渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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文化祭をクラス全員で作り上げたと思ってるのは周りを見ることの出来ないリア充だけ。
もはや通い妻。


 夏休みも終わり、二学期に突入した。一人暮らしさせてもらってる身の俺は、夏休みボケなどすることも無く、ちゃんと朝に目を覚ました。

 一人でボケーっとしながら着替えて朝飯を作って食べ始めた。最近、凛と会ってない。まぁ、凛が仕事だからなんだけどね。ていうか、こう……最近は凛の事を考えると、この前の遊園地での出来事が浮かぶ。あの告白の直前みたいな凛。アレは俺をからかう為の行動だったのだろうか。

 それにしては凛もかなり動揺してるように見えたし………。もしかして、本当に告白をしようとしてヘタれたのか?いや、そんなはずないのは俺が一番わかってる。あの凛が俺に告白するわけないし、万が一するとしても、凛がヘタれるような事はないだろう。

 そんな事を考えながら、もっさもっさと咀嚼してるとリンゴーンと呼び鈴の音がした。何だ、誰だ?こんな朝早くに。朝飯の途中なんだが、まぁお客さん優先だよな。宗教か新聞ならさっさと追い返そう。

 玄関を開くと、凛が微笑みながら手を振っていた。

 

「おはよ、ナル……ナル⁉︎何で閉めるの⁉︎」

 

 反射的にドアを閉めてしまった。え、何?何してんのこの人?てか何でここにいんの?

 

「ナル、開けないとビンタするよ」

 

 怖い声が聞こえてきたので、とりあえず開けることにした。

 

「………何、どうしたの?」

「ん、一緒に学校行こうと思って」

「……凛の家から学校と俺の家って正反対だよね。わざわざ来たの?」

「………迷惑だった?」

「い、いやそういうんじゃなくて!た、たっ……ただちょっとびっくりしただけで………!」

「そう?じゃ、行こうよ」

「いや、俺まだ朝飯食ってて………」

「じゃ、中で待ってるから」

 

 そう言うと、凛はサクサクとうちに上がった。仕方なく俺も玄関を閉めて引き返した。

 畜生、なんだこれ。精神的にキツイんだけど。心臓の動悸が治まらない。余裕を持って起きてるから時間は問題ないんだけど、俺自身の余裕が………あれ?俺でさえ余裕を持ってるのに、凛はその俺の家にわざわざ来てるんだよな?てことは、間違いなく俺より早く起きてるわけだ。………まさか、俺に会うためにわざわざ早く起きて来たのか?

 そう思った直後、ぐぅっと可愛らしい音が聞こえた。俺の腹からではない。となると、この部屋には俺以外に一人しかいない。

 ふと凛を見ると、顔を赤くして俯いていた。

 

「………凛、朝飯抜いて来たの?」

「…………うっさい」

 

 そこまでしてうちまで来ることないのに。

 

「前に俺に朝飯はちゃんと食えって言ったの凛だろ」

「………覚えてるの?そんな話」

「忘れるわけないじゃん」

 

 凛との会話だし。まぁ、流石に今から新たに飯を作る時間はない。昼飯にする予定だったおかずを皿に盛り付けた。

 その皿と味噌汁、箸、それとお茶を淹れて机に運んだ。

 

「はい、凛」

「………へっ?」

「食べて良いよ」

「えっ、でも………」

「いいから。朝飯多く作り過ぎちゃったし、ちょうど良かったよ」

「………ありがと」

 

 控えめにお礼を言って、凛は朝飯を食べ始めた。なんかこうして二人で朝飯食うのは久々な気がする。最近は生放送終わった後は凛帰っちゃうし。

 とりあえず、黙々と飯を食った。まぁ、飯と言ってもウィンナーとキャベツとじゃがいもテキトーに炒めた奴と味噌汁と白米だけだが。

 

「美味しい……」

 

 それでも、凛はとても幸せそうな表情で俺の作った飯を食べていた。うーん、そんなに力入れて作ったもんじゃないんだけどな。そこまで美味しそうに食べられると流石に照れる。

 

「それで、どうしたの?凛」

「何が?」

「いや、何でわざわざうちに来たのかなって」

 

