渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

4 / 55
誤魔化す時は無理の無い程度に。

 フードコート。俺はガッツリとラーメンにしたが、渋谷さんはマ○クで控えめなハンバーガーとポテトとジュース。

 

「えっと……落ち着いた?」

「………うん、平気」

 

 良かった。このままじゃ気まずい事になるとこだった。

 俺はラーメンを啜ると、渋谷さんに聞いた。

 

「でも、アレだな。意外とホラーとか苦手だったんだな」

「誰が?」

「いや、渋谷さんが」

「………はい?別に苦手じゃないけど?」

「はっ?」

「んっ?」

 

 え、何言ってんのこの人?

 

「全然、余裕だった。大したことなかったよね」

「…………」

 

 えっ、この人まさか、誤魔化す気?アレだけ人の腕を万力の如く締め上げといて?それは無理あるでしょ。

 

「………いや、さっきアレだけ……」

「は?全然腕にしがみついてなんかないけど?」

「いや、そこまで言ってないんだが………」

 

 食い気味に答えちゃダメだろ………。

 

「それよりさー、水原くんさっき怖かったって言ってたよね。あの程度のホラー映画を」

「あ、その話は覚えてるんだ」

「ぷふふ、映画の時も肩とか超震わせてたし……」

 

 …………少しカチンと来た。人がせっかく慰めてやってたのに……。

 いや、でも怒るなよ俺。渋谷さんなんか楽しそうだし、多分だけどさっきまでの醜態が相当恥ずかしかったんだろ。だから、自分の中でなかった事にしようとしてる、そう考えればイラっとしない。むしろそれはそれで可愛い。

 そんな考えが顔に出てたのか、渋谷さんは俺を見てムッとしたのか、俺の額にチョップした。

 

「………何、ニヤニヤしてんの?気持ち悪い」

「き、キモいって言うな!女子からのキモいはコタえるから!」

「ならその顔やめてムカつく」

「はい」

 

 そんな顔してたか……気を付けないとな………。

 とにかく、映画の話題は避けた方が良いかもしれないな。何せ、渋谷さんをあそこまでビビらせた映画だ。あまり本人も蒸し返したくないんだろう。

 あーなら、アイドルの話でもするか。気になってたし。

 

「そういえばさ、渋谷さんって実際にあの二人と仲良いの?」

「? あの二人って?」

「えーっと……神谷奈緒さんと北条加蓮さん」

「ああー……まぁ、仲良いよね。よく遊びに行くし」

「へぇー、やっぱりか」

「あー……あのさ」

 

 話題を変えるように渋谷さんが言った。アイドルの話題は嫌だったのか?と思ったら、顔を赤らめて若干照れてるような感じの表情を浮かべていたので、違うかもしれない。

 

「………トライアドプリムスの中で、誰が一番好み?」

「はっ?」

「水原くんの中で、で良いから。知り合いだから、とかじゃなくて外見の好みで」

 

 ………あー、やっぱそういうの気になるのか。アイドルって言ってもやっぱり学生だなぁ。

 外見の好み、だとすると……んー………。

 

「………渋谷さんかな」

「っ、わ、私?」

「うん」

「なんで?」

「あー俺さ。あんま髪染めてる人好きじゃないんだよね。まぁ、神谷奈緒さんとか北条加蓮さんが地毛だってなら変わるけど、染めてるんなら渋谷さんかな」

「………ふーん」

 

 あ、少し嬉しそう。まぁ、そりゃそうか。アイドルの中でグループってのはライバルって事だ。その中で、たった一人とはいえ自分が好きだと言ってくれたんだから、誰に言われたって嬉しいだろう。

 

「………じゃあ、あの二人が地毛だとしたら?」

「神谷奈緒さん」

「………即答?」

「俺、ポニテ好きなんだよね。神谷奈緒さんが一番ポニテっぽい」

「へぇー、なんでポニテ好きなの?」

「うなじがもうヤバイよね。まぁ、神谷奈緒さんのは多分うなじ見えないけど」

「…………へぇー」

 

