渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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誰かに似ている。

 翌日、俺は学校に向かっていた。いつもとは違う通学路で。何となくだが、もしかしたら昨日の凛さんと会えるかなーと思って、花屋の前を通った。いや、ストーカーじゃないけどね?でも、こう……何というか、顔だけでも見れたなー?みたいな?

 そんな事を思いながら花屋の前を通過すると、「あっ……」と声が聞こえた。ふとそっちを見ると、昨日の凛さんが見ていた。え、マジか。まさか、会えるとは……。内心ビビりながらも声を掛けた。

 

「あ、おはよう。えっと……凛さん、だよね?」

 

 なんかリン酸みたいだな。

 挨拶すると、凛さんが怪訝そうな顔で聞いてきた。

 

「………なんで名前を?」

「昨日、そう呼ばれてる所を聞いたから。苗字はなんていうの?」

「……渋谷。あなたは?」

「え?俺の名前昨日呼んでなかった?水原だけど」

「下の名前」

「ああ。俺は水原鳴海」

 

 そういや、自己紹介もしてなかったな。

 だが、自己紹介よりも大事な事を見過ごしていた。渋谷さんのその制服、見間違いではなければ、うちの高校の女子制服だ。

 

「………あの、その制服」

「もしかして、○○高校?」

「うん。渋谷さんも?」

「……うん」

「あ、じゃあもし良かったら一緒に行く?」

 

 正直、すごい勇気振り絞った。だって、俺彼女とか出来たことないもん。変なナンパとかみたいに思われたら嫌だし。

 だけど、その、何?せっかく会えたのに、さっさと一人で行くのも感じ悪いし………みたいな?いや、でも自分からこの家の前通った癖に……あれ、つーか俺何でここに来たんだっけ?顔観れれば良かったんじゃ……。

 などと色々とゲシュタルト崩壊を起こす勢いで頭の中がグルグルと回り始めた時、返事が来た。

 

「………別に良いけど」

「っ!じ、じゃあ行くか!」

 

 ………なんで一緒に登校するくらいで喜んでんだよ、俺。

 二人で並んで歩き始めた。しかし、少し気まずいな……。誘った以上は何か話しかけた方が良いよな。

 

「渋谷さんはさ、何年生?」

 

 一応、聞いてみた。いや、だって俺は普通にタメ語使ってるけど、向こう年上だったら恐れ多いじゃん。女子のいじめは怖いって聞くし。俺の目標は高校三年間で彼女を作る、というものなのだが、女子の敵になりたくない。

 

「一年だけど?」

 

 予想の一個上だった。年齢は一個下だけど。

 

「へ、へぇ……そうだったんだ………。大人っぽいから、二年生くらいだと思ってたよ」

「水原くんは?」

「お、俺?」

「うん」

 

 どうしよう……二年生と言えば、多分向こうは気にするよなぁ。今まで普通にタメ口だったし………。いや、でも変な嘘はいらないか。

 

「二年生だよ」

「そっか。正直、制服姿を見るまで歳下だと思ってた」

 

 失礼な………。ていうか引き続きタメ口?まぁ良いけど。

 すると、渋谷さんの方から聞いて来た。

 

「部活とか入ってないの?」

「俺?入ってないよ」

「ふーん、なんで?」

「一人暮らしだからなぁ。部活入ると金かかるし、バイトしなきゃいけないし」

「大変だね」

「本当だよ。そういや昨日さぁ、渋谷さんが帰った後にバイト先に変な客が来てさ、もう最悪だよあいつ」

「どうしたの?」

「うちの店、閉店間際は20%引きとかやるんだけど、巻物はそれ対象外なんだよね。それ、会計の前に軽く説明するんだけど、それ全部聞き流した奴が会計終わってから文句言って来てさ。マジで八つ裂きにしてやろうかと思った」

