とりあえず相談だけしてもらって、明日からなんとかしようということになった。
で、何となく話したらスッキリした俺は完全に食欲が復活し、外に食べに行くことになった。料理する体力がないです。とりあえず、安く済むようにマ○クに来た。どうせ長居するつもりはないし。
ハンバーガーとナゲットとポテトのLサイズとスプライト………と、とにかく頼みまくった。腹ペコだったし。
とにかく全力でパクパクと食いまくってる時だ。後ろから首元を触られた。
「ひゃわっ⁉︎」
「ナール、何してるの?」
慌てて振り返ると、凛がにやけた顔で立っていた。
「り、凛⁉︎」
凛だと認識した直後、思わず驚いて椅子から転げ落ちてしまった。そんな俺を見るなり、凛は小さくため息をついた。
「………何してるの?」
「ご、ごめん……!」
「ほら、立って」
凛が手を差し出してくれた。その直後、何故か顔が真っ赤になるのを感じた。
「ーっ!」
「………何照れてるの?」
「てっ、照りぇてない!」
「いや、照れてるじゃん」
グッ……!な、なんでだ?今更、なんでこんな………!まさか、自覚したから照れてるってのか?今更?
「ナル?」
「っ、ご、ごめん。でも平気だから………!」
なんとか立ち上がって、椅子に座り直した。すると、何故か凛も向かいの席に座った。
「…………何?」
「一緒に食べようと思って」
「いや、そもそもなんでいるの?」
「ん、私もたまたまここに来ただけ」
しまった、仕事終わりに小腹が空いた時間と被ったか。いや、しまったってなんだ?好きな女の子とたまたま会えるなんて喜ばしい事じゃないか。
「………で、ナル」
「? 何?」
「良い機会だし、教えてよ」
「………ああ、男子の好みね」
………なんか思ったよりきついな。目の前の凛は、俺ではなく好きな人がいるんだ。いや、勿論奈緒の言う通り俺である可能性もゼロではない。だが、ゼロじゃないってだけだ。高くはない。
「………ナル?」
「あ、ああ、なんでもない」
心配そうに声をかけて来たので、とりあえず首を横に振った。
しかし、男の好み、か………。俺、普通の男子高校生と価値観が違うから役に立てるか分からないんだけどな………。
「………そう言われても、何についての好みだよ」
「んー……例えば、デートで行きたい場所とか?」
ああ、そういうね。まぁ、それくらいなら良いけど。
「でも、俺は男友達いないし、男子高校生の好みはわからないよ」
「ナルの好みで良いんだよ」
えっ、お、俺の好みで良いの?それ意味なくない?
「いや、俺の好みなんか教えても……」
「良いから。だってほら、ナルだって一応は男子高校生でしょ?ナルの好み=男子高校生になるじゃん」
「いや、まぁそう言われりゃそうなんだが………」
まぁ、仕方ないか。
「俺がデートで行きたい場所………ああ、俺なら」
「俺なら?」
「…………」
………あれ、言葉が出て来ない。俺なら割と動物が好きだから動物園とか水族館とかって言おうとしたんだけど、何?こう………好きな女の子に好みを知られるのが恥ずかしい。え、何これ。ウブか俺は。
「な、ナル………?」
「っ⁉︎えっ、な、何?」
「大丈夫?なんかボーッとしてたけど………」
「へ、平気だよ」
くっ、情けない……!しっかりしろ、俺。
「お、俺だったら……あ、アレかな………。ゆ、遊園地とか……?」
結局、一般論を言ってしまった。どうしよう、俺ジェットコースター無理なのに。
「ふーん、遊園地か」
「あ、ああ。ほ、ほら、男なんて自分が楽しむより女の子に良いところ見せるので必死だから」
「なるほどね……。じゃ、行こっか」
「…………はい?」
「遊園地」
「………ああ、その好きな人と?」
「そう、ナルと」
おい「そう」ってなんだよ。全然「そう」じゃないじゃん。それともマイティの方のこと?
「来週の日曜は空いてたよね?その日に行こう」
「………俺とで良いの?」
「良いの」
………あれ?これデートという奴か?いや、前から散々二人きりで遊びに行ったりしてるのに、何を今更恥ずかしがってるんだ俺。何を今更舞い上がってるんだ俺。
とりあえず、照れを誤魔化すためにポテトを一本摘んで口に運んだ。その途中、何のつもりか、凛はそのポテトを咥えた。
「あっ」
とっさの行動に驚いたのか、はたまた何となく照れてしまったのか、反射的に声を漏らした俺に、凛は若干照れてるのか、頬を染めながら目を逸らしてポテトをカリカリと口の中に吸い込んだ。
「………美味し」
「ーっ」
な、なんだよこいつ。何この可愛い生き物?もうそういう行動するのはやめろよ。好きになって行く分、なんか胸が痛くなるじゃんか。
ダメだ、多分顔真っ赤。心臓の動悸も自動小銃の如くマッハで動いている。こんなの凛に見られたらからかわれる。
「………あむっ」
それらを誤魔化すようにハンバーガーを貪った。
普段の倍速でハンバーガーを食べる。当然、そんなもん喉が受け付けるわけがない。
「うっ」
喉に詰まった。やばっ、息がっ……出来っ………!
