渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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明けましておめでとう御座います。今年もよろしくお願いします。
ほんとは大晦日にしぶりんとふみふみを1話ずつ投稿するつもりでしたが、風邪を引いてしまったので投稿は断念しました。申し訳ありません。


意思を伝える時は出来るだけ具体的に。

 何故か凛がメイド服姿で出迎えてくれた。そういうの、ほんと大概にして欲しいよね。こっちにもさ、色々と心の準備とかあるんだよね。それを何?お前、執事って言ってたじゃん。

 もうほんとに不意打ちでダイレクトアタックとか卑怯でしょ。

 

「……………」

「……………」

 

 そんな俺と凛は唖然としたまま、顔を赤くしてお互いに向かい合っていた。が、やがて凛の方が再起動し、教室の中に引っ込んだ。

 

「ちょっ、凛⁉︎」

 

 加蓮が声を漏らした直後、再び教室の扉が開いた。さっきまでのフリーズ状態の時の表情はまるで正反対の真顔で立っていて、俺に向かって頭を下げた。

 

「おかえりなさいませ、旦那様」

「グホッ」

「な、鳴海ーーーーー!」

 

 吐血したように俺は後ろに倒れ、奈緒が仲間を失ったアニメキャラのように絶叫した。だからダイレクトアタックは卑怯だろっつの……。

 

 ×××

 

 そんな茶番はともかく、一席に案内された。島村さん、加蓮、奈緒と共に席に座って料理を注文して、のんびりとお冷やを飲んだ。いや、のんびりしてるのは奈緒、加蓮、島村さんだけで、俺自身は「凛ショック」とも言える心臓への鋭い一撃の後遺症によって、未だに心臓が鳴っている。

 

「あー……まさか、まさかあんなのが不意打ちで飛び込んで来るなんてなぁ………」

「だからって一々倒れるのはやめてくれよ………」

 

 呆れながら奈緒は水を飲んだ。いや、君にはわからないよ。特にあの旦那様の破壊力は尋常じゃなかったね。

 

「にしても、まさか凛があそこまでデレるとはねー」

「そうですね。凛ちゃんにあんな一面があるなんて………」

 

 加蓮と島村さんがニヤニヤしながら俺を見た。

 

「な、なんだよ」

「いや、愛されてるなーって」

「そうですねー。ほっこりしちゃいますね」

「う、うるせーから」

 

 まぁ、確かに凛すごいけど。俺と付き合うと決まった一昨日からずっと俺にくっ付いてたし。

 

「凛も凛だよ。あんなにベタベタして来て、周りに関係を隠す気なんかさらさら無いんだから」

「何、嫌なの?くっ付かれるの」

「………嫌じゃないから困ってるんだよなぁ」

 

 いや、ほんとに。俺もどちらかというと凛とくっ付いていたいし。でも、その、何?照れと恥ずかしさの方が強くなっちゃって勇気が出ない。

 

「それで、どうやって凛と付き合ったんだ?」

 

 本編開始、と言わんばかりに奈緒が俺に向かって言った。ムカつくほどニヤついた顔である。お前、いじられキャラなんじゃないんか。

 

「えー、言わなきゃダメか?」

「「「ダメ」」」

「なんで3人揃ってんだよ………」

 

 息ぴったりにもほどがあるだろ………。仲良しかお前ら。

 

「大体、そんな言うような事はないからな?面白いような事も無かったし」

 

 むしろ、あまり言いたくないんだよなぁ。すっごいグダグダな告白だったし、何なら告白じゃないまである。

 何より、色々と事情はあったものの、男である俺じゃなく、凛の方から告らせたんだ。3人ともドン引きするに違いない。

 

「まぁ、その、何?色々あったんだよ」

「ふーん?そうやって誤魔化すんだ?」

 

 加蓮がニヤリと微笑んだ。え、何その考えがあるみたいな微笑み。俺ってなんか加蓮に弱味握られてたっけ?