「や、八つ裂き………?」

「いや、冗談だけど」

「ふーん、バイトってそんな人も来るんだ……」

「花屋は来ないの?」

「来ない」

「まぁ、花買う人は大体、目的とかあるだろうしなぁ……。誕生日とか贈り物とか……そういうことする人がイカレポンチだとは思えないし」

「そうだね。でも、こっちも大変だよ。お客さんに花を勧める時は花言葉とか把握しておかないといけないし……」

「あーそっか、花言葉とかあるんだっけ。俺も少し知ってるよ、花言葉」

「? 何の?」

「今夜は花言葉のお勉強。まずシクラメン、花言葉は『疑惑』。ソメイヨシノ、花言葉は『美しい人』。シダレグワ、花言葉は『智恵』。そしてミヤコワスレ。花言葉は『しばしの別れ』。古畑○三郎でした」

「ドラマじゃない……。てかよく完コピできるね」

「俺は将来、古畑○三郎みたいな刑事になるのが夢だからな」

「………夢とかあるんだ」

「え?渋谷さんはないの?」

「………私は、ないことはない、かな」

「へー。何?」

「………教えない」

「え、なんで」

「言っても伝わらないだろうし」

「なんで⁉︎」

「だってテレビ見ないんでしょ?」

「何、もしかしてアイドルになることとか?」

「…………違う」

「じゃあ女優?」

「そういう問題じゃないから。刑事になりたいなら、もう少しテレビとか見た方が良いよ」

「見てるって。刑事ドラマとか」

「そういうんじゃなくて……」

 

 あれ、なんか話が通じてない………?というか噛み合ってない?すごい呆れられてるし……もう少しテレビ見ようかなぁ。

 

「水原くんってアレだね。割と馬鹿なんだね」

「いきなりなんだよビックリした」

「成績悪いでしょ」

「いや、そこそこ良いよ。数学なら98点が最高」

「じゃあ、頭の良い馬鹿だ」

「そこまで俺を馬鹿にしたいの⁉︎」

 

 そうツッコミを入れた時、渋谷さんは少し微笑んだ。とても可愛らしい笑みではあったが、なんか嫌な予感がした。

 え、何その笑み、と言おうと思ったが、学校に到着したので後にする事にした。

 

「じゃ、俺はあっちだから」

「うん、またね」

 

 軽く手を振って別れた。

 

 ×××

 

 二年の教室で、俺はボンヤリと空を見上げていた。する事ねー。暇だ。そういう時は、グラウンドで体育をしている人達を見て、何部かを推理しよう。

 ソフトボールかな?女子がやってる。一番、バッターは……ああ、両手逆に持ってるし、多分アレだ。文化部。微妙に目の下にクマが出来てるし……いやそれは誰だって夜更かしすりゃクマくらい出来るし関係ないか。

 その女子は三振し、次の女子。今度の女子は構える手は普通だった。黒髪でロング、体型も割と………ていうか、アレ渋谷さんじゃん。

 渋谷さんはバットを構えると、キッとピッチャーを睨んだ。

 ピッチャーは胸前でグローブにボールを握った手を入れて構えると、腕を振ってボールを投げた。

 割と早い球が飛び、ストライクゾーンに向かう。渋谷さんはバットを振り下ろした。空振りした。意外にも、タイミングは合ってるが、球とバットの間に差がある。

 

「…………」

 

 二球目はボールで見逃した。選球眼はあるようだ。で、三球目。バットを振り、ボールに当たった。良い感じに当たり、セカンドとファーストの間を抜けた。

 

「………おー」

 

 スゲェ、打ったよ。まぁ、タイミング合ってたし打てそうだなーとは思ってたけど。

 一塁で止まって、少し嬉しそうな表情で、騒いでるベンチに手を振った。………渋谷さんも、あんな表情するんだな。控えめに言って可愛いわ。

 さて、一死一塁。俺なら打順にもよるけど、次が三番だとして、俺が監督なら送りバントで二死二塁にして、四番にヒットエンドランさせて帰らせて先制して、相手にプレッシャーをかけるかな。

