放課後、教室の掃除とゴミ出しを終えて、私はナルの迎えに行った。ぶっちゃけ言うと、お昼にうちのクラスにナルが来て「今夜、俺とS○Xしようぜ(脳内補完済み)」とか言ってきて以来、頭の中はそれでいっぱいだった。
まず、気になってるのは下着の色。黒とかは持ってないし、見られても恥ずかしくないものしか持っていないはず。だが、こう……ナルの好みとかあるから、そこが気になる。
………今日の下着は何色だったかな。いや、まぁそれ以前にすごく勇気がいる。付き合って1日でエッチって………。正直、ナルからそういうこと言ってくれるのは嬉しいし、私としても悪い気はしない。むしろ、鈍感過ぎるから何度かこいつ襲ってやろうかと思った事があるくらいだ。
けど、その、何?少し、怖い………?男の人の前で裸になって脚を開くのは、どう考えても恥ずかしいし、無防備だ。いや、一緒に寝たりしてた人のセリフじゃ無いけど。
とにかく、すごく緊張してる。でも、少し楽しみでもあって………あーなんだろうこの感じ。なんでこんな複雑な気分になってるんだろ。
と、とにかく、なんにしてもナルに表情を読まれるわけにはいかない。楽しみにしてたら、なんかエッチなことをしたがってるみたいでイヤらしいみたいに思われるかもだし、だからと言って嫌そうにしていたら、それはそれで向こうも遠慮してしまうかもしれない。ナルのアホは気を回し過ぎる人だし。
だから、やはり無表情を貫き通すべきだろう。そう決めて、表情筋を固めながら実行委員会の教室に入った。
「ナルー、帰……あれ?」
誰もいない。おかしいな、ブリーフィングみたいなのやるって聞いてたんだけど………。まぁ、荷物置いてあるしここで待ってれば大丈夫だよね。
そんなわけで、椅子に座ってスマホをいじり始めた。最近習ったグラブルだけど。
しばらく、スマホをポチポチいじってると、気が付けば陽は落ちていた。廊下の電気も消えていて、この教室だけ電気が付いている。何人か教室に戻って来て、荷物だけ持って帰っていったが、ナルは今だに教室に現れなかった。
「…………」
何してるんだろ、ナル。ていうか、他の実行委員もみんな。帰る時間はまばらだし。
そんな事を思ってる間に、さらに何人か帰宅して行き、気が付けばナルの鞄だけが教室に残されていた。
「………遅いなぁ」
そんな呟きが漏れた。何してんの本当に。今日はナルの家に行く約束したんだから、私と一緒に帰る事になるのは分かってるはずなのに。
ほんの少しだけイラっとして、ふと廊下を見た。気が付けば真っ暗になっていて、非常口の光だけが闇を照らしている。
「……………」
あれ、何この雰囲気。なんか、こう……白い人型な何かが出て来そうな………。
い、いやいやいや、お化けなんていないから。アレは人が作ったってだけで、いるわけないから。大体、お化けなんていたらとっくにこの世の人は全滅してるから。
だから大丈………。
「あれっ?凛」
「きゃあああああああああああ⁉︎」
「えっ、何っ」
後ろから肩を叩かれて悲鳴をあげながら振り向くと、ナルが立っていた。
思わず、ホッとため息をついてから、学校の暗闇が怖くてビビってるところを、ナルに声を掛けられて悲鳴を上げ、正体がわかったからホッとした事を自覚した。
コホンと下を向いて咳払いし、なんとか落ち着いてからナルに声を掛けた。
「ナル、帰ろっか」
「あの、今の悲鳴何?」
「は?悲鳴?何の話?」
「えっ、いやさっきすごい………」
「…………」
「………いえ、なんでもないです……」
それ以上言えば殺す、と視線で言うと、ナルは黙って鞄を持った。
「か、帰るか」
「うん、帰ろ」
私も椅子から立ち上がって、ナルの隣を歩いた。
さぁ、いよいよ、いよいよだ。ナルの家で………。はっ、ダメダメダメ!そんな事考えてたらイヤらしい顔になっちゃうから!あくまでナルの家にはこれから遊びに行くだけだから!…………ナニをして遊ぶんだけど。
って、だからそういうのはやめなさいってば!ナニじゃなくて、普通に………そう、スマブラ!大乱闘しに行くだけだから!…………ベッドの上で夜の大乱闘を。
って、だーかーらーあのね⁉︎
「り、凛?」
「ひゃうっ⁉︎」
「ど、どうした?さっきから二十面相してるけど………」
「なっ、なんでもないから!」
「いやでも、顔色までサーモグラフィーみたいに変わって」
「なん、でも、ないっ‼︎」
「はい」
まったく、しつこいったら無い!
