渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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言い忘れましたが、多分最終章です。


楽しく感じられるのは最初だけ。

 学校が始まり、早一週間が経過した。それに連れて何の曲を歌うかとか誰が踊るのかとか決まっていった。

 とりあえず、踊るのはクラス全員を三つに分ける事になりました。つまり、三曲踊るという事だ。まぁ、講堂を三日間ある文化祭のうちの一日の10分間だけ使えるという事なので、アニメのオープニングよろしく曲は短縮されている。

 で、ここからが大事。うちのクラスの連中は何の曲を踊るのか。二言で言えば、トライアドプリムスの曲だった。

 いや、うちのクラスの連中、本気で頭膿んでるだろ。うちの学校に本職の方がいらっしゃるのに何をもってしてその曲をチョイスしたのか。本職っていうか本人だよね。

 唯一の救いは、俺は実行委員に選出されている事だった。簡単に言えば、参加してる暇ありません。なんか男子は女装するらしいし、凛に醜態を晒さずに済んだ。

 今日はその実行委員の一日目だ。とりあえず今日は顔合わせだけらしいので、話は要点だけ押さえて聞き流した。

 文化祭は10月7〜9日の三日間。三日間とも休日なので、その後に振り休が三日入る。うちの学校の教員バカだろ絶対。

 で、役割は受付。ご来場されてる方達にテントの下で座ってパンフを配るだけ。しかも昼を過ぎれば最早することはない。途中で休憩も挟めるしな。どうやら文化祭でも、俺は暇人を極め尽くしてるらしい。

 それだけ決めて、第一回はお開きになった。こういう真面目な場は緊張するな………。年寄り臭く肩を揉みながら教室を出ると、凛が待ってた。

 

「先に帰ってて良かったのに」

「ううん、せっかく仕事オフなのに一人で帰っても楽しくないじゃん」

 

 いや、にしても今の話し合い1時間くらいあったぞ。最近、なんかいつも凛と一緒にいる気がする。

 いや、前もそうだったんだけど、最近のは、こう……なんか、なんか違う気がする。

 

「ナル、ゲーセン寄って行かない?」

「あ、ああ。良いよ、またマリカーで完封してやるよ」

「いや、今日は負けないから」

 

 まぁ、最近は少しは凛も上手くなって来たからな。負けることはなさそうだけど。

 二人でゲーセンで入った。

 

 ×××

 

 次の実行委員会から、文化祭の準備は加速した。まぁー忙しいよね。考えてみりゃ、受付役だからって受付しかしないわけがない。

 受付までに俺がやる事は基本的な雑務だった。下働き、といえば聞こえは良いかもしれない。とにかく、雑用をこなしていた。帰宅時間はいつも遅くなるが、まぁ家で使う電気代が減ると思えば腹も立たないし、なんならラッキーなまである。

 それに、文化祭が楽しいという奴の気持ちがわかる程度には、俺も少し楽しさが分かって来ていた。こうして夜遅くまで残って作業する、というのは残業の勉強みたいで楽しい。友達がいればもっと楽しかったんだろうなぁ。その点、凛が実行委員ではないのは少し悔やまれる。

 そんな絶好調な俺なわけだが、一つだけ悩みがある。

 

「ナル」

 

 今、仕事中の俺に声をかけて来た凛だ。最近、驚く程俺と一緒にいる気がする。昼休みの時まで昼飯に誘ってくるし。

 別に全然良いんだけど、なんかこう………どうしたの?って感じ。これはまるで俺を見て男子高校生の好みを知りたがってる、というより俺の好みを知りたがってるみたいだ。

 

「はいこれ、クラスの出し物まとめた奴」

 

 書類を一枚差し出して来た。これには出し物の内容の詳細と使う物などが書かれてる。

 

「サンキュ、あとで渡しとくわ」

 

 本来なら、これで凛はここに用はないはずなのだ。だが、何故か凛は俺の隣の空いてる椅子に座った。

 

「忙しそうだね、手伝おうか?」

「いや、いいよ。俺の仕事だし」

「ふーん、じゃあここにいてあげる」

 

 最初からいるつもりだった癖になぁ………。いや、まぁ別に良いんだけどね。

 

「今は何してるの?」

 