 何か用事があったのかな。それにしてはのんびりしてるが。

 俺の問いに対して、凛はキョトンとした表情で小首を傾げた。

 

「一緒に学校行きたかっただけだけど?」

「えっ、でも道真逆でしょ?わざわざうちまで?」

「うん」

 

 何食わぬ顔でウィンナーを箸で摘んで口に運びながら頷いた。たまに凛ってよくわかんないな………。

 

「迷惑じゃなければ、これから毎日一緒が良いんだけど………」

「ま、毎日………?」

「迷惑だったら、やめるよ」

 

 頬を赤らめながら、俺の顔色を伺うような上目遣いで言ってきた。いや、こっちが迷惑ってことはないけど………。

 でも、毎日来てもらうのは申し訳ないな。

 

「迷惑って事はないけど申し訳ないから。明日からは俺が凛の家まで行くよ」

「………ほんとに?」

「ほんとに」

 

 まぁ、俺も凛と1秒でも長くいたい、というのもあるし。まぁ、そんな事は口が裂けても言えないけど。

 

「じゃあ、明日からはうちに来てね」

「ああ。大体、8時前くらいに行ってL○NEするから」

「分かった」

 

 そんな話をしながら、飯を食い終わった。凛も同じタイミングで食べ終わったようで、小さく「ご馳走様」と挨拶した。

 凛と自分の食器を流しに出した。で、二人で歯磨きをして家を出た。色々と戸惑ったがポジティブに考えよう。朝から好きな女の子と登校してるんだ。良い朝だ。

 

 ×××

 

「……ル、ナル!おきて!」

「んあっ………?」

 

 身体を揺さぶられて顔を上げると、黒い髪の女の子が立っていた。あれ、俺寝てたか………?確か、始業式の後に文化祭の実行委員と出し物だけ決めてて………。それで寝ちまったのか。

 ………教室に誰もいないんだけど。これみんな帰ったってこと?誰も起こしてくれなかったってこと?何それ死ねる。いや、でも俺のことを起こしてくれた子がいるじゃないか。

 そう思って、とりあえず体を起こして伸びをした。

 

「んーっ………ありがと、起こしてくれて……」

 

 お礼を言いながら隣を見ると、凛が少し不機嫌そうな顔で立っていた。

 

「………あれ……りん………?」

「起きなよ、もうみんないないよ」

 

 なんで凛がいんの?

 そんな疑問が顔に出てたのか、凛は不機嫌そうな顔のまま答えた。

 

「一緒に帰ろうと思って待ってたの。いつまでも昇降口で待ってても来ないから探しに来たら寝てるんだもん」

 

 それは悪い事したな。いや、約束してたわけじゃないんだけどな。

 

「悪かったよ」

「大体、寝てて良いの?文化祭の奴決めてたんじゃないの?」

「俺、クラスに友達いないから関係ないし」

「………これからはもっと遊びに行こうね」

「哀れむなよ」

 

 別に俺にはもう凛がいるから良いし。

 

「じゃ、帰るか」

「うん」

 

 そう言って、ふと黒板を見た。未だに黒板に文化祭の予定の文字が書かれていた。

 文化祭実行委員は結局決まってないらしく空白だが、出し物は決まっていた。

 

 出し物:ダンス

 

 ふーん、ダンスか。アイドルの真似事をしたがる女子の所為かな?なんにせよ、俺に出番はなさそうだ。

 

「へぇー、ナルのクラスはダンスやるんだ」

 

 凛も黒板の文字に気付いたのか、呟くように言った。

 

「それな。まぁ、どうせ俺には無縁の行事になるだろうし何でも良いけど」

「どうするの?そんなこと言ってて女装とかさせられたら」

「クラスの連中は俺に興味なんてないからなぁ。今日だってみんな俺を置いて帰るくらいだし」

「じゃ、文化祭の日は私と一緒に回れる?」

「凛はそれで良いのか?奈緒とか加蓮も来るんだろ?」

「ナルとが良いの」

 

 うっ、だからそれはどういう意味なんだよ………。毎度毎度、人をドキドキさせること言いやがって。

 ………たまにはこっちからそういうこと言ってみようかな。少し頬を赤く染めながら、ボソッと言い返してみた。

 

「俺だって、凛と一緒が良いし………」

「………照れながら言っても意味ないからね?」

「………うるせ」

 

 凛は額に手を当てて呆れたように言い返した。当然の返しである。やっぱそういうのはキャラじゃない。

 自分の言動が恥ずかしくなり、両手で顔を抑えながら凛を見上げると、額から手を離していない。ていうかこれ、顔を隠してる?

