渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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人の家に泊まる時は嫌でもテンションが上がる。

「と、いうわけで、友達の渋谷凛です」

「………は、初めまして。渋谷です」

 

 晩飯の席、家族全員揃った食卓で凛を紹介すると、三人とも固まった。今更だが、凛ってアイドルだもんなぁ。そりゃ驚くわ。お袋がぶっ倒れたのも分かるわ。

 やがて、親父の方が口を開いた。

 

「………えっと、渋谷凛さん?」

「は、はいっ」

「息子に何か弱みでも握られてるのかな?」

「おい、何言い出すコノヤロー」

 

 自分の息子がそんな奴に見えるのかこいつは………。大体、弱みを握られる事はあっても握る事はないっつの。

 

「おい、父親にコノヤローは無いだろ」

「自分の息子の目の前で弱みとか言い出しちゃうクソ親父に言われたくねえ」

「ちょっと、お客さんの前でやめてくれる?あんたらブッ飛ばすわよ」

 

 お袋に怒られ、俺も親父も黙った。いや、でも今のは親父が悪いだろ。

 そんな事をしてる間に、いつの間にか兄貴が凛の隣に来ていた。

 

「サインお願いします」

「へ?は、はぁ、良いですけど………」

 

 ちゃっかりしてんなオイ………。まぁ良いや。とりあえず会話が必要だ。他人の家に上がったとき、間違いなくお客さんの方は気まずいだろうし。

 

「言っとくけど、今日のこの晩飯を作ったの凛だからな。本当、俺に感謝しろよ?」

「あら、そうなの?道理で美味しいと思ったわ」

「ああ、特にこの唐揚げな」

「いやそれは俺が作ったんだけど」

「………紛らわしいんだよクソ息子」

「勝手に自爆しただけだろクソ親父」

「あんたらいい加減にしなさいよ。キャメルクラッチの刑にするわよ」

 

 怒られたので黙った(2回目)。

 

「じゃあ、何を作ったの?」

「お味噌汁とサラダを作らせていただきました」

 

 礼儀正しく言う凛だったが、表情はとてもソワソワしている。多分、感想を聞きたいんだろう。まぁ、俺が誘導なんてしなくてもお袋も親父も兄貴も空気は読める。

 

「美味しいわ。味付けもちょうど良いし」

「ああ………アイドルの料理を食べている………」

「ああ………この歳でJKの料理を食べれるなんて………」

 

 空気は読めても、まともな感想が言えるのはお袋だけだった。まぁ、男二人の感想も分からなくはないけどね。特に親父なんて45歳だし。ただ、凛が少し引いてるので、そういうのは事実でも言わないで欲しかったです。

 その点、お袋みたいな人は本当に助かる。家族の中で権力的にも実力的にも最強なのを除けば普通の母親なので、凛の前でヘタなことは言わないだろう。

 

「凛ちゃんは良いお嫁さんになるわね」

「いえ。まだそんな歳ではないので」

「何言ってるの、16歳は既に結婚出来る歳じゃない。早いうちに結婚は考えた方が良いわよ。………本当に」

 

 ああ、そういえば年齢的にも我が家最強だったな。最強っつーか最年長だけど。

 

「でも、私は一応、アイドルですから」

「それもそうね。何より、凛ちゃんみたいな子は鳴海には勿体無いわ」

「………はい?」

「んっ?」

「えっ?」

 

 今なんつった?うちのババァ。

 

「付き合ってるんでしょ?それと」

「ぶふっ⁉︎」

「………おうふ」

 

 息子を「それ」呼ばわりする母親だった。それと共に味噌汁を噴き出す凛。おい親父、味噌汁かけられて嬉しそうな顔するな。後でお袋にチョークスリーパーされるぞ。

 

「っ⁉︎つ、付き合ってませんから!」

「あら、そうなの?」

「………えっ、付き合ってないのにうちに連れて来たの?」

 

 兄貴がボソッと声を漏らした。そういえば、友達と一緒に実家に帰るって世の中の一人暮らし高校生交友関係の中であり得るのか?友達がいないとそういう経験ないから分からないわ。

 まぁ、その辺のことも含めて凛に聞いた方が良いだろう。

 

「いや、連れてきたわけじゃないから。勝手について来たんだよ」

「あら、家に来る予定だったんじゃないの?」

「いやいや、今朝気が付いたら電車で隣に立ってたんだよ。大体、予定を立てようにも先週の土曜以来会ってなかったし………。あれ?そういえば凛ってほんとなんでついて来たの?」

「…………」

 

 聞くと、凛は頬を赤らめて俯いた。やがて、キッと俺を睨むと脇腹に突きを入れて来た。

 

「ふぁひゅっ⁉︎ちょっ、何だよ!どういう意図の返事だそれは⁉︎」

「うるさい、バカ」

 

 言いながら白米を口かっ込む凛。何なんだ一体………?

