渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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行先不安この上ない。

 夏休みも気が付けば残りわずかとなりました。今年は去年と違って色んなことがあった。それは、やはり凛の存在が大きいだろう。一緒にゲーム実況したり、家に泊まったり、実家に帰ったり、祭りに行ったりプールに行ったりと色々なことがあった。

 そんな思い出がたっぷり詰まっているはずなのに、今の俺はそれらが一切頭に入らずにボンヤリしていた。凛が、初恋をした。それが頭から離れない。気になる。誰だ相手は。いや、それ以前にそいつの何処が良かったのか、そしてそいつと付き合えば、凛は俺と一緒にゲームは出来なくなる。しかも、それの応援までする事にしてしまった。応援なんて出来ないししたくもないのに。

 お陰で食欲も睡眠欲もゲーム欲も湧いてこない。なんだこの感じ。別に凛がどこの誰と付き合ったって構わんだろ。そもそも、俺が気にする事ではないはずだ。

 

「………はぁ」

 

 最近は随分とため息も増えた。ていうか、アレ以来、凛とも会ってない。まぁ、向こうが仕事だし、仕方ないんだけどね。予め予定を決めていたのであの出来事が無くてもこうなっていたのは分かっていたことだ。

 でも、なんか、こう………好きな人が出来たから距離置かれてる、と思ってしまうのは何でだろう。そう言うわけではないのはわかってるのに。俺って割とワガママな奴だったんだな。

 とにかく、このままでいるのは辛い。何とかして、この胸の痛みを何とかしたい。だけど、凛には相談出来ないしなぁ………。

 

「………二人しかいないか」

 

 とりあえず、二人のうちの一人に救援を求める事にした。

 電話をかけて一時間後、リンゴーンと呼び鈴の鳴る音が聞こえた。玄関の扉を開けると、さっき呼び出した奈緒が出て来た。

 

「奈緒。やっと来た………」

「やっとってお前な!こっちは鳴海と違って暇じゃないんだぞ⁉︎急に呼ばれて一時間で来れた事に………って、どうした?か、顔色悪いぞ………?」

「いや、少しね……。とにかく、上がって……」

「お、おう。お邪魔します………?」

 

 のそっと部屋の奥まで案内し、先に座っててもらって冷蔵庫を開けた。

 

「サイダーとミルクティーと麦茶とカフェオレ、どれが良い?」

「な、なんでそんなにたくさんあるんだ………?」

「普段、凛がうちに来た時に注文されるから」

「り、凛………」

 

 くっ、凛の名前を聞くだけで頭痛が………!

 サイダー、との返事をいただいたので、サイダーを二人分淹れて机の上に置いた。来客してるのでクーラーのスイッチを入れて、サイダーを一口飲んだ。

 

「で、何の用だよ?いきなり人を呼び出しておいて」

「………助けてくれる?」

「お、おう………。ほんとにどうした?何があったんだよ」

 

 最初は不機嫌そうにしていたのだが、なんか途中で割と本気で心配そうな顔になったな。

 

「なんか、顔色悪いし目が死んでるぞ。大丈夫か?」

「………大丈夫では、ないかも……」

「とにかく話してみろって。あたしも加蓮も卯月も、多分美嘉も協力するぞ?」

「………卯月と美嘉って……なんで?」

「何でもない、口が滑っただけだ」

 

 なるほど、その二人にも俺と渋谷さんの関係は筒抜けなのか。いや、まぁどうでも良いが。

 とりあえず、呼んだのに何も話さないのは失礼だ。悩んでいた事を打ち明けた。すると、奈緒は額に手を当てて盛大にため息をついた。

 

「………そっちだったかー」

「あ?」

「いや、何でもない。あたしにも頭痛が響いてるだけだ」

「………大丈夫?」

「大丈夫」

「ロキ○ニンあるけど」

「大丈夫」

 

 大丈夫なら良いけど。続きを話そう。

 

