渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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簡単に異性の部屋に泊まるとか言わないように。

 夏休みというのは一ヶ月半以上もある長期休暇であり、学生達にとっては至福の時間と言えるだろう。俺も今までの夏休みはクソだったが、今年は凛と実家に帰って夏を満喫できたので、それなりに楽しかった。

 しかし、まだまだ夏休みは続く。今年は凛と遊べるため、早めに実家から帰って来たわけだが、凛が仕事の日はとても退屈だ。型抜きによる大儲けと、アイドルを連れてきたことによる家族からのお小遣いによって(特に兄貴から)少しリッチになった俺だが、相変わらずの貧乏性で電気代節約の為に家から出て図書館なり古本屋なりと出掛けるしかない。

 今日は実家から帰ってきた翌日、つまり生放送の日だ。早速、凛が仕事に行ってしまっているので、一人で古本屋に来ていた。今日は何の漫画を読もうかな。ていうか、通い過ぎて二次元についてとても詳しくなってしまいそうだ。ちなみに、今読んでるのはデスノート。だって読めば俺の理想の刑事に近づけるようになる気がして。

 呑気に鼻歌を歌いながらページをめくると、ヴヴッとスマホが震えた。

 

「………またか」

 

 凛からL○NEだ。内容は「昨日、何の日だったか分かる?」といったような内容だ。いや知らねーよ。強いて言うなら帰宅した日でしょ。

 ていうか、昨日の朝からずっとソワソワしてるし、何かあったのか?

 まぁ、考えてもわからないし、とりあえず「子日だよ!」と返信すると、「あっ」と声を漏らす声が聞こえた。

 

「?………あっ」

 

 振り向くと、奈緒が立っていた。手元にはライトノベルが数冊重ねてある。………なんだこれ。気まずい。奈緒ってもしかしてオタ……いや、憶測でものを言うのは良くないな。

 とりあえず、自然に話しかけよう。本には気付いてないように。

 

「おう、奈緒。読書の秋だな」

「今は夏だ!なんだよ、何が言いたいんだよ!」

 

 ちょっと声の掛け方間違えた。

 

「いや、何が言いたいってわけでもないから………」

「そうだよ!あたしはオタクだよ!悪かったな!」

「いや、全然何も言ってないけど」

 

 そんな顔を真っ赤にして怒らんでも………。

 

「何、今日は休み?」

「ああ。そっちは?」

「俺はもうずっと休みだよ」

「ふーん………なぁ、色々聞きたい話あるし、ちょっとどっか寄らないか?」

「は?別に良いけど」

「よっしゃ。じゃあ本戻して来るから待ってて」

「買えばいいじゃん」

「は、はぁ⁉︎あたし、別にこんな本に興味なんかねぇし!」

「いや、会話が成り立ってすらないんだけど………」

 

 何なんだよこいつ。言い訳下手過ぎて墓穴をマントルまで掘り進めるのが趣味なのかな。

 まぁでも、買わないならそれで良いさ。俺には関係ないし。俺もデスノートを本棚に戻した。

 

「お待たせ」

「おお、何処行くの?」

「何処が良い?」

「財布に優しい所」

「………マックで良いか」

 

 すみませんね、一人暮らし辛いもので。

 二人で古本屋を出て近くのマックに入った。ちょうどポテトが150円で助かったわ。

 ポテト以外にもコーラを購入して、二人で席に座った。奈緒はポテトとナゲットとシェイクを買って来ている。

 

「………結構ガッツリ行くね」

「ナゲット2個くらい摘んで良いぞ」

「えっ、マジ?」

「ああ、その代わりちゃんと質問に答えろよ」

 

 おお、奈緒って良い奴だったのか。未だに凛に俺がいじられるとたまに睨んでくるのに。

 

「で、話って?」

「凛を実家の家族に紹介したんだろ?」

「あー、耳が早いね」

「まぁな。どうだった?」

 

 ニヤニヤしながら奈緒がポテトを齧りながら聞いてきた。いやそんな面白い話はないんだけどな。

 

「どうって………別に特別な事はないよ。川に行ったり山に行ったり………あ、強いて言うなら祭りに行った感じかな」

「ふーん………祭り?」

「ああ。型抜きで2万5千円儲かった」

「2万⁉︎」

「ああ、スゲーだろ」

「何、どうやったんだ⁉︎」

「型抜き」

「いやそうじゃなくてだな………!ってそんな事より!」

 

 なんだよ、突然声を荒げて。

 

