遊園地に来た私は、早速ご立腹だった。だって、アレだけナルの好みが知りたくて、でも言っても分からないだろうから「とにかくナルの好みを教えて」って言ったのに、結局私に気を使って大して好きでもない場所に連れて来られた。
気を使ってくれるのは良いけど、もう少し素直に言葉を受け止めて欲しい。ていうか、一瞬でも良いから私がナルの事を好きな可能性も考慮して欲しいまである。
お説教した後は私の好きなようにする事にした。ナルを連れ回して、遊園地ならどんなアトラクションが好きなのか把握するために、とりあえず全部乗ることにした。
で、一つ目はアレ。バイキング。
「よし、まずはアレに乗ろうか」
「………えっ、なんで?」
サァーッとナルの顔色が青くなった。ああ、やっぱこういうのもダメなんだ。まぁ乗せるけどね。
「面白そうじゃん」
「待て待て、冷静になってみよう。このアトラクションはどう見ても不毛な前後運動だろ。座席付きの船に乗せられて180度グワングワンと前後に揺らされるだけだ。こんなのの何が楽しい?これなら公園のブランコと変わらないだろ」
「いや変わるから。ブランコの可動範囲180度もないでしょ」
そんなことしたら大怪我するよ。絶対やめてね。
「ていうか無理!ジェットコースターの後にこれはしんどい!」
「ダメ。今なら空いてるし行くよ」
「待って待ってお願いだからマジで待って!」
引きずった。
大体5分後くらい、アトラクション二つ目にして満身創痍のナルの手を引いて、私は前を歩いた。
「いやー、すごかったね!」
「うっ……あの浮遊感、気持ち悪っ………」
「ちょっと吐かないでよ。介抱するの大変なんだから」
流石に途中で捨てたりはしない。それに、弱ってるナルもこれはこれで可愛い気がする。普段は私が先に寝落ちしてお世話してもらってるから、たまにはこちらがお世話するのも悪くない。
「何か飲む?」
「………今何か口に入れたら吐く」
「じゃ、次のアトラクション行こうか」
「待て待て少しは休憩ってもんをだな!」
「せっかくナルと遊んでるのにそんな勿体無い時間はないから」
「いやいや!適度な休憩も必要だから……!」
「あ、次はアレにしようか」
私の指差す先にあるのは空中ブランコだった。
「待て待て待て!流石に三連コンボは無いだろ!」
「いつも私にスマブラで三連どころじゃないコンボ決めてる癖に」
「いやそれとこれとは話が」
「いいから。嘘つきに拒否権はないの」
「そ、それを言われると確かにそうなんだが………!」
じゃ、決まりだね。私はナルと空中ブランコに向かった。
×××
空中ブランコの後もいろんな絶叫系アトラクションに乗りまくり、午前中は最後のアトラクションにする事にした。
………これから乗るヤバいアトラクションにしたらナル死んじゃいそうだな。流石に可哀想なので、お昼前くらいは優しいのにしてあげよう。
「最後は何に乗ろうか?」
「………どうせ俺の意見聞く気ないでしょ……」
「いや、お昼前だし流石にね」
「……スローテンポのならなんでも良いわ」
「うーん……じゃあ……」
どうしようかな。近くにある奴で良いや。そう思って地図を見ると、一番近くにメリーゴーランドがあった。
………良いかもしれない。こう、あれなら二人で距離も近くで乗れるしスローペースだし。いや、別に下心はないけど。ないと思うけど。
「じゃ、メリーゴーランドで良い?」
「ああ、助かる………」
「よし決まり」
ナルを支えるために、さりげなく腕を組んで歩き始めた。それだけでも私の内心はドキドキ言ってるのだが、ナルは満身創痍でそれどころじゃないようでフラフラ歩いてる。
少しはこっちを意識して欲しいと思ったのだが、そもそも満身創痍にしたのは私なので我慢した。
メリーゴーランドに到着し、並ぶ事なく乗ることができた。周りが小さい子ばかりで少し恥ずかしいけど、ナルのために我慢した。決して自分のためではない。
「さ、乗ろう」
「了解……」
馬に乗った。二人で一匹の。せっかくなので私が前に乗り、後ろからナルが抱える形で乗ってもらった。
………なんか、お姫様になった気分だな。馬に乗って好きな男の子に抱えてもらって動いている。女の子的には憧れのシチュエーションで、とても心地良い。
