翌日、文化祭の日になった。文化祭実行委員ということで、俺は普通の生徒よりも早く学校に行かなければならない。
しかし、そんなことは俺の頭から抜け落ちていた。何故なら、凛が彼女になったからだ。いやもう嬉しさと恥ずかしさで頭の中がいっぱいなんですわ。
で、そんな俺の気も知らずに、うちの彼女は今日も俺と学校に向かっている。ただし、今までとは違い、俺の腕にがっつりしがみ付いている。胸が当たろうと御構い無しだ。ていうか、凛は実行委員じゃないんだから早く行く必要ないのに。
「………あの、凛さん?」
「何?」
「ち、近くないですか………?」
「嫌なの?」
「い、いえ、嫌ではありませんが歩きにくいなぁと………」
「なら我慢して」
との事で、それはもうベッタリくっついてくれている。嬉しいには嬉しいんだけど………。その、何?凛は猫っぽいと思ってたら犬っぽくなったから、そのギャップ差がすごくてもう………。
「ね、ナル」
「な、なんでせう」
「前から思ってたけど、ナルって良い匂いするよね。癖になっちゃうような」
どうやら、嗅覚も犬になろうとしてるようだ。
「そ、そうなの?」
「うん。いつまでも嗅いでいられるな」
「う、うん………。でもお願いだから周りの視線を考えてね」
「………周りの目線とか関係あるの?」
お前アイドルだろがぃ!ていうか、お前そんなキャラじゃないだろ!もっとクールな子だったろ⁉︎どうしちゃったの本当に⁉︎
「ふふ、ナルの匂い………」
「そ、それより、今日はどうする?」
「んー、キスする」
「そうじゃねぇよ………。文化祭、俺仕事あるから」
「んー……じゃあ私も仕事する」
「は?」
何言ってんこの人。
「ナルの仕事ってパンフレットを配るんでしょ?私もやるよ」
「いやいや、俺以外にも一緒にやる人いるから。3年5組の女の人と」
「………は?」
え、なにその眼光。デスノート拾ってしばらく経った夜神月さん?
「私も手伝うから。異論は認めない」
「えっ、な、なんで?」
「………分かってよ、それくらい」
「いや、分かるけどお前自分のクラスはどうすんの」
「んー、サボる」
「アホか、看板の凛がサボるのはスマブラに任○堂キャラが出ないようなもんだぞ」
「むー……私と一緒にいたくないの?」
「それとこれとは話が別だ」
この子はダメだ。恋人、というか自分の望むものが手に入ったら自分の事が疎かになるタイプだ。それはなんか俺の所為でダメにしてしまった気がして嫌だ。
「凛……帰ったら好きなだけ構ってやるから、やらなきゃいけないことはしっかりやりなさい」
「………ほんとに構ってくれんの?」
「え?お、おう」
「好きなだけ?」
「うん」
「じゃあ分かった」
………あれ、なんか墓穴掘った気がする。
そんな話をしながらも、凛はさらに腕を強く握って来た。
「でも、学校に着くまではこのままね」
「………好きにしろよ……」
本当にこのまま二人で学校まで来た。
×××
文化祭が始まり、早速受付の席に座った。一般の方々にパンフを配るだけの簡単なお仕事。超楽なんだけど。
もちろん、退屈ではあるため、パンフの束の陰にスマホを隠してゲームをしている。こう言う時、ポチポチゲーは便利である。
「ご来場ありがとうございます、こちらパンフレットでございます」
最近はマグナをタイマンで倒せるようになって来たなー。やっぱり水属性キャラが一番可愛いよなー。シルヴァ姉さんとユエルが特にね。
「ご来場ありがとうございます、こちらパンフレットでございます」
あ、コロ刀落ちた。どうせなら杖落とせや。刀はバカみたいにあるから。
「ご来場ありがとうございます、こちらパンフレットでございます」
シルヴァ姉さん、ホント胸でかいなぁ。巨乳はある意味では男の憧れだよなぁ。
「ご来場ありがとうございます、こちらパンフレットでございます」
「いや、棒読みにも程があるでしょ」
聞き覚えのある声が突然割り込んで来た。ふと顔を上げると、加蓮と奈緒ともう一人の女の子、島村卯月が三人揃って立っていた。
「あ、みんな来たんだ。………それと、隣のは……」
「そう、島村卯月だよ」
「島村卯月です。あなたが噂の水原鳴海さんですか⁉︎」
え、俺噂になってるの?それもアイドルの中で?どんな噂?