「ッ………!」
「な、ナル⁉︎ちょっ、大丈夫⁉︎」
「えほっ、えほっ………!みっ、水ッ………!」
「スプライトならあるけど!」
もうそれで良いです。スプライトを受け取り、無理矢理流し込んでなんとか息を整えた。肩で息をしてると、凛が申し訳なさそうな顔で下から覗き込んで来た。
「………大丈夫?」
「っ………。へ、平気………」
「ご、ごめんね……?」
いや、なんで君が謝るんですか。あなたはポテトを差し出して来ただけで、僕は勝手にむせただけですけど。
「………」
「………」
………何この気まずい空気。どうしよう、とても耐えられる気がしない。吐きそうで泣きそう。
「あ、凛!」
「な、何?」
なんとかしようと思って声を掛けたけど、何を言えば良いのかわからない。あー、その、なんだ。えっと、良し。アレだ。
「ら、来週遊園地な!楽しみにしてるから!それじゃ!」
「あっ、ち、ちょっと………!」
結局、言い逃げだけして逃げてしまった。まだナゲットもポテトも残ってたんだけど………。なんにしても、味なんて分からなさそうだし別に良いや。
さて、とりあえず早速助けを呼ぶとしようかな。そう思って奈緒に電話しようとした時だ。
「な、ナル!待って………!」
「えっ」
凛が追いかけて来ていた。手元にはマ○クの袋が握られている。
「り、凛⁉︎」
「ど、どうしたの急にっ………?わ、私、そんなに悪い事……しちゃった………?」
俺の機嫌を伺うような感じで上目遣いで声をかけてくる凛。その様子に思わずドキッとしてしまった。
………ていうか、そこはマ○クに残ってくれれば良いのになんで追いかけて来ちゃうのかな。
「い、いやっ……そういうわけ、じゃあ………」
「なら、良いけど………」
クッ、照れてるんだよ。察しろ。だって凛可愛いんだもん。なんかもうこっちはいっぱいいっぱいなんだよ。
なんか恥ずかしくて凛に目が合わせられないでいると、グイッと紙袋を差し出して来た。
「はい、これ」
「? 何?これ」
「ナルの商品。店員さんにお願いして袋入れてもらったんだからね」
「………えっ?」
「ナル、食費とかキツイでしょ?来週、遊園地も行くんだし………」
「…………」
わざわざ、俺の為にそこまでしてくれたってのか?あれ、なんだろうこの感じ?これまでに無いほどに嬉しいんだが。いや、こんな事で一々喜ぶな、と思うかもしれないが、好きな女の子の自分に対する善意はどんな事でも嬉しいものだ。
「ぁっ……ありがと………」
小声でお礼を言いながら紙袋を受け取った。凛はそんな俺の反応に満足したのか、若干顔を赤くして微笑んだ。
「………ね、ナル」
「? 何?」
「私も、来週楽しみにしてるからね」
「………あ、ああ」
「じゃ、帰ろっか」
「………おお」
二人で帰ることにしたけど、その後も俺はまともな受け答えができなかった。
×××
「………と、いうわけで、遊園地に着て行く服を助けて下さい」
凛を自宅まで送り、今は奈緒に通話してお願いしていた。ていうか、とにかくお願いした。電話越しなのに頭を下げて。
電話の向こうからは呆れたような小さなため息が聞こえて来た。
『………なるほど、そういう感じな』
「何?」
『いやなんでもない』
しばらく間が空いた。おそらく、どうするか考えてるんだろう。
やがて、声が聞こえて来た。
『………分かった、協力するよ』
よし来た!
「助かる、ありがと」
『良いって。協力するって言ったし。いつにする?』
「来週の日曜までに行きたいから、その日までに奈緒が空いてる日があればそれで良いよ」
『分かった。じゃあスケジュール確認するから待ってて』
「おk」
ふむ、やはりアイドルは大変だな。俺ならスケジュール確認する必要なんかないし、何ならスケジュール自体が無いまである。
しかし、俺今更だけどこんなことして良いのかな。好きな女の子がいるのに別の女の子と出掛けようとするなんて。いや、でも好きな女の子を落とすためなんだからダメってことはないんだろうけど………。
しばらく待機してると、スマホから声が聞こえて来た。
『もしもし?』
「ああ、どう?」
『悪い、ちょっと凛から着信入ってたから、後で確認したらL○NEする』
ああ、確かに凛相手なら業務連絡かもしれないからな。
「分かった。じゃあまたね」
『おう』
そこで電話は切れた。さて、お金使うわけだから、少し銀行から下ろすか。今回ばかりはどんな高い服でもそれなりに金掛けないとな。
とりあえず、精神的に落ち着くためにスマブラをつけた。さて、やろうか、ゼロサム。
×××
土曜日。結局、前日になってしまったがこの際仕方ない。奈緒と待ち合わせをした場所である改札口前でスマホをいじっていた。最近はFGOとかいうゲームも面白いらしく、それの夏イベを全力で周回している。なんか最初に頼光とかいう人が出た。なんでこの人こんなおっぱいデカいの。
こんなキャラを使ってるところは絶対に凛には見せられないなぁ、なんて思いながら、頼光、マシュ、ロビンフッドの三人で暴れ回ってると、後ろから声が聞こえた。
「おーい、鳴海」
「?」
振り返ると、奈緒が手を振ってこっちに歩いて来ていた。………両隣に凛と加蓮を連れて。
「………あの、なんで?」
シンプルな疑問がボソッと漏れた。