翌朝、目を覚ますと目の前で凛が寝ていた。昨日の寝る前の記憶がイマイチ朧気だけど、どうせお袋達の陰謀で一緒の部屋で寝る事になったのだろう。
ま、別にそれくらいは慣れてるので良いさ。だけど、その……なんだろ。なんかパジャマがはだけてるんですよね。乳首がギリギリ見えるか見えないかの所まで割とガッツリ。
「……………」
おいバカ俺。見るなよ。覗きだぞこれじゃ。ていうか、何で今更見てるんだよ俺。実家でダブルの布団の中で寝てるから変な気分になってんのか?何にしても、下手なことはしない方が良い。
…………凛のほっぺ柔らかそうだなぁ(意志の弱さ)。
触ったら怒られるかな。いや、でも寝てるし………。バレなきゃ怒られない?男子はともかく、女子はたまに友達同士で頬を突いたりしてるの見たことあるし………。
「……………」
あ、柔らかい。ぷにぷにしてる………。中学の時の職場体験で行った保育園の子供より柔らかいかも………。
そういえば、頬が柔らかい人ってエロいって話を聞いた事あるけどマジなのかな。いやいや、凛がエロいって言いたいわけじゃなくて。
「………まぁいいや」
とりあえず、頬をツンツンしてよう。そう思ってふにふにの頬を人差し指で突いてる時だ。その俺の手首が掴まれ、引っ張られた。
「ぬをっ⁉︎」
凛の胸元まで引き込まれてひっくり返され、後頭部を胸に埋めるように抱き締められた。
「り、凛っ………⁉︎」
な、なんだ?寝惚けてんのか⁉︎半分パニックになってる間に凛の左腕は俺をアスナロ抱きするように首の前に回って来た。
「ナル…………」
………えっ、俺の名前………?アスナロ抱きしながら俺の名前ってどういう事だ………?ま、まさか凛って……俺の事を………。
その直後、後ろから俺を抱いていた両腕が急に引き上げられ、顎の下に左腕がセットされ、万力の如き力でギリギリと締め上げられた。
「おごっ⁉︎」
「少し、くらい……!反応、してよ………‼︎」
「かっ、かふッ………⁉︎」
「このっ、ポニテバカ………‼︎」
「あががががっ…………‼︎」
のっ、喉がっ、絞まッ………‼︎こ、コイツ何の夢見てやがんだ……⁉︎いや、そんなのどうでも良い!慌てて凛の絞めてる方の腕を叩いた。
「ぎっ、ギアギヴギヴ………!凛、ギヴだがら手を離じでお願いじまず………‼︎」
「ナルの分からず屋あぁああ‼︎」
「ぞんなバナージみだいな………!」
締め上げられながら、とりあえずもう変な気は絶対に起こさない、そう心の中で誓った。
×××
朝飯を食べ終え、俺と凛は家を出た。とりあえず地元を歩き回る事になった。
なんか朝飯終わってからお袋と二人で話して戻って来たらポニテになって戻って来たから、少し目に悪い。未だにポニテの凛は照れて直視出来ないんだよね。
まぁ、何故か伊達眼鏡もしてたから多分変装用なんだろう。変装には帽子の方が良い気もするけど、そこは俺が口挟むところじゃないし良いか別に。
で、今は道路を二人で歩いている。ちなみに、俺も帽子を被っています。地元の奴らに会いたくないからバレたくない。
「で、まずは何処連れてってくれるの?」
「んー……そう言っても別に面白い所があるわけじゃないし………」
何処だ?東京に無い所とか連れてけば良いかな。そうなると、やっぱ川しかないんだが………。あと山とか雑木林だけど、この季節だと虫とかたくさんいるし。
川なら水に足を浸かったりして涼めるし。凛はお袋から借りたサンダルを装備してるし、大丈夫なはずだ。
「じゃ、川行くか」
幸い、うちの中学に通ってた奴らはカラオケとかボウリングとかそういう学生が好きそうな所が好きな連中ばかりだ。川にはいないだろう。
