渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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家族に友達を教える時は、せめて職業くらいは事前に伝えておこう。

 結局、土曜日は凛と一日スマブラで潰し、日曜日以降は凛が仕事のため会うことはなかった。

 で、今は6日。実家に帰る日だ。うちの実家は青梅とかあの辺。つまり、東京の田舎の方だ。まずは山手線に乗って行かなければならない。

 スマブラの練習用にW○iは凛に貸しておいたし、思い残す事はない。戸締りもしたし、電気とかガスも全部切った。

 小さく欠伸をしながら出発した。家を出て呑気に歩きながら駅に向かう。そういえば、家族に何か買って行った方が良いかな。地元の連中が行きそうな高校には行きたくないっていうワガママを聞いてくれたんだし。そう思って、駅でテキトーにお菓子を買った。

 改札を通り、ホームで電車が来るまで待機した。しばらく待って山手線が来たため、電車に乗り、空いてる席を見つけたので座ろうとしたが、別の乗り口から乗ってきた人と目が合った。多分、同じ席を座ろうとしたのだろう。

 よって、席を譲ることにした。目を逸らして立ったままスマホをいじり始めると、向こうは小さく会釈して座った。なんか「どうぞ」って言うの照れ臭いんだもん。

 吊革に掴まったままスマホをポケットにしまうと、隣の凛が声をかけて来た。

 

「優しいとこあるじゃん」

「いやいや、人として当たり前の………」

 

 …………はっ?なんで隣に凛がいるの………?

 

「…………えっ、なんでいんの?」

「ん?私もお出かけ」

「………なんでスーツケース持ってんの?」

「泊まり掛けなの」

「うん、もうストレートに聞くわ。どこ行くの?」

「青梅の方」

 

 この野郎ッ………!ついて来る気か⁉︎

 

「えっ、ついて来る気?」

「え?うん」

 

 うん、じゃねぇよ。バカなの?

 

「いや、来ても良いけどうちで何すんだよ………」

「特に何かしたいとかじゃないよ。ただ、ナルと一緒にいたかっただけ」

 

 いや、だけ、じゃなくて………。いや、もうなんでも良いか。むしろ友達がいないのは親も知ってるし、友達ができたと言えば安心もする。実家にまでついて来る友達と言えば尚更だ。去年なんて夏休みの間はずっと実家の家にいて心配されたし。

 

「………まぁ来るのは良いけど、気を付けてね」

「? 何が?」

「うちの連中、色々とアレだから」

「えっ………?」

 

 まぁ友達の一点張りをすれば何とか………無理だよね。あいつら他人の恋愛とか大好きだし。

 その辺はなんとか俺がするしかない。

 

「………でも、W○i無いよ?俺の部屋にあるゲーム、全部実家から持って来た奴だし」

「大丈夫、持って来た」

 

 この人は………。半ば呆れ気味にため息をついた。ま、良いか。どうせ家から出るつもりないし。中学の同級生と会いたくない。

 何より、アイドルを連れて行けば母さん達からお小遣いもらえるかもしれない。そう思うと少し楽しみになって来た。

 

「凛」

「何?」

「数字やるか」

「何それ?」

「お互いに1から連続した数字を三つまで数えて、30って最初に言った方の負け」

「良いね、やろう」

 

 よし、じゃあやろうか。

 

 ×××

 

 乗り換えるに乗り換え、青梅線を降りた。

 

「待って。もう一回、もう一回だけ」

「いやもういいでしょ………」

 

 中々、勝てなくて諦めてくれなかった。これは完全先手有利なのに、それを中々理解してくれない。いや、先手有利っつーか先手必勝。それも先手を譲ってるのに。どうやら25を取れば勝てる、というのは理解してるらしいんだけど、何故25を取れると勝てるのか理解してないから全然勝てない。

 その結果、1時間半以上かかる道のりの間、ずっとこの小学生レベルの遊びで潰してしまった。

 

「もう一回だけ。お願い」

「………先手どうぞ」

「1、2、3!」

 

 はい、俺の勝ち。

 

「4、5」

「6、7、8」

「9」

「10、11、12!」

「13」

「14、15」

「16、17」

「18」

「19、20、21」

「……………」

「……………」

「………もう一回」

「それ何回目なんですかね………」

 

 数字を言い過ぎてゲシュタルト崩壊起こしそうなまであるんだが。

 

「もう良いだろ………。ほら、それよりうちに行くんでしょ」

「もう一回。今回は必勝法が分かったの。21を言えば勝てるんでしょ?」

 

 それあと何日かかれば先手必勝なのが分かるんだよ………。教えてやればいいって?じゃあ試してやろう。

 

「必勝法教えようか?」

「や」

 

 一言で断られました。ていうか断り方が子供っぽ過ぎるんだよなぁ。可愛いが。

 しかし、懐かしいなぁ。地元が。まぁ、春休みぶりなんだが。今回は5日しかそっちにいないって言ったら驚いていたが、凛を見れば納得してくれるだろう。………あまりベタベタくっ付かないように自重する必要はあるけど。