 だが、うちの家族はみんな何かを察したようで、俺をゴミを見る目で見ていた。やがて、親父がのそっと立ち上がり、俺の前に歩いて来た。

 

「このクソリア充がッ‼︎」

「ふぉぐっ⁉︎」

 

 突然、顔面に張り手が飛んで来て、後ろに盛大にぶっ飛んだ。

 

「テメェクソ親父!何しやがんだオイ!」

「うるせぇ!死ねこのクソ息子がァッ‼︎」

「やんのかコラクソ親父が‼︎」

 

 襲い掛かってくる親父に応戦しようとした直後、俺と親父の間にお袋が入って来て、俺と親父の喉仏に箸の先端を当てた。それに合わせて俺も親父も動きを止めた。

 

「………いい加減にしなさいよバカ親子」

「「………すみませんでした」」

 

 ………ほんと怖ぇな、うちのお袋。今でも思い出すぜ、兄貴が反抗期に親父と殴り合いの喧嘩した時の一人ジェットストリームアタック。マジで3人いるように見えたわ。ていうか、我が家の家族喧嘩の9割はうちの親父の精神年齢の低さが全ての元凶なんだよな。

 俺と親父は席に座り、飯を再開した。赤く腫れ上がった頬を気にしながら飯を食べてると、お袋が何かを察したように言った。

 

「あ、そうだ。凛ちゃん」

「な、なんですか……?」

 

 あ、凛少し怯えてる。大丈夫、自分の家族以外には基本的に優しいからその人。

 

「鳴海の頬、ちょっと手当てしてあげてくれる?」

「へっ………?」

「ほら、腫れちゃってて食べにくそうだし」

「いや、いいよ別に。もう食べ終わったし、今手当てしてもらったってすぐに腫れが引くわけじゃ………」

「あんたは黙ってなさい」

「お、おう………」

 

 なんでだよ………。怪我してる当事者なんですけど。あまりに怖くて素直に返事をしちまったじゃねぇか………。

 

「分かりました。………行くよ、ナル」

「へ?引き受けんの?」

「黙ってついて来て」

「お、おう………」

 

 あれ、気の所為かな。今、凛の後ろにお袋の影が………。

 台所に向かって救急箱を取って湿布を取り出した。上手い具合にちょうど良いサイズに切り取って、俺の頬に近付けた。

 

「動かないでね」

「お、おう………」

 

 ………近いな。ていうか、両頬に手を添える意味は?……なんかキスされそうになってるみたいで少しドキドキするんだが………。

 

「………すごいね、ナルの家族」

「まぁな。奇人の集まりである事は自覚してるよ。………一人は鬼神だけど」

「また怒られるよ」

「勘弁してくれ………」

 

 まぁ、基本的には良い人なんだけどな。みんな俺の一人暮らしに賛成してくれたし。そういう面では感謝もしてる。

 

「でも、良い人そうで良かった」

「まぁな」

「みんなは明日とかいるの?」

「分からん。仕事かもしれないし家にいるかもしれない。みんな仕事だったら、家でゲームしてよう」

「みんな仕事じゃなかったら?」

「街に出る」

「なんでよ………」

「家にいて質問攻めに合うのは凛の方だぞ」

「………よろしく」

「東京だけど、田舎だから川とか綺麗だよ」

 

 そんな話をしてると、お袋が食器を持って来た。

 

「ご馳走様、二人とも。何、明日川行くの?」

「いや、予定だけね」

「そう。なら、水鉄砲とかは玄関の近くの押入れに入ってるからね」

「おお、サンキュー」

「凛ちゃんは水着あるの?」

「いえ、持って来てはないです。入るなら、足だけ浸かるくらいにしておこうと思ってます」

「そう。私のサンダルで良ければ貸してあげられるけど………」

「ありがとうございます」

「一応、玄関に置いておくわね」

「はい、すみません」

「良いのよ」

 

 それだけ言うと、流しに食器を置いておいた。

 

「鳴海、悪いけど洗い物しておいてくれる?私、お風呂沸かして来るから」

「良いよ」

 

 お袋はお風呂を沸かしに行ったのか、台所から出て行った。

 

「手伝うよ、ナル」

「いや、凛まだ食べ終わってないでしょ?」

「でも………」

「なら、さっさと食べ終わって食器持って来てくれる?」

「………わかった」

 

 そう言うと、凛は食卓に戻った。台所から食卓が見えるんだけど、兄貴と親父の姿も無かった。もう食べ終わったのかあの二人。

 洗い物してると、食べ終えた凛が食器を運んで来た。

 

「ご馳走様」

「サンキュ。俺が洗った奴を拭いてそこ重ねといてくれ」

「分かった」

 

 多分、凛もお手伝いとかするんだろうな。だから、二人で手際良く洗い物を終わらせた。

 

「………ふぅ、良し。今日はどうする?」

「とりあえず、ナルの部屋に行こうか」

「りょかい」

 

