渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

28 / 55
胸への視線だけ、女性はみんなニュータイプ。

 プールに行く日。俺はこの前、凛と買いに行った海パンを鞄に入れて家を出た。

 待ち合わせ場所である駅までグラブルをやりながら歩いた。そういや、前の映画の時も駅で待ち合わせだったなぁ。懐かしい。あの時は凛がびびって大変だったなぁ。

 なんて年寄り臭く過去の思い出を振り返ってると、駅に到着した。凛は既に待機していた。あれ、俺遅れたかな。いや、でも待ち合わせ時刻五分前には到着してるんだけど………。

 

「お、お待たせ」

「………あ、やっと来た」

 

 やっと?もしかして結構待ってたのか?

 

「待ち合わせって30分だよね?」

「そうだよ?」

「俺遅れたっけ?」

「ううん。私が早く来過ぎただけ」

「なんかごめんね、待たせちゃったみたいで」

「いいよ、別に」

「じゃ、行こうか」

 

 さっさと歩いて行こうとしたところで、襟をグイッと掴まれた。お陰で「グェッ」と鳥類の鳴き声みたいな声が漏れた。

 

「な、何すんだよ凛!」

「待って。その前に言うことは?」

「はぁ?」

 

 俺の前で腰に手を当てて胸を張る凛。そんなに張っても君の胸は触らないと柔らかさは感じないよ?

 

「………ぶつよ?」

「えっ、なんでっ」

「今ムカつく事考えてた」

 

 だからエスパーかっつの。しかし、言うことって言われても………ああ、そう言うことか。

 

「似合ってるよ、ピアスと首飾り」

「………んっ、ありがと」

 

 いやそちらから誘導した癖にそっちが照れるのはおかしくないですかね。

 

「………なぁ、これ毎回やらなきゃダメか?」

「私が飽きるまではやるから」

「ああそう………」

 

 そんなに嬉しかったのかな、そのプレゼント。店にあった中じゃ安い方だったんだけど。ていうか、なんでアクセサリーってあんな高いのかな。あそこだけバブルなのか?

 すると、凛は俺の手を取って、心底楽しそうに微笑んで言った。

 

「さ、早く行こう」

「りょかい」

 

 二人で駅を歩いた。改札を通って、そのまま電車に乗った。世間は平日なだけあって、車内は混んでいる。とりあえず次の駅で降りるので、ドアの隅の方に移動した。凛はドアの隅に移動し、その正面に俺は立った。

 

「ふぐっ………⁉︎」

 

 ま、まだ乗って来るのか⁉︎俺は慌てて両手を凛の後ろの扉に着いた。ビクッとする凛だが、これ以上前に行ったら俺と凛の口はくっ付く。正直、今日ほど自分の身長が低いことを恨んだことはない。

 

「っ………」

 

 あ、あの、渋谷さん?なんでそんな顔を赤くしてるんですかね……。暑いから?と、思って改めて自分の状況を見たら、完全に凛に壁ドンしてる人だった。それも両手で。あ、これはマズい。なんかすごく凛に迫ってるみたいじゃん。

 

「………だ、大丈夫……?」

 

 凛が震えた声で聞いて来た。安心しろ、友達は絶対に守り抜いてみせるから。

 

「大丈夫、のはず………」

 

 あと1駅なら何とか持つはずだ。いや、持たせてみせよう、ホトトギス。とにかく力を入れろ、踏ん張れ、男を見せろ、俺。

 そんな事を考えてる時だ。誰かの鞄が俺の膝の後ろに当たった。つまり、膝カックンである。

 

「へあっ?」

「へっ?」

 

 生物学的に弱点を突かれて体勢を崩した俺は、顔面から凛の胸に突っ込んだ。

 

「ーっ⁉︎」

「っ⁉︎」

 

 うわうわうわっ、ヤバいセクハラじゃ済まない電車の中で痴漢してるヤバい良い匂い!これは凛にぶたれるかもっ………!そう思って、キュッと目を瞑った。

 直後、凛の両手は俺の脇の下に伸びた。ただし、くすぐったくない。「よっ」と小声を漏らして俺の体を持ち上げて体勢を直してくれた。まぁ、さっきみたいに両腕を伸ばせるわけではないから、凛の肩に顎を乗せてる形になるわけだが。端的に言えば、抱き合ってるように見える状態だ。

 

「………全然大丈夫じゃないじゃん」

「うぐ………!」

 

 ていうか、それ以上に現状が恥ずかしいです。ていうか、なんで俺と凛抱き合ってんの?ていうか、離れないとダメでしょ。

 離れようとした直後、いつの間にか腰の後ろに回されていた両手に力が入る。

 

「りっ、凛………?」

「………どうせ、次の駅で降りるんだし……このままで良いよ」

「いっ、いやでもっ………!」

「良いから動かないで」

 