大体、なんでナルはこんなに平常心でいられるわけ⁉︎わけわからないんだけど!あーもう、少しくらい緊張してくれたって………!
「あ、凛」
「なっ、何⁉︎」
「うちさ、最近買い物行く暇なくて晩飯ないから、今から買いに行っても良いか?」
「あ、うん。良いよ」
買い物、か。晩飯って、これから私のこと食べる癖に………って、ほんと私いい加減にしなさい。
「あ、せっかくだから凛の食べたいもん作ってやるよ。何が良い?」
「ナル」
「はっ?」
「なんでもない」
口が滑った。でも、食べたいもの、か………。流石にウィンナーとか言う勇気はないかな。同じ理由でバナナも無理。
ていうか、そんなの良いからまじめに考えないと。ナル困ってんじゃん。
「なんでも良いよ。ナルの作ったものなら何でも好きだから」
「っ、お、おう………」
あ、照れた。やっぱ、ナル可愛いなぁ。家庭的だし、すぐに照れるしいじり甲斐があるし………。女の子だったとしても男子にモテそうだし、多分、私は新たな道を開いてる。
「じゃあ、インスタントラーメンでも?」
「ぶつよ?」
「………ごめんなさい」
少し頼りないところもあるけど。こんな脅迫ですぐに謝るんだもんなぁ。まぁ、そんな所も可愛いんだけどね。
「でも、何でも良いってのが一番困るんだよなぁ。手間をかけて美味いもんにするか、楽な奴をたくさん作るか………」
まじめに何を食べるか考える気になったのか、話を逸らした。
「2人だけなんだし、あまり多くても困るんじゃない?」
「それは手間をかけろってことですかね………」
「ダメ?」
「凛がそれを望むならそれで良いよ」
そんな話をしてる間に、スーパーに到着した。何を作るのか決まったのか、ナルはサクサクと食材をカゴに入れて行く。
「何作るの?」
「ん?チーズハンバーグステーキ」
「………はっ?」
い、今なんて?
「ち、チーズハンバーグステーキ?」
「そう。凝ってるでしょ?」
「………凝りすぎでしょ」
本気出しすぎなんじゃ………いや、別にナルの料理美味しいし良いんだけどさ。
他にも、これから先に使う食材とか必要なものをカゴに入れて行く。なんか、買い物慣れしてるなぁ、ナル。お母さんと買い物してた小学生時代を思い出す。いや、ナルはお母さんどころか女性ですら無いけど。
………ちょっと試してみようかな。お菓子とかカゴの中に入れたらどんな反応するかな。ソッとチョコをカゴに入れた。
「んっ?」
音で気付いたのか、ふとカゴの中を見た。なるべくカゴの下の方に入れたはずなのに、一発でチョコの箱に気づくと、私を見た。
「………食べたいの?」
「うん」
「いいよ」
「えっ、い、良いの?」
「良いよ。今日だけだからな」
………なんか、仮に将来結婚したとして、娘とか出来たらすごく甘やかしそうだなぁ、ナル。今のうちに矯正しておこう。娘はこれから作………だからダメだってば、そういう妄想は。
「ナル、ダメだよ」
「え、何が?」
「そういうところで甘やかしちゃ。将来、娘とか出来た時に言うこと聞かなくなるよ」
「いや、俺は凛が欲しいって言うから………。大体、娘って………」
「とにかく、おねだりされたからってなんでも応えてちゃダメ。良い?」
「わ、分かったよ………。じゃあチョコいらんのね?」
「いる」
「えぇ〜………」
そんな話をしながら、買い物を続けた。
数十分後、買い物を終えてスーパーを出た。なんだかんだで袋二つ分まとめて右手に持っている。左手にも待たせれば良いのに。
「帰ろっか」
「………んっ」
ナルの家に向かった。さて、いよいよだ。なんかさっきも同じ事思った気がするな。
とにかく、帰ってご飯食べてお風呂はいったらいよいよだ。ナルも緊張してるのか、顔を赤らめて私の方をチラチラと見ている。………あ、やばい。なんか改めて緊張して来た。
「り、凛」
「? 何?」
「………い、いや、なんでもない……」
いや、気持ちは分かるよ。緊張してるからだよね。………と、思ったけど、なんか違うな。ソワソワしてるし、フリーの左手をヤケに遊ばせてる。
「あー……凛」
「? 何?」
「そ、その、何……左手、空いてるけど」
「は?」
何言ってんのいきなり?と思ったけど、すぐに合点が行った。
「………腕を組みたいの?」
「い、いやっ……その……朝は組んでたから、帰りは組まないのかなって思った、だけで………。決して俺が組みたいわけでは……」
………かわいい。ほんとは組みたい癖にそう言う風に誤魔化しちゃうのほんと好き。
まぁ、でもそういう上から目線は許さないけどね。
「ナルが組みたくないなら別に良いよ」
「えっ……あっ……」
切なそうな声を漏らした。まぁ言われてみれば片方に荷物を持ったりと、ナルはサインを出していた。それに気付かなかった私にも非はあるし、私も腕を組みたくなって来たのでチャンスをあげることにした。
「素直に組みたいって言えば組んであげる」
「っ………。そ、その……組みたい、です………」
これで素直になっちゃうなんてホントにナル可愛いなぁ。鼻歌を歌いながら、後ろからナルの腕を取った。
×××
家に到着し、食事を終えてお風呂を終えた。現在、ナルがお風呂に入ってるが、ピーっとお風呂の電源を切る音が聞こえたので、多分もうすぐ出て来るだろう。
なので、私も布団を敷き始めた。一つの布団に枕を二つセットし、いつこんな事になっても良いようにコンビニで買っておいたゴムを用意しておいた。
今はパジャマの下に下着もつけていないし、準備万端だ。ちょっとスースーするけど、どうせ後で脱がされるんだし、気にしない方が良い。
「ふぅー」
息をつくと共に、ナルがお風呂場から出て来た。軽く伸びをしながら堂々と言った。
「さて、やるか!」
「ーっ!」
な、何をいきなり………!