 そんな事をぼんやり考えてると、ふと一塁の渋谷さんが校舎を見た。何故か俺と目があった。直後、なんで見てんの?みたいな視線を向けて来た。

 俺は慌てて目を逸らした。ヤバい、ストーカーみたいに思われるかも………。

 

「…………」

 

 様子見するようにもう一度見た。……まだこっち見てるよ………。

 すると、カキーンと音がした。その後によってハッとなった渋谷さんは走り出した。あ、バカ。ちゃんと打球見ないと。フライで開幕スタートしたら最悪ゲッツー……。

 案の定、フライで一塁に投げられ、ゲッツーになった。渋谷さんは恨みがましそうな目で俺を睨みながら、自分のベンチに戻った。うん、帰りは一緒にならないようにしよう。

 

「おい、水原」

「?」

 

 後ろから声が掛かった。ふと振り向くと、先生が鬼のような形相で俺を睨んでいた。

 

「女子の体育を覗いてる暇があるなら授業に集中しろ」

 

 気が付けば、ほかのクラスメートは俺をゴミを見る目で見ていた。

 

 まぁ、その、なんだ。死のう。

 

 ×××

 

 放課後、さっさと帰ろうと思って、教室を出た。今日はバイトないから、本屋で涼んでヨ○バシカメラでテレビを見てから帰るんだ。

 そんなことを思いながら下駄箱から出ると渋谷さんが前を歩いてるのが見えた。

 

「渋谷さん、今帰り?」

「? ……あ、水原くん」

 

 相変わらずタメ口だ、別に良いけど。

 

「女子の体育覗いてたでしょ」

「………あっ」

 

 そういえばそうだった。いや、覗いてたわけではないが。

 でも何部か当てようとしていた、とかは結局ジロジロ見ていた事になるし言わないでおこう。

 

「別に覗いてたわけじゃないから。ただソフトボールやってんなーって思って」

「水原くんの所為でアウトになった」

「いや、あれはゲーム中にボーッとしてた渋谷さんの所為じゃ……」

「そもそも覗いてたのが悪い」

 

 えぇ……何それ……。いや、まぁ俺も悪いかもしれないけど………。

 

「女子っていうのは視線に敏感なの。特にストーカーとかセクハラの視線には」

「ち、違うから!ストーカーでもセクハラでもないから!」

「ふーん?どうだか」

 

 いやいやいやいや、ストーカーでもセクハラでもないからマジで。ていうか、その手の話題はマジでダメ。仮に君が冗談のつもりだったとしても、通りがかる人が勘違いするから。

 周りにクラスメートがいないか確認してると、俺の焦ってる表情を読み取ったのか、渋谷さんがまた意地悪な笑みを浮かべて言った。

 

「実はさ、今朝話してて思ったんだけど、水原くんって私の歳上の友達に似てるんだよね」

 

 え、いきなり何の話?

 

「それ女子?」

「あ、いや、顔じゃなくて性格。女子だけど」

「お、おう………」

 

 性格が女々しいって言いたいのか?いや、俺そんな女々しいか?

 

「だから、こう………いじりたくなるんだよね」

「いきなり何を言い出すお前この野郎」

 

 何のつもりだよ本当に。もしかして今朝の笑みはそれですか?

 

「だからさ、マ○クでハンバーガー奢って」

「えぇ………。てか、だからの意味がわからないんだけど」

「良いじゃん、行こ」

 

 一人暮らしで金がないってのに………。まぁいっか、1日くらい。

 二人で学校を出て、マ○クに入った。渋谷さんの分のハンバーガーと二人で摘めるようにポテトのLサイズと飲み物を二人分購入した。クーポン使ったとはいえ、これで約500円なんだからすごいわ。

 

「お待たせ。ポテトも摘んで良いよ」

「んっ、ありがと」

 

 渋谷さんの待つ机の上にトレーを置いた。

 