「お陰で最近は食欲も睡眠欲もゲーム欲も無くて………。ただ家で風呂と歯磨きとトイレだけして後はダラけてることが多くて………」

「…………はっ?」

「飲み物はたまに飲むんだけど……」

「何も食べてない?いつから?」

「最後に凛と会った日から」

 

 すると、グ〜っと情けない音がお腹から鳴った。直後、奈緒はキッと俺を睨んで机を叩きながら立ち上がった。

 

「このっ……バカ‼︎今、何か作ってやるから待ってろ!」

「いや、だから食欲が………」

「良いから食え!食わなきゃゲンコツするからな‼︎」

 

 すると、奈緒は立ち上がって冷蔵庫を開けた。台所から「うわっ、何にもない……!あ、ネギと天カスはあるけど……!って、米も無いじゃんか!」と慌てるような声が聞こえて来た。

 しばらくして、奈緒はお椀を持って戻って来た。

 

「………はい。うどんがあったからとりあえず作ったけど」

「………かたじけない」

「いつの人だよ」

 

 まぁ、せっかく作ってくれたものだ。食欲はないが、食べなきゃ勿体無いし申し訳ない。

 箸でうどんを摘み、啜った。うおお、美味い………。奈緒って料理出来るんだ。意外だ………。

 

「今、失礼な事を考えてただろ」

「えっ?そ、そんな事ないよ?」

 

 そんなに俺の表情って読まれやすいのかな………。凛にもよく読まれるし………。

 

「………何日ぶりの飯だろうか……」

「ったく、飯くらいちゃんと食えよ」

「うどんにしてくれて助かったよ。他のなら多分吐いてた」

「お前………」

 

 シンプルなたぬきうどんを食べ終え、ようやく一息ついた。

 で、とりあえず相談の答えを聞くことにした。

 

「………で、どうすれば良いんだろ。俺は死ぬのかな……」

「いや、死にはしないと思うぞ。ていうか、答えはもう出てるようなものだろ」

「出てるの?教えて」

「………本来、こういうのは鳴海自身が気付くことなんだろうけど……まぁ、お前はダメそうだから言うわ」

 

 おっと、急にダメの烙印を押されましたよ?どういう事なんですかね?

 

「鳴海は、凛の事が好きなんだよ」

「………はっ?」

 

 ………はっ?

 

「えっ、ええええっ⁉︎な、何を根拠に⁉︎」

「さっきの話が根拠だ。ていうか、なんで自覚が無いんだよ」

「い、いやいや!だって、あんなの俺の身勝手な独占欲をぶちまけただけだから!い、いや、そりゃその独占欲が、俺の胸を締め付けてるわけだが………!」

「無自覚か………。一周回って尊いな」

 

 な、なんだよその生暖かい目は………!

 

「極論だけどな、異性個人に対する独占欲=恋心、だからな?」

「極論過ぎるだろ!大体、俺が凛の事を好きになるわけないんだよ!」

「なんで」

「今までずっと、友達だって思うようにして来たんだから。なんか腕組んで来たり、プリクラを超至近距離で撮ったり、終いには家に泊まって生放送までしたりして、変に距離近いとも思ったけど、それは全部友達同士なら当たり前のことだと思うようにしてて………」

「いや、分かれよ。そんな友達いないだろ。いても同性同士だろ。異性なら恋人だろそれ」

「………友達も恋人もいた経験がないもので」

「…………なるほど」

 

 そ、そうか………。俺、凛の事が好きだったのか………。あれ、なんかそう考えるとすごく照れ臭いんだけど………。

 カァッと頬が熱くなるのを感じてその場で俯くと、奈緒が真顔で聞いて来た。

 

「………今更照れるなよ」

「………い、いや……照れて、ない、から……」

「だいぶ無理あるだろそれは」

 

 いや、でも……俺、ええ………。年下の女の子に?いや、アイドルだけど、年下の女の子に俺は恋心なんて抱いていたのか?凛は確かに可愛いし、ああ見えてノリも良くて負けず嫌いで、すぐに影響される子供っぽいところもある子だ。男が惚れない要素がない。

 ………でも、まさか俺もその一人になるなんてなぁ………。いや、待て。そういえば、凛って好きな人いるんだよな………?

