修学旅行の2日前になった。本来ならそんな日の夜はバタバタしてるはずなんだが……。
「……と、いうわけで、本日の討伐はこれにてという事で」
「山手線の上野と渋谷でした」
うちではちょうど、生放送を終了した。今日も随分と足を引っ張られたが、もはやそういう芸と化してるので仕方ない気もする。凛は真面目にやってるんだけどな。
「あー、つっかれたぁー」
凛が後ろに寝転がった。ま、そりゃそうだ。君、7回ほど3乙かましてるからね……。
まぁ、一生懸命やってりゃ上手くても下手でも疲れるものだ。お疲れ気味の凛の頭を撫でながら言った。
「片付けはやっとくから、凛は先にお風呂入って来な」
「いいの?」
「ああ。もう夜遅いし、早く入らないと近所に迷惑だから」
「分かった。……でも、もう少し撫でて」
「はいはい……」
お、今日の凛は甘えん坊だ。多分、甘えたい気分なんだろう。
俺の膝の上に頭を置いて目を閉じる凛の頭を優しく撫でた。凛の髪しか触った事ないから何とも言えないが、やっぱ綺麗な髪をしている。サラサラだしなんか良い香りするし。
「……んっ、ナルってさ」
「? 何?」
「妹とかお姉さんいたら絶対、ブラコンにさせそうだよね」
「なんでだよ……。どういう意味それ」
「甘やかすのうまいって事。女の子限定で」
「いやいや、女の子限定って……」
……あるな。男と知り合いになってないしあんま。バイト先の店長くらいか。
「にしても、そんなモテないでしょ俺」
「どの口が言ってんの?アイドル一人惚れさせておいて」
「いや、まぁ……そう言われりゃそうなんだけど……」
そういや、一応凛と付き合ってるんだよなぁ。そう自覚すると、何だか恥ずかしくなって来るあたり、俺はまだ慣れていないようだ。
すると、その赤くなった俺の顔に下から手が伸びて来た。凛が俺の頬に手を当て、そのまま身体を起こした。膝枕の状態で身体を起こした、という事は俺の顔に凛の顔がくっつくという事で……。
「んっ……⁉︎」
手を当てられた反対側の頬にキスをされた。耳みたいに舐められることはなく、すぐに離れられたが恥ずかしい事は恥ずかしい。
頬を赤くして、キスされた頬を抑えてると、凛が悪戯に成功した子供のような表情で言った。
「自覚した?」
「……心を読むな」
「ナルは何考えてるか分かりやす過ぎるんだよ。じゃ、お風呂もらうね」
「……んっ」
凛は洗面所に向かい、俺は顔を赤くしたまま片付けを始めた。
しかし、最近の凛は大胆だ。なんていうか、人の前だろうと何だろうと平気で手を繋いだり腕を組んだりキスを迫ってくる。
「……はぁ」
それに、ここの所、自宅にいるときはボディタッチというか…そういうのが激しい。この前の乙倉さんの時みたいに耳を舐めて来たり、無防備にジャージのチャックを胸の谷間が見えるくらいまで開けて寝てたりと、とにかく俺には刺激の強い格好をする事が多い。
どういうつもりなのか、いや多分居心地が良くて自宅にいる気分なんだろうけど、少し男と一緒にいるってことを考えてほしい。
こう、別に他の女のそういう所を見ようが、ちょっとドキッとして心臓の高鳴りがしばらく止まなくなるだけで済むが、凛の場合はムラムラまでしてくるんだから勘弁して欲しい。
そんな事を考えながら片付けを済ませて寝る準備を完了した。流石に私服で布団の上で寝転がりは出来ないので、その横でスマホをいじり始めた。
「……うわ、まただよ……」
最近、Twitterを始めたんだけど、なんか知らんが「どすけべJD○○」とか「Hな女子高生××」みたいな奴からフォローとDMが来る。この人達は本当に何なんだろうか。自分の顔だけ隠して裸の写真とかを載せてるけど何考えてんの?そんなことして両親泣くよ?
いつも通りブロックしようと思った時だ。洗面所の扉が開いた。スマホをいじりながら風呂に入ろうと立ち上がると、下着姿の凛が目に入った。
「ぶふぉっ⁉︎」
思わず昔のコントみたいに噴き出してしまった。カァッと顔が熱くなる俺に、凛はしゃあしゃあと言った。
「あ、ナル。お風呂空いたよ」
「空いたよ、じゃねぇよ!何で下着なんだよ!」
「ん、いやパジャマそっちに忘れちゃって」
そういう通り、さっきまでゲームやっていた所に、青のパジャマが落ちている。
「な、ならせめて隠したりしろよ!」
「ん、ナルに見られるなら良いかなって。ていうか、前にも着替えてるとこ見てるんだし良いじゃん」
「良くないわ!」
ていうか、耳だけ赤くなってんの見えてるからな!な、なんで恥ずかしい思いしてまでそういう事するのかな!