 

「ねぇ、もう一回」

「いや、もういいでしょ………。ほら、今俺に負けとけば、後でスマブラ勝てるかもよ」

 

 我ながらわけのわからない理論を言ったと思う。子供の考える運の理論だよね。こんなので凛が納得するとは思えないが………。

 

「………確かに」

 

 しちゃうんだ。この人、バカなのかまともなのか分からないんだけど。まぁでも納得してくれたにはしてくれたんだし、余計な事は言わないようにしよう。

 実家まで歩き始め、10秒くらい経過したあたりで、凛がボソッと呟くように聞いて来た。

 

「………それどういう理論?」

「…………さ、早く家に着いてスマブラやろう」

「ねぇ、誤魔化さないで。ねぇ?ていうか、私の事バカだと思ってない?ねぇ?」

「いやー、お袋とか驚くだろうなぁ、俺が女の子連れて来た時は」

「ねぇ?聞いてる?脇腹突きするよ?ねぇ?」

 

 このあと、めちゃくちゃ脇腹突かれた。

 

 ×××

 

 実家に到着した。うちの実家は磯野家の様な家で二階建てとかそういうんじゃなく、一階がかなり広くて和室しかない。別に家族が多いわけでもないのに。

 玄関を開けると、トタトタと歩いて来る足音が聞こえた。

 

「おー、ベルとアル。久し振り」

 

 そう呼んだのは二匹の猫だ。名前の由来は言うまでもない、ベルファイアとアルファードだ。

 

「え、猫………?」

「おう、俺が拾って来た猫。可愛いでしょ」

「まぁ、可愛いけど………」

 

 二匹の猫は俺の足元に来るなり、頭をスリスリと擦り寄せて来た。まぁ、そうだよね。俺が拾ったんだから当たり前だよね。

 

「ベルちゃんとアルくんっていうの?」

「いや両方『くん』だけど………」

「へぇ、ベルの方も男の子なんだ?」

「いや、本名はベルファイアとアルファードだから。分かるでしょ?」

「………何それ?」

「えっ」

「えっ?」

 

 ………普通知らないものなのか……?まぁなんでも良いか。

 しかし、久々に息子が帰って来たのに誰も来ないのか。ま、兄貴も親父もお袋も仕事だろうし仕方ないか。

 

「上がって、凛」

「………お邪魔します」

「あ、お袋達みんな仕事でいないから」

「そうなの?」

 

 まぁ、俺に一人暮らしさせてくれてるからなぁ。もしかしたら、夏休みも取れてないのかもしれない。そう考えると少し申し訳ない。せめて、晩飯くらい作っておいてあげよう。

 さて、とりあえず俺の部屋まで行くか。とりあえず、凛の寝泊まりする部屋は客間を使ってもらおう。

 

「凛、こっち来て」

「う、うん」

 

 廊下を進んで客間に入った。部屋は割と片付けられていて綺麗だ。

 

「布団はあそこの押し入れに入ってるから」

「うん。じゃあナルの部屋に行こうかな」

「なんでだよ………」

「いや、荷物は置かせてもらうけど、とりあえずナルの部屋に行かせてもらうってだけ」

「それは良いけど………ゲームは明日な?」

「? どうして?」

「今、16時過ぎでしょ?あと30分くらいでみんな帰って来ると思うから、それまでに晩飯作っとくんだよ」

「みんな帰って来るの早いんだ?」

「いや、春休みも冬休みも去年の夏休みも俺が帰って来る日は大体、16時半から17時までの間に帰って来るんだよ。みんな」

「ふーん………。あ、じゃあ手伝うよ」

「いいよ別に」

「いいの。これからお世話になるわけだし」

「………ああそう」

 

 まぁ良いか。冷蔵庫に何入ってるのか知らんが、それなりに豪華なもの作る予定だから。

 冷蔵庫を開けて食材を見た。………うん、それなりに材料は揃ってるな。よし、とりあえず唐揚げ定食的な奴でも作るか。

 

「ナル、何作るの?」

「唐揚げ定食的なの。凛は味噌汁と……あと5人分の味噌汁とサラダをお願い。冷蔵庫の中のものなら何使っても良いから」

「分かった」

 

 そういうわけで調理を始めた。凛は隣で髪をまとめ上げてポニーテールにしてから調理開始。なんだか、こうして実家で二人で料理を作ってると変な感じするな………。特に、凛にそんな仕草をされると……こう、まるで花嫁修行してるような………。

 って、アホか俺は!俺と凛がお付き合い、ましてや結婚なんて出来るわけねぇだろ!身の程を知れバーカ!俺と凛は友達同士、それを履き違えるな。

 

「………ナル?どうかした?」

「…………いや、相変わらずポニテ似合うと思って」

 

 …………あっ、動揺して本音が出た。何を女の子に言ってんだ俺は。ナンパ野郎か。こんな事、凛に言ったら脇腹突かれるに決まってんだろ。

 

「っ、い、いきなり何言ってんのっ!」

「ふぁひゅっ⁉︎」

 