 

「鳴海くんがそうやって誤魔化すなら、これから先で凛との恋愛を手助けしてあげないから」

「はぁ?良いよ別に」

 

 もう付き合ってるし。ていうか、何よりお前は俺に何もしてくれてないだろ。奈緒からはよくアドバイスもらってたけど。

 

「もちろん、あたしも何も言わないからな」

「ああそう」

「ところで鳴海くん、凛とは随分と色々あったよね?」

 

 なんだよいきなり改まって。

 

「あ、ああ、そうだな」

「遊園地では特に色々あったみたいじゃん。気を回し過ぎて凛を怒らせちゃったんだって?」

「あ、あーうん。まぁね」

 

 今にして思えば、凛の初恋の相手は俺だったんだよなぁ。あんな回りくどい事しなくても良かったのに。凛も可愛い所あるなぁ。

 

「鳴海、頭の中で惚気るな。顔がすこぶる気持ち悪いぞ」

「あっ、悪いっ」

 

 奈緒に怒られてハッとした。

 

「で、何が言いたいんだよ」

「これから先も変に気を遣い過ぎて凛を怒らせる事とか増えちゃうんじゃないの?」

「…………」

 

 悔しい事に否定出来なかった。大量に顔に汗を浮かばせる中、加蓮は得意げな顔で続けた。

 

「それで喧嘩したとしても助けてあげないけど、それでも良いの?」

「……………」

 

 助けを求めるように奈緒をチラ見した。

 

「あたしも助けないからな」

「…………」

 

 続いて島村さんをチラ見した。ニコニコ微笑んだまま首を横に振った。うん、否定スタンスですよね。ていうか、あなたは初対面でしたね、すみません。

 そうなると、俺の回答は一つに絞られる。

 

「………は、話すので今後ともよろしくお願い致します……」

 

 あまりの情けなさに涙が出そうになった。正直、かなり恥ずかしいんだけど、まぁこの際仕方ないか。

 若干、照れながらも当時の様子を飛ばし飛ばしで語った。まぁ、飛ばし飛ばしで語った辺りは全部看破されたわけだが。すると3人はジト目になって俺を睨んだ。

 

「………ヘタレ」

「………ダッサ」

「………ぐ、グダグダですね……」

 

 まさか、初対面の島村さんにまでそう言われるとは………。いや、まぁいじられキャラに初対面も何も関係ないんだけどな。

 

「うるせぇ。俺は凛の気持ちを汲んでやっただけだよ」

「本当はチキっただけの癖に」

「うるせえぞ、奈緒。本当に凛の気持ちを汲んだんだってば。チキったってのは10%くらいだっつの」

「チキってんじゃん」

 

 まぁ、そう言われるとそうなんですけどね。

 若干、肩を落としてると、島村さんがフォローするように作り笑顔で言った。

 

「で、でも、そういうのはお二人らしくて素敵だと思いますよ!」

「………グダグダな告白は俺と凛らしいって事ですか」

「えっ⁉︎い、いやそういうわけではなくてですね……⁉︎」

「まぁ、実際二人らしいけどね」

 

 島村さん、冗談だから焦らなくて良いですよ。それと加蓮黙れ。

 すると、奈緒が感心したように言った。

 

「でも、鳴海の方から気付くとはなぁ。そこは少し意外だったわ」

「そりゃアレだけサイン出てたら気付くだろ。鈍感系主人公じゃあるまいし」

「…………」

「…………」

「…………」

「えっ、三人揃って何その目」

 

 まるで俺が鈍感だと言わんばかりの………。いや、確かに鈍いかもしれないが、鈍感ってほどじゃないだろ。

 

「まぁ、鳴海だしな」

「そうですね」

「うん、だから凛は苦労したんだもんね」

 

 な、なんだよう、3人揃って………。

 3人の冷たい視線に耐えながらお話をしてると、俺達の前に注文した料理が置かれた。学園祭のメニューなのでカレー、オムライス、チャーハンと簡単ですぐに作れるメニューばかりだ。

 加蓮がチャーハン、島村さんがオムライス、俺と奈緒はカレーを選んだわけだが、その……なんでだろう。奈緒のカレーと比べて随分と俺のカレー赤いんだけど………。

 

「お待たせしました。お嬢様、旦那様」

 

 そう言うのは凛だった。………あれ、なんか機嫌悪そうなんだけど。なんで怒ってんの?

