渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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人を見た目で判断してはいけない。

 とりあえず、加蓮と二人揃ってプールの中を歩き回った。辺りを見回してると、加蓮が楽しそうに声をかけて来た。

 

「ねぇ、鳴海くん。凛とは普段、どんな感じなの?」

「加蓮もそれか………」

「ね、どうなの?」

「どう、とか聞かれてもな……」

 

 大体の様子は凛とか奈緒から聞いてんだろ?俺が話すことなんてないと思うんだけどな。

 そんな俺の心を見透かしてか、加蓮は質問を変えて来た。

 

「じゃあ、凛の事はどう思ってる?」

「どうって、友達だよ」

「ふーん………本当に?」

「嘘ついてどうすんの」

「でもさ、もう長い事一緒にいるんだから、異性としてそれなりに何か感じたりしないの?」

「何か、とか言われてもな………」

 

 正直に言って、笑顔を見せられるだけでたまにドキッとさせられる良い女の子だとは思う。しかし、そうは言ってもあくまで友達同士だ。

 

「まぁ、良い子だとは思うよ。こんな子が彼女なら、と思うこともある」

「へぇ〜。ま、凛もかなり鳴海くんのことは気に入ってるみたいだしね。案外お似合いなんじゃない?」

「それはないよ」

「またキッパリと否定したね」

 

 そりゃそうだろ。小、中と9年間学校で暮らして来て、図らずともキューピッドをやって来て、それなりに恋愛については分かってるつもりだ。

 

「いじられる奴ってのは周りから好かれてもモテる事はないんだよ」

「と、言うと?」

「女子にモテる男の三要素を知ってるか?」

「そんなの、女の子によって違うんじゃないの?」

「大体は決まってるんだよ。面白い奴、運動神経が良い奴、そして頼り甲斐のある奴だ。良くも悪くも」

「………え、その三つに悪い意味なんてあるの?」

「あるよ。うちの中学の奴らとか全員そうだったから」

 

 そして、その三要素を満たすために俺をいじってきた。いじって俺に面白い反応をさせて笑いを取り、体育や球技大会で俺を狙って躱したりし、それと共にプレイの巧さをアピールして頼り甲斐をアピールする。ホント、思い出しただけでムカつく。3年に上がった時なんて、余りに周りから狙われ過ぎて逆に俺上手くなってたからね。

 

「まぁとにかく、その三要素の中の一つも持ってないのがいじられキャラであり、それが嫌でも定着しつつある俺は女子にモテる可能性はゼロなわけだ」

 

 そう言い切ると、加蓮は俺をジト目で睨んだ。えっ、何その目?「こいつバカじゃん?」みたいな目。思わずたじろぐと、加蓮は小さくため息をついてボソッと呟いた。

 

「………これは凛、大変そうだなぁ…………」

「えっ、何?」

「何でもない」

 

 うおっ、凛と同じレベルで冷たい声………。それ以上追求すれば殺す、とでも言わんばかりの声だ。

 

「でもさ、鳴海くん。今、言ってた三つの要素以外にもう一つ、重要な事があるよ」

 

 案の定、話を逸らされた。まぁ良いか、少し気になるし。

 

「何?」

「女の子の立場から言わせてもらうと、優しい男の子とかにドキッとすると思うけどなぁ」

 

 ふむ、優しさか………。よく聞く話ではあるが。

 

「優しさか………」

「そ。で、それは鳴海くんにはあるものだと思うよ」

「いや、初対面じゃん」

「凛から色々聞いてるから」

 

 え、俺渋谷さんの前で優しいと思われるような事したか?この前なんて枕投げとかしてたぞ。女の子を相手に。

 

「それに、いじられキャラだってモテる男の子もいるよ」

「そんな奴がいるなら、是非お手本にしたいね」

「………あ、モテたいとは思ってるんだ」

「そりゃね。むしろ、彼女も欲しいとすら思ってるよ」

 