 渋谷さんはテキトーに相槌を打つとポテトを齧りながら「そうだっ」と呟いた。

 

「やってみよっか?ポニテ」

「へっ?」

「ちょうどヘアゴムもあるし」

「え、ちょっ、待っ」

 

 止める間も無く、渋谷さんは手首のヘアゴムを指にかけると、長い髪を纏め上げた。

 直後、俺の目に綺麗な肌のうなじが入って来た。元々、大人っぽい雰囲気の渋谷さんがポニーテールになる事によって、大人っぽさが倍増し、それと共に色っぽさも演出されていく。

 え、何これ。何だこれ。………えっ?何だこれ?やだ、鼻血出そう………。マズい、頭の中が真っ白になっていく。これは最早、兵器だ。あらゆる戦場にこの渋谷さんの写真が支給されたら、絶対全員その場で武器を放り投げて日本に集まる。そのレベルだ。

 ぼんやり見つめてる俺に気付かずに、渋谷さんはポニーテールを完成させた。

 

「………どう?」

「……………」

「あ、あれっ?へ、変?」

「……………」

「………水原くん?」

「…………グホッ」

「水原くん⁉︎」

 

 俺はその場で前のめりに倒れ、ラーメンの器に顔面を突っ込んだ。

 

「水原くん⁉︎何してんの⁉︎」

 

 慌てた様子の渋谷さんが俺の身体を起こし、ポケットからティッシュを取り出して顔を拭いてくれた。そこでようやく正気に戻った。

 

「大丈夫⁉︎何してんの⁉︎」

「………ご、ごめん。ついテンパった……」

「いや、テンパったっていうか、むしろ気絶したように見えたけど………」

 

 顔ベトベトする……。洗って来よう。

 

「ごめん、ちょっとトイレ行って来る……」

「う、うん……」

 

 トイレの水は汚いが、まぁこの際仕方ない。

 しかし、あの破壊力は脅威だ。渋谷さんをポニーテールにしてはいけない。人類が死滅する。

 そう思いながら、トイレで顔を洗って戻って来た。渋谷さんはポニーテールを解いていた。

 

「………大丈夫?」

「あ、ああ……なんとか」

「………そんなに酷かった?私のポニテ……」

「い、いやいや!そんな事ない!むしろ素晴らしくて!マジでこの素晴らしい世界に祝福をっ!って感じだった!」

「そ、そっか………」

 

 照れたように渋谷さんは顔を赤らめると、最後のポテトを食べ終えた。

 

「さっ、そろそろ良いよね?何処か行こう」

「何処かって?」

「せっかく遊びに来たんだから、もう少しどこか寄って行こうよ」

「あ、ああ……」

 

 そんなわけで、とりあえずショッピングモールの中を回る事にした。

 

 ×××

 

 やって来たのはゲーセン。渋谷さんと二人でテキトーに中を回った。まぁ、ショッピングモールの中にあるゲーセンなだけあって、どーせ大したものは………いや、割と本格的だな。最近、こういうとこ来ないから知らなかった。

 

「で、何する?」

「んー……水原くんはこういう所は良く来るの?」

「いや、最近は来てない」

 

 ………中学の頃はストレスでよく格ゲーで無双したり、クレーンゲームで乱獲したりしてたが。

 

「じゃあ、前は来てたって事?」

「まぁ、そうだね」

「なら、エスコートよろしく」

「えっ、いや俺来てたの二年くらい前の話だよ?」

「それでも平気」

「あ、そう………」

 

 しかし、エスコートって言われてもなぁ。

 

「渋谷さんはゲームとかやるの?」

「んー、あんまり。事務所の子に誘われてアプリとかやるくらい」

「ふーん……」

 

 となると、経験がものを言う奴はダメか……。エアホッケーとか?うん、良いね。エアホッケーだ。

 