 っ、そ、そうだな。助けてもらってる立場だし、ここは言うことを聞いておこう。俺は凛の方にもたれかかったまま、ホッと息をついた。さっきから心臓がドキドキうるさい。身体なんてほとんど全身がゼロ距離でくっ付いているので、多分俺の心音は向こうに伝わってるかもしれない。

 …………にしても、俺の心音流石に速すぎじゃね?ドドドドドドッて工事現場みたいに連続してるんだけど。心無しか、左胸だけじゃなくて右胸からも心音を感じてるし。

 はっ、いかんいかんいかん。とにかく考えるな。これから装備は機動性は最高レベルでも防御性能は最悪レベルの水着に着替えるんだ。今から緊張してたら、凛の水着姿なんて見れやしない。

 何とか頭の中の煩悩を打ち払おうとしてると、電車が止まった。それと共に扉が開き、俺と凛は倒れそうになりながらも電車から降りた。

 そこからプールに到着するまで、しばらく目を合わせることが出来なかった。

 

 ×××

 

 プールに到着し、凛と別れて更衣室に入った。………しかし、さっきのハプニングには流石に焦った。あんなジャンプの頭の悪いエロ漫画みたいな事になるとは………いや、ジャンプのエロ漫画はあの程度は序の口だから、それは気の所為か。

 まぁ良い、とにかくプールに着いたんだし、これからは楽しもう。凛に選んでもらった海パンに履き替え、プールに出た。

 とりあえず、更衣室を出た階段の下で待ち合わせなので、俺は待機した。しかし、流石は夏のプールだ。カップルが大勢いる。どいつもこいつも水着とかいう下着でキャーキャーとはしゃいでいる。あの辺のカップルが、俺みたくいじられキャラをいじるにいじって成立したカップルだと思うと反吐が出る。

 

「…………はぁ」

 

 うちの同級生のアホどものカップルは別れたんだろうか。つーか別れろ。

 そんな事を思ってる時だ。後ろから両脇腹を突かれた。お陰で「ひゃいんっ」とか変な声が漏れて背筋が伸びた。

 

「相変わらず変な声出すね」

「だっ、誰の所為ッ………!」

 

 だよこの野郎、と続こうとした俺の口は止まった。上は黒のビキニ、下は白のショートパンツの水着姿が余りにも似合っていたからだ。俺のあげたピアスと首飾りがあればさらに魅力的であったろうが、水につけるわけにはいかないので無い。いや、無くても十分綺麗だなこれ………。

 ボンヤリと見つめてると、凛が少し恥ずかしそうに自分の体を両手で隠した。

 

「………ちょっと。ジロジロ見過ぎだから」

「あ、ああ……悪い………」

 

 そんな事をしてる時だ。凛の後ろから声が聞こえて来た。

 

「おー?意外と良い感じじゃん」

「だろ?これでこの二人くっ付いてないんだぜ?」

 

 その声の主は奈緒、そして北条加蓮さんだった。良い加減、アイドルが出て来ても驚かなくなったな。

 

「よっ、鳴海」

「奈緒、なんでここにいんの?」

「加蓮と遊びに来てたんだよ、タマタマ」

 

 そう言う奈緒は北条さんの肩を叩いた。北条さんは礼儀正しく頭を下げた。

 

「初めまして。北条加蓮です」

「ああ、どうも」

「水原鳴海くん、だよね?」

 

 …………なんで知ってんの?と思ったが、まぁ想像つくわ、目の前の二人だろう。まぁ、別に口止めしてたわけじゃないし良いけど。

 

「そうですよ。北条さん、ですよね?」

「あ、敬語もさん付けもいらないよ。私、歳下だから」

「えっ、そうなん?」

 

 凛(16)→俺よりデカい(最近追いついて来たけど)

 北条(16)→俺より低い

 奈緒(17)→北条より少し低い

 

「…………奈緒」

「な、なんだよ」

「ドンマイ」

「うるさいな!どうせあたしが一番小さいよ!」

 

 しかし、身長の事を抜きにしても北条さんが歳下には見えない。だってほら、身長は3人の真ん中だし、見た感じの胸囲は凛より………。

 

「いだだだ⁉︎」

「どこ見てんの」

 

 隣からジト目の凛に耳を引っ張られた。なんで視線の先が読めるんだよ。ニュータイプか。

 

「女の子はそういう視線には敏感なんだよ」

「だから心を読むな!お前俺について詳し過ぎるだろ⁉︎」

「っ!そ、そりゃっ、まぁ……!………と、友達だし………」

 

 ふむ、友達だとそれくらい詳しいものなのか?なら俺ももう少し凛について学ぶべきか。

 

「…………このヘタレ」

「…………うるさい」

 

 北条さんと凛が何か話した気がしたが、まぁ気にしなくて良いさ。

 すると、北条さんはニヤリと微笑んで凛を一瞬だけ見ると、俺に微笑みながら声をかけて来た。

 

「ねぇ、水原さん」

「? 何?」

「私だけ苗字で呼ばれるのもなんかアレだし、下の名前で呼んでくれない?私も名前で呼ぶから」

「は?」

 