「まぁ、そうですけど。え、俺の事知ってるんですか?」
「はい!凛ちゃんの恋人さ」
「「わ、わーわーわー!」」
言いかけた所で、奈緒と加蓮が慌てて口を塞いだ。
「ま、まだ二人は恋人じゃないから!ていうか、そういう事こういう公共の場で言っちゃダメ!」
「ま、まぁ付き合ってなんかないけどな!むしろ、二人ともただの友達だからな!」
言いながら二人は「お前もなんか言え」みたいな感じで俺を睨んで来た。が、俺はそれどころじゃない。恋人、と他人から言われると、なんか、こう………恥ずかしい。嬉し恥ずかしい。
おそらく赤くなってる顔を両手で煽ってると、さっきまで騒がしかったアイドル三人がシンッと静かになっていた。
何事かと思って顔を上げると、三人はニヤリと微笑んでいた。え、まさか今の反応だけで察されたのか………?
「水原くん、良かったら私達と回らない?」
「いやいや、仕事仕事」
「ダメ」
ダメってなんだよ………。まぁ、確かにここの役割って二人もいらないんだけどな………。
そう思って隣をふと見ると、3年生の女子生徒は「え?アイドルと知り合いなの?私あなたの仕事手伝ってあげたよね?紹介してくれない?してくれなかったら後で委員会全員で問い詰めるからね?」って目で俺を見ていた。
「………すんません、俺ちょっとトイレ」
「は?サボる気?」
や、やっぱり年上の女学生怖ぇ〜………。てかどう転んでも罰ゲームしか待ってないんだが………。
「………あと30分で休憩入るから、その時に話すよ。だからお前ら散れ」
とりあえず、仕事を全うすることにした。それを聞くなり、三人はゾロゾロと歩いて文化祭を見回りに行った。
隣の先輩がウキウキしながら俺を見てるのが、顔を見なくても分かった。
「………俺とあの人達の関係黙ってるって約束してくれたらサイン頼んどいてあげ」
「神に誓おう」
どいつもこいつも人間ってほんと面白いな。
×××
凛と一緒に店を回るのは、俺の2回目の休憩である午後の3時から。よって、現在11時半からの休憩では、加蓮と奈緒と島村さんと3人で回ることになっている。
待ち合わせした場所は講堂の前の看板。この看板には文化祭の間の、講堂のスケジュールが書かれていて、一番下には何故かけいおん!のキャラが描かれている。これ著作権とか大丈夫なんですかね。
しばらく待機してると、講堂の中から人が出て来た。ちょうど、何処かのクラスの出し物が終わったのだろう。何処のクラスかと気になって看板を見ると、うちのクラスだった。
そして、これまた良いタイミングで扉から出て来たのは奈緒、加蓮、島村さんの3人だった。
「あっ、お、お待たせ鳴海………」
「いや、あんま待ってない」
軽く謝る奈緒に、小さく手を振って返した。5分くらいしか待ってなかったし。
ていうか、なんで奈緒と加蓮揃って少し顔赤らめてんの?