 まぁ、諦めてるんだけどな。そんな簡単に彼女が出来たらこの世にオタクもゲーマーも存在しない。

 すると、加蓮が少し真面目な表情で俺を睨みながら、忠告するように言った。

 

「なら、もう少し周りを見てみることだね」

「はぁ?」

「ううん。それより、凛いた?」

「いや、見当たらないけど………」

 

 なんなんだ一体。俺のこと好きな奴が周りにいる、みたいな言い方しやがって。大体、いるなら俺気付いてるっての。

 いや、それ以前にさ、今ので分かったわ。

 

「もしかしてさ、加蓮って俺と凛のことずっと見てた?」

「………えっ?」

「いや、何となくそうかなって。俺と凛が離れた時に声かけて来たタイミングが良かったし。会った時に『奈緒を見なかった?』っていう質問も無かった。探し始めた時も、まるで探してる事を忘れて呑気に関係ない話を振って来たし、今だって『凛いた?』って凛のことしか気にした様子がなかった。多分、奈緒の方は今、凛と一緒にいて偶然を装って俺達と会わせようって考えでしょ?探すふりをしながら奈緒との待ち合わせ場所に向かって」

「……………」

 

 唖然とする加蓮。あれ、ハズレ?ハズレだったらかなり恥ずかしいんだけど………。

 何となく恥ずかしくなって来てると、加蓮の口からボソッと声が漏れた。

 

「………驚いた。頭も良いんだ」

「お、当たり?俺すごくね?」

「うん、正直すごいとは思った」

「ま、まぁね。日々、刑事になるために刑事ドラマ見まくってるからね」

 

 実家とか電化製品の店でな。うちでは見ない。

 

「そんなんで推理力ってつくのかな………」

「憧れてるのは古畑さんと湯川先生と……」

「湯川先生は刑事じゃないでしょ」

「良いの。で、凛は何処?」

「いや分からないよ。奈緒が早ければ、もう凛と待ち合わせ場所にいると思うし。見てたけど、流石に逸れさせたわけじゃないから。たまたま逸れてたから、お助けしようかなって思って」

「それはありがたいけど………そもそもなんで覗いてたんだ?遊びたいなら一緒に遊べば良かったのに………」

「………まぁ、ちょっとね」

 

 ちょっと、なんだよ。あ、もしかして俺が邪魔だったのか?

 

「凛と遊びたいなら俺、帰ろうか?」

「いやいや、それだけは絶対ありえないから」

「絶対⁉︎」

 

 いや、まぁそう言うなら良いけど………。しかし、本当にわからない。わざわざプールの入園料まで払ってこの二人、俺と凛をずっと見てたって事でしょ?暇だったんじゃないかな。

 

「とにかく、鳴海くんの言う通り奈緒と待ち合わせの場所があるから、そこ行こう」

「了解」

 

 まぁ、本人達が楽しんでるならそれで良いけど。

 加蓮の後に続いて、俺は凛と奈緒の元へ向かった。流れるプールのプールサイドを歩きながら、辺りを見回した。そういえば、さっきぶつかって来たガラの悪い奴らはどこに行ったかな。どう見ても頭悪そうなリア充だったから、あまり関わりたくないんだけど………。

 まぁ、バカは高いとこが好きらしいから、あのバカデカいウォータースライダーで待ち合わせしてない限りは大丈夫だろ。

 

「そういえば鳴海くん」

「? 何?」

「山手線見たよ」

「ブハッ⁉︎」

 

 な、なんだよ藪からスティックに⁉︎てかバレテル⁉︎

 

「な?なんのこと、かなー?山手線?そんなんこの辺の駅ならどこででも………」

「いやいや、無理あるから。あと凛とたまに奈緒とも一緒にやってるで」

「わ、わーわーわー!分かったから大きな声で言うなこんなとこで!」

「ああ、確かに凛の気持ち分かるわ。これは奈緒と同じでいじりたくなる」

「な、何をいきなり言ってんだよ⁉︎」

 

 初対面だよね?違ったっけ?

