。多分、凛は今、顔を真っ赤にしている事だろう。
何より、多分俺も顔赤いし。だってそれ告白みたいじゃん。どういう意味なのよ?俺と一緒にいたいって………ああ、そういう事か。
「まぁ、うちじゃないとスマブラ出来ないもんな」
「………………」
………あれ?真夏なのに、なんか気温が氷点下まで下がったような……。
直後、目の前の凛から突きが飛び出して来て、俺の腹を見事に捉えた。
「ぐほっ⁉︎なっ、何すんだよ⁉︎」
「うるさいバカアホドジマヌケ」
「小学生か⁉︎」
「うるさいバカ。寝る。あんたも寝たら?もう夜遅いし、永眠はしっかり取った方が良いよ」
「永眠⁉︎なんで突然死の宣告を………!」
「おやすみ」
「おい!寝にくいよ!おーい!」
「うるさい」
…………な、なんだよ………。急に怒って……。俺、今悪い事言ったのかな………。今度、奈緒にでも相談してみるか。