「じゃあ、エアホッケーとか?」

「良いね」

 

 よしっ、当たりを引いた。二人でエアホッケー台に向かった。

 お金を入れて、あの、ラケット?を持った。台には二つ付いてるが、タイマンなので一つずつしか使わない。

 

「ね、水原くん」

「何?」

「何か賭けない?」

「何かって?」

「んー、例えば………飲み物とか?」

「まだ映画の時に飲んでた飲み物残ってるけど」

「んーじゃあ、晩御飯の時の飲み物とか?」

「え、一緒に食べるの?」

「え、食べないの?」

 

 マジか、そこまで一緒にいられんのか。少し嬉しい。

 

「良いよ」

「よっしゃ」

 

 パックが出て来て、それが渋谷さんの方に落ちた。キッとゴールを狙う渋谷さん。あー、可愛いなぁ。狙いがモロばれてるのが可愛い。視線で丸わかり。

 

「ほっ」

 

 ほら、少しゴールの右端狙って来た。それを横にガードし、左の壁にパックを当ててバウンドさせて、とりあえず自分側にキープすると、パックを取った。

 で、パックを強く2時の方向の壁に当てた。バウンドして、ゴールに向かい、スコンと入った。え、防げよ。

 

「…………強くない?」

「いや、軽く打ったつもりなんだが……」

 

 いや本当に。再び渋谷さんからのサーブ。バシュッと打ってきたが、それを防いで、左の壁に当ててバウンドさせた。

 が、パックは当然、バウンドするほど勢いは弱まる。渋谷さんの手元に来た頃には随分と遅くなっていた。

 渋谷さんは手前にトラップする事なく右手のストレートに打ってきた。それをこっちもそれをトラップなしで右側の端のゴールに入れた。右手で強く打てば、右側のゴールに隙が出来るのは当然だ。

 

「…………水原くんって、運動神経良いの?」

「いや、中学の時にクラスメートが好きな女を落とすための道具に使われてたからなぁ、なんというか……負け役?をやり過ぎて、いつの間にか最強になってた」

「………むー、ずるい」

「え、いや何が?」

「簡単に勝てると思ってた」

「ずるいのはどっちだよ………」

「でも、そういう事なら良いよね」

 

 渋谷さんは二つ目の打つ奴を取り出した。だからずるいのはどっちだよ………。

 

「まぁいいけど……」

「よーっし、やろうっ」

 

 まぁ、そういう時は大抵、利き手じゃない方の手は使わないんだけどな。

 案の定、何本かやったが左手はゴール前に置くだけで使わなくなり、右手だけでやっていた。まぁ、それだけでゴールに入るルートを塞がられるから厄介なんだが。厄介なはずなのに点差が15対3てどういう事………。

 結局、俺が勝った。終わって、渋谷さんは不満そうに俺を睨んだ。

 

「むー、やっぱこういうとこ奈緒と違うなー」

「神谷奈緒さん弱いの?」

「かなりね。ていうか、女の子相手なんだから少しは手加減してよ」

「え、手加減されて勝って喜ぶタイプには見えなかったから」

「………まぁ、確かにそうだけど」

 

 まぁ、もう少し手を抜いても良かったかもしれないな。接待プレイの練習しておこう。

 

「で、次はどうする?」

「今度は私がゲーム決めて良い?」

「へ?別に良いけど」

 

 あ、なんか企んでる顔だ。俺の予想は正しかった。渋谷さんが選んだのは音ゲーだった。

 

「これで勝った方が晩御飯で1品奢るの」

「…………さっき負けたの、悔しかったのか?」

「全然?ちなみに拒否権ないから」

 

 悔しかったんじゃねぇか………。多分、アイドルやってる自分で勝てるゲームといったら音ゲー、みたいな思考回路だったんだろうな。

 

「良いよ、やろう」

「やったね」

 

 渋谷さんと太鼓○達人に向かった。完封した。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。