冬休みまでもう少し。逆に言えば期末試験真っ盛りな季節。俺はスタバで勉強していた。
もう少しで仕事が終わった凛がやって来るはずだ。俺の勉強はそれなりに問題ないので、仕事で忙しい凛の勉強を見る約束をしている。
元々、俺に集中力はないので、速攻で飽きた。よって、最近の凛のステージ衣装の写真を見ていた。
そう、白のブラウスに非常に短い短パンにハイヒールである。
「……」
可愛いなぁ、この凛。大人っぽい服装も似合うんだな。特にこの太ももがヤバい。ムッチリしていて、それでいて細い。なんというか……ああ、生足ってこんな感じなんだなって思う。
あと、ブラウスの隙間から見える谷間がエロさに拍車をかけている気がする。
奈緒や他のメンバーも同じような格好をしているのだが、やはり彼女だからか凛が一番可愛く見えた。
「……出来るなら凛にこんな感じの服装してもらいてぇなぁ」
そうは思ったが、今の季節は冬だ。こんな格好させれば風邪を引くのは目に見えている。
写真で我慢しようと思い、とりあえずその写真を眺めていた。
「何見てるの?」
「ガンダムヴァサーゴチェストブレイク‼︎」
唐突に声をかけられ、大慌てで奇声をあげながら写真をポケットにしまった。
バクバクいってる心臓を片手で抑えながら恐る恐る後ろを見ると、凛が怪訝そうな顔でこっちを見ていた。
「……ガンダム、何? どうしたの?」
「や、何でもない……」
っぶねぇ……見られてないよな……?
「お疲れ。なんか飲むなら奢るよ」
「ん、じゃあコーヒー」
「了解」
よし、この話はこれで終わりだ。あまり話したくないし。
さっさと立ち上がってコーヒーを買いに行こうとした時だ。その俺の肩に凛が手を置いた。
「待って」
「え、何」
「その前にさっき何か隠したよね? 何隠したの?」
「っ……」
や、カマをかけてるだけかもしれない。ここは冷静になろう。
「……別に隠してませんが?」
「嘘。隠してた」
「隠してないって。本当に」
「知ってる? ナルが嘘つく時って視線が斜め上に行くんだよ?」
「……」
……本当に俺について詳しいな、こいつ……。水原鳴海辞典とか作られそうで心配だ。
だが、彼女の仕事中の写真を眺めてたなんて言えるかよ。しかも太ももと胸の谷間に目線がいってたとか絶対に言えない。ていうか、凛に胸の谷間とかあったのか。
しばらく頑固にも堪えてると、凛は俺のポケットに目を向けた。で、手を伸ばして来たので俺はその手を掴んだ。
「なっ、何かな⁉︎」
「何かな? じゃないから。ポケットにあるんでしょ」
「なっ、ななっ……何もない、何もないから!」
「見せてっ!」
「ちょっ、凛……!」
わーぎゃーと騒がしくなる俺と凛。が、まぁ俺が凛に勝てるわけない。ポケットから写真を取られてしまった。
「まったく、エッチな写真とかならただじゃおかな……」
言いながら写真を見るなり硬直する凛。俺自身も恥ずかしくてそのまま硬直してしまった。
「……えっ、な、何これ?」
「……だから嫌だって言ったのに……」
凛自身も頬を赤く染めた。俺は逃げるようにコーヒーを購入しに行った。
あーあ……どんな顔して席に戻れば良いんだよ……。彼女の写真見てたとか、どうすりゃ良いんだか……。
だが、戻らないと今度は凛の方から迎えに来てしまう。それはそれで困る。
「……お、お待たせ」
「う、うん……」
凛も少し恥ずかしかったのか、今だに頬を赤らめている。
「……」
「……」
……あ、なんだかこのふわふわした空気は身に覚えがある。まだ付き合いたて、或いは付き合う直前によくあった空気だ。
が、いつまでもこうしてはいられない。凛は試験勉強しなくちゃいけないんだから。
そう思って声をかけようとすると、同じことを思ったのか凛の方から声をかけてきた。
「……ナルは、こういう衣装……好きなの?」