 やっぱ突かれた。いや、にしてもそんな顔を真っ赤にして怒らんでも良いじゃない………。

 何とか気を落ち着かせて、なるべく凛を見ないようにしてテキパキと調理を進めた。だってポニテ可愛いんだもん。集中出来ないわ。

 すると、「痛ッ……」と凛の方から声が聞こえた。ふとそっちを見ると、凛が左手の人差し指を咥えていた。

 

「………凛?どうかした?」

「い、いやっ、なんでもない」

 

 声を掛けると慌てて左手を隠す凛。………指でも切ったのか?凛が珍しいな………。

 

「………指切ったでしょ」

「…………切ってない」

「…………なんで誤魔化すかな。少し待ってて」

「うっ……ご、ごめん」

 

 まだ油使う前で良かった。使ってたら絆創膏取りに行けなかったからな。

 うちの母親は俺が小6になるまで中々料理出来るようにならなくて、今だに指とか切ったりしてたから台所に救急箱が置いてある。確か、そこの棚を開ければ………ほらあった。

 出して中から絆創膏と消毒液とティッシュを出した。凛を手招きで呼ぶと左手首を握った。

 

「じ、自分で出来るから………」

「人差し指に絆創膏自分で巻けないでしょ」

「っ…………」

 

 消毒液を指に垂らして、出来るだけ優しくティッシュでチョンチョンと拭きつつ声を掛けた。

 

「ていうか、凛が指切るなんて珍しいな」

「そ、そう?」

「凛が俺に飯作ってくれる時とかはあんま切らないじゃん」

 

 言うと、凛は少し恥ずかしそうに頬を赤く染めながらボソッと呟くように言った。

 

「………その、ナルのご家族の人に食べてもらうと思うと……少し、緊張しちゃって…………」

「…………」

 

 えっ、それはつまり俺に飯を出してくれた時は然程、緊張してなかったってことか?やはり、俺は男としては見られていないようだ。

 

「そんな緊張しなくて良いから。うちの家族は基本的に頭の良いアホだし」

「…………そういう問題じゃないんだけど」

「えっ?………ああ、親父も別に怖くないよ。昔はお袋によくいじられてたらしいし」

「…………もういい、どうせ通じないし」

「えっ………?」

 

 絆創膏を貼り終えると、凛は小さく不機嫌そうに「ありがと」とだけ言って料理に戻った。何だろ、最近凛と会話が噛み合わないことが多い気がする。少し釈然としないながらも俺も唐揚げの調理に戻った。

 再開して数分経過した辺りで、凛がまたまた声をかけて来た。

 

「こっちは終わったよ」

「………う、うん。ありがと」

「……………」

 

 ………なんか怒ってる?俺なんか悪いことしたかな。少しドギマギしてると、怒ってるというよりは少し恥ずかしそうに頬を染めてボソッと聞いて来た。

 

「………それより、お手洗い教えてくれる?」

「あ、お、おう……。トイレはあそこの扉から廊下に出て右に歩いて最初の扉」

「分かった」

 

 凛は少し早足でトイレに行ってしまった。なるほど、女性にとってお手洗いに行く事を申告するのは恥ずかしい事なのか?いや、でもうちで泊まってる時は「ごめんトイレ」とか普通に言ってた気がするんだけどな。

 どういうわけなのか少し悩んでると、ガラッと家の扉が開く音がした。それと共に「ただいまー」と声が聞こえた。お袋の声だ。

 買い物でもして来たのか、ビニール袋の擦れる音とともに台所に入って来た。

 

「おかえり」

「あら、鳴海。帰ってたの?」

「晩飯、もう直ぐ出来るから」

「帰って来たばかりなのに悪いね」

「良いって」

「それと、知らない人の靴が玄関にあったんだけど、お友達でも連れて来た………わけないわよね?あなた友達いないものね?」

「いや、友達だよ………。ていうか、帰って来た息子との会話がそれかあんた」

「また前みたいに変ないじめっ子みたいな子達じゃないでしょうね」

「違うから安心して」

「なら良いけど」

 

 テキトーに相槌を打ちながらお袋は食材をしまい始めた。

 

「で、どんな子なの?」

「後で来るから待ってりゃ良いだろ」

「だって気になるじゃない。去年なんてGWも夏休みも冬休みも春休みもずっとうちで引き篭もってたのに」

 

 それもそうか………。でも、言っても信じないだろうしなぁ。まぁ、嘘は言わなきゃそれで良いか。

 そう思って、大人しいクールな子だよ、と言おうとした時だ。

 

「ナル、なんか声したけど誰か………あっ」

「あっ」

「あら、お友達?いらっしゃ………あら?」

 

 凛が戻って来た。そして、それと共に「信じられない」と言った表情に変わっていった。

 それを見るなり、凛は少し緊張気味に礼儀正しく頭を下げた。

 

「初めまして。鳴海くんのお友達の渋谷凛です」

「渋谷………凛…………?」

 

 お袋はパタリとぶっ倒れた。

 

 


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