渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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開き直る事になった。

 10分後くらい。俺は凛とプールの医務室で二人きりになっていた。ただし、普段の和気藹々とした空気ではなく、ものっそい気まずい。それと共に鼓動がすごい。

 そもそもなんでこんなことになったのか、それはさっきのヤンキーに絡まれた時に遡る。とりあえず、恋人じゃないとバレた時点でヤンキー二人は凛と奈緒を狙い始める。なので、そこでは恋人で通す必要があった。

 だから、俺は付き合いの長い凛を選んだ。奈緒に演技で「ごめん、奈緒。やっぱり二股なんてダメだからお前とは別れて凛と付き合う」と言った。すると、奈緒は巻き込んだのを分かっていたから「あ、ああ、全然平気だから。気にするな」とあっけらかんと認めた。

 その直後、ヤンキー達は奈緒に声をかけ始めた。振られた方の女を狙うつもりだったのか、と今更になって俺は焦った。男が奈緒の手首を掴んだ直後だ。顔を真っ赤にした凛がその場で膝をついて倒れた。

 なんか「なっ、ナルと、付き合うぅ……」なんて呟いたまま、悶え始め、ヤンキー達は「お、おい。なんかヤバくね?」と言って奈緒をおいて逃げ始めた。まぁ、やましい事をしようとしていたし、誰かが倒れればプールの係員が飛んで来るのは分かり切ってるから逃げ出すのは当然だろう。

 だが、俺と奈緒まで逃げ出すわけにはいかない。とりあえず、奈緒と加蓮にウォータースライダーの上の役員を呼んできてもらい、一応医務室に連れて来たわけだ。体からはなんの異常も出てないことから、まぁ大丈夫だとは思うんだけど………。あ、ちなみに加蓮と奈緒はプールで遊んでる。

 で、ここからが大事。医務室から運んで来た時に、一応説明しようと思って口を開きかけた時、先に凛が聞いて来た。

 

『一応、聞くけど……本当に恋人ってわけじゃ……ないよね……?』

 

 その問いに、思わず反射的に答えた。

 

『え、そうだけど?』

『………だよね』

 

 そう残念そうに呟く凛の姿が嫌に頭に残った。なんでそんな残念そうにするのかが分からなかった。それと共に何故か罪悪感も胸の中で響いている。

 凛は、どう答えて欲しかったのか、凛は何故、残念そうにしたのか。

 とにかく、あの凛からの問いによって、少なくとも俺にとっては気まずい時間が続いている。

 でも、奈緒と加蓮からは「その場にいろ」と言われたから出て行くわけにもいかない。いや、出て行くという選択肢は何にしてもない。それは、この空気から逃避するだけだ。

 とにかく、あの時の最善の返答を考えてると、凛の方から声が聞こえた。

 

「………よしっ、決めた」

「?」

 

 何を?ていうかいきなりなんだ?

 キョトンとしてると、凛はベッドから降りた。

 

「お、おい。もう大丈夫なのか?」

「平気。ていうか、体調崩したわけじゃないから」

 

 すると、凛は俺の隣に歩いて来て俺の腕にしがみ付いた。

 

「ちょっ、凛………?」

「さ、行こう。ナル」

「い、いやもう少し休んでからの方が良いんじゃ………!」

「良いから。せっかくナルと二人きりで遊べるのに時間がもったいないじゃん」

「………えっ?それって、どういう………」

 

 ………なんか俺と二人きりでいたい、みたいに聞こえたんだが……。

 だが、俺の問いに答えるつもりなんてないのか、一切無視して楽しそうな表情で俺の腕を引っ張った。

 

「ほら、行くよ」

 

 その笑顔は、「これから覚悟しといてよ?」とでも言ってるかのような、いたずらっ子のような笑みだった。

 

 ×××

 

 プールを出て、加蓮と奈緒と別れて、俺は更衣室付近の自販機の群れで待機していた。まぁ、女子は髪乾かしたりと色々手間があるんだろう。

 その点、男は楽で良い。髪なんてタオルで拭けば良いかなってスタンスだし、そんな髪長くないし。

 とりあえず、一人でM○Xコーヒーを買って飲んでると、後ろから首元に息を掛けられた。

 

「ふぅ〜」

「わひゃあぁあ⁉︎」

 

 変な声を上げながら後ろを見ると、凛が実に楽しそうに微笑みながら立っていた。

 

「お待たせ」

「お待たせ、じゃないから!変な声出ただろ!」

「そんなのいつもの事じゃん」

「い、いやいや!首元に息なんてやられたの初めてだから!初めて出た声だから!」

「可愛かったよ?」

「っ………!」

 

 な、なんだいきなり………!何となく普段と様子が違う気がしてたじろいでると、凛は一切気にした様子なく隣に座った。

 

「ね、何飲んでるの?」

「ん?コーヒー」

「………超甘い奴じゃん」

「良いだろ、ブラックは飲めないんだよ」

「一口ちょうだい」

「えっ………」

 

 直後、凛は俺の手から勝手にM○Xコーヒーを取り、口を付けて飲んだ。おい、それ間接………い、いや、でも高校生の友達同士なら普通、なのか?いや、でも………。

 

「うえっ……やっぱ甘過ぎ………もういらない」

「お、おう………」

 

 あげる、とすら言ってないんだけどな………。ど、どうしよう……。これ飲んで良いのかな。でも、少なくとも凛の前で飲むのは少し恥ずかしいんですけど………。

 

「そ、そうだ。凛、アイス食べる?」

「え?良いの?」

「ああ、たまには買ってやるよ」

 

 たまには、というのは正直よく分からないが、とにかく買ってあげることにした。

 

「何が良い?」

「じゃあー……これっ」

 

 チョコを二本買って、片方を凛に手渡した。

 

「二本もくれるの?」

「いや一本は俺のだから」

「冗談」

 

 で、二人で食べ始めた。………何故か、凛は俺の方にもたれかかって来たが。こ、これも友達では当然の距離なのか……?それとも………い、いやいや。自惚れるなって。相手はアイドルだぞ。

 

「ね、ナル。今日はこの後どうしよっか?」

「えっ?そ、そうだな………。凛は明日は?」

「午前中だけ休み」

「じゃあ、ゲームかー……」

「えー、せっかく隣の駅まで出掛けてるのにもう帰るの?」

 

 あれ?珍しいな。普段なら帰って即行スマブラ大会なのに。何処か行きたい場所でもあるのか?