 一瞬、割とマジで浮かんだ俺の質問など知る由もなく、加蓮は楽しそうに語り始めた。

 

「いやぁ、面白いよね山手線。この前、スマブラやってたでしょ?奈緒とか凛の事、ボコボコにしてたから見てるこっちまで爽快になってたよ」

「なんで友達がボコられて爽快になってんだよ………」

「特にゲーム○ウォッチがすごいよね。未だにダメージもらってないでしょ」

「まぁね。凛は初心者だから」

「でも、羨ましいなー。聞いてる分にはすごい仲良さそうに聞こえるからさ。私も……ゲーム実況したいわけじゃないけど、少し羨ましいよ」

「なら今度うちでやる?」

「考えとく。やるからには負けたくないし」

 

 それは練習しておくって事ですかね………。まぁ、練習は重要だと思うけど。

 

「もしやるなら着替えとか持って来いよ。大抵、その後は泊まりになるから」

「えっ………と、泊まるの?」

「ああ。奈緒も凛も泊まって行ったよ。奈緒の方は流石に俺と二人きりでは泊まらなかったけど」

「あ、そ、そっか。二人もいるもんね………。でも、うん。考えておく」

 

 そんな話をしながら呑気に歩いてると、加蓮が「あっ」と声を漏らした。

 

「もうすぐだよ、待ち合わせ場所」

「ふーん………ていうか、待ち合わせ場所ってど……」

 

 ………こだよ、と聞こうとした俺の口は止まった。辺りを見回せば待ち合わせ出来そうな目印になる場所は一つしかない。そして、それは大きなウォータースライダーだった。

 

「……………」

「あそこだよ………って、どうしたの?顔色悪いけど………」

 

 加蓮の指差す先にはウォータースライダーの階段がある。

 …………嫌な予感がするんですが。そんな俺の気も知らずに、加蓮は俺の手を引いて歩き始めた。

 そして、俺の嫌な予感は的中した。

 

「なぁ、遊ぼうぜって。良いだろ?どうせ暇だろ?」

「そうだよ。こう見えて俺達金あるから。何でも買ってやるよ」

 

 ………二人は、俺がさっきぶつかった連中に絡まれていた。奈緒は完全にビビってて凛の背中に隠れてるし、凛は凛で強がって睨んで断ってるものの、若干震えてるのがよく分かる。

 ていうか、あいつらあの二人がアイドルだって分かってないのか?まぁ、確かに髪とか濡れてていつもと違う髪型になってるからわからなくても不思議ではないが。

 

「………ねぇ、鳴海くん……」

 

 加蓮も気付いたのか、俺の後ろに隠れて腕を握った。まぁ、そうなるよな。ここは俺しかないか………。

 

「加蓮、悪いけどここで待ってて。解決して来るから」

「えっ、だ、大丈夫なの………?鳴海くん、超喧嘩とか弱そうじゃん………」

「大丈夫。俺、こう見えて喧嘩は強いから。伊達に親父と喧嘩してなかったから」

「えっ?お、親父さんと……?」

 

 それだけ言うと、凛と奈緒を助けに行った。まぁ、実際は喧嘩なんてしないけどね。アイドルの知り合いが暴力事件なんてダメでしょ。それに、実際は親父以外と喧嘩した事ないから強さも分からないです。

 これから取る行動は、完全に他人のふりをしてウォータースライダーの階段を上がり、監視員を呼びに行く事だ。ウォータースライダーに乗りたがる奴なんて何人もいるから男達は俺が呼んだと断定出来ないはずだし、プールの係員を呼ばれたら、奴らもナンパを中断せざるを得ないだろう。

 ふっ、我ながら完璧な作戦過ぎるぜ。若干、微笑みながらウォータースライダーの階段に向かった。歩いてると、凛がこっちに気付いた。俺はなるべく男達の印象に残らないようにする為、耳を小指でほじくりながら歩いた。あとで石鹸で手を洗おう。

 四人の横をすれ違おうとした直後、

 

「! ナル!」

「! な、鳴海!」

 

 声を揃えたアイドル二人は、俺の元に駆け寄って来た。おい待て。お前らがここで来ちゃったら俺の作戦は成立しないんだよ。

 心の中で嘆いたが、心の中の嘆きが二人に通じるはずがない。二人は俺の背中に隠れて、凛が男に言い放った。

 

「わっ、私達この人の彼女なので行かないから!」

「えっ」

 

 おい、今なんつった?いや、彼氏設定はそっちの助かるための口実として100歩譲ろう。けど何?私「達」?