 いや、まぁそれくらい構わないけど………。すると、隣の凛が「ち、ちょっと」と口を挟んで来た。

 

「ダメだからね。加蓮は」

「え、なんでよ、凛」

「………加蓮は何となくダメだから」

「むー。鳴海くん」

 

 え、なんでそこで俺を見る。てかいきなり名前呼びか。

 

「別に名前で呼ぶくらい良いよね?」

「だめでしょ、ナル」

 

 北条さんのからかってるような目と、凛の威圧的な目が俺に向けられる。そんな事で争われても困るんだが………。

 いや、でも別に構わないだろ。流石に今回の凛の言い分はおかしいし。

 

「ま、まぁ呼び方くらいなんでも良いよ」

「ほらぁ」

「………むー、まぁナルがそう言うなら」

 

 ふぅ、なんとか納得してくれて良かった。

 それより、奈緒と北条さんは一緒に遊ぶのか?

 

「二人は一緒に遊ぶ?」

「いや、凛の邪魔しちゃ悪いし、やめておくよ」

「え?別に邪魔なんかじゃないよ。なぁ、凛?」

「…………まぁ、邪魔ではないけど」

「いや、いいから。てかお前らは二人で遊べ。じゃあな」

 

 それだけ言って、奈緒は北条さん………加蓮の手を引いて立ち去った。偶然、ね。まぁ別に何でも良いさ。凛と遊べるならな。

 

「さて、じゃあ泳ぐか」

「うん」

 

 二人で目の前の流れるプールに入った。水に流されながら、水の中を歩いた。その俺の前を凛も泳ぎ始めた。二人で水の中をただ泳ぎ始めた。

 しかし、プールとは不思議なものだ。こうしてただ二人で泳いでるだけなのに、なんとなく楽しい気分になってくるんだから。しかも、現状は凛と一緒にいるからか、尚更楽しい。

 凛は凛でいつも通り、真顔に見えて楽しそうな表情で泳いでいた。顔にはほとんど出ないけど、やっぱり楽しそうな表情はよくわかる。

 そんな凛の様子が何となく微笑ましくて、何となくボンヤリ眺めてると、それに気付いた凛がムッとした表情になると潜った。なんだ?海パン脱がしか?いや、男子じゃないしあり得ないよね。

 まぁ、何をされても対応できるように身構えてると、ドンッと後ろから泳いで来た人と肩がぶつかった。

 

「チッ、ってぇな」

「あ、すいません」

 

 舌打ちされて、思わずこっちが謝ってしまった。すると男は泳ぎ去って行った。なんだ今の男、ヤンキーか?学生くらいに見えたが。完全にお前からぶつかって来ただろうが。

 まぁ、あの程度の頭の軽そうなハゲに怒ったって体力の無駄だから、別に気にしないが。

 その一瞬だけ生まれた隙を突いて、後ろから凛は俺の腰に抱きついた。

 

「隙あり」

「えっ………」

 

 持ち上がる俺の体。え、ちょっ、思ったより力強っ………。

 直後、凛は自分ごと後ろに倒れ込んだ。当然、持ち上げられてる俺も後ろに倒れた。

 ザッパァァァァンッと水飛沫が上がり、俺と凛はプールの中に沈んだ。ガバッ、ゴボッと泡を立てながらなんとか水面に顔を出した。同時に凛も顔を出し、顔の水を払うと、ニヤリと俺を見て微笑んだ。

 

「………宣戦布告か?」

「かもね」

 

 直後、俺は凛に襲い掛かった。しばらくそのまま水中プロレスをしてると、ピーっと笛の音が聞こえた。監視員さんが俺と凛を見ていた。

 

「………プール内での危険行為はやめて下さい」

「「はい」」

 

 謝った。

 その後は、凛にくすぐられたり水の中に落とされたりモンハントライごっこしたりと、まぁ遊び倒した。

 で、今はとりあえずガノトトスを二人で探し回ってる所だ。ていうか、凛の奴全然モンハン飽きてないじゃん。今度誘ってみようかしら。

 

「なぁ、凛……」

 

 声を掛けながら後ろを見ると、凛はいなくなっていた。

 …………あれ?もしかして、逸れた………?嫌な汗がドッと顔に浮かんだ。おいおい、スマホはロッカーにあるのにこんな場所で逸れたらヤバいんじゃないのこれ。

 

「……………」

 

 とにかく、探さないと。そう思ってプールから上がって中を歩き回った時だ。後ろから肩をツンツンと突かれた。

 

「?」

「どーも、鳴海くん」

「あ、ああ。北条さ………加蓮」

 

なんでここにいんの?てか奈緒は?いや、まぁ良いか。とにかく、今現れてくれたのはありがたい。

 

「ちょうど良かった。凛知らない?」

「私も奈緒とはぐれちゃったの。一緒に探してくれない?」

「なるほど。了解」

 

 と、いうわけで二人で探し始めた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。