川に到着し、岸まで降りた。川を見るなり、凛は小さく「わぁ……」と声を漏らした。
「綺麗………」
「まぁ、田舎だしな。魚もいるよ」
「あ、ほんとだ」
一応、押入れから遊び道具とかは持って来たけど、凛こういうの使いそうにないし、持って来ても仕方なかったかもしれない。とりあえず、鞄はその辺に置いておこう。
「入ってみれば?足だけでも」
「うん………」
ソーっと川に足をつけ、着水した瞬間に「ひゃっ」と控えめな悲鳴をあげた。。ほんと可愛い声してんな、あの人。
「冷たい?」
「うん。でも、気持ち良いよ。ナルは入らないの?」
「俺はいいよ。濡れたくないし」
「………ふーん?」
…………あ、凛がニヤリと微笑んだ。嫌な予感する。
その予想は的中した。足を引いて思いっきり水をかけて来た。
「それっ」
「ちょっ、おまっふざっ………!」
避けようとしたがモロに掛かった。
「やめろっ!やめろって………!」
「あーあ、濡れちゃったね。これじゃあもう入った方が良いんじゃない?」
こいつ………!上等だよこの野郎。よろしいならば戦争だ、ってか?悪いけど、手加減とか出来ないからね?
俺も川に足を着け、両手を合わせて水を掬って掛けた。
「オラッ!」
「ひゃっ!………このっ!」
向こうも手を使って来た。それを俺は体を左に大きく傾けて回避しつつ、左手を水に浸けて振り上げた。それが凛に直撃する。回避した時には攻撃準備に入ってるから、向こうの攻撃が終わった直後の隙を突け入れるのだ。
それを披露すると、凛は少し不機嫌そうな視線を向けて来た。
「………水かけっこでも上手いんだ」
「常に脳が動くんだよ。効率的な勝ち方というのを………ぶっ⁉︎」
「………隙あり」
こいつ………!俺とは別の方法で隙を狙って来やがったか………!上等だよ畜生め。
「そら!」
右手を水につけて掛けようとした。すると凛はビクッと反応して避けようとする。直後、その隙を突いて左手で、凛の避けた方に水を掛けた。
「このっ………!狡いよ!」
文句を言いながら反撃して来る凛。だが甘いぞ凛よ。貴様の動きは完全に見切った、俺が負ける要素がない。
水面ギリギリに身体を捻るようにして避けながら両手を水に漬けた。全開に力を入れ、ファインプレーでキャッチした野球ボールをそのままの勢いで投げる時の如く両腕を振り上げた。大量の水が凛に襲い掛かる。
「私だって………!」
ボソッと呟きながら避けようとする凛。その直後、グラッと凛の身体が後ろに大きく傾いた。転ぶ、と一瞬で把握した俺は凛に手を伸ばした。
「きゃっ………!」
「凛!」
何とか凛の人差し指と中指を握る事に成功し、自分の方に思いっきり引っ張った。が、割と強く引っ張りすぎだ。今度は俺がひっくり返った。
ケツから水の中に落ち、ドッボーン☆と高校生二人分の体重による水飛沫が舞い上がる。
凛を下から抱える形で尻餅をついた俺と、俺の上に抱きつくように倒れ込んだ凛は顔を見合わせた。結局、二人揃ってズブ濡れになった事が少しおかしくて、二人揃って「プッ」と吹き出した。
「ふふっ、ふははっ……!あはははは!」
「あはははははは!」
「あはははははは!」
なんかアニメの1シーンのように二人揃って声を上げて大笑いした。何が面白いのか分からないが、とにかく面白かった。
笑い疲れ、とりあえず二人で川から上がる事にした。風は吹いていなくて、真夏の日差しが川岸に降り注ぐ。普段なら暑くて鬱陶しい太陽光だが、ずぶ濡れの俺達には心地良かった。
「はー……疲れた………!」
「ほんとだよ………。良い歳した高校生二人が何やってんだ」
「良いじゃん、楽しかったんだもん。東京の汚い川じゃ出来ないよ」