なんかとても恥ずかしいことを考えてる気がするけど、別に今日くらい良いよね。ゆっくりと後ろのナルの胸に寄りかかった。
「………り、凛……?」
「………いいじゃん、メリーゴーランドにせっかく二人で乗ってるんだし」
「いやそういうんじゃなくて……今、体重かけられると、その……支えきれる自信無いんだが………」
「…………」
台無しどころの騒ぎじゃない。まぁ、私が引っ張り回したからなんだけどね。
でもなんか、変に緊張するのがバカバカしくなって来た。ナルに体重かけるのをやめて、終了時間までのんびりと待つ事にした。
すると、なんか後ろのナルからやけに呼吸してる音が聞こえた。スーハースーハーというより、クンクンという感じで。
「? 何?」
気になって聞くと、ビクッとしたのが前に座ってても分かった。
「………何?」
「な、何でもない」
「何っ?」
濁したということはやましい事という事だ。流石に後ろの席に座ってセクハラは嫌なんだけど………。いや、ナルにだったら別に……。
そんな私の思考はナルの説明で遮られた。
「………その、凛の後ろにいると……何?シャンプーの香りがすごくて……」
「っ⁉︎なっ、何いきなり言ってんの⁉︎」
「それで、その……なるべく嗅がないようにしてたんだけど………」
「………バーカ、ヘンタイ」
「…………」
よし、とりあえず決めた。家帰ったら、今使ってるシャンプー一箱買おう。
メリーゴーランドが終わり、私とナルはアトラクションから離れてお昼にする事にした。
×××
お昼が終わってからナルは完全復活し、その後はあまり絶叫系は避けてアトラクションを選んだ。コーヒーカップでは死にかけてたけど。
さて、次は何に乗ろうかな、と、思ったとこでナルが地図をジッと見てるのに気づいた。
「どうかした?」
「いや、なんでもないよ」
聞いてみると、ナルは地図をたたんで返事を濁した。行きたいところでもあったのかな。たまにはナルの行きたいところでも良いかな。元々、ナルの好みを知るために来てるわけだし。
「何か行きたい場所あるから行くよ?」
「いや、いいよ」
断られた。どうやら、さっきの説教はまるで聞いてなかったようだ。
「あのさ、だから私はナルの好みを知りたいの。ナルが乗りたいものがあるなら遠慮なく言って」
「………本当に良いの?」
「良いよ」
「じゃあ、これ」
ナルが指差したのはお化け屋敷だった。乗り物じゃなくて自分で歩くタイプの。
「………は?」
思わずガチトーンで返すと、ナルはビクッと肩を震わせた。何、ナルってこういうの好きだったっけ?
ナルの顔を見上げると、何か企んでる顔をしていた。いや、企んでる癖に申し訳なさそうな顔だ。多分、私がビビってる姿が見たいんだろう。
ここは退かずに挑んで、その上で乗り越えるべきだろう。
「良いよ、行こう」
「へっ?だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だから。良いから行こう」
大体、私別にお化けとか効かないし。怖いって何?ほわっつ?誰か教えてくれない?私に怖いっていう感情を。
「じゃあ、行こうか」
歩き始めるナルの腕を私は掴んだ。
「待って、歩くの早いから」
「いや歩き出しで早いも何もないでしょ………」
「いいから」
深呼吸してから、ナルと腕を組んで歩き始めた。
ここのお化け屋敷は割と怖いと有名らしく、加蓮と奈緒の情報によれば、奈緒を100万回泣かしたらしい。絶対盛ってる。
まぁ、こんなこともあろうかと遊園地について下調べはしてあるし、どのタイミングで出て来るお化けが怖いかとかは抑えてあるから、少なくともおねしょをするようなことにはならないはずだ。ていうか、そんなことになったら自殺する。
とにかく、深呼吸しよう。大丈夫、お化けは私を殺すどころか怪我でも起きたら遊園地の責任になるんだから、そんな危ないことはしないはずだ。だから落ち着いてって言ってるのに心臓の貧乏ゆすりが治らない。
「………あの、凛?心臓の鼓動が腕まで伝って来てるけど……やめる?」
「やめない!」
「そ、そう?」
そんな話をしてる間に、お化け屋敷に到着した。並んでる人はムカつくくらい少ない。ジェットコースターとかの時はバカみたいに並んでた癖に………!