 それも分からずに手伝うとか言ってたのか。

 

「門を作る費用の計算」

 

 まぁ、大体学校にあるもので作れるからあんま金は掛からないんだけどな。さっきから電卓をカチカチと叩いている。

 

「ていうか、凛はクラスの方は良いのか?」

「私の衣装は真っ先に測ってもらったから。私が仕事しようとしても男子が『私がやるよ』って言って代わってくれちゃうんだもん」

 

 なるほど、色んな男から凛は狙われてるわけか。………凛に触れようものなら八つ裂きにしてやる。

 

「特に、最近は『よく一緒にいる先輩は彼氏なん?』ってしつこくて……」

 

 ちぇっ、俺の所為か。

 

「すまん……」

「ホントだよ。これは責任取ってもらうしかないかもね」

「っ、せ、責任……?」

「なんてね、冗談だよ」

 

 ………だからそういう心臓に悪い冗談はやめてくれ。思わずどう告白しようか考えちゃうだろうが。

 と、まぁこんな感じで凛は最近、甲斐甲斐しく、と表現したくなるほどに凛は俺の周りに寄ってくる。好きな女の子に寄って来てもらえてるので、正直言って嬉しいなんてものではないが、それでも少し違和感がある。

 凛は、何を思って俺の近くに寄って来るのか。それがどうにもわからない。いや、結論は一応は出ているが、その結論に自信はない。

 

「………はぁ」

「? ナル、どうかした?なんか疲れてるみたいだけど………」

 

 お前の所為で悩まされてんだよ。何より、俺の予測が外れていたら、やはり凛は俺を好きな男子の代わりに見立てているって事だ。

 凛に協力すると言ったとはいえ、やっぱり結構精神的にキツいものがある。

 

「私で良ければ話聞くよ」

「いや、大丈夫。慣れない残業で疲れて来てるだけだから」

「じゃあ、帰ったらマッサージしてあげよっか?」

「いいよ。精神的な疲れだし、凛がいてくれればそれで良いよ」

 

 まぁ、凛といると心臓が落ち着かないが。

 すると、隣から俺の脇腹をドスッと突いてきた。お陰で手元の電卓のCボタンを押してしまった。

 

「ふぁひゃっああああ⁉︎お、おまっ、何してくれてんだよオイ⁉︎」

「ひ、人の気も知らずにそういうこと言うの禁止!」

 

 ………確かに、なんか今の告白っぽいな。今更恥ずかしいこと言ったと思って、俺は顔を真っ赤にして俯いた。

 

「………そうだよね、凛好きな人いるんだもんな」

「………そういう事じゃないんだけど」

「えっ?」

「何でもない」

 

 なんだよ、どういう事なんだよ。濁したってことは言いたくない事なんだろうけど気になるわ。

 あーあ、それはそうとやり直しだよ。えっと上から順番にやらなきゃ………。途中からやり直してると、凛が机に伏せて俺の顔を見上げてるのが見えた。

 

「…………」

「…………」

 

 気が散る。いや、でも集中してやらないとダメだ。最終下校時刻までには帰りたい。

 そのまま、何とか凛の視線を気にせずに仕事を進めた。10分かけてようやく計算が終わり、凛の持って来た紙と一緒に委員長に提出した。

 

「終わりました。それと1年○組の出し物です」

「ありがと、み、みず……水谷くん。次はこれお願い」

 

 言われて渡されたのはザッと20枚くらいある紙の束だった。今度は各クラスの出し物の集計だ。それを前にして、名前を訂正する気も起きなかった。

 

「………分かりました」

 

 仕事を終わらせてもまた仕事か………。悪くない、とか思っちゃってる俺は社畜の才能があるのかもしれない。

 書類を持って席に戻ると、凛がフリフリと手を振っていた。

 

「まだ仕事あるの?」

「そりゃな。集計係の人達が遅れてるみたいだから、俺達雑用が手伝ってるんだよ」

「ナルって当日は何してるの?」

「受付」

「え、それ一緒に回れるの………?」

「三日間仕事ってわけじゃないから」

「そっか、なら良かった」

 

 そんなに一緒に回りたかったのか?それとも、これも好きな男攻略のためか………。

 いや、今そんなこと考えても仕方ないか。とりあえず、仕事を終わらせよう。せっせと電卓を叩き始める俺を見ながら、隣の凛は腕を枕にして机に伏せて、相変わらず俺の事を観察していた。