 何となく気になって、立ち上がって凛の髪をかきあげて耳を見ると、真っ赤になっていた。

 

「凛、耳が赤くなってるけど」

「ーっ!」

「ひゃうっ⁉︎」

 

 突然、正面から腹に突きを入れられた。相変わらず変な悲鳴だな俺………。

 

「な、何しやがんだよ!」

「うっさい!それより、早く帰ろう!」

「お、おう………?」

 

 怒られたので帰り始めた。

 二人で昇降口を出て、のんびりと帰路を歩く。しかし、ダンスか。まぁ、定番なのはアイドルとかだろうなぁ。俺はあまりそういうのは得意ではないから、正直何でも良いけど。流石にコスプレはしないよね。

 

「あ、そういえば凛のクラスは何やんの?文化祭」

 

 聞くと、凛は黙り込んだ。え、そんなに言いたくないことなの?

 

「………聞きたい?」

「うん。俺行くから」

「まぁ良いけど。私のクラスはメイド喫茶」

 

 おい、マジかおい。てことは何?俺、凛のメイド姿見れるって事?何それ最高かよ。

 

「絶対行くわ」

「………スケベ」

「いやいや、もちろん凛のメイド服姿を見に行くの」

 

 直後、凛から冷たいオーラが醸し出された気がした。それと共に、自分の失言を自覚した。あ、これは凛に殺されるかもしれない、そう軽く覚悟を決めた時だ。

 凛の口からボソッと何か聞こえて来た。

 

「…………なの」

「えっ?」

 

 聞き返すと、凛は真っ赤な顔をして怒った顔で俺の胸ぐらを掴んでガクガクと振ってきた。

 

「私は執事なの!アイドルの私をメイドにしたら私への指名が100%になるとかで、席にはつかないで客を案内する執事役をやる事になったの!」

「ちょっ、死っ、やめっ」

「だったら裏方で良いじゃん!なんでわざわざ私を無理矢理使おうとするかな!ああもうっ、腹立つ!」

 

 最後の「腹立つ!」で凛は俺から手を離した。ケホッケホッと咳してると、凛は今度は恥ずかしがってるように頬を染めた。忙しい奴だな、怒ったり照れたり。

 

「………せっかく、メイド服着てナルに褒めてもらえると思ったのに」

「えっ………お、俺に褒めて欲しかったの?」

「………他の奴に褒めてもらったって意味ないし」

 

 だからそれはどういう意味なんだっつーの………。頼むから意味深なこと言うのはやめてくれ。

 若干、涙目にすらなってる凛は、それはそれで可愛らしかったが、俺にドS趣味はない。慰めることにした。

 

「ま、まぁ、執事は執事で良いんじゃないの?」

「………なんでよ」

「男装女子ってのは、それはそれで魅力があるものだよ」

「……………」

 

 すると、凛は突然黙り込んだ。で、俺の顔を下から覗き込むような上目遣いで、ボソッと呟いたような口調で聞いて来た。

 

「………それは、ナルの意見?」

「まぁね。特に男装ってポニテと合いそうだし、凛なら尚更似合うんじゃないかな」

「……………」

 

 すると、凛は突然俯いた。多分、顔を赤くしてる。耳赤くなってるし。

 しばらくそのまま停止したので、俺もとりあえずそのまま待つ事にした。やがて、突然何か思い付いたのか、顔を上げて聞いて来た。

 

「………財布持って来てる?」

「あるけど」

「お昼ご飯食べに行こう」

「へ?お、おう?」

 

 突然、上機嫌になった凛は、鼻歌を歌いながら俺の手を取って走り出した。まったく、女心ってもんは分からないわ。

 

 


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