「ありがとね、わざわざ」

「いや奢らせたのそっちだから……」

「や、正直奢りの話は冗談だったんだけどね。なんか本当に奢ってくれそうだったから黙ってた」

「……………」

 

 この子、ドSなの?いや、俺がその歳上の友達に似てるらしいからだな。もっとしっかりしないと。

 すると、ハンバーガーにかぶり付きながら渋谷さんは言った。

 

「あむっ……んっ。でも、ありがたいのは本当だよ。レッスンまでのいい暇潰しになったし」

「? レッスン?」

「あーうん、ダンスやってて」

「へぇ………意外」

「そう?」

「うん、かなり」

 

 ダンス、か………。渋谷さんっててっきり何事にも冷めてるけど、家のお店のお手伝いしてるから根は良い子ってタイプだと思ってた。

 

「ねぇ、その俺に似てるって子はどんな子なの?」

「んー、神谷奈緒って言うんだけど、まあ一言で言えばツンデレ」

「俺ってツンデレか?」

「ううん、似てるのはそこじゃない。反応が面白いって事」

「は、反応………?」

「そう。昔からよくいじられたりしてたでしょ」

「あー……まぁね」

 

 中学の時とかはそうだったな。だけど、あんまりいじられるのは好きじゃない。いや、いじられること自体は気にしてないんだけど、中学の時、俺と友達だと思ってた奴らが俺をいじる事を踏み台にして、クラスの女子に「俺面白いアピール」して彼女作ってる事が判明したからなぁ。

 しかも、付き合ってからも影で俺の名前を使っていじってたみたいで、なんかそういうのが嫌になって来た。

 

「……どうかした?」

「いや、何でもない」

 

 しまった、顔に出てたか。あまり昔の事で同情されるのも嫌だ。

 俺はポテトを摘みながら聞いた。

 

「で、他にその子と俺が似てると思う節は?」

「んー、そんだけかな」

「え、そ、それだけ?」

「うん。そんなもんでしょ、人と人が似てる所なんて」

 

 まぁ、そりゃそうか。………しかし、その神谷さんとやらも可哀想になぁ。俺はまだ男女の差があるけど、神谷さんは同性で歳上なのにいじられてるんだもんなぁ。まぁ、友好関係を切ってない所を見ると、別にそれが嫌というわけでもないんだろう。

 ………疑うわけではないが、一応聞いてみよう。

 

「………渋谷さんって、彼氏いんの?」

「何それ、ナンパ?それともセクハラ?」

「ち、ちがうから!どっちにしても人聞きが悪過ぎるからやめろ!」

「じゃあ何?」

「いや、何となくだよ。本当に」

「いないよ。いたことも」

「ふーん……」

 

 良かった。少なくとも、その神谷さんをいじってるのは男子にモテるためではない。まぁ、そもそも男子の中の女性像筆頭はまず優しさが入るから、いじってもおいしい事はない。少し羨ましいや。

 すると、渋谷さんがスマホを取り出した。

 

「あ、もうこんな時間。行かなきゃ」

「あ、そう。駅まで送ろうか?」

「いや、平気。また明日」

 

 そう言って渋谷さんはマ○クから出ようとした。が、足を止めて取り出したスマホを操作しながら言った。

 

「L○NE交換しよっか」

「へ?あ、うん」

「QR出して」

「りょ」

 

 言われて、俺はスマホを取り出した。画面にQRコードを出して、渋谷さんに見せた。それを読み取り、友達追加すると、渋谷さんは「OK」と呟いた。

 

「じゃ、また明日」

 

 言い直して、渋谷さんは出て行った。

 取り残された。とりあえず、ポテト食い終わったら帰るか。そういや、ジュースも二人分余っちゃったな。これは家持って帰ろう。

 さて、とりあえずヨ○バシカメラでニュースでも見るか。そう決めた時、スマホがヴヴッと震えた。

 

『渋谷凛がスタンプを送信しました。』

 

 L○NEの画面を開くと、なんかよく分からないキャラクターが「よろしくっ」と言っていた。

 

 


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