 早速一枚目の書類を終わらせた頃、凛が聞いてきた。

 

「真面目だね、意外と」

「なんで?」

「いや、サボろうとしないんだなって」

「しないよ。しても仕方ないし、周りに迷惑がかかるだけだからね」

「………でも、勝手に委員会に入れさせられてたんでしょ?」

「それとこれとは話が別でしょ」

「……ふーん」

 

 それにちょっと楽しんでるし。

 

「ナル、まだここにいる?」

「この書類が終わるまではいるよ」

「了解」

 

 軍隊のような返事をすると、凛は教室を出て行った。

 よし、今のうちに仕事を終わらせるか。耳にイヤホンを装着した。俺が音楽を聴きながら作業をする時というのは、心のスイッチを切って無心に作業を終わらせるという事だ。

 全力でペンと電卓を走らせ、さっきまでの倍速で仕事を進めた。バリバリと仕事を進めて、合計24枚あった書類の内、8枚目を終わらせた時、トンッと缶コーヒーが置かれた。

 

「?」

「はい、どうぞ」

 

 凛が買って来てくれたのか?イヤホンを外して一応聞いてみた。

 

「え、俺に?」

「他に誰がいるの?」

「ご、ごめん。ありがと。いくらだった?」

「別にお金は取らないよ」

「えっ、いやそういうわけには………!」

「いいから。私が勝手に買って来ただけだし、ナルが頑張ってたから買って来ただけだから」

 

 まぁ、年下の女の子にものを奢られるなんて……いや、割と普段から飲み物賭けてゲームしたりしてるわ。

 

「じゃあ、もらうわ」

「うん、頑張って」

 

 早速一口もらって仕事を再開し、凛はまた腕を枕にして机に伏せた。

 

 ×××

 

 一時間後くらい。24枚全部終わって大きく伸びをした。あー、疲れた。さて、また仕事かな?そう思って、とりあえず書類を提出しようと思って立ち上がろうと椅子を引こうとした所で、いつのまにか隣の凛が寝息を立ててることに気づいた。

 

「…………」

 

 秋とはいえ、まだ夏を抜けたばかりだ。クーラーも効いてる部屋で半袖で寝ると風邪引くんじゃないか?

 そういえば、体育用に持って来たジャージが鞄に入ってたな。ロッカーに置いて来るの忘れて、鞄の中に眠ってるけど。

 椅子の下に置いてある鞄からジャージの上着を出して、凛の肩に掛けて、寝顔を写メに収めて書類を提出しに行った。新しい書類をもらってしまったので、また仕事を再開した。

 また仕事を始めて一時間後、また終わらせた。気が付けば時刻は18時過ぎ、あと一時間後くらいで最終下校時刻だ。流石に今から仕事は振られないだろう、と少しビクビクしながらもペンを置いた。

 すると、凛が目を覚ましたようで「んっ……」と隣から吐息が漏れた。

 眠そうに目を擦りながら、ゆるゆると体を起こし、ぼんやりした目で俺を見た。

 

「………終わった?」

 

 どうやら、寝惚けてないようだ。

 

「終わったよ。多分、もう仕事はないから」

「………そう、じゃあ帰ろう」

「おお。書類出してくるから」

「………うん」

 

 立ち上がって、委員長に書類を渡した。

 

「終わりました」

「……リア充が」

「えっ?」

「何でもない。今日はもう大丈夫だから」

「そうですか。じゃあお先に失礼します」

「うん、お疲れ様」

「お疲れ様です」

 

 なんか毒を吐かれた気がするが、とりあえず気にしないで自分の席に戻った。

 

「凛、仕事ないって。帰………」

 

 声を掛けた俺のセリフは途中で止まった。凛は何故か俺のジャージを抱き締めていた。

 が、俺の姿にはガッツリ気付いていたようで、顔を真っ赤にして俺の方を見ている。しばらく目を合わせてお互いに固まる事数秒、突然立ち上がって俺の胸ぐらを掴んで来た。

 

「忘れて」

「えっ、いや無」

「忘れて」

「………努力します」

 

 超怖かった。

 

 


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