 

「どっか行きたい場所あんの?」

「いやいや、そういうんじゃなくてさ。せっかくなんだからもう少し外で遊びたいなーって」

「………じゃあ、ゲーセン?」

「ゲームから離れて」

 

 ゲーセン以外でこの辺で今から遊びに行ける場所か……。もう夕方だし、カラオケとから高くつくよなぁ………。

 

「ちょっと待って。ググるから」

「そんな真面目に探さなくても良いよ」

「えっ、そ、そうなの?」

「ナルって本当に友達と遊び慣れてないんだね」

 

 悪かったな、友達いなくて。

 

「別にわざわざ探さなくても、この辺の駅周辺ならテキトーに思い浮かぶもの言えば大抵はあるよ?」

「川とか?」

「それはないかな」

「じゃあ山」

「地元にあるものから離れて」

 

 ゲーセンからも地元からも離れるのか………。他に何か高校生が遊びそうなもの………。

 

「………あっ、遊園地!」

「夕方からは無理でしょ」

 

 あ、ですよね。となると他に遊べる場所か………。

 

「別に何かする場所じゃなくても、スタバとかでも良いんだよ?それならそれでお茶飲みながらお話ししたり出来るし」

「………最近の高校生ってすごいなぁ」

「一年経ってる人が何言ってんの?」

 

 悪かったな畜生。

 でも、別に飯屋で良いならそれで良いか。お金あんまりかからないし、晩飯を作る手間もなくなる。

 

「じゃ、マック行くか」

「本当にとことんダメダメだね」

「えっ、な、なんでっ」

「そこはマックはダメでしょ。長くいられないし、騒がしいし」

「じゃあロッテ?」

「その手の店から離れて。素直にスタバって言えば良いじゃん」

 

 少しでもオリジナリティを出した方が良いと思ったんだが………。まぁ、でも凛がそれで良いなら良いか。

 

「じゃあ、スタバで」

「うん。その前に、アイス溶けかけてるよ」

「へっ?う、うわっ!」

 

 垂れそうになったのをギリギリ口でキャッチした。

 ………ていうか、隣の駅に来たのにって言ってたけど、スタバなんて何処にでもあるよな。

 

 ×××

 

 予定通りに二人でスタバでまったりした後、ようやく帰宅し始めた。しかしあれな、スタバって高いな。なんであんな高いの?ちょっとティーブレイクするだけで千円くらい飛ぶんだけど。まぁ、食費とかは大丈夫だとは思うけど………。

 そんな事を考えてると、俺の家の前に到着した。さて、これからはゲーム大会かな。今日はどのキャラを使おうかなー、スネ○クとか使いこなせるとカッコ良いかなーなんて迷ってると、凛がふと声をかけて来た。

 

「ね、ナル」

「? 何?」

「前に、私は初恋もまだって言ったでしょ?」

「え?あ、あー、そう言えばそうだっけ?」

 

 そんな話もしたっけ。よくそんな細かい会話まで覚えてるなー、と、感心したけど俺も割と覚えてるわ。だって普段、凛としか会話しないもん。

 

「それで?」

「私………その、今、初恋の真っ最中なん、だよね………」

「…………はっ?」

 

 ま、マジ………?

 

「ま、マジ…………?」

 

 俺の疑問は、声となって表に出た。その問いとも言えないような問いに、凛は頬を赤らめながらも頷き返した。

 …………あれ、なんだろう、この感じ。今、胸の奥がズキンっと痛くなったような気が………。

 

「え、誰?誰なの?」

「言わないよ。言っても信じないだろうし」

 

 信じない、ということは俺の知ってる人ということか?他にも聞きたいことは山ほどあったが、頭が上手く機能しない。色々とテンパってる俺に、凛は続けて言った。

 

「だから、今日は私帰るから」

「えっ………?」

 

 か、帰っちゃうの………?なんだろう、なんだこの感じ。今、一瞬だけ寂しかったような気がするんだけど………。

 そんな俺の気を知ってか知らずか、凛は俺の様子を伺うようにしたから覗き込んだ。

 

「だから、さ……。その、応援、しててくれる?」

「えっ?」

「応援。ほら、男の子の好みとか、知りたいしさ」

「………あ、ああ、良いけど……」

「じゃ、また今度、一緒に出掛けようね」

 

 凛は微笑みながら言うと、「またね」と挨拶して自分の家に帰宅し始めた。ポツンと取り残された俺は、とりあえず自分の部屋に入った。

 ………そっか。凛にも、好きな人が出来たのか………。なんだろう、この感じ。悔しいというか、なんというか………。こんなの初めてだ。

 いや、凛だって女子高生だし、恋愛の一つや二つくらいあるだろうに。なんでこんな複雑な心境になってんだよ。

 とにかく、凛には幸せになってもらいたい。その為に、とりあえず最近の男子高校生の好みでも調べておくか。そう決めて、スマホで調べ物を始めた。

 

 


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