……全然同じこと思ってなかった。テストよりも俺の性癖かよ……。
「こ、こういうって……?」
「だから、その……足の露出が多い、衣装……」
「あー……」
正直、好きです。俺だって男だからな……。特に好きな女の子の生足なら尚更だ。
しかし、その問いに答えるのは少し難しいかもしれない。
「……いや、まぁ……なんだ。でも……」
「好きなんだ」
「や、凛が着てるから好きなだけで……」
「……?」
それでも勇気を振り絞って言うと、最初はキョトンと首を捻られたが、徐々に言葉の意味を理解したのか、頬を染め始めて俯いてしまった。
「……そ、そっか……」
「っ、そ、それより、勉強するぞ」
「……う、うん……」
勉強を始めた。
しばらく頑張り、分からない所は俺が教えてやったりする事、約一時間半。
疲れた様子の凛は背もたれに寄りかかって伸びをした。
「ん〜……つっかれたぁ……」
「休憩にする?」
「うん」
いい返事だな……。俺から提案したから言いにくいけど、お前最初の20分くらい全然集中出来てなかったからな。
「ね、冬休みどうする?」
「あー……どうするか。出掛けたいよな」
「うん。泊まりで」
「泊まり、ねぇ……」
冬、かぁ……。
「凛は行きたい所あるか?」
「私は……ナルとならどこでも良いよ」
「それ困るんだけどな……。嬉しいけどよ」
ふーむ……しかし、行きたい場所か……。
「まずは空いてる日教えて。ぶっちゃけ、クリスマスとか空いてないでしょ」
「あー……うん。御察しの通り」
やはり、クリスマスとかアイドルの季節だもんな。クリスマスライブとかやってるんだろうし。
「26以降なら空いてるけど……」
「じゃ、少し遅めのクリスマス会だな」
25日は俺一人でクリスマス放送でもやるか。なんか憐れまれそうだな……。
「あとはー……お正月とかなら空いてるよ」
「なら、泊まりで行くか。31〜1にかけて」
「と、泊まり……?」
「そう。一緒に初日の出とか見たくない?」
「見たい!」
「じゃ、とりあえず26にクリスマス会で、31〜1日に……何処か初日の出が見える場所で一泊だな」
言いながら、ノートにそれを書き記した。だが、凛は少し不満げな顔で俺を見ている。
「……それだけ?」
「は?」
「もっと遊ぼうよ。初詣とか」
「それは1日で良くね?」
「そうじゃなくてもっとこう……」
「あ、新年ゲーム実況とかやる?」
「……そういうんじゃなくて。2日とか3日も初詣行こうよ」
「え、1日も行くのに? 毎日行ったら初詣じゃなくね?」
「……そっか、分かった。私の振袖姿見たくないんだね」
「ごめん嘘! 毎日初詣行こう!」
「毎日行ったらそれ初詣じゃないんでしょ」
あ、やばい。少し不貞腐れてる。や、今回は凛の意図を読み取れなかった俺が悪いんだが……!
「わ、悪かったって! 行こう、お願いだから!」
「……」
ジト目で睨まれてしまった。で、小さくため息をつくと俺の頬をむにっと抓った。
「っ⁉︎ な、何……?」
「ナルさぁ、彼女の意図はちゃんと読まないとダメだよ? 振袖、とまでは読めなくてもいいけど、せめて何かしたい事があるんだろうな、くらいは分かってくれないと……」
「……悪い」
「じゃ、とりあえずいつがいい?」
「じゃあ、2日で」
「うん。決まりね」
そっか……。これからもう少し頑張ろう。
「じゃ、勉強再開ね」
「了解」
そう言って勉強を再開した。
×××
一週間後、試験が完全に終わり、俺と凛は一緒に……帰るかと思ったらそんなことは無かった。
明日から凛は色々と忙しくなるのだが、今日は暇らしいので俺の部屋に来る約束をしたのに、何故か一旦家に帰る、とのことで先に帰って来た。
とりあえず、マ○オオデッセイの準備をして、ついでに昼飯も作って食べ、ふと時計を見た。凛の奴、遅いな……。もしかして、何かあったのか?