 

「………失恋確定じゃん」

 

 尚更暗くなった。マジかよ、俺の初恋告白前に玉砕してるんですが。浮世はクソゲーか?

 目に見えて肩を落としていたのか、奈緒が焦った様子でフォローするように言った。

 

「いやいや、そうと決まったわけじゃないだろ」

「無理だって………。凛にはもう好きな人がいるんだから……」

「その好きな人がナルかもしれないだろ?」

「は?何言うてんの?ありえへんやろ。イジラレキャラってのはモテない宿命の上に成り立ってるんだから」

「お前なぁ………」

「だって奈緒はどう思う?クラスで毎日のように笑いのネタにされてる男。情けないしダサいし嫌でしょ」

「………まぁ、そうかもな。でも、鳴海はそれ以上に良い所たくさんあるだろ」

「っ、そ、そう………?」

 

 正面から女の子に褒められるのに今だに慣れてないので、思わず顔を赤くしてしまった。

 そんな俺の様子を見て、奈緒まで顔を赤くし始めた。

 

「………て、照れるなよ。あたしまで恥ずかしくなってくるだろ」

「ご、ごめん………」

 

 なんで謝ったのか自分でも分からなかった。なんか変な空気になって来たぞ………。

 奈緒もそれを悟ってか「と、とにかく!」と声を荒げつつ続けた。

 

「鳴海はいじられキャラ、なんていうマイナスがあったとしても、それを超えるプラス面がたくさんあるんだよ!だから、そこまで悲観するな!」

「………あれ、これ俺口説かれてる?」

「なっ………!な、ん、で!そうなるんだよ〜‼︎」

「いだだだだ!ごめんなさい冗談ですごめんなさい!」

 

 正面からこめかみをグリグリと攻められ、悲鳴を上げながら謝った。痛い……ていうか、それ食らったの中学以来だわ………。

 

「………ったく、凛にもそれくらいプラス思考になれっての」

「あ?何?」

「何でもない。とにかくだな、凛の初恋の相手はもしかしたら鳴海かもしれないんだから、今はそんなに気にするな」

「わ、分かったよ………」

「それに、もし初恋の相手が鳴海じゃなかったとしても、男なら自分に振り向かせるくらいの気でいろ」

「いや、それは悪いでしょ。凛自身にとってもその相手は初恋なんだから。それに、俺は凛の初恋に協力することになっちゃってるし……」

 

 ………恋敵と凛が付き合えるように協力するってどうなってんの?人生ついにバグったか?

 

「そんなの気にするな」

「えっ」

「鳴海にとっても初恋なんだろ?それに、凛がその初恋相手と付き合った時点で、もう鳴海と凛がゲームする事は無くなるんだ。それなら、失うものなんて何もない。たまには傲慢にもなれよ」

「っ………」

「ようは、凛に協力しつつも自分の事もアピールしろってことだ」

 

 な、なんか凄い事言われてる気がするんだけど………。協力しつつアピールって、ピーチ姫奪ったのに道中にパワーアップアイテム置いて行くクッパみたいな………。

 

「で、でも………」

「でももヘチマもない!あたしが鳴海に協力してやる、それならどうだ?」

 

 うぐっ、こ、こいつ………汚い手を。他人に協力なんてしてもらったら、こっちも本気を出すしかない。協力してもらってるのに手を抜くのは失礼だからな。

 

「わ、分かったよ………。頑張って凛を口説いてみれば良いんだろ?」

「そうだ」

 

 凛に協力するフリして邪魔してる気分で正直気が乗らないが、こっちも奈緒に協力してもらうんだ。手を抜くのは失礼だろう。こうなればどっちもやってやる。

 

「じゃあ、よろしく。奈緒」

「おう!…………どうしよう」

「え、今どうしようって言った?」

「………言ってない」

「いや、ハッキリ聞こえたよ。もしかしてノープラン?」

「…………」

 

 大丈夫なんだろうな………。幸先不安どころじゃないわ。

 

 


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