 

「…………ああ?」

 

 男から心底不愉快そうな声が聞こえた。いや、待って。ていうかお前らどんな設定のつもりでそれ言ってんだよ。いや待て、でも一回なら言い間違いで済ませられる。

 すると今度は奈緒も続けて勢いで叫んだ。

 

「そ、そうだそうだ!あたし達はダーリンの彼女だからお前らには付いて行かないからな!」

 

 はい、見事なまである隙を生じぬ二段構え。戦いとは、いつも二手三先を読むものだ、ってか?ていうか、ダーリンって言い方。

 

「つまり、そいつは二人の女を彼女にしてるってことか?」

「なんだそりゃオイ。ナンパする立場じゃなくてもムカつくぞオイ」

「ちょっと顔貸せコラおい」

 

 おいおいおいおい、ヤバいってこれ。仕方ない、これはやるしかないかもしれない。けど、暴力は凛達に迷惑かかりそうだし………。

 仕方ない、サンドバッグにされよう。

 

「凛、奈緒。向こうに加れ……もう一人いるから、そこで待ってて」

「えっ?で、でもナルは………!」

「大丈夫だから早く行って」

 

 そう言うと、二人は渋々加蓮の方に向かった。さて、殴られるとしようか。まぁ、多分だけど監視員なり呼んできてくれるでしょう。

 とにかく、俺は目の前の二人に声を掛けた。

 

「で、何の用ですか?」

 

 一応、話し合いをしてみたが、どうせすぐに手を出してくる。いつでも対応出来るようにしておくか。

 すると、右側の男が声をかけて来た。

 

「お前さ、二股はダメだろ」

「いやいや、同意の上なんで」

 

 一応、二股設定を活かしてみた。

 

「そういう問題じゃねぇよ。お前の前では同意してたとしても、二人の内心はどうなのか分かんねえぞ?どちらかはお前にバレないようにどちらかを排除しようとしてるのかもしれないし、そうでなくても良い気はしないだろ。彼氏なら、惚れた女に気を使わせるような事してんじゃねぇよ」

「………す、すみません……」

 

 あれ、なんかまともなこと言われてるんじゃないだろうか。いや、それ以前に二股どころか付き合ってすらないんだけどね。

 

「とにかく、お前は今からあの二人のどちらかを振れ」

「え、今って」

「今すぐだ」

 

 マジかよ………。そもそも付き合ってすらねぇんだけど………。

 でも、まぁ平和的に解決できることに越したことはない。こいつら、二人がアイドルであることに気付いてない様子だし、このままいけばなんとかなる。

 

「………わかったよ」

「よし、二人を呼んで来い」

 

 まぁ、事情を説明すれば分かってくれるだろう。二人の方へ向かうと、監視員を呼びに行ったわけではなく加蓮と不安そうに俺を見ていた。

 

「奈緒、凛、ちょっと良いか?」

「何だ?」

「だ、大丈夫なの⁉︎」

 

 凛が彼の両手を掴んで来た。とても心配していたようだが、まぁその件は後で説明しよう。それより、二人をあの二人の前に出さないと。

 

「ああ。それより、奈緒と凛。こっちに来てくれないか?」

「な、なんで………?」

「簡単に説明すると、俺が奈緒と凛のどちらかを選ばなくちゃいけなくなったから。良いから来て」

「「…………はっ?」」

 

 二人からキョトンとしたような声が漏れた。

 

 


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