渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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水原くんと恋人になりたくて(4)

 翌日、私は奈緒と加蓮と卯月と事務所で合流し、ラウンジでコーヒーを飲みながら宣言をした。

 

「………と、いうわけで、ナルの事が好きだと認める事にしました」

「……………」

「……………」

「……………」

 

 あれっ、何その無反応?もう少し、こう………何かからかわれるかと思ってたのに………。その時のための言い訳も考えて来たのに、なんか拍子抜けだなぁ。

 すると、加蓮が眉をひそめてボソッと呟いた。

 

「………今更?」

「えっ?」

「いや、もう随分前から大好きだったでしょ。ねぇ、奈緒?」

「そうだな。じゃなきゃ、あたしとナルが初めて会った時、あんな風に怒らないし。なぁ、卯月?」

「そうですね。それに、わざわざお弁当なんて作ってあげないでしょうし。ねぇ、加蓮ちゃん?」

「ね、わざわざ実家にまで行ってね。普通、寂しいからって実家までは行かないよ。ねぇ、奈緒?」

「ああ。誕生日プレゼントもらってあれだけ大はしゃぎしてたのにな。あたし達があげた時より嬉しそうにして………。なぁ、卯月?」

「そうですねぇ。それに……」

「も、もう良いから!なんで三人で上手くループしてるの⁉︎」

 

 う、うるさいな………!なんでそんな息ピッタリなの?打ち合わせでもしてたの?

 

「まぁ、良いや。で、なんでその結論に至ったか教えてくれる?」

 

 加蓮がとりあえず、とでも言うように聞いてきたので答えることにした。どうせ逃げようとしても逃げられないし。

 

「まぁ、昨日のプールでさ、変なのに絡まれたでしょ?」

「うん」

「ええっ⁉︎だ、大丈夫だったの⁉︎」

「あ、うん。心配しないで卯月。それで、まぁ………その、奈緒と選べみたいな事言われたでしょ?」

「そうだね」

「それで………その、そもそも付き合ってもないのに、何となく私が選ばれなかった時のことを想像したら……その、怖くなっちゃって……」

「あーそういえば確かにあの時、凛ってば鳴海の事殺しそうな目で睨んでたよな」

 

 え?そ、そう?それは無意識だった。

 

「だけど、その……ナルってアホほど鈍感だから、絶対に私の気持ちに気付きそうにないなって思って………。それなら、まずは自分から開き直らないとダメかなって思ったの」

「まぁ、確かに鳴海はアホほど鈍感だからな………」

 

 そう、ナルは鈍感だ。アレほど面倒臭い男はそうはいない。だが、他の女の人に取られるのは嫌だ。それだけではない、一緒にいるだけで楽しさや嬉しさを覚えるし、なんなら幸せすら感じてる。

 

「でも、少し悔しかったからナルには『初恋した』とだけ言って逃げて来た」

「悔しかったのか………」

 

 そりゃ悔しいでしょ。まぁ、ナルに限って大きくショックを受けたとかそういうのはないだろうし、正直あまり意味なかったかもしれないけどね。

 

「で、具体的にはどうすんの?」

 

 加蓮に聞かれた。勿論、考えてある。

 

「まず、次会った時は大人しくするよ」

「へっ?お、大人しく………?」

「そう。まずはナルの好みを把握するために、潜伏する事にした」

 

 昨日だって、ホントはナルと泊まる予定だったのに我慢したんだから。お陰で夜は寂しくてハナコに構ってもらったし。

 だが、これだけでは3人には伝わらなかったようで、卯月がキョトンと首をひねって聞いて来た。

 

「と、言うと?」

「さっき、ナルに『初恋した』って言ったって言ったでしょ?」

「う、うん。ややこしいね………」

「その時に、彼に『応援してくれる?』って言ったの。だから、最近の男子高校生の好みを聞くフリしてナルの好みを聞こうと思って」

 

 そう言うと、3人とも「なるほど………」みたいな顔をして呟いた。この作戦はナルと医務室でずっと黙ってる時に思い付いたものだ。実行するのに会話を挟んでスタバを挟んで帰路を挟んだけど。

 まぁ、情報を入手するだけでは甘い。あの鈍感はそんな事じゃ気付きもしない。

 

「で、好みを知り次第でとりあえずガンガンに攻める」

「でも、鳴海はガンガンに攻めたところで気付かないんじゃないか?」

「分かってるよ。それに、別にナルが気付く必要なんてない」

「…………?どういうことだ?」

「どうせ気付かないなら、もういっそ……その、私に………ほっ、惚れさせた方が早いかな、って………」

 

 ………なんかすごい恥ずかしいこと言った気がする。でも、実際その作戦しか思いつかなかったんだから仕方ない。

 すると三人は目を丸くして私を見た後に、加蓮、卯月、奈緒の順番でボソッと呟いた。

 

「………すごいね、凛」

「……よく言えましたね。そんな恥ずかしいセリフ」

「少女漫画でも読んだのか?」

「う、うるさいよ!」

 

 ていうか、あのニブチンを落とすにはこれしかないでしょ!それこそ撃墜するくらいの勢いでやらないとお付き合いなんて無理だから!