 てわけで、俺の部屋に向かった。しかし、なんでいきなり食卓から消えたんだ?お袋が代わりに二人分の食器を下げてまで。何か企んでる気がするんだが………。

 凛はそんな企みに気付くことなく、少し機嫌良さそうに俺の後ろを歩いていた。

 

「ここ、俺の部屋」

「んっ」

 

 懐かしいな。まぁ3ヶ月ぶりくらいだけど。部屋の扉を開けると、俺は固まった。何故か枕がダブルの布団が敷いてあり、枕が二つ分置いてあったからだ。

 

「? どうしたの?ナル」

「あ、バカ見るな………!」

「は?……あっ」

 

 凛も部屋の中を覗き込むと固まった。しかも、部屋の隅には凛のスーツケースが置いてあった。

 

「……………」

 

 気まずげに凛をチラ見した。凛は一瞬、目を逸らしたけどすぐに真顔になった。

 

「………とにかく、ゲームやろっか」

「……………」

 

 流石に冷静だなー。羨ましい反面、男と見られてないと思うと少し心に来るわ。まぁ、友達同士だし異性を意識する方がおかしいのか。何より、いつも俺のアパートと大して状況変わらないし。なら、俺も意識しない方が良いだろう。

 

「分かったよ。どうする?スマブラで良いの?」

「うん」

「いつもと一緒だな」

「まぁ、今日は仕方ないよ。その代わり、明日はちゃんとエスコートしてよね」

「エスコートっつーか、案内だけだな」

「……………」

「え、何その不満そうな顔」

「今日はボコす」

 

 ………なんか殺気が出てきたんですけど。

 

 ×××

 

 途中でお風呂休憩を挟みつつゲームを続け、気が付けば夜中になっていた。ゼロサムを使わせてる凛は俺に1勝もすることはできず、ぐぬぬっと唸っていた。

 

「ふわあ……俺のゼロサムに勝つのは無理だって………」

「嫌。絶対負けない」

 

 だって俺、超練習したんだもん。何より、ゼロサムを死なせたくなかったからな。

 

「むー……でも、負けたくない」

「なんでそんなゼロサムに対抗心燃やしてんの?」

「………そっ、それは……」

「それは?」

「っ……………」

「……………?」

「〜〜〜ッ!ふんっ」

「ぐぇっ」

 

 突然、後ろから俺の首に手を回して布団の上に引っ張り倒した。

 

「ちょっ、りっ、凛ざん……!ぐるじい、ぐるじいよ………!」

「うるさいっ」

「いやっ、ぞんな………こ、このっ………!」

 

 首に回されてる腕の手首を掴み、何とか首から手を離させた。いくら体格は同じくらいでも、やはり男女なだけあって力の差はある。

 すると、凛は素早く俺の下から退いて布団を持ち上げて振り被った。

 

「ちょっ、お、おまっ………!」

「がおー」

 

 俺を布団で包んだ後、枕をものっそい叩きつけて来た。ちょっ、このやろっ……!枕投げなら上等だぞこの野郎!

 なんとか布団から這い出ると、投げられた枕をキャッチして投げ返そうとした。だが、凛はニヤリと微笑んで言った。

 

「女の子に枕投げるの?」

「うぐっ………!」

 

 こ、こいつ………!こんな時だけ女の子の特権を………!なら、女の子が怪我しないように考慮すれば良いのだ。幸い、ここは布団の上だ。

 枕で盾を使いながら凛の腰に飛びついた。

 

「ちょっ、ナル⁉︎」

 

 そのまま腰を低くして凛の体を持ち上げると、ボフッと布団の上に押し倒した。

 

「キャッ………⁉︎」

 

 その上に馬乗りになり、手をワキワキさせながら見下ろした。

 …………そこで冷静になった。俺、なんで凛のこと押し倒して馬乗りになって手をワキワキさせてんだ………?凛は凛で、何故か顔を赤らめて息を乱している。

 ………ねぇ、なんでそんな表情してるんですか……?なんか、こう……エロい表情を………。どうしよう、なんか罪悪感が………。

 ………よし、枕投げはやめよう。それより、電気代勿体無いしW○iを片付けよう。

 

「さて、夜遅いし寝ようか」

「…………はっ?」

 

 そう言って、W○iを片付けてテレビを消した。うん、明日は出掛けるんだし寝た方が良い。

 そう思って布団に入った。………何と無く気になって凛を見上げると、枕を振り被ってまっすぐ俺の顔を睨んでいた。

 

「…………えっ、り、凛……?嘘だよね?そんな事しないよね……?」

「……………」

「へ、返事がないのは不安なんだけど………。り、凛さん……?」

「……………」

「り、凛さんってなんかリン酸みた……いや冗談ですやめて下さいちょっとやめて止めてやめて止めてやめっ………⁉︎」

 

 顔面に枕をダンクされた。

 

 


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