いや、理由は分かってるけど。早い話が俺の事をからかいたいんだろう。
「ふ、風呂行ってくる……!」
とりあえず、その場から逃げ出すように俺は洗面所に入った。
大体、30分後くらい。風呂から出て寝室に戻ると、凛が布団の上でゴロゴロしてるのが見えた。パジャマが多少はだけてるのも御構い無しで、楽しそうにスマホゲームをしている。
「もう寝るぞ」
「……んっ」
素直に従い、充電器にスマホを挿す凛。で、二人で布団の中に入った。
今日は疲れた。やっぱゲーム実況って大変だわ。目を閉じて、今日のプレイを頭の中で反省会してると、そっと布団の中で手を繋がれた。
「?」
「……おやすみ」
「ん、ああ。おやすみ」
そう言って寝返りを打とうとした直後、後ろからギュッと抱き締められた。凛の身体が完全に密着するように抱き締められている。凛特有の柔らかさ、香り、感触に包み込まれてる気分だ。
「……り、凛……?」
「んー……ナルの感触……」
……これは、からかってるのか甘えて来てるのか……。ほんと、最近の凛の行動は男の性欲を上手く刺激させてくる。俺じゃなかったら襲ってるんじゃないかな。
ぎゅーっと俺に抱きつき、なんか首の辺りに顔がくっついた。
「………」
何のつもりなんだ……?なんか、こう……抱きしめ方がえっちぃんだけど……。もしかして、本当に誘われてんのかな……。
「……Twitterでさ、変な人達のアカウント見てたでしょ」
「⁉︎ な、何故それを……⁉︎」
「……さっきスマホ落としてったから充電しておいてあげようとしたら見えちゃった」
「ま、待て!別に毎日見てるわけじゃ……!」
「分かってるよ。『ブロックしますか?』の画面で止まってたから。ただ、ナルのエロさと可愛さは画面の向こう側でも、女の子なら本能的に分かっちゃうんだなって思って」
「……は、はい?」
こいつ何言ってんだ……?いや、この流れはまさか……。
「もし、アレならさ……。ナル、私とエッ」
「ね、寝るぞ!早く!」
そう言って凛に背中を向けて布団を被った。これ以上はマズイ。勃起を抑えるにも限度がある。
×××
「と、いうわけなんだけど……」
近所のカフェで加蓮に相談した。本当は奈緒が良かったんだけど、今日は仕事らしい。
で、加蓮は飲み物を飲みながら全力で迷惑そうな顔で聞いてきた。
「……で?惚気は終わり?帰って良い?」
「なんでだよ!それ奢ってやったんだからなんか無いの⁉︎」
「無いよ。どっからどう聞いても惚気じゃん」
「違うんだって!」
なんだよその塩対応!しょっぱ過ぎるぞ!関西風に言うとから過ぎる!
「せめて何を相談したいのか言ってくれない?」
「あ、ああ、そうだったな……。だから、その……何?あいつなんかすごいくっついて来るんだよ。エロいこと誘ってんじゃないかってレベルで」
「……あー、なるほど」
加蓮は俺の質問の意図を察してくれたのか視線を逸らした。
「どうにかならんかね……。しかも嫉妬深くてよ……」
「それは良いんじゃないの?」
「いや、嬉しい限りだよ正直。ただ、今回加蓮に相談があるってだけでもなんとかお願いして許可してもらえたくらいだったから」
あの時の凛の顔、すごい怖かったなぁ……。「は?加蓮と?何で?確かに加蓮私より胸大きいもんね」とかすごい言われた。乙倉さんとの一件があって以来、尚更だ。
「まぁ、嫉妬の件については私から言っておくよ」
「マジ?助かる」
「……まぁ、正直誘われてるかどうかなんてのはどうしようもないんだけど……」
「あー……だよね」
「私から言っても良いけど……そんなこと相談したなんてバレたら消されちゃうでしょ」
「うん、存在をこの世から抹消される」
……もう少し態度を柔らかくして欲しいものです。いや、凛は夏休み前から俺の事を想ってくれていたらしいし、その上で俺の部屋で泊まったりしてたわけだからそうなるのも分かるが。
「ちなみにさ。……凛にえっちしよって聞かれたらどうすんの?」
最後の部分は小声で聞いて来た。そんな質問、答えは決まってる。
「しないよ、そういうことは」
「あら、意外。どうして?」
「正直、したいっちゃしたいんだけだね。でも、まだ未成年だし、俺はゴム買ってないし、やっぱりそういう事をするの早いと思うんだよね」
「……なるほど?」
けどほら、経験しておきたいってのもあるし……。だって女の子の体内に男の1番恥ずかしい部分ねじ込むんだよ?頭イかれてるでしょ。何を思って最初に実行した人はそれをしたのか。
しかし、そんな事をすれば凛の方が終わりだ。だって仮にもアイドルだし。
「……まぁ、正直凛の方にお願いされたら断れる気はしないけどな」
「なるほどね……。とりあえず、嫉妬の方は私からも言っておいてあげる」
「助かる」
「誘われてるかーなんて方は……うーん、正直なんとも言えないからなぁ……。勘違いってこともあるし」
「そうなんだよね」
「まぁ、一応言ってみるよ」
「なんて?」
「最近、溜まってるらしいよって」
「やめろよ!浮気しようとしてたって言われるよりえぐいぞそれ!」
そんなことしたら「加蓮にそういうこと相談してナニしてもらうつもりだったの?」とかなりそうで怖いし。
「さりげなく注意してくれるにしても、こう……何つーの?さりげなく言ってくれ」
「最近、水原くんとの距離が物理的に近いみたいだけど何かあったの?みたいな?」
「そうそれ。それで頼むわ」
「はいはい……」
とりあえず相談は出来たな。いつ言ってくれるか分からないが、とりあえず明日から修学旅行だし、それまでには言っておいてくれるだろう。
「じゃ、そろそろ帰るか」
「ん、もう良いの?」
「ああ。それに明日から修学旅行だし、凛成分補充しないと途中で帰って来ちゃうかもしんないし」
「……あなたも色々と大概だよね」
あれれ?なんか呆れられた気がするぞ?
「でも、少し感心した」
「? 何が?」
「いや、えっちなことシたくても凛の事を考えて我慢するんだなって。避妊すれば問題ないのに」
「当然でしょ」
「そっか……。ま、そうかもね」
そんな話をしながら喫茶店を出た。
修学旅行そのものはやりません。長くなりそうだし面倒臭そうなので。