「ここも東京だから、一応」
「そっか」
そこでまた、お互いに微笑み合った。何処かで寝転がったら心地良いかもしれないが、川岸は石だらけでゴツゴツしている。
………いや、もう少し上流に行った辺りに確か良いのがあるな。
「凛、少し歩かない?」
「? 何処に?」
「上流。良い感じに寝転がれる所あるよ」
「行く」
凛も同じく寝転がりたかったようで即答した。二人で上流に向かって歩き始めた。
歩き始める事数分が経過、やはりというかなんというか、寝転がれるのがあった。馬鹿みたいにデカイ岩だ。人間二人くらいなら余裕で寝れる。
「よし、これだ」
「………岩?」
「岩の輻射熱が良い感じでまた気持ち良いんだよ。昔はよく兄貴と寝てた」
「自然の岩盤浴だ」
「そ、そうなのかな?」
岩盤浴行った事ないから知らないけど。先に俺が登ってから、凛に手を差し出した。それを受け取り、一気に乗っかった。
「確かにあったかいかも………」
「でしょ?」
相槌を返しながら寝転がり、両手を広げた。ああ、相変わらず気持ち良いんじゃ〜………。
同じように凛も寝転がり、俺の広げた腕の上に頭を置いた。なんかもう自然と腕枕だな。別に良いけど。
「確かに気持ち良いかも………」
「だろ?」
「やっぱ現地の人いると便利だなー。こういうの知ってるのは地元に住んでる人だけだもんね」
「いや、この岩は多分俺と兄貴しか知らないぞ」
「そうなの?」
俺が小学生の時はすでにカードゲームやら携帯ゲーム機やらが流行ってる時代だったからなぁ。兄貴が子供の時はまだ体を動かして遊ぶのが流行ってたから、よく連れてってもらったりしてた。
「………じゃあ、ここって大切な場所なんじゃない?」
「まぁね。凛になら教えても良いと思ってさ」
「っ、そ、そう………」
「東京で初めて出来た友達だから」
「……………」
なんなら人生初めてなまである………。いや、兄貴の友達の女の人も結構、良くしてくれたから友達と見ても良いのかな……?微妙なとこか。もう向こうは俺のことなんて覚えてもないだろうし。
「あ、何なら俺と兄貴の秘蔵スポット78箇所くらいあるけど全部回る?」
「……………」
「凛?」
「いや、なんでもない。ナルにそういうの期待する方がダメだよね」
あれ、なんか呆れられたような気がするぞ。
「行く」
「お、おう?」
「でも、その前に何か食べたいな。お腹空いてきた」
「りょかい。………食べに行くならその前に風呂だが」
「じゃあ、一度帰ろっか」
「そだね」
てなわけで、家に帰る事にした。風呂は沸いていないが、夏だしそこは平気だろう。歩き始めた所で、周りの視線に気がついてふと凛の方を見た。服が透けて下着が露わになっている。
「っ⁉︎」
俺は慌てて鞄からタオルを取り出した。
「り、凛!これ巻いて!」
「へ?どうしたの?」
「良いから早く!」
「嫌だよ、暑いし」
「いや周りの人達も暑くなってるから!特に男性陣!俺は見慣れてるから良いけど…………!」
「はぁ?………っ!」
言われて自覚したのか、慌ててタオルを奪って自分の体に巻いた。そして、真っ赤になった顔で何故か俺をキッと睨みつけて来た。
「なっ、なんだよっ。俺の所為じゃねーよ!」
「…………えっち」
「なんでだよ⁉︎普段は俺の後ろで平気で………!」
「わ、わー!わー!外でそんなこと言わないで!」
「はぐっ⁉︎」
慌てた様子で口を塞がれた。こ、この女………!なんだよ、今更恥ずかしがらなくても良いだろ………!
「………と、とにかく、早く帰るよ。良いね?」
「っ、っ」
驚く程、迫力たっぷりな顔で凄まれ、俺は無言で頷くしかなかった。