「も、もっとムードとか考えなさいよ!何をいきなり宣言してるの⁉︎」
「えっ、やらないの?」
「や、ヤる、けど………!」
準備しておいたし………。でも、いきなり「ヤるか!」なんて下品にもほどが………。一人でもじもじしてると、ナルは私の後ろのテレビの前に座り込んで何かをいじり始めた。
何をしてるのか知らないけど、私も準備を始めよう。布団の上に移動し、上半身のパジャマのボタンを外し始めた。
「凛、はい」
「へっ?」
何かを放って来た。慌ててキャッチしたものはコントローラだった。
「………えっ、なんで?」
「え、だってやるんでしょ?朝までスマブラ」
「………はぁ?」
「えっ?」
噛み合ってないことに気付いたのか、ようやくこっちを見るナル。すると、パジャマのボタンを全部外してる私に気付いて、今更顔を真っ赤にし始めた。
「っ⁉︎り、凛⁉︎なんで脱いでんの⁉︎」
「………やるって、そういうこと?」
「他になんの意味があるんだよ!良いから胸を隠せって!」
………この野郎、かなりイラっとしたよ今の。なんであんな紛らわしい言い方するのかな。「夜、いくらでも相手してやるから」じゃないよ。本当に。
羞恥心やら怒りやら何やらがもうグチャグチャに混ざり合って、完全に怒りで我を忘れた。立ち上がって、胸を隠すこともしないでナルの前に歩くと押し倒して馬乗りになった。するとナルは慌てて顔を両手で隠した。
「ちょっ、り、凛⁉︎む、胸隠せって!」
「うるさい、手邪魔」
力づくでその手を退かすと、目をギュッと瞑っていた。
「目ぇ開けて」
「む、無理だって!何してんだよお前⁉︎」
「開けないと怒るよ」
「なっ、なんっ………⁉︎」
「早く!」
怒鳴ると、ナルは恐る恐る目を開けた。私を見るなり、顔を真っ赤にしたが、気にせずに言った。
「ナルさぁ」
「はっ、はひっ………」
「もう少し、人に物事を伝える時は簡潔に伝えてくれない?」
「と、言いますと………?」
「『夜、いくらでも相手してやるから』なんてあの場面でキザに言われたら誰だってそう言う意味だって思うでしょう」
「そ、そういう………?」
「セ○クス」
「直球⁉︎」
「分かるでしょ、はぐらかさないで。私、怒ってるんだからね」
「…………」
そう言う私の下のナルは、私の顔と胸を交互に見ていた。人に怒られてる時に怒ってる人の胸を見てる時点でぶん殴りたかったが、私はそんなの気にすることもない程に怒っていた。
「それで、ナル。どうするの?」
「…………」
「エッチするの?言っとくけど、私はナルに言われた時からムラムラが収まってないんだからね」
「……………」
「だけど、初エッチが逆レイプみたいになるのは嫌だから。一応、ナルの合意の上でやりたいの。だから、答えて」
「………………」
「どうするの?ナル、私とエッチ………ナル?」
「…………………」
気が付けば、ナルは鼻血を垂らして気絶していた。
それを見て、なんかもう色々と馬鹿馬鹿しくなった私は、今更自分の行動が恥ずかしくなり、パジャマのボタンをとりあえず止めて、ナルを放置して眠る事にした。
本編はこれで終わります。次から番外編になります。