 

「………あの、凛?なんか俺のカレー赤くない?」

「そうですか?私には違いがよく分かりませんわ?奈緒、そこ邪魔だから退いて」

「酷くね⁉︎」

 

 言いながら、奈緒と俺の間に座り込んだ。座り込んだ割に、不機嫌そうに腕を組んで黙り込んでいる。

 

「り、凛ちゃん?なんでメイド服なんですか?」

「メイド役の子が風邪引いてメイドが一人減っちゃったから。明日、学校に来れば執事に戻るよ」

「そ、そうですか………」

 

 島村さんが空気を整えるように明るく聞いてみたが、淡々と冷たく答える凛。

 俺も奈緒も怖くて身震いさせてると、加蓮がニヤニヤしながら凛に言った。

 

「おっ、何々?凛、ヤキモチ?」

「は?全然違うし。別にこの女誑しがどこで何しようと知らないし」

 

 ………ああ、そういうこと。それで怒って俺のカレーを赤くなるまで辛くしたって事か。こいつは鬼かよ。

 

「………お、怒るなよ、凛」

「別に怒ってないしヤキモチ焼いたと思ってんの自惚れないでくれる」

 

 ………早口過ぎて聞き取れなかったんですけど。うーん……どうしよう、早速助けて欲しい場面に遭遇してしまった。

 チラッと加蓮を見ると、小声で耳打ちして来た。

 

「ーっ」

「………え、それを言えと?」

「………ほら、早く」

「…………」

 

 まぁ、ここは加蓮を信用するしかないか。不機嫌そうにしてる凛の肩を抱き寄せた。

 

「ちょっ……な、ナル………⁉︎」

 

 凛が声を上げた直後、耳元で囁いた。

 

「………夜、いくらでも相手してやるから」

「ーっ⁉︎」

 

 あーあ、言っちまったか。でもいくらでも相手してやるって言うと、ホント凛は朝までゲームやらせようとして来るからな。ていうか、勝つまで相手しようとして来る。

 ………ただ、不可解なのは凛が何故か顔を真っ赤にしてることだ。いや、凛だけじゃなく奈緒も加蓮も島村さんも顔を真っ赤にしてる。加蓮に至っては「ほ、本当に言ったよ……」とか呟いてた。お前が言えって言ったんだろ。

 すると、顔を真っ赤にした凛は、俺の鳩尾に肘鉄を入れて来た。

 

「はぐっ⁉︎な、何をしやがんだテメェ⁉︎」

「う、ううううるさい!うるさいうるさいうるさい!時と場所を弁えてそういう事言ってよ!」

「えっ、お、俺変なこと言った………?」

「〜〜〜ッ!もう知らない!」

 

 な、なんか尚更怒らせちまってるじゃねぇか………。恨みがましい目で加蓮を睨むと、教室の奥に去ろうとしてる凛が立ち止まり、顔を赤らめて言った。

 

「…………で、でも、今日は泊まっていくから」

「じ、準備しとくから………」

「ーっ!う、うん………!」

 

 最近はスマブラやってなかったからな………。W○iリモコンの調子とか電池とか確かめておかないと。

 凛が立ち去り、俺が一人でお腹を抑えて悶えてると、奈緒と島村さんが顔を赤らめて言った。

 

「………な、鳴海って……」

「だ、大胆な方なんですね………」

 

 ………え、スマブラの約束がそんなに爆弾発言だったのか……?

 

 


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