「な、鳴海………。お前らのクラス………」
「なんだよ」
「な、鳴海くんもああいう踊りするんだね………。凛には見せられないかな………」
「あ、あはは………。まぁ、鳴海さんが何処で踊ってるからは見当たらなかったんですけどね………」
おい待て、こいつらなんの話を………ああ、理解した。そういや、うちのクラスのダンスはトラプリだったな。
「いや、俺は出てないから。実行委員の仕事の休憩もらって今来たとこだし」
「あ、そ、そうだったんですか?だそうだよ、二人とも!」
「………いや、にしても自分達の曲を文化祭でやられるのは……」
「………結構恥ずかしいね……」
悪かったな、うちのクラス無神経で。
「ま、まぁとりあえず行こうぜ。俺まだ昼も食えてないから腹減ったわ」
「そうですね。何処で食べます?」
「「「凛の店」」」
島村さんの問いに3人で声を揃えて答えた。
講堂を離れて、校舎に入った。俺は上履きだが、二人にはそれがない。近くからスリッパを持って3人の前に並べた。
「どうぞ」
「ありがとうございまーす」
「なるほど、こういうところね。鳴海くんのスケコマシは」
「そういうことだ」
何を失礼なこと言ってんだトラプリ二人。島村さんみたくお礼を言うことは出来ねーのか。
「で、凛は何処なの?」
「パンフ配っただろ」
「あまりパンフレットとか見ないんだよね」
「おい、見ろよ。そのパンフ作るのにかかる費用を計算したの俺だぞ」
「作ってはないんですね………」
そっちは俺の担当じゃなかったからな。そもそも、受付以外に俺の担当はない。
凛のメイド喫茶は教室でやってるから、確か一年は3階だよな。四人で階段を上がった。しかし、まぁなんつーか……裏方に回っていたからか、他のクラスの面子が何をしてるのか知ってるため、あーあの報告書でこんな感じになってんだーみたいな感想が頭に浮かぶ。
そんな事を考えながらボンヤリと歩いてると、ツンツンと後ろから島村さんに肩を叩かれた。
「?」
「あのぅ、奈緒ちゃんと加蓮ちゃんが………」
あれ、二人の姿がないや。
「え、何処行ったんですかあの人達」
「その……加蓮ちゃんが『お化け屋敷やってる!』って奈緒ちゃんを引き摺って行ってしまって………」
………俺の休み一時間しかねぇんだけど。
「………後を追いましょうか」
「はい」
肩を落として、お化け屋敷をやってる教室に並んでる奈緒と加蓮に声を掛けた。
「勝手に行くなバカコンビ」
「あ、鳴海くんも来たんだ」
「嫌だってば!あたしは絶対入らないからな!」
「大体、凛の店はどうすんだよ」
「あとで行くって。せっかくだし楽しもうよ」
楽しもうとか言われてもな………。いや、まぁ良いか。俺は運営する側だが、向こうは客なんだ。俺とは立場が違うし、楽しもうとするのは当然だ。
「分かったよ」
「やったね」
と、いうわけで、お化け屋敷以外も3人で見回った。例えば、2-6のミニ映画だの漫画部の「ブックオン」だのPTAのフリーマーケットだのと、とにかく回り回った。
で、俺の休憩が終わるまで残り20分ほど。ようやく凛のクラスの前に来た。
「へぇー、凛のクラスってメイド喫茶なんだ」
「知らなかったのか?」
「うん。なんかあんま知られたくなかったとかで」
あー、そういや凛の奴、執事役やるとか言って嘆いてたっけか。凛の長い髪なら、執事やったら絶対にポニテだし。
「凛の執事姿かー。楽しみだなー」
「そうですね、凛ちゃんの事だから絶対カッコ良いですもんね」
実際、俺も少し楽しみにしてる。凛は可愛い子だが、それと共にカッコ良い女の子だとも思っているからなぁ。まぁ、割と照れ屋な奴だから、俺が褒めたらすぐに頬を赤らめて可愛くなると思うんだけど。
そう思うと、少し頬がにやける。
「鳴海くん、顔がすこぶる気持ち悪いよ」
「ヨダレを拭け」
「はっ、イッケネ!」
加蓮と奈緒に怒られ、慌ててティッシュで口元を拭った。
そんな話をしてるうちに、いざ入店した。店の中に入った直後、メイド服姿の女の子達が出迎えてくれた。ていうか、真ん中のメイドさんは凛だった。
「「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様」」
「おかえ」
スラスラとお決まりの挨拶をする二人のメイドと、途中で声が止まる凛。
「「……………えっ?」」
俺と凛から間抜けな声が漏れた。