「凛とはどんな感じだったんだ?」

「は?」

「二人きりで遊んでたんだろ?何かあるだろ、こう………いっ、一緒にいて……たっ、楽しかった、とか………」

 

 なんで照れてんだよこいつ。

 

「そりゃ楽しいよ。凛といて楽しくなかったことなんてないし」

「! お、おお!そうか」

「てか、奈緒だって凛といて楽しいでしょ」

「ああ、そういう………」

 

 あれ、今度は落胆されたぞ。怒って照れて落胆して忙しいなオイ。そりゃ凛にいじられるわけだ。

 

「でも、無いのか?こう………り、凛といてドキドキする、とか……そういうのは無いのか?」

 

 また照れたよ。ていうか、さっきから何を言ってるんだ?もしかして、俺と凛が恋仲になって欲しいみたいな考えを持ってるのか?

 

「まぁ、それはあるよ」

「! マジか!」

「凛はアイドルだし………その、何。顔可愛いじゃん?だから、なんか、こう………よくドキッとする事はあるよ」

「おお、やっぱか!凛、可愛いよな⁉︎」

「でも、だからって俺と凛が恋人になる事なんてあり得ないから。俺が例えその気だとしても、向こうは俺の事をいじり甲斐のある友達、くらいにしか思ってないだろうし」

「…………凛……」

 

 あれ?今度は同情?てか誰に対しての同情だよそれ?

 すると、ポケットに入ってるスマホが震え始めた。

 

「あ、凛から電話だ。出て良い?」

「ああ、良いよ」

 

 一応、許可を得てから応答した。

 

「もしもし、凛?」

『あ、ナル?今、平気?』

「平気。どしたの?」

『その、今日なんだけどさ。仕事が入っちゃって、生放送間に合わないかもしれないんだよね』

「あー、マジかー……」

『間に合ったら良いんだけど……』

「いやいや、無理しなくて良いから」

『ごめんね……』

「いや、仕方ないよ」

 

 まぁ、芸能人だしな。むしろ、今までそういう事が無かったのが不思議なくらいだ。

 …………あ、でもそれなら今日は特別版に出来るかもしれない。

 

「そうだ、奈緒。今日暇?」

「えっ」

『え?ちょっ、奈緒といるの?』

「ごめん、ちょっと待ってて。奈緒、暇?」

「えっ、ま、まぁ、暇だけど………」

「ならさ、夜中にうちで生放送やらない?なんか凛が来れないらしくてさ」

『いや、来れないかもってだけで………』

「あ、あたしは良いけど………」

「よし、じゃあ今回の生放送は特別版だな!」

 

 ヤバい、少し楽しみになってきた。まぁ練習時間は今日しかないけど、奈緒は凛よりはモンハン上手かったしスマブラも上手いだろう。

 っと、安心する前に凛の罪悪感を消さないと。たとえ不可抗力であっても、約束が破棄になれば誰だって罪悪感は抱くものだ。

 

「ああ、凛?今、代役見つかったから。だから気にしないで」

『……………』

「凛?」

 

 あれ、聞こえてないのかな。

 すると、目の前の奈緒がジト目で俺を睨みながら言った。

 

「あーあ、知らねえぞあたし」

「へっ?」

 

 その直後だった。

 

 『馬鹿ーーーーーーーーーーーーーッ‼︎』

 

 キーン、と。キーンと来た。耳に。脳まで声が響いた気がする。凛とは思えないその声にスタンされてる間に、通話はブツッと切られた。

 クラクラする頭を何とか抑えて、かろうじて、という感じで奈緒に聞いた。

 

「…………なんで?」

「知るかっ。自分で考えろっ」

「…………なんで」

 

 とりあえず、ポテトを食べ続けた。

 

 ×××

 

 アパートの一室、そこで俺は奈緒とやるゲームの準備を進めていた。やるゲームはスマブラ。Sw○tchは無いのでモンハンは何にせよ無理だった。前に凛が実家に持って来てから使ってなかったので、コンセントから準備をしなければならない。

 その為、さっさと準備をしてると、なんか奈緒が顔を赤らめてソワソワしてるのが見えた。

 

「どうかした?トイレか?」

「ち、違う!ていうか、女の子にそういう事を聞くな!」

「じゃあ何?」

「あっ、あのなぁ!男と二人きりでアパートの一室にいて落ち着ける女の子がいるかよ!」

「え、でも凛は平気な顔してたけど………」

「………それは凛が鳴海を男として見てなかったからだろ」

「あ、じゃあ奈緒は俺を男として見てるんだ?」

「っ⁉︎はっ、はぁ⁉︎そんなわけないだろ!誰が男なんだよバーカバーカ!」

「お、俺だよ………」

 