 

「まぁ、でも確かにあいつと付き合うにはそれくらいしないとダメだよな」

 

 奈緒が同意するように腕を組んでウンウンと頷いた。

 

「何せ、あいつの中では『からかい甲斐のある友達』程度にしか思われてないと思ってるみたいだからな」

「あー分かる。昨日、鳴海くんと少し話したんだけどさ、あの子自分の事を随分と下に見るよね」

「そうなんですか?」

「うん。中学の時に相当いじられてたんだろうなぁって思う程」

 

 そ、そうなんだ………。まあ、確かにいじられキャラはモテないだの何だのと良く抜かしてるけど。それは周りの女の子達の見る目がなかっただけだから。

 

「わたしはその鳴海さんに会ったことないからなんとも言えないのですが………。そんなに鈍い方なの?」

「「「鈍い」」」

「こ、声を揃えるほどなんだ………」

 

 卯月が引き気味に呟いた。いや、本当に笑えないレベル。卯月がナルのこと好きだったとしても怒るんじゃないかなって感じ。

 大体、実家に押し掛けた時点でわかって欲しいよね。普通の友達同士で同性でもわざわざ実家になんて行かないから。

 腕を組んで少しイライラしてると、奈緒と加蓮がジト目で私を睨んでるのに気付いた。

 

「………いや、凛の言えた事じゃないと思うんだけど」

「本当だよね。凛がそこまで言うのはちょっと………」

「えっ、な、なんでよ」

 

 向こうから私のこと好き、みたいな兆しあった?一切感じなかったけど………。

 

「いや、そういうんじゃなくてだな。凛だって好きになる前は割と距離近かったと思うぞ」

「えっ」

「そうだよ。普通、いくら友達同士でも好きでもない男の子の部屋に二人きりで泊まったりしないから」

「そ、それは………」

「しかも、鳴海の後ろで着替えてたりしてたんだろ?何回か見られても焦る事もしなかったとか」

「夜中はたまに布団の上でじゃれあったりしてたんでしょ?男女がそれやってると文章見ただけじゃやらしい意味になるからね」

「逆に距離近過ぎてどのアピールも『友達だからセーフ』くらいにしか思われてなかったんじゃないのか?」

「ね。正直私も少しそれあると思う」

「………………」

 

 言われて、私の顔に大量の汗が浮かんで来た。………えっ、じゃあ今、私が苦労してるのって………過去の私が「どうせ男女の関係になることなんてない」なんてタカをくくってたのが原因………?

 そう思うと、なんか当時のセリフとか行動とかがすごく恥ずかしく思えて来た。頬が熱くなる、多分真っ赤になってるなこれ。

 二人の視線とセリフに耐えられず、卯月に助けを求めたが、卯月は苦笑いで目を逸らした後に、両手で握り拳を作った。

 

「だ、大丈夫だよ、凛ちゃん!これからだよ!」

「でもさ、ナルの好みにもよるんだろ?行動が。もし、ボディタッチの多い人が好き、とかだったら終わりだぜ」

「あー確かに。それか距離の近い人、とかね。もう凛とはそれくらいの距離慣れちゃってるかもしれないし」

「………あ、あははっ」

 

 …………なんか不安になって来た。あれ?大丈夫だよね?私の作戦うまく行くよね?

 

「………でもまぁ、何かあったら私達も協力するしさ、そんなに落ち込まないで、凛」

 

 加蓮が私の肩に手を置いたが、落ち込ませた人のセリフではない。

 

「はぁ………大丈夫かな」

 

 不安げなため息が漏れた。だよね、攻略対象はナルだもんね………。亜空の使者より面倒臭い人だもんね………。

 難しいこと考えてるのが顔に出ていたのか、卯月が話題を変えて来た。

 

「ちなみに、いつ告白するの?」

「まだ考えてないけど………」

「そういうのは決めた方が良いんじゃないかな?あまりに引きづり過ぎて、気付けば一年経ってました、なんて事にならないようにしないと」

 

 うーん………いや、でもそんなことにはならないと思うんだけど………。私、やる時はやる人だし。

 

「いや、凛は大事な所でチキりそうだよな」

「あー分かる。簡単に言うと『明日から頑張る』パターンの人だよね」

「うっ、うるさいな………」

 

 てかどう言う意味なのそれ。

 でも、確かにそういうのは決めないとダラダラと続きそうっていうのもあるし………。

 

「じゃあ、文化祭の日に告白するよ。それまでに、何とかナルの事を振り向かせてみせる」

「「「おお〜!」」」

 

 その宣言に、三人は嬉しそうに声援と拍手を送って来た。うん、やっぱり女は度胸だよね。頑張ろう。

 気合いを入れてると、加蓮がキョトンとした顔で聞いて来た。

 

「ちなみに文化祭っていつなの?」

「10月の中旬、だったかな……?」

「なんだ、まだまだじゃん………」

「いや、そうでもないよ、加蓮ちゃん。恋する乙女にとって、時間の経過は早く感じるものだよ」

「………見てる側としてはさっさとゴールして欲しいんだけどね……」

 

 とにかく決めた。その日までに、何とかナルを………せめて私を意識させる女の子、くらいに思わせてやる。

 

「じゃ、とりあえず四人のグループL○NE作ろう」

「良いね。なにかあったらいつでも相談して来いよ」

「うん、頑張ってね、凛ちゃん」

「………ありがと、加蓮、奈緒、卯月」

 

 私達の絆が強くなった気がした。

 

 


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