誘拐されたのかと思うとゾッとするので、迎えに行こうかと立ち上がった時だ。呼び鈴の音が鳴った。
「あーい」
答えると、凛が部屋の中に入った。とても短い短パンを履いた凛が。上半身は白のブラウスである。
「っ……り、凛……?」
「ど、どう、かな……」
……や、ウルトラ超似合ってるが……。あ、ダメだ。直視出来ない……。
思わず目を逸らすと、凛が嬉しそうな声で言った。
「あ、今照れた?」
「……るせーよ」
「ふふ、ありがと。その反応をしてくれただけで、私、この格好した価値があったと思うな」
……だから、そういう事を……!
さらに赤くなった顔を隠すように俺は俯いた。その俺に、凛は畳み掛けるように続けた。
「この前、勉強見てくれたお礼に、今日はこの格好でナルのお願いなら何でも聞いてあげるよ」
「っ……」
……まじかよ。じゃあ一つだけ……や、でもこんなお願いしたら嫌われるよなぁ……。少なくとも俺ならドン引きすると……。
……や、待てよ? でも、それで以前、怒られたよな。相手にどう思われるかを勝手に想像しないで、こっちがしたい事を言ってくれ、みたいな。
それに、今はなんでも言うこと聞いてくれるっていうのがあるし……。
「……じ、じゃあ……一つだけ、良いか?」
「! な、何?」
お前も緊張してんのかよ。ていうか、お前から言い出したんだろうが。
まぁ良い。とりあえず、一つだけ聞いてほしい願いを言うか。
大きく深呼吸をしてから、目を逸らして呟くように言った。
「……その、膝枕……して欲しいんだけど……」
「……えっ⁉︎」
驚いたのか、すごい声を上げる凛。ぼんっ、と音を立てて煙が出そうな勢いで顔を真っ赤にする凛。
「えっ……ぁ、あのっ……なんでもって……そういう……?」
「……ダメ、なら……良いけど……」
「……」
頬を赤らめて俯く凛。
……だめだ、どういうつもりだったのか知らないが、そういうつもりだったんじゃないならやめておいた方が良さそうだ。
「あ、あのっ…やっぱり……」
「良いよ」
「へっ?」
「良いよって言ったの。ほら、早く」
え、い、いいの……?
ポカンとしてる間に、凛は正座をして準備を整えている。
「ほら、早く」
「……え、いいの?」
「何、しないの?」
「……ぃ、ぃゃ……」
……マジかよ。いや、自分で言っといてここで引くのは情けない。お言葉と膝に甘えよう!
大きく深呼吸をしてから、凛の隣に座り、慎重に膝の上に頭を置いた。
「冷たっ……?」
「それは勘弁して。外寒かったから」
「……っ、そ、そっか。大丈夫? 冷たくない?」
「平気。ここ暖房ついてるし……な、ナルの顔……あったかいし……」
「っ、そ、そっか……」
俺なんかのために季節無視して短パンで来てくれて……なんだか申し訳ないな……。
「……ど、どう、かな……。私の、膝……」
「っ……や、柔らかくて……気持ち良い、です……」
「っ、そ、そっか……。じゃあ、頭撫でてあげる」
「……ど、どうも……」
何が「どうも」なのか自分でも分からないが、とりあえずお礼を言ってしまった。
ふと凛の顔を見上げると、素敵な笑みを浮かべて、まるで甘えん坊な彼氏を見る顔で俺の頭を撫でていた。
とても恥ずかしいはずなのに、それ以上に凛のその笑顔がとても可愛らしくて、気が付いたら行動に出ていた。
「……凛」
「何? ……んっ⁉︎」
凛の首の後ろに手を回し、上半身を起こしながら凛の唇に唇を重ねた。舌は入れなかったが、唾液を交換できるレベルでの深い方のキスをした。
口を離し、俺は膝の上に頭を戻した。頬を赤らめた凛が照れを隠すように聞いてきた。
「……急にどうしたの?」
「……なんか、キスしたくなったから……」
「……そっか」
そのまましばらく膝の上でゴロゴロして、ふわふわムードが散った頃に二人して恥ずかしくなり、しばらく沈黙が続いた。