 初めて女の子から男扱いされると思ったのに………。ていうか、そこまで否定しなくても良いんじゃないですかね………。

 

「奈緒、とりあえずスマブラやろう」

「お、おう………」

「大丈夫、凛に嫌われたくないから絶対に奈緒に変な真似はしないよ」

「………いや、わかってるんだけどな……」

「そんなに不安ならもう一人友達呼べよ」

 

 まぁ、奈緒と俺はそんなに関係が深いわけじゃないしな。………関係が深くないのになんで一緒に生放送とかしてるんだ……?いや、考えない方が良いか。

 

「いや、大丈夫。凛から惚気を聞かされてるし、鳴海がそんな奴じゃないのはあたしも知ってるからな」

「お、おう………。そう?」

「それより早くスマブラやろう」

「わかった」

 

 二人でゲームを始めた。

 

「奈緒はスマブラやった事あんの?」

「あるぞ。うちにある」

「へー、じゃあ凛より強そうだな」

「あたしのルカ○オに勝てる奴はいないな」

 

 ………なんだろう。奈緒がそう言うと「お前を殺す」以上の生存フラグな気がする……。

 

 〜7時間後〜

 

「もっかい!もっかいだけ!」

 

 奈緒のルカ○オをゲーム○ウォッチで袋にした。練習と生放送を合わせて、もう7時間ぶっ通しである。

 しかし、予想外にも少し強かったな。ゲーム○ウォッチ、ウ○フ、ゼロサムなら完封で勝てるけど、他のキャラだと際どい。ギリギリ勝てるレベルだ。

 

「いや、もう良いよ。疲れたし」

「勝ち逃げする気か⁉︎」

「いや、そういうんじゃなくて。もう夜だしさ……あ、泊まっていくならもう少しやって行っても良いけど………」

「泊まる!」

「お、おう………」

 

 そんなに熱くなるなよ………。まぁ、泊まるなら泊まるで良いけど。一応、凛のサイズのジャージはあるし問題は無いが。

 

「なら、先にお風呂入って来てよ。凛のサイズのジャージで良ければ洗面所に置いてあるから」

「分かった」

「それと、親御さんにはちゃんと連絡しろよ」

 

 言うと、奈緒は先に連絡する事を選んだようで、スマホを取り出して操作した後に耳に当てた。

 しかし、なんでどいつもこいつも簡単に人の部屋に泊まるのか………。それも異性の部屋だぞ。そんなに居心地が良いのか、或いは俺にゲームで負けるのがそんなに悔しいのか………。

 何にしても、とりあえず晩飯でも作るか。そう思って台所に向かった。今日は簡単にカレーにでもしようかな。冷蔵庫から野菜を取り出してると、奈緒から声が聞こえた。何故か涙目だ。

 

「………泊まるって言ったらマ……母さんにダメって怒られた……。ていうか、こんな時間まで何してるんだって………」

 

 うん、普通はそうなるわ。凛の場合は前に手を貸したこともあって信頼されてただけだし。

 

「じゃ、駅まで送って行くよ」

「………明日、リベンジするからな」

「ああ、いつでもかかって来いよ。それと、そんな事で泣くな」

「な、泣いてない!」

「はい、ハンカチ」

「…………ありがと」

 

 ハンカチを渡すと、奈緒は涙を拭きながら玄関から出たので、俺も鍵とスマホと財布を持って家を出て、奈緒を駅まで送った。

 

 ×××

 

 駅に到着し、奈緒は改札を通ろうとした。その時に、ふと思い出したように「あっ」と声を漏らした。

 

「? どした?忘れ物?」

「いや、違くて。そういえばナル、お前凛に誕生日プレゼント渡したのか?」

「……………は?」

「あれ、知らないのか?凛の誕生日は8月10日だぞ」

 

 …………えっ?ま、マジで………?………あっ、まさか、昨日からずっとソワソワしてたのって………。

 

「あげてないなら、今からでも遅くないから渡してやれよ。じゃあな」

 

 帰ろうとする奈緒の肩に、俺は手を置いた。

 

「………っ、な、なんだよ⁉︎」

「明日、助けて下さい」

「…………はぁ?」

 

 

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