私達の番になり、スタッフさんの「いってらっしゃーい」と共に中に入った。
「………暗いなぁ」
「へっ、へー?今更怖気ついたの?」
「いやいや、雰囲気あるなって思って。それより、凛は本当大丈夫?腰が怖気付いてるけど」
「大丈夫だから」
とりあえず、無言で全力でナルの右腕にしがみつきながら歩いた。ナルもそこまで余裕があるわけではないのか、少しいつもより歩くペースが遅かった。
歩き始めて30秒ほど経過したあたりだろうか。ガタンっと音が聞こえた。それに合わせて、私もナルも肩を震わせた。
「っ………な、何?」
「……最初の幽霊じゃない?」
「幽霊って言わないで、お化けって言って」
「えっ、なんで」
「お化けの方がなんか可愛いから」
もうその辺から気をつけてほしい。いや別にビビってるわけじゃないけど。
その直後だった。ガタンっという音はやがてガタガタという連続性のある音に変わった。それが私達の左斜め前の窓から鳴り響いている。反射的に私はナルの後ろに回り込んで隠れた。
「………なんで俺を盾にしてんだよ」
「隠れてあげてるんだから我慢して」
「お前今すごいこと言ったな」
そう言ってる間に、窓の震えは大きくなって行く。そして、窓から盛大にお化けみたいなのが飛び出て来た。
「ーーーーーーッ⁉︎」
「うおっ⁉︎おおっ⁉︎」
声にもならない悲鳴をあげながらナルの腰にしがみついて走った。当然、ナルも押される形で走る。周りから見たらすごい絵だったかもしれないけど、私にそんな余裕はなかった。
全力疾走する私に押されながら、ナルが聞いてきた。
「ちょっ、凛待て待て待て待って!腰が死ぬ!腰が死ぬから落ち着け!」
「無理無理無理無理!落ち着くとかそんなの無理だから!」
「凛お姉ちゃんパンツ丸見え‼︎」
「うえっ⁉︎」
唐突にそんなことを言われ、思わず足を止めて下半身を確認した。そういえば、今日ミニスカートだった。走るだけでパンツ見えることあんの⁉︎
と思って下半身を確認したが、丸見えなわけがなかった。恨みがましい目でナルを睨むと、ナルは目を逸らしながら頬を掻いた。
「ご、ごめんごめん………。腰があまりにも痛くてあのまま走ってたら死んでたから………」
「………あとで絶叫系乗るから」
「………すみませんでした」
とりあえず、そのままゴールした。
×××
いよいよ、最後の乗り物に乗った。観覧車である。二人で個室に入り、ガタンと揺れて動き始めた。
結局、あの後にフリーフォールに乗って、ナルのライフを再びゼロにしてしまった。考えてみれば、ナルにとってはとんでもない日にしてしまったかもしれない。小さい事で理不尽に腹を立てて、ナルをボロボロになるまでに連れ回してしまった。
「ナル」
「? 何?」
「………ごめんね」
「え、なにが?」
申し訳なくて謝ると、ナルからは惚けた返事が返って着た。
「………その、無理矢理連れ回しちゃって」
「あ、いや大丈夫だよ、別に。元々は俺が悪いんだし」
「……そう、だけど」
「凛が気にすることじゃないよ」
そう言うも、やはり気にしてしまう。ナルは今日、楽しかったのだろうか。私は楽しかったけど、やはりデートはお互いに楽しめないとダメだ。
少しやり過ぎた、と思ってショボンとしてると、ナルがわざとおちゃらけたような口調で言った。
「それに、お化け屋敷に入った時の屁っ放り腰の凛が見れて楽しかっわひゃあ⁉︎」
「余計な事は思い出さなくて良いの」
反射的に脇腹を突いた。その時のことは蒸し返して欲しくない。いや、別にあれくらい全然怖くなかったけどね。
………ていうか、今のって慰められたのかな。こういう、ナルのさりげない気遣いが、私は本当に好きだ。まぁ、こんな事本人には絶対に言えないけど。
でも、それに近いことは本人にはいつか言わなければならない。そう思うと、何となく照れ臭くなって、赤くなったであろう顔を隠すように窓の外を見た。
「わぁ………」
直後、感嘆の息が漏れた。いつのまにか街全体が見渡せる高さにまで上がっていたようだ。街全体を夕日が照らし出していて、幻想的とも言える風景が広がっていた。
「………綺麗」
「………ほんと、綺麗だな」
ふと呟くと、隣のナルからそんな言葉が漏れた。「ナルもそう思う?」と聞こうと思って横を見ると、ナルは私の顔を見ていた。ガッツリ目が合い、お互いに頬を赤く染めて慌てて窓の外の風景に目を逸らした。
………えっ?今のって……私に言ってたの………?嘘、ナルが……私に?えっ、ヤバい。だとしたら嬉しい以上に恥ずかしくて嬉しい。あれなんかうまく言葉にできない。とにかく、こう……心臓がやばい。
自分で言ったくせに、ナルはナルで赤くなった顔を隠すように私から目をそらしている。からかってやりたいが、私も顔が真っ赤なので何も言えない。
その直後だった。ガタンっと観覧車が揺れた。突然の出来事に、私とナルは体勢を崩し、明日に座り込んだナルの上に私は倒れ込んだ。
残り距離はミリ単位、それ程の距離間にある私とナルの口だった。当然、二人揃って顔が真っ赤に染まる。このままキスしようかと迷ったほどだ。
『乗車中のお客様にお知らせ申し上げます。ただいま、機器のトラブルにより、一時アトラクションを停止させていただいております。誠に申し訳ございません』
そんなアナウンスが流れてきた。なんというタイミングで故障するのか。何となく離れるのが名残惜しく、そのままの距離を保って、ただナルと見つめ合った。
………これは、もはや告白するチャンスなのでは?確か、加蓮にそんなことを言われた気がする。もしかして、ナルって私の事を……?
そう思った直後、私はナルからゆっくり離れた。予定とは違うけど、このチャンスは逃せない。小さく深呼吸してからナルに声をかけた。
「………ねぇ、ナル」
「なっ……なんでしょうかっ……」
「…………」
なぜか敬語だったが、気にしなかった。それより、告白する。
告白すると決めたのに、頭は勝手に別のことを考え始めていた。
「………実は、さ……。その、私………」
今ここで勢いで告白して振られたらどうなる?
「私、その……ま、前から………」
振られたら、多分もう一緒にゲームはできない。いや、それどころか話すこともなくなるだろう。
「私………な、ナルと……!」
今まで楽しかったナルとの思い出、それらが嫌な思い出になってしまうかもしれない。
「……………」
「……………」
そんな事に、そんな事になるくらいなら、告白なんて………。
そう思った時には、私にあった勢いは全て消滅していた。
「………か、帰ったら、ゲームがしたい、です………」
「………………」
自分でもわけがわからない文を言った気がした。
「好きにして下さい」
「………畜生」
なんだかんだ言い訳を並べたけど、結局ヘタレて告白出来なかっただけだ、と今になってドッと自覚した。
余りにも自分が情けなくなり、その後はずっと発声することすら出来なかった。
夏休み終わりです。次から二学期